鮮明な月

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第五章

46.

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唐突に恭平のスマホに坂本真希からの電話が来たのは十月の中旬に差し掛かった日の事だった。以前から篠を紹介したこともあって交わした電話番号ではあったが、彼女の方からかかってくる可能性に至らない恭平は少なからず驚きながら会話を交わす。
内容は招待。
彼女にとっても仁聖にとっても、高校生最後の文化祭への招待だった。



※※※



不満気に手渡されたチラシを見下ろすその姿は薄いブルーのビスチェのようなハイシンプルコルセットでぎゅうぎゅうに腰を締め付けられ、半ばその衣装のように少し蒼褪めて見える。同じ色のヘッドドレスから下がる艶やかな黒髪のウィッグをうっとおしげに手で払い、その払う腕の姫袖に逆に舌打ちする。古風で厳格な家庭に育ち・ましてや男の自分が着慣れるはずのないティアードスカートの変形のようなスカート。それを押し広げ膨らますような足に纏わりつくパニエの嵩張る見えることを想定して飾り縫いのされたチュールレースの生地に悪戦苦闘している青年が舌打ち交じりに思わず悪態をつく。

「……っ…何で僕がっ!」
「仕方ねーだろ?慶太郎。見た目がよさそうなのは皆、女装だ・諦めろって。」

その声に苛立った視線を向けると、其処には180センチを越す身長に、これまた茶色の長い巻髪のウィッグを揺らす仁聖の姿がある。
慶太郎のブルー系の衣装とは対比的に黒地のベロア風の生地でベストのようにも見えるジャケットはヒラリと燕尾服のように裾を翻したシルエットが長身を更に際立たせる。胸元の存在感を誇示するようなベルベットのリボンと同じ素材らしいシャーリングの入ったスカートの下では慶太郎と同じくパニエのチュールレースが嵩を増してがさつくのに・慶太郎と同じく不快感を隠せないでいる。その顔は慶太郎も同じ道を辿っているのだが、恐らく彼らのもう一人の幼馴染の真希が気合を入れて行ったメイクで鮮やかに彩られている。

「………気持ち悪いな…お前。」
「お前に言われたかねーよ。何はともあれそのチラシ配り終えないと真希に蹴られるぞ。」

慶太郎の手にある何十枚という自分たちのクラスの模擬店のチラシの存在に目を落として溜め息混じりに、まあ他のごつい女装同級生よりは可愛いといえなくもない二人は渋々連れ立って歩き始めていた。
普段制服姿で並んで歩くだけで目立つのに、方や以前は浮名をはせていたある意味フェミニストでもある校内の人気者・方や沈着冷静な美形の合気道部部長……などというある種校内での有名人でもある。今年卒業という最後のチャンスも相まって歩くたびに声をかけられる羽目になり、次第に開き直り始めたとしか思えない仁聖が周囲に愛想を振りまき始める。それを慶太郎半ば呆れ顔で見やる。

「源川せんぱーい!!宮内先輩と写真とってイイですかぁ?」
「お~、かまわないから・その代わりウチの店来てねー。」
「やだ~!!先輩にあう~!!」

表立っては以前と何も変わらない様子で慶太郎の肩に腕を乗せポーズをとってみせる仁聖に、少し苦笑しながら慶太郎も適当にチラシを渡し始めていた。
以前は二人でつるんでくだらない話しをしたり、好きな女優の話をしたりと普通の幼馴染で普通に親友だった。それなのに、今の関係はある意味ライバルというか奇妙な関係だ。ただお互いがお互いをどういう人間か分かっているつもりだし、お互いの価値観や考え方を全て否定する訳でもない。それが理解できているからこそ余計に困るというものでもある。

「慶太郎、後どれくらい?俺もうめんどくさくなって来た。」
「後5~6枚かな?流石に…受け取る人いなくなってきたな…。」

気がつくと意外と強張った笑顔を貼り付けた仁聖が溜め息交じりの声を上げていて、慶太郎もそれに倣う。大体にしてチラシを受け取るといっても、高校の文化祭程度でそれも校内での模擬店程度では人の増減にも限界があるのだと二人で再び溜め息を付きたくなってくる。
都立第三高校の奇妙な文化祭伝統は、クラス対抗の模擬店合戦というやつだ。これに勝つと何でか文化祭記念アルバムなんてものが、クラス全員に賞品として渡される。記念になるからとクラスの女子の力の入れようと言ったら、この派手な衣装を手作りするほどなのだ。数日前都下で広域停電なんて大騒動が起きたばかりの現状でも、文化祭を決行したのは仁聖が収益を寄付にすればと意見したからでもある。
正直なところ仁聖には文化祭に来てくれる親がいるわけでもないから、どっちでもよかったのだが。それでもそんな意見を言ったのはクラスの女子の視線に負けたからだ。仁聖達のクラスの模擬店は喫茶店で、食材の発注は取り返しがつかないからだろう。真希の視線の怖いことと言ったら、篠さんが見たら百年の恋も一気に覚めかねない。

「僕…両親にこんな格好見られたら最悪だ…。」
「はは、ただじゃすまなそうだよな?」

何気ない言葉にじろりと睨み付ける慶太郎をニヤリと笑いながら仁聖が眺めるが、その表情を見た瞬間当の仁聖には誰も文化祭を見に来る存在がない事を思い出して慶太郎は少し口を噤む。それ以上何も言おうとしない慶太郎の気遣いに内心気が付きながら、仁聖は苦笑交じりの笑みを浮かべてまた周囲の黄色い声に愛想よく手を振ってみせた。

「ちょっと?仁聖!慶太郎!まだ終わんないの?!」
「あのなぁ、何枚チラシ作ってんだよ。百単位かよ?」

不意に司令官のような厳しい幼馴染の声に振り返った二人は、正に軍服姿の凛々しいいでたちの真希と一緒に立つ人影に目を丸くした。
真希が校内を案内していたのだろう見慣れた二人連れの青年の姿に仁聖は絶句して・慶太郎は見る間にその顔を真っ赤に染めていく。一人は勿論内緒とはいえ真希の彼氏の村瀬篠だが。マジマジと普段と違う女装姿の二人を見ていた人目を引く綺麗な顔立ちが思わず噴出して、咄嗟に口元を押さえながら必死で笑いを堪える。

「ま・真希っ!!お前!!」
「何よ?ご招待したのは私よ?悪い?」

悪びれもせずに言い放つその言葉に絶句しながらも、見る間に状況を理解する仁聖が真っ赤になっていく。幼い頃から一度として学校の催しに家族が来たことがないと言うのはさびしいことだとは思うが、自分にとってはそれが当たり前だった。それを知っている真希が、画策して呼んでくれたのは理解できる。

だけど、何もこんな状況でなくても……

周囲にいる誰しもそんな表情を見たことがないと思うほど狼狽しながら仁聖が、必死に笑いを堪えながらも噴出してしまい肩を震わせる恭平の背中に声を上げる。

「っ…もーっ!!恭平ってば、笑わないでよ!!」

一頻り大笑いした後不貞腐れた顔の仁聖に、恭平はまだ少し可笑しそうに表情を緩めたままの視線を向ける。先程まで一緒にいて落ち込んでしまっていた慶太郎が、珍しくそそくさと逃げ出したのは自分の女装姿をこれ以上恭平に見せたくないのだと分かった。ところが真希のお許しがなければ着替えも出来なければ、何よりこの衣装手が込みすぎて一人では脱げないと言うおまけがついている。着替えて一緒に歩きたいが、まだ時間も残っていてもしこの場で別れてしまったら恭平自身も帰ってしまいそうな気もする。着替えを頼むにも真希も篠と二人でさっさと校内めぐりに向かってしまった。そういう訳で真希を少し恨めしく思いつつも、気恥ずかしいまま仁聖は恭平を見つめる。

「恭平。校内もう案内終わったの?」
「…ん?大部分は終わったのかな?……お前は忙しいのか?」
「ビラくばりしたから、暫く休憩。」

開き直ったように気を取り直して少し背を伸ばす仁聖を、また少し可笑しそうに恭平が微笑みを浮かべながら見つめる。

「…笑わないでよ…好きでやってるんじゃないんだからさ?」
「あぁ、悪い。」

くすっともう一度笑う恭平に仁聖が不満そうな表情を浮かべて頬を膨らませる。恭平がもう一度素直に謝罪の言葉を口にするのを眺めていた仁聖が、ふと先を促すように廊下を歩きだす。気がつくとただでさえ校内で目立つ自分が、ある意味自分以上に目立つ恭平と一緒にいる事で遠巻きにではあるが注視している女子生徒が増えているのに気がついてしまっていた。

「恭平、ちょっと落ち着いて話できるとこいこう。ココ目立つから。」
「お前が目立つんだろう?」
「とにかくココじゃやなの!」

歩きにくい慣れないスカートを少し手で抱え持つようにして歩く仁聖を苦笑交じりに眺めながら横に並ぶ。

「俺も高校のとき無理やり女装させられたことがあったけど、それほど凝ってなかったな。」
「え?ホント?写真とかないの?何着たの?」

歩きながらも興味津々という風に目を輝かせた仁聖に・どうして写真だと呆れながら恭平が目を細める。話題づくりに言った言葉が墓穴を掘ったことに気がつきながら恭平が溜め息混じりに呟く。

「……ドレス…だ・一応な。」

言葉を濁した恭平に少し眉を顰めながらも見たいと強請る仁聖の声に、写真なんかないと恭平がぶっきら棒に言い返す。やがて少し人混みが切れた校舎の外れで本来なら展示公開されていない階段を上がろうとする仁聖に恭平が訝しげに声をかける。

「部外者は入ったら駄目じゃないか?話なら…。」
「だいじょぶだから・来て。」

ひゅうと外気が溢れるように入り込む階段の先にあるドアの向こう側に滑り出した仁聖の後を仕方なしに恭平が追う。少し肌寒い十月末の外気の中に立つ茶色の巻髪を揺らす仁聖をまた少し頬を緩めながら見つめる恭平の様子に、少し気恥ずかしそうに見上げながら仁聖は歩み寄る。

「恭平…この格好だけど…一回抱き締めても…いい?」

一瞬その言葉に眉を顰めた恭平は、目の前のその強請るような視線に苦笑してほらと手を広げた。嬉しそうに微笑みながら歩み寄った仁聖が、その体に手を回し自分とは違う体温を腕の中に収めてぎゅっと抱き締め首筋に顔を埋める。

「全く…甘えたかったのか?」

苦笑交じりに言う恭平の声が、人が来たら突き飛ばすからなと茶化すように言う。そう言いながらも自分の腕がまわしやすいように少し体勢をずらしてくれる恭平の何気ない動作を、自分の腕の中に感じて仁聖は埋めたまま微かに微笑んだ。

「あのね?恭平、俺………すごく嬉しい。」
「そうか?」
「うん…初めてだからさ…、こういうのに…俺のために誰か来てくれるっていうの……。」

ぽつりと言う言葉にふっと恭平は、目を伏せながら何気なく腕を回して同じように腕の中に仁聖の体を収めたまま柔らかく囁く。

「前でも…もし招待されたら来てやったぞ?…今更だけどな?」
「…そう言ってくれるのだけで…もう…超嬉しい…。」

泣きそうと心の中で呟きながら仁聖は視線を上げて、恭平の穏やかな微笑を見上げる。穏やかな微笑を敷きながらどうした?と問いかける恭平の綺麗な澄んだ瞳を覗き込みながら、ふっと潤んだ様な仁聖の瞳が揺れた。一瞬その震えるような揺れに気がついた恭平が、口を噤み無言のままその顔を見下ろす。

「恭平?」

訝しげに問いかける仁聖の表情に、ハッとした様に我に返った恭平が少し頬を染めながら苦笑を浮かべる。

「どしたの?」
「ん……あ…いや…、…ちょっと…。」

頬を染めながら口ごもる恭平に更に眉を寄せながら仁聖が詰め寄ると、失笑しながら恭平は降参と言いたげに微笑む。

「今・意外と…可愛いかなと…思った。」
「…俺?ホント?………じゃ…、その可愛い俺がキスしても怒んない?」
「調子に……。」

倒錯めいた気分を漂わせながら、何時もと違う濡れた様な光を持った少し甘い香りのする唇が触れた。スリ…と鼻を擦る様な仕草で肌を触れさせる仁聖が、何時もよりずっと恥ずかしそうな表情で唇を触れさせるのに一瞬恭平の動きが止まる。そのまま唇だけでない部分まで触れてしまったら、自分に触れる姿がドレスをまとっているなんて酷く淫靡な光景に見えるに違いないと一瞬脳裏が理性を押しのけて囁いていた。

「恭平………お願い…。」

掠れる様な声に我に返った恭平が頬を染め少し押しのけるように肩に手をつく。何時もよりずっと潤んで見える瞳が、負けずに強請るように恭平の顔をジィッと見上げた。

「だ…だめだ・っこ…こんなとこで・するなんて…それにっお前っ…誰かきたらっ。」

狼狽して恭平が口走った言葉に、仁聖の瞳が悪戯っ子の様に煌きグイと腰に回していた腕が壁に押し付けるようにしながら二人の腰を引き寄せる。耳元に唇を寄せた仁聖が揶揄するようにそっと囁いた。

「俺…したい…なんてまだ言ってないよ?恭平が・したかったんでしょ?本当は。」

耳元に熱を落として吹き込まれた言葉に、恭平がカッと頬を紅潮させて身を強張らせる。それを眺めながらもう一度口付けた仁聖が腰に回した手をおろし、そっとボトムに手をかけるのを恭平は拒むことも出来ずに見つめた。制止しなければいけない筈の指先の動きが、その強請るような瞳のせいで拒む事も出来ずない。こんな場所で冷たい外気に微かに火照る肌を曝す自分に戸惑う。一瞬可愛いなと思ったのは事実だったが、それがまさか劣情に直結しているとは思っても見なかった。大きな声上げなきゃ大丈夫だよと魅惑的に誘う声が耳元で呟く。

「ね…恭平、少しだけ協力して?」
「え……?」

ヒソヒソと耳元で囁くようにしながら仁聖が滑るようななめらかな手触りのドレースグローブで素肌を曝す太腿を撫でる。恭平が微かに頬を染めながら視線を向ける。耳元で更に強請るように囁かれて薔薇色に頬を染めた恭平が、躊躇いがちにそっと指を滑らせパニエの下に潜り込ませた。モゾモゾと指を探らせる行為に思わず仁聖が擽ったそうに身を捩った。それに気がついて、恭平が少し視線を上げ普段とは違う挑発的にも見える笑みを敷く。

「……なんか…いやらしいな…これって……。」
「あれ?もしかして・こういうの好き?」
「…馬鹿なこと言うと……此処でやめるぞ…。」

雰囲気に呑まれて行為を続けながらも、恭平が冷静にそう口にする。すると強請るような視線がもう一度小さく「やだ」と囁きながら先を促す。滑るような手触りのサイハイソックスの縁をなぞる細い恭平の指先に微かにチリチリした熱を感じ取りながら、仁聖が少し頬を染めながら吐息を零し少し足元をずらした。つ…と下着と太腿の付け根の縁に触れた指先が躊躇いがちにそこをなぞるのに、仁聖は息を上げながら恭平の耳元に唇を寄せる。

「早く…脱がせて…俺・もうやばい…。恭平の指…気持ちよすぎ……る。」

悩ましく眉を寄せる仁聖の表情に小さく微笑み軽く口付けて、指先がパニエに隠れた場所でそっと窮屈そうに熱を持った仁聖の肉茎を開放してそっと指先で包む。微かに肩を震わせるようにしながら抱きかかえるように回された仁聖の手が、同じように熱を持った信弥の肉茎を曝しながら下着を引きおろす。熱っぽく潤んだ目が何時もより酷く縋る様に強請る色を浮かべて、恭平の瞳を覗き込み囁きかけた。

「慣らしてあげたいけど…俺が無理…、恭平…お願い…。」

酷く切羽詰ったその声に少し驚きながらも促されるまま恭平は、そっと溢れ出しそうな仁聖の欲望で衣装を汚さないようにスカートを捲くる様に持ち上げてやる。そして仁聖の手が自分の下肢を淫らに掬うのに任せた。微かな痛みを伴いながら硬く焼けるような肉茎が、体を引き裂くように押し込まれていくのを壁に押し付けられるように背を預けながら唇を噛む。痛みに軋む体が、同時に淫猥な快感を感じ取って淫らな声を上げそうになる。手で口を塞ぐ事も出来ずに必死に声を堪える艶かしい表情を間近に見つめ、仁聖は耐え切れずに鋭く腰を突き上げ自身の全てを捻じ込んだ。

「ん……ふぅっ………っ!!」

ありえない場所で恋人と一つになる背徳感と、何時もと違う恋人の装いの倒錯感。それが、まるでジリジリとあぶるような快感に変わって神経を蕩けさせる。同時にそれは仁聖にとっても、普段なら決して容認される事のない快感で、それはあり得ないほどの興奮になっていた。包み込まれ吸い付かれる肉茎が、あり得ないほど早く絶頂まで押し上げられるのを感じ取った。

「あ…くっ……、…俺…すぐいっちゃう……ふ…っ」

ゆっくりと揺らめくように腰を揺すり上げ、突き込みながら甘く切れ切れに囁く仁聖の声に、声を殺しながら恭平が更に煽る様に腰を少し揺らす。ほんの微かなその動きにヒクリと下肢を抱きかかえる腕を引くつかせて、仁聖が懇願するような視線を向けた。

「…も…駄目、恭平……気持ち…よ過ぎる…よ…。」
「ん…っふ…、いい……いっても……い…から、あ……っ…。」

痛みを感じながらもジリジリと捻じ込まれる熱に全身を快感で震わせながら耳元で甘く滴るような吐息を放ち恭平が囁く。仁聖は大きく腰を揺すり上げるよう何度も腰を突き上げて激しい欲望をその中に放っていた。



※※※



「…俺…結構ショックかも…。」

こっそりと階段下のトイレで後始末をするというなんとも言いがたい状況に陥りながら、衣装の状態を眺めて仁聖が溜息をつく。その様子に少しまだ気だるげに見える表情を浮かべながら、実は内心自己嫌悪に陥っている恭平が眉を顰める。恭平が行為の最中持ち上げていてくれたおかげで無傷な衣装に半分安堵しながらもトイレの洗面台の鏡越しに恭平の視線を感じつつ、仁聖はもう一度深い溜め息をついて肩を落とす。

「あんなに速攻でいくなんて……その上、恭平をいかせてあげてないし……。」

まるでその場に響き渡るような錯覚を感じさせるあからさまなその言葉に一瞬で真っ赤になった恭平が、思わずその頭を思い切り音を立てて叩く。

「いったいよ、恭平ぁ!!俺がショック受けてんのにっ!慰めてよ!!普通慰めるとこでしょ?!」
「し…知るかそんなこと!!!」

思わず大声を上げて怒鳴りつける恭平が踵をそうとするのを引き止めるように仁聖が必死に声をあげる。目立つ女装姿の仁聖を遠巻きに眺めている女子生徒の視線を横に歩く恭平の方も実際にはかなり目立つ。ところが階段を下りて予想外に角を曲がった仁聖に女子高生が正面から体当たりしていた。

「きゃあ!」
「おっと!ごめん!」

咄嗟に転びそうになった相手の腕をとって、仁聖が彼女が転ばないように引き留めた。

「仁聖、お前本当に注意力散漫だな。」
「えー、恭平が言う?」

クリクリとした丸い瞳で仁聖と恭平を見上げる視線は、他の女子高生の視線とは違って不思議そうに二人を見上げている。
仁聖が大丈夫?っと問いかけると、彼女は小動物のように頭をペコンと下げて大丈夫ですと返事をする。

「まーちゃん!玄関まで来てくれる約束だよぉ!」
「まー、ごめん!中々出られなかったんだよ!」

仁聖の背後から子供の声が響いて、彼女が延び上がるようにして慌てて声をあげる。背後にいたのは恭平の仕事である翻訳を時折以来してくる出版社の社員、確か宇野といった筈だ。お互いに会釈をして別れたが、それを仁聖が見逃す筈もなかった。
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