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第三章
19.
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「大体にして、あんたさぁ?」
駅前の街の往来を並んで歩く仁聖と真希の姿は、何も知らないまま見たら仲の良い美男美女の高校生のカップルとしか思えないだろう。長身で日本人離れしたスラリと伸びやかな体躯をしたイケメン青年に日本人形のような佇まいを見せる楚々とした大和撫子の美少女。しかし話している内容は、実際には見た目ほどの穏やかさではけっしてない。
「だけどさ?真希だって彼氏と一緒に過ごしたいとか思わないわけ?」
「思うわよ?」
「だったらさ?俺の気持ちだって分かるだろ?」
「あんたのは過程を飛ばしすぎ!大体最初っから三つくらい過程すっ飛ばしてんだからね?!」
真希に言い負かされて言葉に詰まる仁聖が、不満そうに歩く先へと視線を投げる。不意に瞬間その仁聖の視線が一点に止まったのに気がついて、真希は思わず眉を潜めた。唐突に前を見つめ一瞬固まった仁聖の表情が、まるで子供のように綻んで喜びが滲みあがる。その目の前で起きた鮮やかな変化に、真希は驚いたように息を呑む。仁聖と真希は四歳位からの長い付き合いの幼馴染なのに、一度もそんな風に鮮やかで溢れ出すような仁聖の嬉しそうな表情を見たことがなかったのだ。
「恭平!……と、篠さん。」
往来の視線の先に居たスーツ姿の青年と一緒に話しながら歩いていたタイトなスーツ姿の青年の姿。元気よくかけられた仁聖の声に、まるで促されたように二人は足どりを止めていた。仁聖の言葉の先でフワリとしなやかな動作で振り返る姿に、真希は思わず戸惑う視線を向ける。以前から真希が知っていた硬く鋭い人を寄せ付けない印象とは、全く違う榊恭平の柔らかい物腰。驚きを通り越して呆然としながら、更に自分の横の見えない尾を振る仔犬のように喜ぶ仁聖にも改めて驚く。そして、その仁聖の言葉にはたと気がついたように恭平と一緒にいたスーツ姿の青年も振り返り真希と目を合わせた。相手は視線の先にいた制服姿の仁聖と並ぶ真希の姿に、思わぬほど面食らった様に目を丸くする。
「ま、真希ちゃん!?何で……。」
思わず声を張り上げたその青年がしまったという表情を浮かべたが、時既に遅し。その先に続く言葉を失ってしまった篠と、以前から知り合いの様子の真希は溜息をつく。二人に並ぶように歩み寄る真希と仁聖の表情はそれぞれ真逆だ。そうして、自分が放った言葉に呆然として口元を抑えていた篠の顔を、真希は言葉もなくジロリと上目遣いに見上げた。嬉しそうな気色を隠しもせずに惚れ惚れするようなスーツ姿の恭平の横に並び「どういうこと?」と首を傾げる仁聖に、恭平は苦笑交じりの表情を浮かべていた。
※※※
坂本真希と村瀬篠の関係。
元々は恭平を経由して家庭教師のバイトをしていた篠を、真希に紹介したのだ。出会いは既に四年前の事だが、二人がその先に進展したのは実はここ数カ月の事だったらしい。恋人としてつきあい始めた二人の仲は、何しろ高校生と社会人なので未だ殆ど知られていない。真希の年齢や様々な事情を考慮して、篠もひた隠しにしているのだという。
そう一通り事情を聞いてから二人と別れた後、仁聖と恭平は一緒に並んで恭平のマンションのエントランスを潜ってエレベーターに向かう。
「教えてくれればいいのにさ、真希も。篠さんが彼氏ならそう言ってくれれば…最初…。」
頭の上で手を組んでぶつぶつと不満を言う仁聖の様子を少しおかしそうに恭平は眺めた。
最初、篠と恭平の関係を変に勘繰ったのが、仁聖の感情の堰をきる切っ掛けではあったのだ。その意見は至極もっともなのだが、その事実がなかったら今の状況もないということには頭が回っていない。その言葉に思わず考え込んでしまっている仁聖に柔らかい微笑を浮かべながら見つめる。
「言いにくかったんだろ?それにお前と篠が面識があるとも知らなかったみたいだし。」
一瞬その柔らかい微笑みに仁聖が視線を向けるのに気が付く。
「…そうだけどさぁ。でもさ、そうなると真希が俺をダシに使って告白を断るのは狡いと思わない?」
楚々とした外見の彼女はやはり男子生徒には人気なのか結構な頻度で告白されている。その真希が何時も断るために使うのは幼馴染みの二人でも仁聖の方ばかりだ。幼馴染みの気安さからか悪びれもせず「名前借りちゃったー」とよく言われているのだと、仁聖が不満げに口を尖らせる。篠さんがいるならそう言えばいいんだよと不満そうに言う仁聖の頭を不意にポンと優しく撫でる恭平に思わず言葉の先を封じられて仁聖は黙り込む。
あしらわれて少し納得できないと言いたげな表情で素直に後ろをついて歩く仁聖に、おかしそうに小さく笑い声を零しながら恭平がアールコープを通り抜けてドアの鍵を開き中に身を滑り込ませた。その瞬間不意に背後から抱きすくめるようにして、仁聖の腕がその姿を包み込む。
「じ…仁聖…、こら…離せって。」
「やだ。」
拗ねた様に恭平の言葉を拒否して、仁聖は迷うことのない仕草で腕を絡めた。背後で重くドアの閉じる音を聞きながら抱きすくめられ、細く白い項に顔を埋められて恭平は思わず身を竦ませる。それ程肌を重ねた回数が多い訳でも長い時間を過ごした訳でもないのに、仁聖の吐息や熱に触れただけで自分の体が少しずつ反応していくのに恭平は戸惑う。思わず仁聖の腕の中で恭平は、身を捩り制止の言葉を呟く。
「恭平の…スーツ姿って初めて見る………かっこいい…。」
嬉しそうにそれでいて熱く湿った声に、恭平は自分の頬が熱を持つのを感じる。玄関に立ったまま抱きすくめられ囁かれ、体が反応し始めてしまう羞恥に唇を噛む。その反応に肩越しに気がついたように、仁聖の吐息も更に熱を増した。スルリと抱き寄せていた手が腰の辺りから滑り込み、白く滑らかなシャツをスラックスから簡単に引き出してしまう。咄嗟に恭平の手が、それを静止しようというかのように仁聖の手の上に添えられる。だが、その手はそれ以上の制止をすることも出来ずに、仁聖の手の動きを確かめているかのように柔らかく乗せられたまま留まった。
「ん……、こら…こんな場所で………。」
「かっこいいけど…スーツ姿って………エッチ…かも……。」
音を立てて首筋に背後から唇を這わされて、思わず恭平は芯に火をつけられた様に甘い吐息を溢しながら身を震わせる。そんな恭平の体を緩々と愛撫し、少しずつスーツを着崩して服の合間に仁聖の指と熱が滑り込んた。戸惑いながらも反応してしまう体を持て余し、恭平はしどけない姿で潤み始めた甘い香りを漂わせる。ところが、不意にその甘い空気を機械的な電話の呼び出し音が切り裂いていた。
電話の呼び出し音に驚いた様に腕の中で身を捩じらせて、恭平は着崩した衣類を必死に整えて足を進める。それに追いすがろうとする手から慌てて逃れる恭平に、不満そうな表情で仁聖が口を尖らせる。
「別にいいじゃん…電話くらいさぁ……。」
「馬鹿、仕事の電話だったら困るだろ?…全く……。」
その背中を追いながら仁聖がもぉと呟くのに苦笑いが浮かぶ。リビングの電話の前でふっと和らいでいた筈の恭平の表情が、ディスプレイに吸い寄せられた途端ヒヤリとするほどに凍りついていく。訝しげにその表情を覗きこむ仁聖に気がついて、視線を上げた恭平は微かに強張る微笑みを浮かべ諭すように口を開いた。
「大人しくしてろよ…?…………はい、榊です。」
自分に向けるのとは違う静かな硬い声に、仁聖は眉を潜めながら背後から腕を回して抱きつく。そうしながら恭平の肩ごしに電話機を覗きこむ。抱き締める腕に微かに咎める様な視線を見せた恭平を気にすることなく、抱き締めながらディスプレイに書かれた≪ミヤウチケイ≫という表示に気がつく。全て表示されなくともそれは、宮内慶太郎からの電話だと言うことは明らかだった。幼馴染みの名前に、肩越しの仁聖も思わず息を潜める。
「うん、どうした?………いや、変わりないけど。」
受話器から漏れ聞こえる微かな幼馴染の声に対して、あまり声を上げる事もなく淡々と言葉を返す姿を初めて目にする。僅かに恭平の反応に違和感を感じながら、仁聖はマジマジとその綺麗な横顔を見つめた。
こうして実際に二人が直に会話をしているのを間近に耳にしたのは、二人が兄弟だと知ってからは初めての事だった。幼い頃に兄弟とは知らずに会話をしていた時とは、恭平の顔は少し様子が違うようだ。そう知ってか知らずか少し視線を下げて、無意識に額に手をあてた恭平は、躊躇いがちに困惑を漂わせ小さな溜め息をついた。
「……その話は前も言っただろう?」
明らかに口調が重く沈んで、次第につられていくようにその表情も一緒に暗く沈んでいくのに仁聖は気がついた。横からでは二人の話の内容が分からないながらも、その変化に仁聖は不審げに目を細める。暫し逡巡した様子を見せた仁聖は肩越しに乗り出す様にして、恭平の表情を覗きこみながら体に回した手を無造作に滑らせた。
「っ?!………おま………っ………あ・いや…な・何でもないっ!」
体幹を滑り撫でる仁聖の指を今度は意図して止めようと押さえて、肩越しに視線でその行為を咎める。なのに恭平の視線を無視して、仁聖はその項に顔を埋めゆっくりと唇と舌で首筋をなぞりだす。甘く噛みつかれて吸われる感触と服の隙間から潜り込んだ指先の熱さ。やんわりと緩やかな音もない愛撫に、次第に朱に染まり始めた体が微かに震える。耐え切れない様にフワリと甘い香りを漂わせ、恭平は懇願するように頭を弱々しく振った。それを確かめながら仁聖は受話器を押し当てているのとは反対側の耳元に、唇をよせてフワリと湿った熱を含んだ吐息を擽る様に小さく囁く。
「……したくない話なら、もう電話切って?…恭平。」
その声は酷く甘く掠れて官能的で、恭平の耳朶が見る間に朱に染まった。
「ぅんっ……い・いやっ!!別にっ!悪いけどっ…今忙しくてっ…!」
大きな抵抗もしないままに、受話器への対応に慌てる。恭平のスーツを再び探りだし、スラックスからシャツを引き抜き着崩させていく。カチャカチャとベルトにかけられた仁聖の手に、驚いた様に恭平が狼狽して視線を向ける。耳元でそっと名前を囁きかけるたびに耳朶を噛まれ、微かに身を震わせて熱を放ち始めた体が抑え込めない。それを知っていてあっと言う間にベルトが外されスラックスごと下着を膝まで落とされてしまう。受話器を握ったままだというのにあられもない姿にされ、仁聖の指が緩々と潜り込んで素肌を撫でた。
「っ!……、…い……いや……、……何でもっ……ないっ。」
もう一度耳元で名前を囁く。頬を染め恭平は身を竦ませて、絶句した様に硬く唇を噛む。探る指がシャツの中に滑り込んできて胸の突起を探られ、ヤワヤワと指先で先を弄られる。その感触に、ゾワリと肌が泡立つのを感じて恭平は零しそうになる声を堪えながら眉を顰めた。悩ましいその表情に悪感めいた体の熱をハッキリと欲望として感じながら、恭平の立ち上がり蜜を滴らせる肉茎の先を仁聖はなぞる様に指先を滑らせた。先端を撫で回す指先が起こした湿るクチュリという卑猥な音が耳に入った瞬間、恭平はビクリと大きく肩を震わせる。
「け、慶太郎、本当に今は駄目だからっまた今度!!」
唐突に話を打ち切る様に受話器のボタンを押して、息を荒げながら真っ赤になって咎める視線を投げる。そんな恭平に仁聖は悪びれた風でもなく、ニッコリと微笑みかけながら更に肉茎をしごく指の動きを速める。
「お…お前なっ!!?何をしてっ!!んんっ!!あっ!」
「だって、辛そうな顔して電話してるから。」
耳元でそう囁かれて僅かに表情を変える恭平を抱き締めて、滑る指を体の奥に音を立てて潜り込ませる。きつく食い絞める感触をものともせずに、体内に潜り込んでくる感触に思わず甘い吐息が溢れた。
「んっ!!!…んぅ……、あ…ば…馬鹿………あ、やめ……。」
次第に綻んで甘い声を上げながら、埋め込まれる指の動きに頬を染める。恭平の艶やかに色づく潤んだ瞳を見つめながら、仁聖がその項に唇を這わせていく。電話の置かれたカウンターの上にまだ受話器を握ったままの手を突きながら、深く腰を折って背を仰け反らせる。そんな思わず扇情的な姿勢をとって自分が無言のままに、その先を強請っているのに気がつき恭平は羞恥に頬を染める。恭平の姿に鋭く弾ける様な官能を仁聖はハッキリと覚えながら、無造作に引き出した楔を直に押し当てた。
「ちょ…っ!!?ま、待て!!駄目っ……あうっ!!ああぁあっ!!」
唐突にズルと無理やり後を抉じ開ける肉茎の感触。捻じ込まれる太い熱に、鋭く甲高い悲鳴をあげて更に身を仰け反らせた。喘ぐ恭平の腰を引き寄せ、ゆっくりとではあるが酷く軋む感覚を与えながら更にその体を押し広げていく。痛みを伴う筈のその行為が、既に甘く蕩ける歓喜のうねりを生み出していく。それに恭平は弱く頭を振りながら、自分が声を止められずに嬌声を上げるのを聞いていた。
「やぁ……ああっ!!!止め…あぁぁ…ん…んん……っ!」
甘く跳ね上がる恭平の声を堪能しながら、ゆっくりと腰を揺すり次第に深く奥に潜り込む。深く奥底まで抉られていく。その感覚に恭平は弾けるような息をつきながら、更に背中を仰け反らせる。深く深く強請る様に仁聖を受け入れながら、抱き寄せられる腕に息が付けない程の快感を与えられる。翻弄され思わず背後から覆いかぶされる重みに受話器を持ったままの手が、思わず仁聖の腰にまわされた。クスリと笑いながらその手から落ちそうになる受話器を受け取り、電話機にそれを置きなおした仁聖の手がそのしなやかな指先を包み込む。そうしてその細くしなやかな指先を、仁聖は愛しいと呟くように音をたてて唇に当てる。
「恭平……、は…ぁ……一回…いって……いい?」
「ん…んぅ……あぁ………お…俺も…、も……。」
切れ切れに喘ぎ身悶える姿に、微笑みながら仁聖は甘い吐息をその項に吹きかける。そしてその体をきつく引き寄せしっかりとその腕の中に抱きとめて、ユルリと恭平自身にも指を滑らせていた。
駅前の街の往来を並んで歩く仁聖と真希の姿は、何も知らないまま見たら仲の良い美男美女の高校生のカップルとしか思えないだろう。長身で日本人離れしたスラリと伸びやかな体躯をしたイケメン青年に日本人形のような佇まいを見せる楚々とした大和撫子の美少女。しかし話している内容は、実際には見た目ほどの穏やかさではけっしてない。
「だけどさ?真希だって彼氏と一緒に過ごしたいとか思わないわけ?」
「思うわよ?」
「だったらさ?俺の気持ちだって分かるだろ?」
「あんたのは過程を飛ばしすぎ!大体最初っから三つくらい過程すっ飛ばしてんだからね?!」
真希に言い負かされて言葉に詰まる仁聖が、不満そうに歩く先へと視線を投げる。不意に瞬間その仁聖の視線が一点に止まったのに気がついて、真希は思わず眉を潜めた。唐突に前を見つめ一瞬固まった仁聖の表情が、まるで子供のように綻んで喜びが滲みあがる。その目の前で起きた鮮やかな変化に、真希は驚いたように息を呑む。仁聖と真希は四歳位からの長い付き合いの幼馴染なのに、一度もそんな風に鮮やかで溢れ出すような仁聖の嬉しそうな表情を見たことがなかったのだ。
「恭平!……と、篠さん。」
往来の視線の先に居たスーツ姿の青年と一緒に話しながら歩いていたタイトなスーツ姿の青年の姿。元気よくかけられた仁聖の声に、まるで促されたように二人は足どりを止めていた。仁聖の言葉の先でフワリとしなやかな動作で振り返る姿に、真希は思わず戸惑う視線を向ける。以前から真希が知っていた硬く鋭い人を寄せ付けない印象とは、全く違う榊恭平の柔らかい物腰。驚きを通り越して呆然としながら、更に自分の横の見えない尾を振る仔犬のように喜ぶ仁聖にも改めて驚く。そして、その仁聖の言葉にはたと気がついたように恭平と一緒にいたスーツ姿の青年も振り返り真希と目を合わせた。相手は視線の先にいた制服姿の仁聖と並ぶ真希の姿に、思わぬほど面食らった様に目を丸くする。
「ま、真希ちゃん!?何で……。」
思わず声を張り上げたその青年がしまったという表情を浮かべたが、時既に遅し。その先に続く言葉を失ってしまった篠と、以前から知り合いの様子の真希は溜息をつく。二人に並ぶように歩み寄る真希と仁聖の表情はそれぞれ真逆だ。そうして、自分が放った言葉に呆然として口元を抑えていた篠の顔を、真希は言葉もなくジロリと上目遣いに見上げた。嬉しそうな気色を隠しもせずに惚れ惚れするようなスーツ姿の恭平の横に並び「どういうこと?」と首を傾げる仁聖に、恭平は苦笑交じりの表情を浮かべていた。
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坂本真希と村瀬篠の関係。
元々は恭平を経由して家庭教師のバイトをしていた篠を、真希に紹介したのだ。出会いは既に四年前の事だが、二人がその先に進展したのは実はここ数カ月の事だったらしい。恋人としてつきあい始めた二人の仲は、何しろ高校生と社会人なので未だ殆ど知られていない。真希の年齢や様々な事情を考慮して、篠もひた隠しにしているのだという。
そう一通り事情を聞いてから二人と別れた後、仁聖と恭平は一緒に並んで恭平のマンションのエントランスを潜ってエレベーターに向かう。
「教えてくれればいいのにさ、真希も。篠さんが彼氏ならそう言ってくれれば…最初…。」
頭の上で手を組んでぶつぶつと不満を言う仁聖の様子を少しおかしそうに恭平は眺めた。
最初、篠と恭平の関係を変に勘繰ったのが、仁聖の感情の堰をきる切っ掛けではあったのだ。その意見は至極もっともなのだが、その事実がなかったら今の状況もないということには頭が回っていない。その言葉に思わず考え込んでしまっている仁聖に柔らかい微笑を浮かべながら見つめる。
「言いにくかったんだろ?それにお前と篠が面識があるとも知らなかったみたいだし。」
一瞬その柔らかい微笑みに仁聖が視線を向けるのに気が付く。
「…そうだけどさぁ。でもさ、そうなると真希が俺をダシに使って告白を断るのは狡いと思わない?」
楚々とした外見の彼女はやはり男子生徒には人気なのか結構な頻度で告白されている。その真希が何時も断るために使うのは幼馴染みの二人でも仁聖の方ばかりだ。幼馴染みの気安さからか悪びれもせず「名前借りちゃったー」とよく言われているのだと、仁聖が不満げに口を尖らせる。篠さんがいるならそう言えばいいんだよと不満そうに言う仁聖の頭を不意にポンと優しく撫でる恭平に思わず言葉の先を封じられて仁聖は黙り込む。
あしらわれて少し納得できないと言いたげな表情で素直に後ろをついて歩く仁聖に、おかしそうに小さく笑い声を零しながら恭平がアールコープを通り抜けてドアの鍵を開き中に身を滑り込ませた。その瞬間不意に背後から抱きすくめるようにして、仁聖の腕がその姿を包み込む。
「じ…仁聖…、こら…離せって。」
「やだ。」
拗ねた様に恭平の言葉を拒否して、仁聖は迷うことのない仕草で腕を絡めた。背後で重くドアの閉じる音を聞きながら抱きすくめられ、細く白い項に顔を埋められて恭平は思わず身を竦ませる。それ程肌を重ねた回数が多い訳でも長い時間を過ごした訳でもないのに、仁聖の吐息や熱に触れただけで自分の体が少しずつ反応していくのに恭平は戸惑う。思わず仁聖の腕の中で恭平は、身を捩り制止の言葉を呟く。
「恭平の…スーツ姿って初めて見る………かっこいい…。」
嬉しそうにそれでいて熱く湿った声に、恭平は自分の頬が熱を持つのを感じる。玄関に立ったまま抱きすくめられ囁かれ、体が反応し始めてしまう羞恥に唇を噛む。その反応に肩越しに気がついたように、仁聖の吐息も更に熱を増した。スルリと抱き寄せていた手が腰の辺りから滑り込み、白く滑らかなシャツをスラックスから簡単に引き出してしまう。咄嗟に恭平の手が、それを静止しようというかのように仁聖の手の上に添えられる。だが、その手はそれ以上の制止をすることも出来ずに、仁聖の手の動きを確かめているかのように柔らかく乗せられたまま留まった。
「ん……、こら…こんな場所で………。」
「かっこいいけど…スーツ姿って………エッチ…かも……。」
音を立てて首筋に背後から唇を這わされて、思わず恭平は芯に火をつけられた様に甘い吐息を溢しながら身を震わせる。そんな恭平の体を緩々と愛撫し、少しずつスーツを着崩して服の合間に仁聖の指と熱が滑り込んた。戸惑いながらも反応してしまう体を持て余し、恭平はしどけない姿で潤み始めた甘い香りを漂わせる。ところが、不意にその甘い空気を機械的な電話の呼び出し音が切り裂いていた。
電話の呼び出し音に驚いた様に腕の中で身を捩じらせて、恭平は着崩した衣類を必死に整えて足を進める。それに追いすがろうとする手から慌てて逃れる恭平に、不満そうな表情で仁聖が口を尖らせる。
「別にいいじゃん…電話くらいさぁ……。」
「馬鹿、仕事の電話だったら困るだろ?…全く……。」
その背中を追いながら仁聖がもぉと呟くのに苦笑いが浮かぶ。リビングの電話の前でふっと和らいでいた筈の恭平の表情が、ディスプレイに吸い寄せられた途端ヒヤリとするほどに凍りついていく。訝しげにその表情を覗きこむ仁聖に気がついて、視線を上げた恭平は微かに強張る微笑みを浮かべ諭すように口を開いた。
「大人しくしてろよ…?…………はい、榊です。」
自分に向けるのとは違う静かな硬い声に、仁聖は眉を潜めながら背後から腕を回して抱きつく。そうしながら恭平の肩ごしに電話機を覗きこむ。抱き締める腕に微かに咎める様な視線を見せた恭平を気にすることなく、抱き締めながらディスプレイに書かれた≪ミヤウチケイ≫という表示に気がつく。全て表示されなくともそれは、宮内慶太郎からの電話だと言うことは明らかだった。幼馴染みの名前に、肩越しの仁聖も思わず息を潜める。
「うん、どうした?………いや、変わりないけど。」
受話器から漏れ聞こえる微かな幼馴染の声に対して、あまり声を上げる事もなく淡々と言葉を返す姿を初めて目にする。僅かに恭平の反応に違和感を感じながら、仁聖はマジマジとその綺麗な横顔を見つめた。
こうして実際に二人が直に会話をしているのを間近に耳にしたのは、二人が兄弟だと知ってからは初めての事だった。幼い頃に兄弟とは知らずに会話をしていた時とは、恭平の顔は少し様子が違うようだ。そう知ってか知らずか少し視線を下げて、無意識に額に手をあてた恭平は、躊躇いがちに困惑を漂わせ小さな溜め息をついた。
「……その話は前も言っただろう?」
明らかに口調が重く沈んで、次第につられていくようにその表情も一緒に暗く沈んでいくのに仁聖は気がついた。横からでは二人の話の内容が分からないながらも、その変化に仁聖は不審げに目を細める。暫し逡巡した様子を見せた仁聖は肩越しに乗り出す様にして、恭平の表情を覗きこみながら体に回した手を無造作に滑らせた。
「っ?!………おま………っ………あ・いや…な・何でもないっ!」
体幹を滑り撫でる仁聖の指を今度は意図して止めようと押さえて、肩越しに視線でその行為を咎める。なのに恭平の視線を無視して、仁聖はその項に顔を埋めゆっくりと唇と舌で首筋をなぞりだす。甘く噛みつかれて吸われる感触と服の隙間から潜り込んだ指先の熱さ。やんわりと緩やかな音もない愛撫に、次第に朱に染まり始めた体が微かに震える。耐え切れない様にフワリと甘い香りを漂わせ、恭平は懇願するように頭を弱々しく振った。それを確かめながら仁聖は受話器を押し当てているのとは反対側の耳元に、唇をよせてフワリと湿った熱を含んだ吐息を擽る様に小さく囁く。
「……したくない話なら、もう電話切って?…恭平。」
その声は酷く甘く掠れて官能的で、恭平の耳朶が見る間に朱に染まった。
「ぅんっ……い・いやっ!!別にっ!悪いけどっ…今忙しくてっ…!」
大きな抵抗もしないままに、受話器への対応に慌てる。恭平のスーツを再び探りだし、スラックスからシャツを引き抜き着崩させていく。カチャカチャとベルトにかけられた仁聖の手に、驚いた様に恭平が狼狽して視線を向ける。耳元でそっと名前を囁きかけるたびに耳朶を噛まれ、微かに身を震わせて熱を放ち始めた体が抑え込めない。それを知っていてあっと言う間にベルトが外されスラックスごと下着を膝まで落とされてしまう。受話器を握ったままだというのにあられもない姿にされ、仁聖の指が緩々と潜り込んで素肌を撫でた。
「っ!……、…い……いや……、……何でもっ……ないっ。」
もう一度耳元で名前を囁く。頬を染め恭平は身を竦ませて、絶句した様に硬く唇を噛む。探る指がシャツの中に滑り込んできて胸の突起を探られ、ヤワヤワと指先で先を弄られる。その感触に、ゾワリと肌が泡立つのを感じて恭平は零しそうになる声を堪えながら眉を顰めた。悩ましいその表情に悪感めいた体の熱をハッキリと欲望として感じながら、恭平の立ち上がり蜜を滴らせる肉茎の先を仁聖はなぞる様に指先を滑らせた。先端を撫で回す指先が起こした湿るクチュリという卑猥な音が耳に入った瞬間、恭平はビクリと大きく肩を震わせる。
「け、慶太郎、本当に今は駄目だからっまた今度!!」
唐突に話を打ち切る様に受話器のボタンを押して、息を荒げながら真っ赤になって咎める視線を投げる。そんな恭平に仁聖は悪びれた風でもなく、ニッコリと微笑みかけながら更に肉茎をしごく指の動きを速める。
「お…お前なっ!!?何をしてっ!!んんっ!!あっ!」
「だって、辛そうな顔して電話してるから。」
耳元でそう囁かれて僅かに表情を変える恭平を抱き締めて、滑る指を体の奥に音を立てて潜り込ませる。きつく食い絞める感触をものともせずに、体内に潜り込んでくる感触に思わず甘い吐息が溢れた。
「んっ!!!…んぅ……、あ…ば…馬鹿………あ、やめ……。」
次第に綻んで甘い声を上げながら、埋め込まれる指の動きに頬を染める。恭平の艶やかに色づく潤んだ瞳を見つめながら、仁聖がその項に唇を這わせていく。電話の置かれたカウンターの上にまだ受話器を握ったままの手を突きながら、深く腰を折って背を仰け反らせる。そんな思わず扇情的な姿勢をとって自分が無言のままに、その先を強請っているのに気がつき恭平は羞恥に頬を染める。恭平の姿に鋭く弾ける様な官能を仁聖はハッキリと覚えながら、無造作に引き出した楔を直に押し当てた。
「ちょ…っ!!?ま、待て!!駄目っ……あうっ!!ああぁあっ!!」
唐突にズルと無理やり後を抉じ開ける肉茎の感触。捻じ込まれる太い熱に、鋭く甲高い悲鳴をあげて更に身を仰け反らせた。喘ぐ恭平の腰を引き寄せ、ゆっくりとではあるが酷く軋む感覚を与えながら更にその体を押し広げていく。痛みを伴う筈のその行為が、既に甘く蕩ける歓喜のうねりを生み出していく。それに恭平は弱く頭を振りながら、自分が声を止められずに嬌声を上げるのを聞いていた。
「やぁ……ああっ!!!止め…あぁぁ…ん…んん……っ!」
甘く跳ね上がる恭平の声を堪能しながら、ゆっくりと腰を揺すり次第に深く奥に潜り込む。深く奥底まで抉られていく。その感覚に恭平は弾けるような息をつきながら、更に背中を仰け反らせる。深く深く強請る様に仁聖を受け入れながら、抱き寄せられる腕に息が付けない程の快感を与えられる。翻弄され思わず背後から覆いかぶされる重みに受話器を持ったままの手が、思わず仁聖の腰にまわされた。クスリと笑いながらその手から落ちそうになる受話器を受け取り、電話機にそれを置きなおした仁聖の手がそのしなやかな指先を包み込む。そうしてその細くしなやかな指先を、仁聖は愛しいと呟くように音をたてて唇に当てる。
「恭平……、は…ぁ……一回…いって……いい?」
「ん…んぅ……あぁ………お…俺も…、も……。」
切れ切れに喘ぎ身悶える姿に、微笑みながら仁聖は甘い吐息をその項に吹きかける。そしてその体をきつく引き寄せしっかりとその腕の中に抱きとめて、ユルリと恭平自身にも指を滑らせていた。
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メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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