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卒業
しおりを挟むいよいよ卒業式当日。
朝から慌ただしく準備に追われていた。
着飾ったグラシアは誰よりも美しかった。
卒業証書をもらいに壇上に上がる姿は凛としていて、とても素敵だった。
卒業式が終わると、私達は校門までクラリスを見送りに行った。
「みんな、本当にありがとう」
立派な馬車の前で、クラリスは嬉しそうに笑っていた。
隣にいるガイアは深く頭を下げて感謝を伝えているようだった。
「ルゥ・・・いえ、クラリス。こちらこそ、ありがとう。出会えて嬉しかったわ。またいつでも遊びに来てちょうだい」
「是非そうさせてもらうよ。帰る時は手紙を送るから。──そうだ、ガイア」
クラリスが目配せすると、ガイアが綺麗に畳んである紺色のマントを差し出した。
それは、グラシアの騎士の証として贈られたマントだ。
「これ・・・」
「僕はもう、グラシアの騎士ではない。だけど、嬉しかったんだ。誰にも理解されない、死にかけた僕をグラシアは助けてくれた。本当にありがとう」
グラシアはマントを受け取り、形の綺麗な眉を下げて切なげに笑った。
「クラリス、無理はしないようにしてください」
「もし戻って来た時は、俺とも基礎トレーニングを付き合ってくれ」
「それまでは、俺がカインのトレーニングに付き合うよ!」
「いや、遠慮する」
みんな一言ずつ伝えて、残るは私だけだ。
クラリスは心配そうに私を見る。
きっと、泣き出さないか気がかりなんだろう。
「クラリスがいてくれたから、私でも公爵家のメイドができたよ。ありがとう。元気でね、クラリス」
寂しさも切なさも当然あるけど、私は笑顔で見送りの言葉が言えた。
クラリスは頷くと、ガイアと共に馬車に乗り込みついに別れの時間となった。
ゆっくりと動き出す馬車に、私達はそれぞれの思いを抱いて手を振った。
それは、馬車が見えなくなるまでずっとだった。
クラリスを見送った後は、寮に戻って部屋に残した物はないか最終確認だ。
卒業パーティーで着るドレス以外の私物がなくなった部屋は、がらんとしていて何だかとても広く感じた。
「いろんな事があったわね」
しみじみと零すグラシアは、入学してからの日々を思い出しているのだろう。
本当に、数え切れない程たくさんの出来事があった。
二年もあったはずなのに、過ぎてしまえばあっという間だ。
私はそっとグラシアの背を押して椅子に案内した。
「お嬢様、まだしんみりするには早いですよ。これからパーティーがあるんですから!卒業式よりもっと張り切っておめかしして、クリス様をびっくりさせましょう!」
「ふふっ、そうね。頑張らなくちゃ!」
「それじゃあ、早速準備を始めましょうか。みなさん、宜しくお願いします!」
「「「失礼します!!」」」
私の掛け声に、あらかじめ公爵家から呼んでおいたメイド三人が勢いよく扉を開けて入ってくる。
「お嬢様を誰よりも目立たせて見せます!」
「まずはお化粧を夜会用に変えた方がいいわよね?」
「エスコートはあのクリス様ですもの。羨ましい!」
「みんなもありがとう。とっておきで頼むわね」
「「「お任せください!!」」」
身支度を終えたグラシアは、私を含めたメイド達を魅了した。
さらさらとした紫色の髪に、上品な翡翠のドレス。
豪華なアクセサリーは、グラシアの美しさを更に引き立たせている。
「とっても素敵ですわ、お嬢様!」
「こんなに美しくて、クリス様が心配にならないかしら?」
「それくらいが調度良いのよ。羨ましい!」
メイド達は、キラキラと輝くグラシアから目が離せないようだ。
「クローネ、どうかしら?」
片手でスカートを横に引いて感想を求めるグラシアは、言うまでもなく美しかった。
「とても美しいです。本当に」
コンコン──
扉を叩く音に、メイド達は一斉に後ろに下がった。
私は急いで扉を開けて、部屋の中に案内する。
相手は勿論クリスだ。
支度を整えたグラシアを見たクリスは、頰を赤くして瞳を細め
「シア、なんて美しい。私は幸せ者です」
片手を差し出し嬉しそうにはにかんだ。
「クリス様も、とても素敵ですわ」
中睦まじい二人が微笑ましくて、見ているだけで心は温かい。
手を取り合って部屋を出て行く背中に、私達は深く頭を下げて見送った。
メイド達はテキパキと残りの衣装を纏めると
「クローネも、しっかりパーティーを楽しんできて!」
「ご馳走もたくさん出るんでしょ?」
「美味しい食事に、男前がたくさんいるのよね。羨ましい!」
そう言い残し、部屋を出て行った。
「ありがとう、みんな」
私は窓から顔を出し、寮の出入口から出ていくメイド達を眺めてお礼を言った。
そろそろ私も行かなければいけない時間だ。
全身鏡の前で、メイド服に汚れがないかを確認する。
使用人のパーティーの参加は自由だ。
だけど主役は卒業生達であって、使用人ではない。
ダンスを踊る事も許されていなくて、あくまでも見守り役だ。
メイド服には汚れも皺もない。
癖のある黒髪は随分と伸びてしまった。
私はハサミを取り出して、長い髪を肩につく程度まで切り落とした。
これは自分のけじめであり、未来へ進む為の第一歩でもある。
メイド服を着るのも、今日で最後だ。
煩い音がする胸に手を置いて、ゆっくりと深呼吸をした。
そして「よし!」と、気合いを入れて部屋を出て、私はパーティーホールに向かったのだ。
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