上 下
50 / 65

正体

しおりを挟む

 森エリアを抜けて学院に戻ると授業の終わりを告げる鐘が鳴り、私は急いでグラシアの元へ向かった。


 教室に着くと

「やあ、クローネ。随分急いで、そんなにお腹が空いてるの?」

 フランソワが不思議そうに首を傾げた。


「あ、いえ。お嬢様を迎えに!」
「グラシア嬢なら後ろにいるよ」
「え?」

 フランソワの後ろにいたグラシアが顔を出し、とぼけた顔をしている私を見て二人はおかしそうにそうに笑った。
 何事もなかったようで、私の緊張は解れ安堵した。


 その時──


 《生徒の呼び出しをします。フランソワ・バーネット様、グラシア・ステラグレイ様、至急多目的室までお願いします》


 放送が流れ、私達は顔を見合わせた。


「何事かしら?」
「俺とグラシア嬢が呼び出されるなんて、相手は殿下かな」


 フランソワとクリスが二人でいる所を見た事がない私は首を傾げた。
「どうして殿下だと分かるんですか?」
「うーん・・・男の勘かな!」
「はぁ・・・」
 それを言うなら女の勘では?と、心の中で突っ込んだが、声には出さなかった。

「何はともあれ、急いだ方がいいんじゃない?」
「ええ、行きましょう」


 こうして私達は多目的室に向かった。


 教室に着きフランソワを先頭に中に入ると、そこにはクリスとカイン、更にはレイヴンとクラリスまでいた。
 コの字型に設置されたテーブルで、レイヴンを中心にそれぞれ腰かけ、一斉に此方に注目が集まる。


 一体何事だろうと困惑したのは私だけではないようで、フランソワが引き攣った顔をして

錚々そうそうたる顔ぶれで、一体どんなご用ですか?」

 そう言って、ポケットに片手を突っ込んだ。


「魔法を使って逃げようなんて考えるんじゃねぇぞ。もし逃げ出したりすれば」
「まぁまぁ、いきなり脅すような事を言われたら、余計逃げたくなるから!」


 鋭い目つきでフランソワを見るレイヴンに、クラリスが間に入って宥める。

 すると見知ったメンバーの中に、一人だけ知らない人物がいる事に気付いたグラシアが、控えめに尋ねた。

「貴方は誰?」
「あ、そういえば知らない顔がいるね」


 クラリスは立ち上がり、二人の前に来ると自ら名乗った。
「僕は、クラリス・リシュオール。初めまして、の方がいいのかな?」


 グラシアとフランソワは顔を見合わせて、互いに覚えがないと言うように首を横に振った。


「ひとまず皆さん、座ってください。クローネ、その後でクラリスの説明をお願いします」
「はい、かしこまりました」


 クリスに促されそれぞれ席につくと、私は森エリアでの一件を説明した。
 湖で何者かに突き落とされた事。そして、ルゥがクラリスである事。


「え、あのカンガルーが君なの!?」
 フランソワは前のめりになってクラリスをまじまじと眺めた。

 グラシアは驚き声が出ず、両手で口を覆っている。


「私もクラリスから話を聞いた時は驚きましたが、これも何かの縁かもしれませんね」
「昔から見知った相手でも、あれは分からないだろ」

 冷静なクリスに、カインは呆れ顔で言った。


「ルゥがリシュオール公爵家だったなんて・・・。そうとは知らず、紋章を入れたマントを渡してしまった事実が明らかになれば、ステラグレイ家の責任よね。お父様になんて説明したらいいのかしら・・・」
「先にリシュオール家の秘密を握るのはどうだ?」
「酷いなぁ、カインは。正統派の意見としては、クラリスの恥ずかしい写真をネタに黙っててもらうのはどう?」
「お前もやってる事は変わらないだろう!」
「ちょっと待って!?二人は僕を何だと思ってるの?」


 ショックを隠せないグラシアに、カインとフランソワが勝手に話を進め戸惑うクラリス。
 これだけ人数が集まると滅茶苦茶だ。


 バンッ──


 堪忍袋の緒が切れたレイヴンが、拳を握り机を叩いた。 

「いい加減にしろ!今はお遊びの時間じゃねぇんだ!!」

 厳しい口調は、全員を黙らせてしまった。


「レイヴンの言う通りです。クラリスの紹介が終わった所で次の話に移ります。これから最も大事な話をします」 


 いつも優しい笑みを浮かべているクリスが、今日はどこか雰囲気が違う気がする。


「回りくどい言い方はやめて、単刀直入に言います。グラシア、アイビーが見つかりました」
「え・・・?」
 グラシアは大きな目を更に見開いて、クリスを見る。


 誰なのか分からないフランソワと私以外、皆の表情は暗かった。


「どういう事?」


 それからクリスは、ダチュラと名乗っている生徒の話を始めた。


 仮面の下の素顔が、グラシアの妹であるアイビーだった事。
 魔黒石を所持していて、ジャスミーナが操られていたと、順を追って説明をした。


 グラシアは口を挟まず聞いていたが、その表情はどんどん曇っていった。


 普段すぐに口を挟むフランソワも今はじっとクリスの話に耳を傾けていて、教室内は重い空気に包まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

皇妃になりたくてなったわけじゃないんですが

榎夜
恋愛
無理やり隣国の皇帝と婚約させられ結婚しました。 でも皇帝は私を放置して好きなことをしているので、私も同じことをしていいですよね?

処理中です...