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正体
しおりを挟む森エリアを抜けて学院に戻ると授業の終わりを告げる鐘が鳴り、私は急いでグラシアの元へ向かった。
教室に着くと
「やあ、クローネ。随分急いで、そんなにお腹が空いてるの?」
フランソワが不思議そうに首を傾げた。
「あ、いえ。お嬢様を迎えに!」
「グラシア嬢なら後ろにいるよ」
「え?」
フランソワの後ろにいたグラシアが顔を出し、とぼけた顔をしている私を見て二人はおかしそうにそうに笑った。
何事もなかったようで、私の緊張は解れ安堵した。
その時──
《生徒の呼び出しをします。フランソワ・バーネット様、グラシア・ステラグレイ様、至急多目的室までお願いします》
放送が流れ、私達は顔を見合わせた。
「何事かしら?」
「俺とグラシア嬢が呼び出されるなんて、相手は殿下かな」
フランソワとクリスが二人でいる所を見た事がない私は首を傾げた。
「どうして殿下だと分かるんですか?」
「うーん・・・男の勘かな!」
「はぁ・・・」
それを言うなら女の勘では?と、心の中で突っ込んだが、声には出さなかった。
「何はともあれ、急いだ方がいいんじゃない?」
「ええ、行きましょう」
こうして私達は多目的室に向かった。
教室に着きフランソワを先頭に中に入ると、そこにはクリスとカイン、更にはレイヴンとクラリスまでいた。
コの字型に設置されたテーブルで、レイヴンを中心にそれぞれ腰かけ、一斉に此方に注目が集まる。
一体何事だろうと困惑したのは私だけではないようで、フランソワが引き攣った顔をして
「錚々たる顔ぶれで、一体どんなご用ですか?」
そう言って、ポケットに片手を突っ込んだ。
「魔法を使って逃げようなんて考えるんじゃねぇぞ。もし逃げ出したりすれば」
「まぁまぁ、いきなり脅すような事を言われたら、余計逃げたくなるから!」
鋭い目つきでフランソワを見るレイヴンに、クラリスが間に入って宥める。
すると見知ったメンバーの中に、一人だけ知らない人物がいる事に気付いたグラシアが、控えめに尋ねた。
「貴方は誰?」
「あ、そういえば知らない顔がいるね」
クラリスは立ち上がり、二人の前に来ると自ら名乗った。
「僕は、クラリス・リシュオール。初めまして、の方がいいのかな?」
グラシアとフランソワは顔を見合わせて、互いに覚えがないと言うように首を横に振った。
「ひとまず皆さん、座ってください。クローネ、その後でクラリスの説明をお願いします」
「はい、畏まりました」
クリスに促されそれぞれ席につくと、私は森エリアでの一件を説明した。
湖で何者かに突き落とされた事。そして、ルゥがクラリスである事。
「え、あのカンガルーが君なの!?」
フランソワは前のめりになってクラリスをまじまじと眺めた。
グラシアは驚き声が出ず、両手で口を覆っている。
「私もクラリスから話を聞いた時は驚きましたが、これも何かの縁かもしれませんね」
「昔から見知った相手でも、あれは分からないだろ」
冷静なクリスに、カインは呆れ顔で言った。
「ルゥがリシュオール公爵家だったなんて・・・。そうとは知らず、紋章を入れたマントを渡してしまった事実が明らかになれば、ステラグレイ家の責任よね。お父様になんて説明したらいいのかしら・・・」
「先にリシュオール家の秘密を握るのはどうだ?」
「酷いなぁ、カインは。正統派の意見としては、クラリスの恥ずかしい写真をネタに黙っててもらうのはどう?」
「お前もやってる事は変わらないだろう!」
「ちょっと待って!?二人は僕を何だと思ってるの?」
ショックを隠せないグラシアに、カインとフランソワが勝手に話を進め戸惑うクラリス。
これだけ人数が集まると滅茶苦茶だ。
バンッ──
堪忍袋の緒が切れたレイヴンが、拳を握り机を叩いた。
「いい加減にしろ!今はお遊びの時間じゃねぇんだ!!」
厳しい口調は、全員を黙らせてしまった。
「レイヴンの言う通りです。クラリスの紹介が終わった所で次の話に移ります。これから最も大事な話をします」
いつも優しい笑みを浮かべているクリスが、今日はどこか雰囲気が違う気がする。
「回りくどい言い方はやめて、単刀直入に言います。グラシア、アイビーが見つかりました」
「え・・・?」
グラシアは大きな目を更に見開いて、クリスを見る。
誰なのか分からないフランソワと私以外、皆の表情は暗かった。
「どういう事?」
それからクリスは、ダチュラと名乗っている生徒の話を始めた。
仮面の下の素顔が、グラシアの妹であるアイビーだった事。
魔黒石を所持していて、ジャスミーナが操られていたと、順を追って説明をした。
グラシアは口を挟まず聞いていたが、その表情はどんどん曇っていった。
普段すぐに口を挟むフランソワも今はじっとクリスの話に耳を傾けていて、教室内は重い空気に包まれていた。
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