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文化祭準備

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 文化祭が近付き、生徒達は準備に追われ慌ただしい日々を送っている。
 主に男子生徒が活躍する体育祭とは違い、男女共に活動する文化祭は毎回大賑わいだそうだ。


 文化祭は、個人・クラスどちらかの出し物に必ず参加しなければならない。
 フランソワは個人、クリス・カイン・グラシア・ジャスミーナはクラス参加だ。
 今年は全員同じクラスなので、クラス組は同じ催しに参加する事になる。


 実はここで重大な問題が発生している。
 なんと、文化祭三日前である今日、私は未だにグラシア達がクラスで何をするのか知らないのだ。
 文化祭の準備が始まってからは、ジャスミーナにも会えていなくて情報源がない。


 理由は分からないが、何度グラシアに聞いても上手くかわされてしまう。
 こっそり見に行こうと早めに迎えに行っても、何故か門番を任されているらしいカインに門前払いをされてしまうのだ。


 こうして私は、モヤモヤとしたまま今日を迎えてしまった。



「マスター、こっちの準備は終わったよ!」
「ああ、ご苦労。今年は人員が多いおかげで早く終わるな」


 文化祭を盛り上げるのは生徒だけではない。
 教師であるレイヴンの参加も決まっている。


 何でも、レイヴンが育てている薬草で淹れた薬草茶はとても人気があり、前回もあっという間に完売してしまったらしい。


「当日は、僕と相棒がきっちり全部売ってくるから任せて!」
『リオンと・・・僕も売るの?』
「当然!文化祭の日は、マスターがいつもより多く魔力をくれるんだ。ちゃんと人前で姿を見せて販売するから心配ご無用!」
『誰も僕達の言葉が分からないのにできるかな?』
「可愛さがあればどうにでもなる!」


 リオンとルゥは張り切って宣伝ポスターを作っている。
 猫とカンガルーのイラスト付きで、可愛く仕上がりそうだ。


 当日私はグラシアのクラスの催しを宣伝する為、学院内でチラシ配りを任されている。
 事前準備は手伝えたものの、当日はリオンとルゥ任せになってしまう。


 レイヴンはというと、人が多く集まる文化祭で何事も起こらぬよう警備隊となり巡回するそうだ。



「さて、もう一踏ん張りだな。俺はまだ手が離せない。悪いが、これを持って学院内を回ってきてくれ」
「はい、分かりました!」


 レイヴンから魔石を受け取り、私は研究室を出た。
 魔法を使うと魔石は反応する。
 これを持ち歩き、学院内で不正に魔法が使われていないか確認するのだ。


 まずは外から回る事にした。
 青空喫茶や魔法占い、宝石加工所と様々だ。


 校舎の正面玄関すぐ隣には、ファッションショーでも行うような中央から飛び出した長い道がある舞台ができていた。


「そこは全部花で埋めて、ここはふんわりと大きなリボンで飾る」

 聞き覚えのある声のする方へ視線を向けると、そこには使用人達にテキパキと指示を出すフランソワがいた。



「あ、クローネ!」

 邪魔にならないよう離れた所で見ていた私に、資料から顔を上げたフランソワはすぐに気がつき笑顔で手を振っている。


「ここはフランソワ様が用意した会場だったんですね」
「そう。俺の夢」
「夢?」
「ちょっと見てて」

 人差し指を唇に当てたフランソワは、会場を指差してパチンと指を鳴らした。


 黙って頷いた執事が手を叩き、それを合図に純白のドレスやフロックコートを着用した男女が登場して順番にランウェイを歩く。



「綺麗・・・」
「いつか、俺がデザインしたものを着て幸せな日を迎えてくれる人が見たくなったんだ」
「フランソワ様が作ったんですか!?」

 驚きのあまり大きな声を出してしまった私に、フランソワは肩を揺らして笑い首を横に振った。


「まさか。俺はデザインだけ。そろそろ卒業を意識する頃だから、この先どうしようか考えてさ。家は兄が継ぐから、それなら俺は自分のやりたい事をしようと思って」



 素敵な衣装に身を包んで、舞台を歩く二人を微笑ましく見守るフランソワの横顔は優しくて幸せそうだった。


「これだけ綺麗な衣装ですから、きっと沢山の人に愛されます。フランソワ様の思いがいっぱい詰まった服ですから」
「うん、ありがとう」
 フランソワは顔を赤くして、照れくさそうに頰を搔いた。



 まだ校舎内を回らなければいけない私は、素敵な夢を教えてくれたフランソワにお礼を伝えてその場を離れようと背を向けた時──


「ちょっと待って!」
 と、手を掴まれて振り返った。



「クローネにも、いつか着てほしいと思ってる。その時隣にいるのは、俺だったら凄く嬉しい」


 真っ直ぐ見つめるその瞳に、嘘はないと感じた。
 だけど私は、なんと答えたらいいのかと戸惑い視線を落とした。


「すぐに答えは出さなくていいから。これをきっかけに、俺の事を意識してもらえたらいいなって思ったんだ」


 そう言うと、フランソワは私の手を離して使用人達の元へ行ってしまった。



 ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!
 ワタシハモブ。アナタハ攻略対象。
 どうしてこうなった!?



 前世+今世=彼氏いない歴でした。
 もしも告白されるなら、好きと一言伝えてくれる人がいいなんて夢を見てた。


 それなのに──

 告白を飛ばしてあれじゃあプロポーズじゃないか!!


 私の理想と現実があまりにも違いすぎる!!!


 フランソワが私を好きだったらしい事実よりも、拗らせていた私は理想が崩れたショックの方が大きくて、グルグルと回る頭を抱えて気付けば全力疾走で校舎の周りを駆け回っていた。
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