41 / 65
文化祭準備
しおりを挟む文化祭が近付き、生徒達は準備に追われ慌ただしい日々を送っている。
主に男子生徒が活躍する体育祭とは違い、男女共に活動する文化祭は毎回大賑わいだそうだ。
文化祭は、個人・クラスどちらかの出し物に必ず参加しなければならない。
フランソワは個人、クリス・カイン・グラシア・ジャスミーナはクラス参加だ。
今年は全員同じクラスなので、クラス組は同じ催しに参加する事になる。
実はここで重大な問題が発生している。
なんと、文化祭三日前である今日、私は未だにグラシア達がクラスで何をするのか知らないのだ。
文化祭の準備が始まってからは、ジャスミーナにも会えていなくて情報源がない。
理由は分からないが、何度グラシアに聞いても上手くかわされてしまう。
こっそり見に行こうと早めに迎えに行っても、何故か門番を任されているらしいカインに門前払いをされてしまうのだ。
こうして私は、モヤモヤとしたまま今日を迎えてしまった。
「マスター、こっちの準備は終わったよ!」
「ああ、ご苦労。今年は人員が多いおかげで早く終わるな」
文化祭を盛り上げるのは生徒だけではない。
教師であるレイヴンの参加も決まっている。
何でも、レイヴンが育てている薬草で淹れた薬草茶はとても人気があり、前回もあっという間に完売してしまったらしい。
「当日は、僕と相棒がきっちり全部売ってくるから任せて!」
『リオンと・・・僕も売るの?』
「当然!文化祭の日は、マスターがいつもより多く魔力をくれるんだ。ちゃんと人前で姿を見せて販売するから心配ご無用!」
『誰も僕達の言葉が分からないのにできるかな?』
「可愛さがあればどうにでもなる!」
リオンとルゥは張り切って宣伝ポスターを作っている。
猫とカンガルーのイラスト付きで、可愛く仕上がりそうだ。
当日私はグラシアのクラスの催しを宣伝する為、学院内でチラシ配りを任されている。
事前準備は手伝えたものの、当日はリオンとルゥ任せになってしまう。
レイヴンはというと、人が多く集まる文化祭で何事も起こらぬよう警備隊となり巡回するそうだ。
「さて、もう一踏ん張りだな。俺はまだ手が離せない。悪いが、これを持って学院内を回ってきてくれ」
「はい、分かりました!」
レイヴンから魔石を受け取り、私は研究室を出た。
魔法を使うと魔石は反応する。
これを持ち歩き、学院内で不正に魔法が使われていないか確認するのだ。
まずは外から回る事にした。
青空喫茶や魔法占い、宝石加工所と様々だ。
校舎の正面玄関すぐ隣には、ファッションショーでも行うような中央から飛び出した長い道がある舞台ができていた。
「そこは全部花で埋めて、ここはふんわりと大きなリボンで飾る」
聞き覚えのある声のする方へ視線を向けると、そこには使用人達にテキパキと指示を出すフランソワがいた。
「あ、クローネ!」
邪魔にならないよう離れた所で見ていた私に、資料から顔を上げたフランソワはすぐに気がつき笑顔で手を振っている。
「ここはフランソワ様が用意した会場だったんですね」
「そう。俺の夢」
「夢?」
「ちょっと見てて」
人差し指を唇に当てたフランソワは、会場を指差してパチンと指を鳴らした。
黙って頷いた執事が手を叩き、それを合図に純白のドレスやフロックコートを着用した男女が登場して順番にランウェイを歩く。
「綺麗・・・」
「いつか、俺がデザインしたものを着て幸せな日を迎えてくれる人が見たくなったんだ」
「フランソワ様が作ったんですか!?」
驚きのあまり大きな声を出してしまった私に、フランソワは肩を揺らして笑い首を横に振った。
「まさか。俺はデザインだけ。そろそろ卒業を意識する頃だから、この先どうしようか考えてさ。家は兄が継ぐから、それなら俺は自分のやりたい事をしようと思って」
素敵な衣装に身を包んで、舞台を歩く二人を微笑ましく見守るフランソワの横顔は優しくて幸せそうだった。
「これだけ綺麗な衣装ですから、きっと沢山の人に愛されます。フランソワ様の思いがいっぱい詰まった服ですから」
「うん、ありがとう」
フランソワは顔を赤くして、照れくさそうに頰を搔いた。
まだ校舎内を回らなければいけない私は、素敵な夢を教えてくれたフランソワにお礼を伝えてその場を離れようと背を向けた時──
「ちょっと待って!」
と、手を掴まれて振り返った。
「クローネにも、いつか着てほしいと思ってる。その時隣にいるのは、俺だったら凄く嬉しい」
真っ直ぐ見つめるその瞳に、嘘はないと感じた。
だけど私は、なんと答えたらいいのかと戸惑い視線を落とした。
「すぐに答えは出さなくていいから。これをきっかけに、俺の事を意識してもらえたらいいなって思ったんだ」
そう言うと、フランソワは私の手を離して使用人達の元へ行ってしまった。
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!
ワタシハモブ。アナタハ攻略対象。
どうしてこうなった!?
前世+今世=彼氏いない歴でした。
もしも告白されるなら、好きと一言伝えてくれる人がいいなんて夢を見てた。
それなのに──
告白を飛ばしてあれじゃあプロポーズじゃないか!!
私の理想と現実があまりにも違いすぎる!!!
フランソワが私を好きだったらしい事実よりも、拗らせていた私は理想が崩れたショックの方が大きくて、グルグルと回る頭を抱えて気付けば全力疾走で校舎の周りを駆け回っていた。
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる