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13 最終話

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「そうか……」

 グラナートの父親は、またしてもそう呟く。

 しかし、先程よりも少しだけ声が明るいような気がした。

「……ありがとう」

 グラナートが小さな声でエルツにお礼を言った。

 エルツはパッとグラナートの顔を見る。

 グラナートはエルツに微笑むと、父親の方を向いた。

「今よりもっとエルツを大事にするためにも、一日でも早く立派な後継者になれるようこれまで以上に努力をするので、俺たちの交際を認めてください」

 グラナートは、お願いします、と言って深くお辞儀をする。

 エルツもグラナートと同じようにお辞儀をしようとしたが、それより先にグラナートの父親が話し始めた。

「二人の気持ちはよくわかったよ。……グラナート。結婚をするのはグラナートがエルツを守ることができるような一人前の男になってからと約束できるか?」

 グラナートは頭を上げると父親の目を見て、はい、と答える。

 グラナートの父親は頷くとエルツを見た。

「グラナートが一人前になるには、まだまだ時間がかかるだろうし、簡単な道のりではないから挫けそうになることもあるかもしれない。……それでもグラナートが一人前になるまで待つことができるかい?」

「はい」

 エルツが力強い声で答えると、グラナートの父親は優しく微笑んで、再びグラナートのことを見た。
 
「グラナート、こんなに素敵な恋人をいつまでも待たせるわけにはいかないから、早く一人前にならないといけないな」

 グラナートの父親から恋人ということを認めてもらえたエルツは、慌ててグラナートのことを見る。
 
 グラナートは父親に、はい、と返事をするとエルツと目を合わせてニコッと笑った。



 報告を終えた二人が部屋を出ようとすると、グラナートの父親が何かを思い出したような声を出した。

「グラナート、言い忘れていたが結婚するまでは清い交際をするんだぞ」

「わかってるよ」

 グラナートはそう返事をすると、エルツに、ね? と同意を求めた。

「……私に聞かないでください」

 エルツは恥ずかしくなり顔を伏せる。

「あっ、ごめん」

 おそらくグラナートは、なんの気無しにエルツに聞いたのだろう。

 エルツの様子を見て、慌てて謝った。

 エルツは早くこの場から去りたいと思い、グラナートと繋いでいる手を軽く引っ張る。

 グラナートは、恥ずかしそうに目を伏せながら手を引っ張るエルツのことを愛おしそうに見つめた。

 普段は感情を表に出さないエルツの恥ずかしがっている姿が可愛くて仕方なかったのか、グラナートはエルツを抱きしめようとしてエルツの背中に手を回したが、エルツに触れる寸前で何かを思い出したようにピタリと手を止める。

 グラナートがチラッと三人の方を見ると、サフィーロとブラウはニヤニヤしていて、父親は優しさなのかわからないが、グラナートと目が合うと、そっと目を逸らした。

 グラナートはエルツを抱きしめたい気持ちを抑えるようにギュッと拳を握ると、大きく深呼吸をする。

 そんなグラナートの姿を見て、ブラウは茶化すように言った。

「グラナート、そんな調子で本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ! ……大丈夫」

 まるで自分に言い聞かせるようなグラナートの返事を聞いて、ブラウはフフッと笑う。

 エルツはずっと下を向いていたため、ブラウとグラナートの会話の意味も、どうしてブラウが笑ったのかもわからなかった。

 いったい何があったのだろうと疑問に思い、ゆっくり顔を上げてグラナートの顔を見る。
 
 不思議そうな顔をしたエルツに上目遣いで見つめられたグラナートが、あまりの可愛さに悶絶したような表情をすると、ブラウとサフィーロの笑い声が部屋の中に響いた。

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