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しおりを挟む「まだお水を飲むの?」
ブラウは不思議そうな顔でグラナートにそう言った。
グラナートは元から喉が渇いていたということもあるが、あとでエルツが部屋にくると思うと緊張して喉がカラカラになってしまい、食事の前なのにグラス二杯分の水を一気に飲んで三杯目のおかわりをしようとしたところだった。
「これ以上飲むと夕食が食べられなくなっちゃうよ」
「……そうだな」
グラナートはブラウに渡そうとしたグラスをそっと元の場所に戻すと、緊張をほぐすように自分の手を何度もさすったり、深呼吸をしたりして夕食の時間になるまで待った。
夕食を食べ終えたグラナートは、まだ喉の渇きを感じていたため水の入ったグラスを持って自室へと戻った。
エルツが来るまで勉強をして待っていよう。
そう思い、机の上にグラスを置くと、椅子に座って勉強に取り掛かろうとしたが、ペンを持つ手が震えてしまい勉強どころではなかった。
エルツの返事を聞く心構えはしていたつもりだったのに……。
グラナートは少しでも気持ちを落ち着かせようと思い、グラスを手に取った。
その瞬間、手が滑ってグラスを床へ落としてしまう。
パリンッ、とグラスが割れる音が聞こえ、グラナートは自分の情けなさにため息を吐いた。
もうすぐエルツが来るというのに、なにをしているんだ……。
早く片付けないと、と思いグラナートは慌ててグラスの破片を拾おうとした。
「痛っ」
一瞬だけグラスの破片に触れた手に痛みを感じ、パッと引っ込めて指先を見ると血が出ていた。
指先から手のひらに向かって流れる血を見て、止血をしないと、と思いながらもフッと笑みがこぼれる。
あの時と同じだな……。
グラナートは二年前のことを思い出していた。
エルツが使用人として働くようになってから一ヶ月ほど経ったとき、グラナートはガラスの破片で手を切ってしまった。
普通なら不快な気分になるはずが、その時のグラナートは心が荒んでいたため、自分の血が流れる光景を見ていると心が軽くなるような気持ちになった。
少し時間が経ち血が止まりそうになると、自分で傷口にガラスの破片を押し当てて再び血を流した。
このまま血が流れ続ければ、消えることができるかもしれない……。
そう思ったが、すぐに血は止まりそうになってしまい、今度はもっと尖ったガラスの破片を強く押し当てた。
ズキッと強い痛みを感じ、思わず持っていたガラスの破片を離してしまう。
血が流れる量は増えたが、痛みに対する恐怖を覚えてしまい、それ以上傷口を深くすることはできなかった。
そのときの傷をエルツが手当てしてくれ、それから少しずつグラナートのエルツに対する気持ちが変わっていった。
懐かしいな、と思っていると扉の外からエルツの声が聞こえた。
「グラナート様」
グラナートは落として割ってしまったグラスの片付けも、手の止血もできていない状態でエルツを部屋に入れたくなかった。
しかし、利き手を怪我してしまった自分では手際良く片付けや止血はできないと思い、エルツを部屋の前で長時間待たせるわけにはいかないため、やむを得ず扉を開けた。
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