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3 グラナート視点

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 部屋にはエルツと二人だけになった。

「旦那様が倒れる前にどんなお話をされていたんですか?」

「……どうしてそんな事を聞くんだ?」

「先程旦那様が倒れた時の状況を聞いて、お二人がされていた話の内容に旦那様がショックを受けて倒れた可能性があるのではないかと思いまして」

 そんな……父様が倒れたのは俺のせいだったのか?

 エルツは父様は大丈夫だと言っていたが、もし重症だったら……
 
 俺のせいで父様が……

「あくまで可能性の話です。てすが、もしそれが理由だとしたら、また同じ様な事が起こるかもしれません。そうならないために、旦那様が倒れる直前の会話だけでもいいので教えて頂く事はできませんか? 話をしているご本人は気がつかない事も、第三者が聞けば何かわかるかもしれないですから」


「……ゴルトという金持ちが家にきた時の話をしていたんだ」

「そうですか。ゴルトがきた時は私も玄関の近くにいて、話の内容は聞こえていました」

 俺が二階から見た時は兄様とブラウの姿しか見えなかったから、エルツはゴルトの事を知らないと思っていたがあの場にいたのか……

「父様は、ゴルトに物を落とした時みたいに印象が悪くなる行動をとると将来大変な思いをするのは俺自身だ、と。……俺はこの家を継ぐつもりなんてないのに」

 父様も兄様も、どうしてわかってくれないんだ。

「なぜ後を継ぎたくないのですか?」

「……」

「長い間グラナート様にだけ本当の事を言わなかったお二人の言う通りにするのが嫌だからですか?」

 ……違う。
 
 そんな理由じゃない。

「グラナート様が変わられたのは、サフィーロ様が養子だと知ってからだという事を聞きました。ずっと嘘をつき続けてきたお二人の事が憎いから嫌がらせのために問題行動を起こしているのですか?」

「違う!」

 俺はそんな事思っていないのに。

 どうして……

「どうしてお前も父様もそんな事を言うんだ……」


「違うのなら、なぜ養子の事を知ってから旦那様やサフィーロ様に対する態度が変わったのですか?」

「それは……俺にだけずっと嘘をついていたのを知って最初は悲しかったけど、それが怒りに変わっていって……それで……」

 一年前、養子の事を知って悲しかったはずなのに、なぜか涙は出なかった。
 その代わり自分でも抑えきれない怒りがわいてきたんだ……
 
「そうでしたか。使用人達への態度が悪くなったのも同じ理由ですか?」

「ああ」

「女性の使用人に対しては特に強く当たっていたと聞きましたが、それはなぜですか?」

「あの女達は……」  

 俺は昔の記憶を思い返した。


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