天性の天才と天性の努力家

瑳来

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12話

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 今日もまた朝が来て、学校に行く時間になり、俺はいつもの様に寮から学園に行った。
 まだ来てねぇか。
 靴箱にはアランの靴はない。
 昨日、レオン達の前ではあーやって言ったものの、あいつを完全に守りきる自信はない。
 他の奴らならどうにか出来るが、あいつはいつも俺の想像してる斜め上を行くから行動が予測できない。
 だから、あいつの部屋に入ってあの異常ともいえる光景を見た時は正直鳥肌が立ったし、興奮した。
 やっぱり、こいつは人とは違う。一般人とは違う何かを持ってる。
 こいつとなら、俺はもっと強くなれる。

 そうすれば見返してやれる。

 って、俺悪役みてぇじゃん! やんなっちゃうわぁ!

 でも……悪役、か。確かに俺は悪役なのかもしれない。
 アランは幼い頃からここの学園のトップになる事を望んでいた。だけど、それを俺は邪魔しに来た。そんなの、悪役だよな。
 それに、化け物の俺にはこのポジションがお似合いなのかも。

 ふと、脳裏に映ったのは学食で楽しそうに話してたアランと、昨日の別れ際のレオンだった。
 何も知らないアランとは裏腹にレオンは全てを知ってしまっている。一番辛いのはレオンなんだろうな。ごめんな。
 ……切り替え! 切り替えしよう!

「うぃーっす!」
 いつもの調子で教室の扉を開くと、何故かみんな会話をピタリと止めてジロジロと俺の方を見てくる。
 なに? 俺の顔なにかついてる?
 中にはヒソヒソと話してる奴らもいる。

 ……

 これには流石の空気が読めないで有名な俺もなんとなく察しが着いた。
 こりゃ、俺、いじめられるな。

 取り敢えず1番窓側の1番前の自分の席に行くと、机の上にはビリビリの紙くずやら落書きがされてあった。

 随分とまぁ、可愛らしいいじめのこと。

 そんじゃ、3秒クッキングはじめまーす。

 俺は、無言で手から炎を出し、全て燃やすと窓を開いて灰となった紙たちを外の世界へと放ってあげた。

 3秒クッキング完了。

 いやぁ、机が木とか鉄じゃなくてよかった。俺の炎に耐えられるとかどんな素材なんだろ?
 窓を閉めると何事も無かったかのように座る。

 あとは、落書きをちょっとアレンジしてっと。

 なんということでしょう!

 バカとかアホとか身の程わきまえろとか心無い落書きからこのような可愛らしい生物が誕生しました。
 これには匠も納得のご様子。
 特にこだわったのはバカという字からカバを連想させてですね……

「なんだこれ? なんかの化け物か?」
「どこが化け物じゃ!」
 後ろから俺の美的センスを否定され振り向くと鞄を持って今来たであろうアランが立っていた。

 視界の端に見えた廊下の時計は完全登校まで残り二分を示している。こいつ自身、息は乱れてなかったが髪が若干風に煽られた後のようだからたぶん走ってきたんだろうな。

 目や顔色は変わりはないため回復術をやったか、それとも昨日は何もせずに寝たのだろうか。

「どこがって……全体的に化け物だろ?」
 昨日よりも雰囲気が柔らかい。
 心做しかなにかに吹っ切れたような、そんな感じがする。
「おいおい。他のやつは百歩引いて許してやるが、このウサギちゃんはどう見てもウサギちゃんだ」
「え……新手の幼虫かと思った」
「てめぇの目は節穴か! 節穴だな!」
 俺が渾身のツッコミを入れ、アランが珍しく爆笑したところでチャイムが鳴って席に着いた。

「ーーバッカみたい」
「ーーアラン様にちょっと仲良くしてもらえたからって調子に乗るな」
「ーーうざっ」

 はい。出ました。悪口の定番。
 バカみたい。調子に乗るな。うざい。これにキモイが入ったら四天王コンプだぞ?
 アランは俺の列の一番後ろだから聞こえてたのかどうかは確かめることは出来ないが……聞こえたところでって感じだよな。今の俺達はただのクラスメイトってだけだし。
 ちなみに、ソフィアちゃんとレオンと俺達は同い年で、ピンインちゃんは歳が一個下だってさ。
 閑話休題。


 


 それからも、俺に対する嫌がらせが一時間に一回のペースで行われていたが、特に気にしないでおいた。
 あいつら、余っ程暇人なんだろうなぁ。俺だけのためにみんなで話し合ってたかと思うと可愛らしく思えてくるわ。

 ちなみに、一番キレそうになったのはトイレ入った瞬間水ぶっかけられたのかなぁ。個室に入ってかけられるならまだしも、トイレびっちょびちょになるわ。迷惑だわ!

 ったく、よく俺が行くってわかったな。俺のために汚いトイレで待機してくれててありがと!

 他にもちょっと外出ただけで靴箱の中に入れたはずの上履きが無くなってたりしたから、今の俺は靴下にジャージという、もう傍から見ても完全に虐められてますよスタイルだ。
 それか、ただのドジっ子。

 移動教室から自分の教室に戻り、中に入ると黒板にはビッシリと俺の悪口らしきものが書かれていた。
 もう既に戻ってきてたであろう人達は俺を見てクスクスと笑っている。

 なにこれ? サプライズ的な何か?

 俺の家庭事情まで書かれていたが、あながち間違っていない。どうやって調べたんだろう? いや、案外適当かも。

 なになに。

 捨て子、化け物、ぼっち、才能なし……などなど。
 ぼっちかぁ……まぁ、昨日まで俺につるんでた友達もどきも今日はなんも話しかけてこないしな。
 おおかた、転校初日に俺とアランが話してたからアランと仲良くなるための口実に使われてたんだろうな。
 くそおぅ! 取り敢えず黒板の字消すか。
 俺は無言で黒板消しを取り、黒板を消そうとすると、教室の扉が開いてアランが入ってきた。

「……なんだこれ?」
「あー、いや。俺のアート的な?」
「嘘をつくな。誰だこれをやったのは!?」
 怒涛の勢いで怒り出すアラン。
 プライドが高くていつも澄ました顔をしているアランからは考えられないくらい感情的になっている。
 前までのアランなら絶対こんなふうに怒らない。
 みんなも驚いたのか押し黙っていて、中には圧倒されて泣いてしまってる女の子もいる。

「アラン。大丈夫だから。な?」
 俺が優しく促すように言うとなぜかアランは申し訳なさそうな顔をした。

「ごめん。気づいてやれなくて」
「いや、いいって!」

「ーーなに、被害者ヅラしてんだよ」

 クラスメイトの一人が面白くなさそうに前に歩みでてきた。
 こいつは……前まで、俺と一緒にいたやつ。
 それに続いて他の奴らも来た。

「そうだそうだ! 試験一回戦負けだったくせによ!」
「ちょーっと、光の術使えるからって調子に乗るな!」
「弱いくせに! 馬鹿そうだし!」
 おうおう。行ってくれるなぁ。こいつら。
 弱いくせにって人生で初めて言われたよ。
 俺は大人だから全て張り付けた笑顔で聞き流す。

「ちょっと待てよ!」
 またもや、アランが声を上げ俺への罵倒がやんだ。

「それは違うぞ。こいつは弱くない。試験の後俺はこいつと勝負して負けた。それでやけくそになって練習して精神的にも狂いそうになった時こいつは助けてくれた」
 こいつ……プライドが高いこいつが人前で負けを認めるなんて……
 ……熱でもあんじゃねぇの?

「俺はこいつに感謝してる。努力は今まで通りしない。実らないことを知ってるから」
 今通りしないってどの口が言ってんだよ。ぜってぇ、してただろ。と言いなくなったが、いい所だから黙っとく。

「ーーでも、俺は俺のペースでリアム・ルーセルを目標に練習していきたいと思ってる。だから、こいつをいじめて潰したり、学園から追い出そうとする奴は俺が許さない! 以上!」

 アランがそこまで言い切るとまばらな拍手が起こり、しばらくすると、拍手喝采が巻き起こっていた。
 アランは注目を集めても特に恥じる様子もなく、堂々とした面持ちで立ち、颯爽と自分の席に戻っていった。
 俺はその後ろを黒衣(くろご)のようにひっそりとついて行った。

「アラン。悪ぃな。庇わせちまって」
「いや、いい。ああいうのは嫌いなんだ」
 アランは苦虫を噛み潰したような顔をして、椅子を引き座った。

「俺の昔の友達でめちゃくちゃ術が強い奴がいたんだけど、そいつはよく化け物って周りから罵られてて、それを不意にも思い出したんだ」
「お……お前……」
 アランは俺の事をまだ思い出していない。
 それでも、こいつは俺のことを完全に忘れきっていない。
 能力試験の時もそうだ。俺が小さい時に教えてやった緊張のしない方法を覚えてた。
 それに、俺が化け物って呼ばれてたのレオンすら知らなかったのに……いつ聞いたんだよ。

「どうした? そんな呆けた顔して」
 アランに言われ、はっと我に返り俺はアランの頭に手を乗っけた。

「なんでもねぇ。早く俺を追い越せよ」
「あったりまえだ。見てろよ。すぐ追い越すからな」
 こいつは、こいつなりに戦ってる。
 あの、おっさんが術に手を抜くわけが無い。記憶は消されてもアランは無意識にどうにか保とうとしてるんだ。
 アランも戦ってる。レオンも戦ってる。
 ここで、俺が動かなきゃどうする?
 もう、誰も失いたくねぇ。

 ーーおっさんをぶっ倒してくるか。
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