兵器前線異常無し

影武者

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第3話「標的」

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 ここ、アトラン連合国シェルドン村では、結婚式が行われていた。教会の鐘の音が大きく鳴り響き、打ち上げの花火の何発か上がった。そして、テレビ局や、新聞社等のメディアが大勢取材に来ていた。

 今日は、6月の2回目の主の日(日曜)結婚式にふさわしい、良い天候であった。取材記者がカメラを前に身なりを整えるとカメラマンに合図を送る。

「さて、アトランとフェイートが平和協定を結び、核兵器が無くなり……武装を限定解除後1周年を迎えようとしています。この、平和の象徴とも言うべき、両国の国際結婚第1号が、今、この村で行われています」

 平和の象徴、国際結婚と、異例の特ダネに報道陣が詰めより、それをあてにした店が路上に溢れ、まさにお祭騒ぎである。さらに、その様子を一目見ようと観光客が大勢詰め寄っていて、村はちょっとした騒動に包まれていた。

 報道陣のカメラと観光客のカメラが、教会から出てきた2人に一斉に向く。辺りの者達は、米粒や花弁を2人の頭上にまいてそれを祝った。

「おめでとう!」

「うわー、きれいねぇー!」

 花嫁の長いストレートの髪が、心地よく吹くそよ風にさらされていた。花嫁の一生で一番美しい時と言って良いであろう。とその時、1人の少年の様な少女が出てきた。髪を短くしているので、そう見えるのである。サンバイザーにホットパンツが似合っていた。

「おめでとう、セレナ」

「ありがとう、ユンナ」

「向こうに行ったら、あまり会えなくなるけど、元気でね」

「うん、私も早く相手見付けて、遊びに行くわ」

「だったら、その男の子みたいな格好は、やめなきゃね」

「ちぇっ」

 花嫁の幼なじみなのであろうか、その少女は花嫁の言葉に口を尖らせていた。それを見た花嫁は笑顔で答えていた。

「フフ、冗談よ」

「ねっねっ、晩餐会、出るんでしよ?」

「もちろん、主役ですもの」

「じゃぁ、もう少し、一緒にいられるのね」

    *-------------------------------------------------------------*

 この村より、南へ4Km程の所に、第2レーダーサイトがある。ここ、シェルドン村は回りは山に囲まれていて、一見に平和な山村であるが、この軍事施設が出来てからと言うもの、国籍不明の航空機や未確認の飛行物体が無数に確認されだしていた。

 そして、2週間前にも、黄色い装甲姿の兵士が村人達に目撃されている。それが、偵察に来たイエロ-スネ-ク隊であった事は言うまでもない。

 人間と言うのは、兵器の中では最も小さな標的となる。勿論、レ-ダ-に補足する事は可能ではあるが、あまりにも小さいが故に、ノイズとして処理されると表示機器に映ることはない。

 また、標的として補足し追撃するためには兵器の誘導システムも、天文学的な精度を持ったものが必要となってくる。現代の自動化された兵器程、いかに人間が攻撃の対象と成りにくいかと言う事を物語っている。それが、地上から、または、真上の上空から落下してくるとなると、なおさらである。

 そして、その標的が、自在に飛行し、戦闘機あるいは、爆撃機以上の武装をしていると言うのは非常に脅威となるのである。さらに必要ならば、基地内部に侵入し、破壊活動を行う事も可能である。

 しかも、核兵器が広域の破壊に対し、ディセントフォ-スはピンポイントに攻撃・破壊することが可能である。この、「見えない」「最小限の目標破壊」を可能にするのが、ディセントフォ-スの部隊結成の経緯である。偵察のみならず、攻撃にも適しているのである。

 だからこそ、ディセントフォ-スは軍の最重要機密事項とされている。

    *-------------------------------------------------------------*

 昼食時を過ぎると、報道陣も引き上げた様子で村は急に静まり返ってしまっていた。村全体が騒ぎ疲れてしまった様である。そんな中、村外れの畑で作業するユンナ達の姿があった。

「セレナ、今日はあんたが主役なんだから、手伝わなくてもいいわよ」

「そんな…… 最後なんだから、手伝わせてよ」

 結婚後この村を出ることになるセレナは、ユンナの言葉を受け、最後になるかも知れないこの村での収穫作業をやっておきたかったのである。

「じゃぁ、セレナ、ここが終わったら帰えるわよ」

 収穫作業も進み、晩餐の準備もあるためユンナは帰り支度を始めていた。使っていた道具や収穫した野菜を収納小屋へ運ぶため片付けだした時だった。
 小屋の前にある大木の下に何かが置かれていた。いや、それが人だとわかった途端、ユンナはそこに駆け付けた。

「どうしたのかしら……はっ!?……」

 それは、明らかにホワイトキャッツ隊の一人であった。初めて目にする者にとっては、少々グロテスクに見えるに違いない。姿はともかく、血まみれになっているその状況にただならぬ事態を感じ唖然と立ちすくんでしまった。そこへ、様子が変なユンナに気づいたセレナが駆け寄って来た。

「ねぇ、ユンナ、どうしたの?……はっ……ひっ、びとい傷……何なのこれ……」

 2人は回りを見渡すが、ほかに人がいる訳でもなく、どうしたら良いのかと戸惑うのだが、セレナが作業小屋を指さして言った。

「と、とにかく、あそこに運びましょう。手当てしないと」

「わかったわ」

 2人はどう触れればいいかと何度か迷いながらも、両サイドから腕を持つと半分引きずりながらやっとのことで小屋へと運び込んだ。この小屋は畑で使う農機具や収穫物を一時的に蓄えておく場所なのだが、普段はあまり使わないので、今にも崩れそうな程傷んでいた。

 畑用の水は井戸から取水していて、その水を使い傷口を洗い流すことは出来たが、消毒が出来ていなかった。応急処置とまでいかないが、とりあえずの処置だった。

 兵士は例の、"ボウヤ"と呼ばれていた元ジャックベレー隊の男であった。応急処置が良かったのか、兵士の意識も回復しその場に座ることが出来るようになっていた。

「すまないね、おかげで助かったよ」

 アンダーウェアー姿の彼が言った。ディセントフォースの装甲を外し、バックパックやヘルメット、装甲は彼の側に並べられていた。その彼の表情はなにかホッとした感じであった。

「よかったわ……でも、後でキチンとお医者様に診てもらった方がいいわね」

 セレナは、応急処置しか出来ていない彼に診療を促すが、彼がそうするかどうかは不明だ。彼には反乱までして決めたやり遂げなければいけない事があったのだから、セレナの言葉を聴いている筈がなかろう。

「……他に……オレ見たいな奴が来なかったか……?」

「いいえ。知らないけど……」

「……そうか……」

 彼は仲間の事を聞いたのか、それともブラックフォックス隊の事を聞いたのか……少し肩を落とす素振りを見る限り、ホワイトキャッツ隊は全滅したのかも知れない。しかし、彼の複雑な気持ちは表には現れない。やはり彼は"兵士"なのである。

 しばしの静かな時を過ごしていた彼だが、長く続く事はなかった。そしてそれは、やってきたのだ。

 初めは微動で回数も少なかった地響きが、やがて、大きく何度も伝わって来ていた。そう、その振動は明らかに爆発によるものだ、村の方角から煙と炎がいくつも上がっていた。

 爆発による振動は確実にこちらへ近づいてくる、その原因が何かなんて到底彼女たちに想像できるものではなかった。

「なっ、なに! 地震かしら!?」

「……畜生! やつら……始めやがったな……」

 ついさっきまでその者達と闘っていたホワイトキャッツ隊の彼だ、すぐに事態が飲み込めた。爆風、震音以外の微かであるが人の声が混じる。その声にセレナはすぐに反応した。

「マーク!」

「セレナーッ!、どこだぁーっ!」

 わずか数時間前にはセレナと共に式を挙げた者だ、もう1人の村人と必死で彼女を探していた。小屋は左手前方にあり、そこから声がしたのに気づいたマーク達は小屋へ向かおうとするが……

「早く逃げるんだーっ、今、村が変な奴らに攻撃を受けている!」

「こっ、こっちに来たぞ」

「なにっ!」

 一緒に来ていたもう一人の村人が指さす方向へ、マークは思わず振り返る。空には黒い無数の粒が広がり、それが段々と大きくなって来る。

 ブラックフォックス隊である。彼らは躊躇すること人間に向かって小型ミサイルを発射する。全長150mmと小型ながらも、その破壊力は3階建てくらいのビルなら跡形も残らない。このミサイルに搭載されている誘導追尾システムは、空対空ミサイルのサイドワインダ-、スパロ-の熱誘導システム、レ-ダ追尾システムより正確だ。

 まず、狙った獲物はネズミでも外さない。それをマーク達に向け放たれた、逃げるという行為はもうほとんど役に立たないだろう。数発のミサイルが、確実に着弾した。2つの人影は、たちまち消え去った。

「マークッ!」

「セレナ、危ない! 戻って!」

 止めるユンナの手を払いのけると、セレナは思わず着弾地点へ駆け出して行った。彼女を呼び戻そうと、ユンナもセレナを追って小屋を出て行ってしまったのである。

「バカ! 行くな!、戻れ!」

 小屋に残った彼のその言葉は2人には届かなかった。迫るミサイルに気付くととっさに伏せるセレナ、彼女をすり抜けた2発のミサイルが、2人の間に到達した。その爆風に吹き飛ばされる2人だった。

「きゃあーーーっ!」

 ユンナの身体が爆発の粉塵と共に宙に浮いた。一瞬の出来事の筈であるが、それは、5秒程の滞空を感じさせるぐらいスロ-な感じがした。紛塵がおさまった後に、倒れているユンナの姿が確認されたが、動くことはなく、全く起き上がって来る気配はない。

 深手を負っている彼は小屋から一部始終を見ていたが、何も出来なかった。唯々己の深手を悔やむのみだ、腹部の傷を押さえながら小屋の入り口で呆然としていた。



                            -  つづく  -

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