転生魔法使い令嬢はラスボス悪役令嬢になります

こと葉揺

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プロローグ

ドラゴンとの契約

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 処刑日。王国所属の兵たちに城の謁見室へ連れてこられた。
 そこにはシャルル第一王子と聖女マツリカと第二王子、第三王子とその他騎士が数名いた。

 ここで斬首されるのであろうという、あからさまな場所が作られていた。
 小説で読んでいる分にはカッケーとかそういう感じで受け取れたが、いざ自分がここに立つとものすごく怖かった。

 しかし、ここは聖女がいるからか魔法防御の魔法陣がない。私の考えていることを他の魔法使い2人の脳内に直接…なんてことは出来なかった。

 聖女の手元にある本を奪ってそれが開いたので転移魔法がうっかり出てきてしまったという体にしよう。

 窓から光が差し込んだ感じに手元の本に魔法を向けた。すると思った通りに手から弾かれて本が下に落ちた。

 その時に移動魔法スクロールを使用した。私たち魔法使いにのみ移動魔法がかかるようにした。

「あ、どうして!勝手に何かが~~」


 我ながら下手な芝居だと思った。しかし、移動魔法が上手く発動した。よし、逃げられる。
 聖女マツリカが悔しげにこちらを見ていた。もしかしてバレちゃったかも…。






 あまりにもあっさり抜け出せたので拍子抜けした。とにかく生き延びてよかった。死にたくない。

 反逆罪になるかもしれないが、仕方ない。一度魔法国へ帰ってこの事を報告しよう。


「事情はわかった。それらについてはこちらで対処しよう。しかし君たちはしばらく身を隠しておいてくれ」

 事情を魔法国の宰相に伝えた。とにかく私たちが罰を受けたりすることは無さそうだ。
 私たちはオルタ・モンドラゴン帝国との国境沿いの隠れ家にそれぞれ身を隠す事になった。1箇所にまとまると危険なのでかなり距離を空ける事にした。恐らく戦いにはならないだろうが、強めの防御魔法の結界を張ってくれるとのことだ。

 私はたまたま国境沿いにエヴァンズ家所有の土地と別荘があったのでそこでしばらく過ごす事になった。

 通信魔法で近況を家族に伝えて、数日分の食料だけ買ってきて別荘へと向かっていた。

 少ししたらメイドを送ると返事が来たが、断っておいた。食糧だけ欲しいと伝えるとそれの手配はしてくれるようだ。

 いくら前世を思い出したところでここの世界での狩りや農作などの知識はない。それにシェリアも貴族令嬢のため言わずもがなだ。

 すると長い黒髪の男性が倒れていた。

「大丈夫ですか?」

 慌てて声をかけたが反応がなかった。身なりからして貴族かそれ以上だろう。艶のある髪に上等な服。家紋の付いたものはなかった。ただ顔色は悪そうだった。目の下のクマがくっきりと付いていた。

 彼は、全く反応しないのでとりあえず屋敷に連れて帰る事にした。





 とりあえず客間のベットに寝かせた。掃除はとりあえず使うところのみ簡単にした。彼を見るとやつれているが結構顔立ちは綺麗なのではと思う。もしかすると、小説の重要人物なのでは…。

 ラ・フォア王国にはこのような容姿の人はいなかった。

 オルタ・モンドラゴン帝国の人も配属先を決めるときにいた王族の人は第一王子の女性しか来ていなかったので他の人はわからない。
 …服の特徴的には帝国の人っぽい。しかし帝国の人はあまり他所の国に行くことはしない。

 しかしこのあたりは国境沿いなので、オルタ・モンドラゴン帝国の人が居てもおかしくはなかった。
 結界をどう破ったのかはさておきだが。


「うっ……」

 ずっと見つめていると苦しそうな表情になった。しんどいのかと思い気休め程度の白魔法を使った。…そう気休め程度しか使えないのだ。私は光属性の魔法使いなのに。聖女は死者蘇生以外は行えるのだ。なんとチートなのだろう。

 すると彼は柔らかい表情になりその瞳が開かれた。黄金の目に黒い瞳孔がギラギラと光っていた。

 彼は私の方へ手を伸ばし抱きしめられた。

「へっ…」

 彼はグルグルと喉を鳴らしていた。まるで獣のようだ。
 そう思っていると胸元に口を寄せられてスゥと何かを吸われた。その瞬間胸元から脇の方に向かって何かがジリジリと刻まれる痛みを感じた。


「いたっ…いたいっ…や、やける」

 痛みがするところから金色の光が放たれると彼はニマリと笑った。


「コレデケイヤクハカンリョウダ」

 片言でそういうと、私の髪を引っ張って目線を合わせてきた。

「コレカラハオレノタメニイキ、オレノタメニマリョクヲスベテアタエロ」


 彼の姿がどんどん黒いドラゴンに変わっていっていた。

 どうしよう…対処法がわからない。
 …いや絶対生きなければ、このままだと魔力を使い果たされてしまう。
 彼は私の魔力を吸ってドラゴンに変わっていた。と、いうことは反対のことをすれば戻るのではないか。


 今のところはまだ手足のみドラゴンに変わっている。胸元に口を寄せてスッと魔力を吸ったが上手くいかなかった。


「どうして……」

 基礎を思い出せ。きっとお互いのオドのやりとりをしているのだ。精霊とのやりとりは恥ずかしいがキスが1番やり取りに向いている。


 致し方ない。もうお嫁に行けなくてもいい。生きることが大前提だ。と、覚悟を決めて彼にキスをした。

 スーッと魔力を吸うといつもの自分よりも多くオドが満たされた気がした。

 これが聖女と同等の力…。まではいってなくてもそんな気分にされるほど魔力で満たされていた。


 魔力を吸われた彼は人の姿に戻り力を無くしてパタリと倒れた。一応生きているか確認したが、生きていそうだ。

 もしかすると、これは高位精霊のドラゴンと契約してしまったのでは…。この世界のドラゴンは絶滅したと聞いていたのだが、どういうことなのだろうか。
 とにかく今日は疲れた。睡眠も取れてないのでとにかく寝る事にした。






「これはますますお嫁に行けませんわ」

 昼頃に起きてお風呂に入ろうと服を脱いだ。すると昨日のドラゴンとの契約の証が胸から背中までタトゥーのように契約紋が刻まれていた。

 幸いな事にこの世界の服装はかっちり着込むものばかりで、首元が空いているデザインを選ばなければ特に支障はないだろう。

 客間を覗くと彼はまだ寝ていた。
 とりあえず、朝食を食べたら精霊との契約について調べなければ。
 簡単な軽食を彼の枕元に手紙を添えて置いておき、ひとまず状況整理をするために自室に籠る事にした。




 彼…ドラゴンの正体はオルタ・モンドラゴン帝国の王子じゃないかと思い出した。

 確か、オルタ・モンドラゴン帝国はその名前の通り王族はドラゴンの血筋が入っていた。ドラゴンなどの高位精霊との交わりは魔力が高い人間しかできないので、昔のオルタ・モンドラゴン帝国の王族は魔力が高かったのだろう。

 そして、その中の王子の誰かが先祖返りしていたはず。彼をラスボスにすると盛大なネタバレをくらっていた。

 聖女は全ての魔法属性を持つチートだ。
 ドラゴンは同じく全ての魔法属性を持つチート高位精霊だ。
 帝国がドラゴンを所有すれば聖女を取り合う戦争は避けられる。これは棚からぼたもちってやつかもしれない。

 

 しかし、先祖返りの精霊契約はよくわからない。

 知っていることといえば精霊と契約しても、例えば魔法使いのレベルが5で精霊のレベルが60とかでも魔法使いのレベルが5であれば精霊もレベル5までの力しか出せないと言っていたので、私のようなビギナー魔法使いには向いていないのだ。
 ベテラン魔法使いが歳を取り、自身のオドの最大値が減ってきた辺りで、契約しているパターンが多い。オドは減るが魔法使いとしてのレベルが下がらないというのがミソである。

 うーんと頭を悩ませているとノック音が聞こえた。もしかすると彼が起きたのかもしれない。彼は武器を持ってなかったし、魔力も枯渇しているが一応警戒体制に入った。


 ガチャリとドアを開けて入ってきた彼はあまりにもダルそうだ。


「ご飯、どうも。てか、あなたは…」

 昨日の記憶は無いようだ。ギラギラに光っていた瞳も今は死んだ魚の様な目になっている。

 一度彼と話をしてからこの先のことを考える事にしよう。





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