2 / 27
プロローグ
ドラゴンとの契約
しおりを挟む処刑日。王国所属の兵たちに城の謁見室へ連れてこられた。
そこにはシャルル第一王子と聖女マツリカと第二王子、第三王子とその他騎士が数名いた。
ここで斬首されるのであろうという、あからさまな場所が作られていた。
小説で読んでいる分にはカッケーとかそういう感じで受け取れたが、いざ自分がここに立つとものすごく怖かった。
しかし、ここは聖女がいるからか魔法防御の魔法陣がない。私の考えていることを他の魔法使い2人の脳内に直接…なんてことは出来なかった。
聖女の手元にある本を奪ってそれが開いたので転移魔法がうっかり出てきてしまったという体にしよう。
窓から光が差し込んだ感じに手元の本に魔法を向けた。すると思った通りに手から弾かれて本が下に落ちた。
その時に移動魔法スクロールを使用した。私たち魔法使いにのみ移動魔法がかかるようにした。
「あ、どうして!勝手に何かが~~」
我ながら下手な芝居だと思った。しかし、移動魔法が上手く発動した。よし、逃げられる。
聖女マツリカが悔しげにこちらを見ていた。もしかしてバレちゃったかも…。
†
あまりにもあっさり抜け出せたので拍子抜けした。とにかく生き延びてよかった。死にたくない。
反逆罪になるかもしれないが、仕方ない。一度魔法国へ帰ってこの事を報告しよう。
「事情はわかった。それらについてはこちらで対処しよう。しかし君たちはしばらく身を隠しておいてくれ」
事情を魔法国の宰相に伝えた。とにかく私たちが罰を受けたりすることは無さそうだ。
私たちはオルタ・モンドラゴン帝国との国境沿いの隠れ家にそれぞれ身を隠す事になった。1箇所にまとまると危険なのでかなり距離を空ける事にした。恐らく戦いにはならないだろうが、強めの防御魔法の結界を張ってくれるとのことだ。
私はたまたま国境沿いにエヴァンズ家所有の土地と別荘があったのでそこでしばらく過ごす事になった。
通信魔法で近況を家族に伝えて、数日分の食料だけ買ってきて別荘へと向かっていた。
少ししたらメイドを送ると返事が来たが、断っておいた。食糧だけ欲しいと伝えるとそれの手配はしてくれるようだ。
いくら前世を思い出したところでここの世界での狩りや農作などの知識はない。それにシェリアも貴族令嬢のため言わずもがなだ。
すると長い黒髪の男性が倒れていた。
「大丈夫ですか?」
慌てて声をかけたが反応がなかった。身なりからして貴族かそれ以上だろう。艶のある髪に上等な服。家紋の付いたものはなかった。ただ顔色は悪そうだった。目の下のクマがくっきりと付いていた。
彼は、全く反応しないのでとりあえず屋敷に連れて帰る事にした。
†
とりあえず客間のベットに寝かせた。掃除はとりあえず使うところのみ簡単にした。彼を見るとやつれているが結構顔立ちは綺麗なのではと思う。もしかすると、小説の重要人物なのでは…。
ラ・フォア王国にはこのような容姿の人はいなかった。
オルタ・モンドラゴン帝国の人も配属先を決めるときにいた王族の人は第一王子の女性しか来ていなかったので他の人はわからない。
…服の特徴的には帝国の人っぽい。しかし帝国の人はあまり他所の国に行くことはしない。
しかしこのあたりは国境沿いなので、オルタ・モンドラゴン帝国の人が居てもおかしくはなかった。
結界をどう破ったのかはさておきだが。
「うっ……」
ずっと見つめていると苦しそうな表情になった。しんどいのかと思い気休め程度の白魔法を使った。…そう気休め程度しか使えないのだ。私は光属性の魔法使いなのに。聖女は死者蘇生以外は行えるのだ。なんとチートなのだろう。
すると彼は柔らかい表情になりその瞳が開かれた。黄金の目に黒い瞳孔がギラギラと光っていた。
彼は私の方へ手を伸ばし抱きしめられた。
「へっ…」
彼はグルグルと喉を鳴らしていた。まるで獣のようだ。
そう思っていると胸元に口を寄せられてスゥと何かを吸われた。その瞬間胸元から脇の方に向かって何かがジリジリと刻まれる痛みを感じた。
「いたっ…いたいっ…や、やける」
痛みがするところから金色の光が放たれると彼はニマリと笑った。
「コレデケイヤクハカンリョウダ」
片言でそういうと、私の髪を引っ張って目線を合わせてきた。
「コレカラハオレノタメニイキ、オレノタメニマリョクヲスベテアタエロ」
彼の姿がどんどん黒いドラゴンに変わっていっていた。
どうしよう…対処法がわからない。
…いや絶対生きなければ、このままだと魔力を使い果たされてしまう。
彼は私の魔力を吸ってドラゴンに変わっていた。と、いうことは反対のことをすれば戻るのではないか。
今のところはまだ手足のみドラゴンに変わっている。胸元に口を寄せてスッと魔力を吸ったが上手くいかなかった。
「どうして……」
基礎を思い出せ。きっとお互いのオドのやりとりをしているのだ。精霊とのやりとりは恥ずかしいがキスが1番やり取りに向いている。
致し方ない。もうお嫁に行けなくてもいい。生きることが大前提だ。と、覚悟を決めて彼にキスをした。
スーッと魔力を吸うといつもの自分よりも多くオドが満たされた気がした。
これが聖女と同等の力…。まではいってなくてもそんな気分にされるほど魔力で満たされていた。
魔力を吸われた彼は人の姿に戻り力を無くしてパタリと倒れた。一応生きているか確認したが、生きていそうだ。
もしかすると、これは高位精霊のドラゴンと契約してしまったのでは…。この世界のドラゴンは絶滅したと聞いていたのだが、どういうことなのだろうか。
とにかく今日は疲れた。睡眠も取れてないのでとにかく寝る事にした。
†
「これはますますお嫁に行けませんわ」
昼頃に起きてお風呂に入ろうと服を脱いだ。すると昨日のドラゴンとの契約の証が胸から背中までタトゥーのように契約紋が刻まれていた。
幸いな事にこの世界の服装はかっちり着込むものばかりで、首元が空いているデザインを選ばなければ特に支障はないだろう。
客間を覗くと彼はまだ寝ていた。
とりあえず、朝食を食べたら精霊との契約について調べなければ。
簡単な軽食を彼の枕元に手紙を添えて置いておき、ひとまず状況整理をするために自室に籠る事にした。
彼…ドラゴンの正体はオルタ・モンドラゴン帝国の王子じゃないかと思い出した。
確か、オルタ・モンドラゴン帝国はその名前の通り王族はドラゴンの血筋が入っていた。ドラゴンなどの高位精霊との交わりは魔力が高い人間しかできないので、昔のオルタ・モンドラゴン帝国の王族は魔力が高かったのだろう。
そして、その中の王子の誰かが先祖返りしていたはず。彼をラスボスにすると盛大なネタバレをくらっていた。
聖女は全ての魔法属性を持つチートだ。
ドラゴンは同じく全ての魔法属性を持つチート高位精霊だ。
帝国がドラゴンを所有すれば聖女を取り合う戦争は避けられる。これは棚からぼたもちってやつかもしれない。
しかし、先祖返りの精霊契約はよくわからない。
知っていることといえば精霊と契約しても、例えば魔法使いのレベルが5で精霊のレベルが60とかでも魔法使いのレベルが5であれば精霊もレベル5までの力しか出せないと言っていたので、私のようなビギナー魔法使いには向いていないのだ。
ベテラン魔法使いが歳を取り、自身のオドの最大値が減ってきた辺りで、契約しているパターンが多い。オドは減るが魔法使いとしてのレベルが下がらないというのがミソである。
うーんと頭を悩ませているとノック音が聞こえた。もしかすると彼が起きたのかもしれない。彼は武器を持ってなかったし、魔力も枯渇しているが一応警戒体制に入った。
ガチャリとドアを開けて入ってきた彼はあまりにもダルそうだ。
「ご飯、どうも。てか、あなたは…」
昨日の記憶は無いようだ。ギラギラに光っていた瞳も今は死んだ魚の様な目になっている。
一度彼と話をしてからこの先のことを考える事にしよう。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生したけど、前世の記憶いる?
護茶丸夫
ファンタジー
ファンタジーな世界に転生したぜ、やっほう?
お約束な神様にも会えず、チートもなく。文明レベルははテンプレより上ですか。
ゲームか何かの世界ですか?特に記憶に無いので、どうしたらいいんでしょうね?
とりあえず家族は優しいので、のんびり暮らすことにします。
追記:投稿仕様は手探りで試しております。手際が悪くても「やれやれこれだから初心者は」と、流していただけると幸いです。
追記2:完結まで予約投稿終了しました。全12話 幼少期のみの物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる