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彼の望む愛の行方
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しおりを挟むシェリア・アン・エヴァンズは真面目な人間だった。
幼い頃から魔法の勉強ばかりして人との関わりを疎かにしていた。特に恋愛面はまったくもって苦手だった。
ラ・フォア王国へ派遣され、第一王子のシャルル様にプロポーズされたが、聖女マツリカ様が召喚されて婚約破棄を言い渡された。
聖女が現れたことによって魔法使いとしての自分も否定され、婚約も破棄されたことによって女性としても否定されて心が疲れ切っていた。
しかし、初めてプロポーズされたという事実に縋りついてしまい側室でもいいから結婚させてほしいとみっともなく彼に懇願した。
あの時のシャルル様の顔は困っていた。もう私のことなんてどうでもいいのだ。しかし優しい人だから困ってしまっていたのだろう。
しかし、みっともなくとも私から行動したことがなかったので自己満足でもいいから頑張ってみたかった。
「よし、今日も頑張ろう」
魔法使いとしての仕事はほとんどなくなってしまったが自分の出来ることをやろうと気合を入れた。
♡
「まだ居るの?」
「何してるの?」
「みっともない」
城の中を歩くとヒソヒソと私の悪口を言うのが聞こえてきた。
たまに石を投げられることもあったが、結界がつかえるのでそれで防いでいた。
「シェリア」
「シャルル様」
シャルル様は私にとても優しかった。今日はたまたまマツリカ様は居ないようだった。
「こんなことになってしまって…すまない。しかし国の決定だ。君が苦しいなら辞めて帰ってもいいんだぞ」
私の肩を掴んで心配そうに見つめてきた。気持ちに応える気がないなら優しくしないでほしい。でも、この優しさに1番甘えているのは自分だ。
「私、初めてなんです。だから、頑張らせてください。気持ちはなくても、身体だけでも…」
こんなこと言うのは恥ずかしかったが、子どもが出来ればもしかしたら私を見てくれるのではと思っていた。
子どもは道具ではなく愛の結晶。授かりものだがそれに頼りたくなるくらい弱っていた。
「いや、しかしそれでは不誠実だ」
「こんな美人に誘われて断る男なんているんだ」
2人で話していたはずだが後ろから聞きなれない声が聞こえた。
彼を見た時思わず目を奪われた。白い髪に黄金の瞳。垂れていて大きな瞳が優しげだった。背もすごく高い。服装も帝国の物のデザインで高級そうで、オルタ・モンドラゴン帝国の人だろう。
「シャルル王子、お久しぶりです。彼女がこんなに頼んでるんだから抱いてあげないと男じゃないですよ」
「ノエ王子…。貴方はたくさんの女性と関係をもっているからそのように軽率な発言ができるのです」
ノエ王子、ということはオルタ・モンドラゴン帝国の第三王子だ。彼は魔法使いを育てるのが上手と有名だ。どうしてここにいるのだろう。
「いやいや、だって彼女は魔法国・ユグドラシルで1番の美人と噂のシェリアお嬢様じゃないですか。そりゃチャンスがあれば関係を持ちたいと思うのが男でしょう」
「…その話は貴方に関係ないので、ノエ王子。私の身体は私の好きに使っていい物ではないのです。国のものですから。また会議の場でお会いしましょう」
シャルル様はバツが悪そうにその場を去っていった。どうやらシャルル様はノエ様のことが苦手そうだ。
「あれ?アシストしたつもりだったけど、振られちゃったかぁ~。初めましてシェリア様。僕はオルタ・モンドラゴン帝国の第三王子のノエです」
彼は何故かラ・フォア王国式で挨拶してきた。こちらにきているからそれに合わせているのだろうか。
「こちらこそ名乗るのが遅くなり申し訳ございません。私は魔法国ユグドラシルの伯爵家のシェリア・アン・エヴァンズと申します」
私は深々と姿勢を落とした。ひざまづいているノエ様の顔と思いがけず近くなり恥ずかしくて顔が赤くなった。
「…思ってたより素直でウブな子なんだね」
「魔法ばかりやってきたので、恋には疎くて…。でも魔法使いとしてもダメで、婚約者としてもダメで…でも…」
愚痴り始めてはたと気づいた。初対面のしかも王子に何を言おうとしていたのだろう。
「うーん、あっちの方で見てるリオン王子とか君に気がありそうだけど?そっちに乗り換えるのは?」
ノエ様の視線の先を見ると確かにこっそりこちらを伺っているリオン様がいた。
「…それこそ失礼じゃないですか」
私が頑なになっているとノエ様がため息をついた。
「真面目だねぇ。まぁ、慰めて欲しかったらいくらでも慰めてあげるから、どうぞお声がけを姫様」
ノエ様はおちゃらけた様子でここを立ち去っていった。
♡
側室候補とはいえ意外と書類仕事があった。マツリカ様は異世界から来られたのでこちらの作法などわからない。なので一緒に教えながらやっているが、マナの事で相談が来てそちらにいかれてしまう。
こういうことも王の妻になるには必要なことなのだと前向きに取り組んでいた。
しかし、これもまたやる気をポキリと折られる出来事があった。
シャルル様に呼び出されて彼の事務室へ向かうと泣いているマツリカ様がいた。
「君はマツリカに厳しく接していると聞いたが本当か」
いつもと違う怖い顔で言われたので思わずすくんでしまった。
「いえ、そのつもりはございませんでしたが…もしそのように思われたのならば大変申し訳ありませんでした」
私の教え方が悪かったのだと深く反省した。頭を深々と下げて謝罪の気持ちを見せた。
「…謝っているが、どうだ。マツリカ」
マツリカ様はグズグス言いながら首を横に振った。
「…申し訳ないが、出て行ってくれ」
「……かしこまりました」
どうしてこんな目に合わないと合わないといけないのだろう。
そう思うこと自体が間違っている。耐えねば、私が望んだことだ。振り向いてほしい。だから努力した。でも与えられていることだけ頑張ればいいのではないのだ。
どうしたってマツリカ様は異世界からこられて不安なのだ。シャルル様がついてあげないと不公平だ。
そう自分に言い聞かせて、シャルル様がマツリカ様に優しくするのはあくまでも義務だと思い込むようにしていた。
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