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Magic love

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「シェリア、申し訳ないが今回の婚約は無かったことにしてくれないか」


 私こと、シェリア・アン・エヴァンズはラ・フォア王国に魔法使いとして派遣された。年も近く貴族令嬢ということでシャルル・ラ・フォア王子の婚約者に選ばれていたが、まさに断られていた。

 そう、異世界から聖女が現れたから。聖女がシャルルと正式な婚約者になるのだそうだ。

 初めて好きになった人が婚約者になって嬉しかった。
 それなのに、こうもあっさりと別れを告げられて頭が真っ白になっていた。

「どうしてなのですか?…私、うまくやります。例え魔力が聖女様より劣っていても、その他のことでカバーいたします。どうかお慈悲を」

 困った顔をしたシャルルに必死にしがみつくが無言で見つめられるだけだった。

「国の決定だ。仕方ない」

「それならば、いっそ側室でも構いません。もう一度チャンスをください」

 シャルルに頭を下げて、ラ・フォア王国の国王様にも頭を下げた。周りには他の王子もいて恥ずかしかったが、そんなことは言ってられなかった。それくらいシャルルに恋をしていた。

「いいだろう。嫁は多くても困らん。それにユグドラシルとの交流も増える。」

「シェリアが辛くないのなら…。ただし1ヶ月だけ。それでダメなら自分の国に帰ってくれ」

 2人の答えはこうだった。私は楽観視していたのだ。頑張れば報われると、そう信じて生きていた。そして報われてきたから、人の気持ちはどうにも出来ないことをここで思い知るのだった。



⭐︎


 私は魔法学校を卒業し、正式に他国へ派遣が決まった。私を含めて6人の魔法使いが派遣に向い、3人ずつに分かれて1年の任期の間、魔法使いとして人々を助ける仕事を任される。

「シェリア、頑張ってきてね」

「はい。この使命を全うしてまいります」

 家族に見送られて心強くなった。

「もしかしたらシャルル王子に気に入られちゃうかも…。そうなったら教えてね」

 恋の話が好きな母が私にこっそりと話しかけてきた。
 恥ずかしい。どこにお嫁に行っても恥ずかしくないように教育されてはいるので、王族に嫁ぐのも問題はないとは思うけど、そんな夢のような話があるのだろうか。

 シャルル王子はラ・フォア王国の第一王子でとても美しい金色の髪に青い眼で容姿も惹きつける。それだけでなく文武両道で、性格も良しという非の打ちどころのない人だった。

 私はこれまで魔法の勉強ばかりで恋というものを全くわからなかった。せめてロマンス小説でも読んでいれば良かったが、その時間も惜しんで魔法の勉強をしていた。

 でもそろそろ結婚を考える年になってきた。好きな相手と結婚はできなくとも結婚する相手を好きになれるように少しでも恋というものを知っておきたかった。

 母からの言葉に顔を赤くして下を向いていると姉たちにからかわれてしまった。


⭐︎


「それではこのように配属を決定する」

 私は光の魔法使いだったのでラ・フォア王国の配属となった。他にも水の魔法使いと風の魔法使いの人たちと共に決意を胸に他国へ旅立ったのだ。


「初めまして。ラ・フォア王国の第一王子のシャルルです」


 以前見た時よりかっこよくなっている。前は社交会の時だったので15歳の時だ。大人っぽくなり、頼もしく見えた。少し見惚れてしまった。
 第二王子のシモン様も聡明になられており、第三王子のリオン様も大きくなり、たくましくなっていた。

 他の王子の自己紹介も聞き終え、私たちも自己紹介をした。
 水の魔法使いのウォルターさん。風の魔法使いのウィンディさん。とても覚えやすい。彼らは昔からそれぞれの魔法使いの名門の家だ。
 かくいう私は家柄だけいい実績の無い家である。彼女らに負けないように頑張らないといけないと意気込んだのだ。


⭐︎



 城でさまざまな業務をこなしている時にたまたま騎士の練習の場を通りかかった。

「おい、こんなことしていいのか?」


 彼らは王国騎士の団員たちだった。何か高級そうなブローチを持ってコソコソしていた。

「だっていくら王子とはいえあまりにも生意気だし…ちょっとくらいいいだろ」

 どうやら王子の持ち物を盗んだようだった。…許せない。


「ちよっと、待ってください」

「あ?なんだぁ魔法使いさん」

 少し荒そうな騎士がズンズンと私の目の前まで歩いてきた。
 体格のいい男性にここまで近づかれると少し怖かったが、いけないことをしていることを注意しなければという正義感が勝った。

「聞いてしまったのだけど、そのブローチ、王子のものなんでしょう?返してください」

「はぁ?なんでそんなことあんたに言われないといけないんだ?」

 思ったより大きな声で話をされて唾も飛んできて不快だった。

「気に入らないなら本人に言えばいいじゃないですか。物を盗むなんて卑怯です」

「王子相手に言えるかっつーの。世間知らずのお嬢様は口出ししてくんな」

 後ろから別の騎士がきて、私のことを頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見てニマニマいやらしく笑った。

「お嬢さんが体で慰めてくれるなら返してあげようかなぁ。無理だよなぁ」

 私は侮辱されて顔が赤くなった。恥ずかしい上に怒りが込み上げてきた。
 なんて下品なんだ。

「何をしている」

 そこにはシャルル様が立っていた。騎士たちは敬礼をしてバツの悪そうな顔をしていた。

「何やら女性に対して失礼なことを言っていた気がするが…。ラ・フォア王国の紳士としてあるまじき行為ではないのか」

「…大変失礼しました。それと、これ」

 騎士の団員はブローチを私に渡してきた。彼らはそのまま騎士の宿舎へ帰っていった。

「これは……リオンのものだな。もしかして、取り返そうとしてくれていたのか?」

「はい。結局はシャルル様に助けていただいたのですが…」

「ありがとう。これはリオンがとても大切にしている物なんだ。リオンは言葉が足りず、素直になれないから人と仲良くなれないんだ。良ければ仲良くしてやってくれ」

 シャルル様は優しく微笑んだ。その顔を見ると少し心がざわついた気がした。

「そのブローチ、シェリアから返してくれるか?」

「かしこまりました」

 とても尊敬できる王子だとそう思ったのだ。







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