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しおりを挟む「あら、ツヅリじゃん。やっほー」
エミリーだ。大きくなったお腹を庇いながら歩いていた。買い物の帰りらしかった。
「エミリー!この間の事ありがとう。楽しかった。お礼にくるの遅れてごめん」
私はそう言ってエミリーが持っている買い物の袋を持った。家まで送るよ、と申し出た。
「楽しめたなら良かった~。んで、進展はあった?もし時間があればうちによってって話しよ」
エミリーの家にお邪魔すると旦那さんが上の子をみていた。軽く挨拶すると旦那さんは仕事に出かけてしまった。どうやら昼休みの間だけ帰ってきている様だった。
「んで、どうだった?触れた?」
エミリーはお茶を出してくれた。子どもはお昼寝中だったらしく2人でヒソヒソと話し始めた。
「少し、ちょっと…いやかなり進んだかも」
モモトセとのあれこれを話した。エミリーは私たちのイチャイチャを聞いては喜んでいた。
「はぁ~やはり恋っていいね。Momoは一途でかのじょをたいせつにしてるんだぁ~。でも男の子な面もあって我慢できなくて…きゃー!!!」
「恥ずかしいから、でも私のこの前もっとって思ってしまった。モモトセは自分が親の同意なしに結婚できる18歳までは節度を守るって言ってるけど、してもらってばっかりで申し訳ない。私もモモトセに喜んでもらいたい」
エミリーは何と純愛…と涙を流していた。その後解決策はないか悩んでくれた。あっと何か思いついたらしく遠慮がちに話してくれた。
「挿れなくてもそれらしい事はできるっちゃあ出来るけど…聞いとく?」
「……一応」
「あとね、嫌なこと聞くけどいい?」
「何なに?今は聞かれて嫌なことって今日の晩御飯何にするかってくらいだよ」
エミリーはいつもの笑顔で冗談を言って場を和ませてくれた。いつもそうだ。相手を思って行動してくれる。
「エミリーはさ、親にその嫌なことされてたでしょ?それでも親だと思った?」
「……ううん、全く。世間の常識の枠組みの中の親ではないとは思ってたよ」
「それで自分も同じ事を繰り返すんじゃないかとか思わなかった?」
「……少しは思ったこともあるよ。どうしたって育ってきた環境のことが1番染み付いてるからさ。でも逆にされて嫌だったこと、よくわかってるから。絶対にしないって反面教師には出来たよ。それに夫もいるから」
間違えそうになったら違うと教えてくれ、一緒に考えてくれるのだそうだ。かなり年上の人なので包み込む余裕があるのだろうか。
「…何があったかは聞かないけど、ツヅリはツヅリだよ。私が見てきた限り優しくてちょっと天然で押しに弱くて、悪いことはしない。それがツヅリだよ。親は関係ないよ。それこそ知らないんでしょ?」
エミリーは私の手を包んで慰める様に話を続けた。
「それに私たち施設育ちの家族じゃん。本当の親も大事かもしれないけど、これまで一緒に生きてきた施設の仲間とか先生とか友達とか、そういうので自分ができてるんだよ。だから、大丈夫。それにツヅリが間違ってたら私が教えてあげる」
「エミリー…ありがとう。ありがとう」
私はエミリーに抱きついた。欲しい言葉をくれて嬉しかった。そうだ、私は私なんだ。モモトセだってそうずっと言い続けてくれていたのに、嫌われたくないという自分勝手な気持ちが勝ってしまっていた。
「それに、Momoもいるじゃん。ツヅリがどんな人になろうが受け入れそうではあるけど…」
私も思わず苦笑いしてしまった。心当たりがありすぎて。少し心が軽くなった。とにかく今は目先のことに集中しよう。ほどほどにエミリーとの会話を楽しみ気分転換が出来たので、家に帰ることにした。
「ただいま~」
家に帰るとすでに灯りがついていたのでモモトセは帰って来ている様だった。
「おかえり、ツヅリ」
モモトセはものすごく不安そうな顔で玄関に立っていた。私がどうしたのと様子を伺うとぎゅっと抱きしめられた。
「マテオ君に会えることになってんけどな、その……また一旦アイドルにならんといけんくなった」
「……えっ!」
どういうことか尋ねるとリビングの方へ連れて行かれて机の上の紙を渡された。
「〇〇大学文化祭…ゲスト、元アイドル現俳優のマテオと元アイドルMomoの握手会…」
「握手会!!?!」
行きたい。行きた過ぎる。え、でも私はツムギさんに会わないといけないかな。でも握手会並びたい。
「…ぷはっ!ツヅリの顔面白いことになっとる」
そういうとモモトセは私の手を取り微笑んだ。
「そんなんいくらでもやってあげるで。ツヅリだけ特別」
「そういうことじゃない。ファンの一員として正式な流れで握手をすることに意味があるのです」
せっかく繋いでくれた手を思いっきり離してしまった。モモトセはしょんぼりしていたが、本題に話を戻した。
「握手会にコスモも連れて行かないと喋れへんのよな…。てかそもそも話す内容決まってないからアテレコもムリやし。話せずに握手だけってのもファンの子可哀想やし…」
今までファンと直接接する仕事は無かったためどうすればいいのかわからない様だった。
「断るかな…でも、せっかくのチャンスやし。出来ればここで大学に入っておきたいよな」
とりあえず、細かいところの相談はミラーさんにすることにして文化祭の握手会は参加することにした。
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