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 このままもう少し触ってほしいと思っていると寝室のドアをノックする音が聞こえた。ドア越しにコスモさんが話しかけてきた。

「開けても良いかー?アースィムと相談が終わったから話の共有をしたいんだが…」

 どことなく流れていた甘い空気は一瞬でなくなり、気を取り直して1階のリビングへ行くことにした。





「とりあえず話をすり合わせてハッカイはそのままにしておいてツムギの方にアプローチをかけて目論見をやめさせる方が今は先ということになった。ハッカイの方は大量虐殺はしないだろうから、より危険な方の対策を先にすることになった」

 ハッカイさんの方に探りを入れたりアースィムが不審な動きをすると殺される可能性も加味しての判断だったそうだ。
 争いに対してはコスモさんはツテをあたって軍の方に協力を要請することにしたらしい。そして、ツムギさんのいる大学の研究施設へ行くための手段であるが、どうやらモモトセのアイドル時代のメンバーである、マテオ・ホワイトの父が大学の学長らしく交渉してくれと頼まれた。

「いや、俺マテオ君と喋ったことないし。元マネージャーに頼んでくれへん?」

「……お前って本当不憫な子だったんだな」

「うるさいわ!ええもんええもん、俺にはツヅリがおるもん」

「わかった。ルークにお願いはしとくけど大学には2人で行ってくれ。SPは必ず連れてけよ」

「それよりツムギさん…サトリさんに会って大丈夫なんでしょうか?私でもモモトセでもツムギさんに戻るトリガーになる可能性があるのであれば出来るだけ接触は避けた方がいいのではと思ってしまいます」 

「そこはアースィムとかなり話し合ったが、危険度的にはツヅリだけで会いに行く方が良さそうだと判断した。そこにはアースィムも必ずついてくれてるらしいぞ。あいつは出来るやつだから任せようと思う」 

 短時間で信頼関係が築かれており驚いた。アースィムは友達は少ないが決して嫌われているわけではなかったかもしれない。

「アースィムによるとどうやらサトリはツヅリの事をいつも気にしていてたまに施設長に様子を伺いにきていたらしい。写真とかも大切に持っていてとても父親らしいみたいだぞ。とてもツムギとは想像しにくい」

 その話に少しホッとした。でもまるでぴんとこなかった。親というものはフィクション上の存在で愛されているかもしれないのに、どこか他人事の様に感じていた。

「あと、もしもツムギに戻ったとしてもあいつは攻撃はしてこない。が、あいつは人を操る“オーダー“という能力を持っている。念のためこれを持っておけ」

 そう言ってコンタクトレンズを渡された。どうやらカタリさんのチャームと同じくツムギさんにはオーダーという力を持っているみたいだ。オーダーは目を見て相手を自分の意のままに一定時間操れる能力なので万が一使用されたらこちらが不利なのでアンチオーダーのコンタクトを貰った。


 この先にやる事は決まったのでとりあえず今はそれに集中する事にした。






 私はとにかくアンドロイドについての研究を始めた。本もデジタルで貸り閲覧期間までに必要なところをメモしていた。だが、公的なところにある分では情報の限界があると思っていた。

「ツヅリ、おはよ」

 また不法侵入してきたのか、アースィムがリビングへやってきた。

「不法侵入しないでって言ったでしょ!もう」

「昨日から帰ってないから不法侵入じゃないよ」

 思わず顔が引き攣ってしまった。色々バレてからというものの本来の姿を惜しげなく見せてきている。

「泊まるなら言ってくれたらいいのに。どこにいたの?寝れた?お風呂は?」

「怒らないの?」

「わかっててやってる人にいう事はありません」

 良かったことはもう朝と昼の間くらいの時間でモモトセは仕事に出ている時間だった。この事がわかるとまた喧嘩を始めてしまう。

「アースィムの仕事は?」

「今日は休み。でさ、ツヅリがアンドロイドのこと困ってるだろうからさっき印刷した」

 アースィムはペラっと数枚の紙を私に渡してきた。これは…

「設計図…。ハッカイさんが作ってる分のやつ?」

「そう。これを基本にして500年前のも必要かと思って午後は骨董品店に行こうと思ってるよ。たまーにアンドロイドが売ってあるから。必要なパーツは抜いてあるやつだけど」

「私も行きたい」

「いやいや、ツヅリが来るようなとこじゃないから。ついてこないで。じゃあ」

 アースィムは黒いスーツを着ていつもよりキチっとした格好で出かけていった。昔から何かと頼りにはなっていたが、今回もものすごい味方が出来たと思った。
 私はアンドロイドの資料と睨めっこしていたが、あまり気分が乗らなかった。自分の親のことをたくさん聞いて不安が強かったのだ。モモトセが慰めてくれたり他の人も気を使ってくれたが、から元気だったのかもしれない。

 500年から生きている。アンドロイド戦争の英雄。そしてあの若い容姿。まるで人間とは思えなかった。親のはずなのにどうしても血の繋がりを感じられなかった。そういう自分に嫌気がさす。そして、私もそこまで長生きして、親しい人に先立たれ孤独を味わうのか、とか長生きしすぎて世界を掌握しようと考えてしまうのかとかそんな考えが堂々巡りしていた。

「1人になると良くないのかも」

 気分転換に散歩に行くことにした。




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