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「そしたらどうしよう…とりあえず私たちが知ってること話すから、アースィムも知ってること話して、それでアースィムが殺されてしまわないように考えよ」

 私はこの間あったことを大まかに話した。ハッカイさんのこと、ツムギさんのこと色々話した。アースィムはほとんど知っていたのかふーんと言っているだけだった。

「そこまで知ってるなら言うけど、遺伝子組み換え技術を盗むことに関しては賛成している」

 アースィムは手元のコーヒーを一口飲んだ。すこし申し訳なさそうにしていた。

「遺伝子組み換え技術をハッカイさんと協力して盗んだあと、ツヅリの両親と一緒に燃やそうと思ってる」

「そんなことしても、研究施設に大まかなものは残ってるんとちゃうの?」

「残ってはいるけど今の地球じゃ資源が足りなくて今のものに復元するのは難しい。出来ても大昔からやってる高度生殖医療くらいまでかな」

「それでも、なんでアンドロイド作ってるかわからんし」

「…なぜアンドロイドを作っているかと言うと、あっちの遺伝子研究施設側は戦闘に特化した人間を大量に育てているんだ。秘密裏に。彼らを使って選民しようとしている。それに対抗するために作っているだ」

「なんてことなの…」

 驚きを隠せなかった。話が莫大すぎてもうほとんど理解できていないのではないかと思った。

「その独占っていうのは間違いというか、ハッカイさんは独占した後に完全に破棄する予定だよ。問題はツムギさんが生きていることになってくる」

 アースィムは前で手を組み真剣な顔をした。

「ツヅリには辛い話かもしれないけど、聞いて。ツムギさんとカタリさんは500年以上生きている。あのアンドロイド戦争の時の英雄の2人だ。名前は秘匿にされているけれど。ツムギさんは今は別人格かもしれないけど、本来の人格に戻ると太刀打ちできない。あの記憶力は人間離れしている。遺伝子組み換え技術を生み出してしまった以上、彼らをこの世から葬り去らないと技術はまた再開していくんだ」

 私の親が500年も生きているという事実にゾッとした。もしかして私も…

「でもどうやってやっつけるん?そんな人間どうやっても殺せれへんやん」

「燃やして仕舞えば細胞の再構築は不可能らしくそれだけが唯一の手段らしい。だからやるしかない。でないと被害者が増えてしまう」

 アースィムは自分の持ち運び式PCを机の上に出し、何枚か写真を見せてくれた。

「ツムギさんはこの人たちを誘拐したのちに帰してあげている。その意味はよくわからないとされてたけど、多分遺伝子情報のみ手に入れて、外見や健康状態、戦闘能力を最高の品質にした人間を作るために誘拐していたのだと思う」

 アースィムはPCを操作して新しい写真を見せてきた。

「ツヅリたちは芸能人のみ誘拐されたと言っていたけど、そうじゃない。特に運動能力や軍事訓練コースを学んでいる優秀者ばかり集めていた。ここから考えられるのはツムギさんは自分が遺伝子操作した人間以外殺す気だ」

 頭をガツンと殴られたようだった。もしこれが見知らぬ他人なら怒りに身を任せれた。しかし、今聞いたことを実行しようとしているのは実の父親なのだ。会ったこともないような人ではあるが。

「でもね、誘拐はツヅリが生まれた年からパタリと無くなったんだ。それくらいだよ。サトリの人格ができたの」

「もしかして」

 モモトセがハッとしていた。もしかして、ツムギの中の父親としての気持ちがサトリとして出てきたのではないか、と。

「そう。だからツヅリは生かされて、監視されてる。本当ならハッカイに殺されていた。長生きの化け物になったら困るって。だからいずれサトリさんの前に連れてかれるよ。ハッカイさんに」

 と、いうことはツムギさんを表に出すためにモモトセと私が必要だったという事なのだろうか。それともどちらか一方でいいのだろうか。あっちとこっちで言う事が違い混乱していた。

「なんか色々突拍子ないけど、どうしたらこの騒動を止めれると思う?それに俺ら巻き込まれんのもごめんなんやけど」

「僕は完全にハッカイさん側だったから、ツムギさん側のことはよくわからないけど、ハッカイさんについて行くよ。モモトセさんが犠牲になろうが関係ないし、遺伝子組み換え技術もクソ喰らえだし、選民のために殺されるのもまっぴらごめんだしね」

 アースィムはハッカイさんの味方でいることは変わらないのか…と思っていたが、私の手を取りキラキラした目で見つめてきた。

「でも、ツヅリがキスしてくれたから今からはツヅリの味方になるよ。キスいっぱいしてくれたらもっということきいてあげる」

 手のひら返しが凄い。私が苦笑いしているとモモトセは繋がれた手を無理矢理離して私の手をハンカチでゴシゴシと拭いていた。

「まぁとにかく一旦相談やな…。俺はともかくツヅリが危険な目に会わないようにするのがええし」

「…」

 危険な目に合わないことが優先なのは当然だ。しかし、私の親がとんでもないことを考えているのだ。少し責任感を感じてしまい、何か自分にできることをしたいと強く思っていた。

「ぼく、いいことかんがえた。ハッカイさんもツムギさんもカタリさんもぜんいんころしちゃえばいいんじゃない?ね、どうツヅリ?」

 アースィムの瞳孔が完全に開き切っていた。怖い。こんな姿を初めて見た。

「アースィム、それはダメだよ。誰かが、罪を背負ってしまうのは極力避けよう。難しいかもしれないけど何か解決策はあるはずだよ」

 しかし、今は与えられた情報でいっぱいいっぱいになり解決策を考える余裕などはなかった。



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