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しおりを挟む母親たちに会って帰ってきた翌日の朝、モモトセは私にベッタリとくっついて離れなかった。きっと落ち込んでいる私を見て慰めてくれているのだろう。
昨日の夜もすごかった。右太腿の噛み跡のケアのために塗っているクリームもネチネチやらしく塗られた上に左太腿に大量のキスマークをつけられた。それが終わると上に乗られて疲れるまでずっとキスされた。お陰で少し唇が腫れている。たが、やはり最後まではせずに途中でモモトセはトイレに立つのだった。
「あのモモトセ、そんなにずっと抱きつかれてると動けないんだけど…」
「大丈夫、出来る。ツヅリは何でもできちゃう」
背中にモモトセを背負いながら朝食の準備をしていた。おそらくこれからアースィムに交渉しに行くのを嫌がって拗ねているのだろう。シフォンケーキを作っているがとても動きづらい。
「いいこと思いついてんけど、俺が色仕掛けしたらええんちゃう?顔だけはええらしいしもしかしたら」
「いやいやいや、アースィムはそもそも恋愛事が苦手だから色仕掛けとかよりは普通に何かお金とか地位とか物とかそういう目に見えたものが交渉材料の方がいいと思う」
「……あのツヅリが酔っ払ってる時、アースィム君、俺に何て言ったと思う?ツヅリは任せる。応援するって、任せるって何やねん、お前のとちゃうわ!って思ってしもた」
「あはは、アースィムは人を揶揄うの好きだから…」
「色仕掛け、して欲しくないけどKの言ってることは当たってると思うで。アースィム君はツヅリに気があるのは確実やもん。俺いっつも睨まれてたし」
「それはまぁ、頭には入れておくけどどうしようもない時にやってみる」
とにもかくにも、ハッカイさんが企んでることを阻止しなければモモトセに危害が加わってしまうんだから頑張らないとと意気込んでいた。
「え?今日の夜?空いてるけど、何?」
アースィムは利用者さんの記録を書きに事務室にいるところを見つけたので声をかけていた。
「良かったらうちで晩御飯たべない?モモトセもいるけど」
「この前一緒に食事したばっかりじゃん。それにモモトセさんいると気を使うしさ」
私の話は聞いていたが視線は書類に向いたままだった。あまり乗り気ではないのだろう。しかし、こちらには秘策がある。
「……紅茶のシフォンケーキ」
アースィムがピクッとし、PCを打つ手を止めた。大きな目をこちらに向けてキラキラしていた。
「食後にデザートはいかが?」
「いく!!!」
やはりアースィムはモノで釣るのが1番だった。
アースィムを連れて家に帰ると複雑な顔をしたモモトセが出迎えてくれた。アースィムは気を使うとか言いながらいつも通りの太々しさでリビングのソファに座って寛いでいた。
キッチンで私が料理の準備をしていると横にぴったりとモモトセがくっついてきた。そしてコソリと耳打ちしてきた。
「さすがにいきなりすぎへん?大丈夫なん?」
「善は急げって言うし、何かあってもたぶんモモトセの方が強いよ」
単純に体格差のこともあるが、アースィムはあまり真っ向から戦うタイプではない。嫌なことをされると作戦を熟考し実行するタイプだ。
下ごしらえしていたハンバーグやポトフなどを調理し、モモトセにも待っといてと声をかけ準備に勤しんでいた。紅茶のシフォンケーキを作っておいてよかった。料理をモモトセと二人で並べて3人で食卓を囲んだ。
「では、いただきます」
「いただきます」
3人が挨拶をすると黙々と食事が進んでいった。気まずい。呼んだのはいいが話をどう切り出していいかわからない。気づいたら食事も終わっていた。デザートのシフォンケーキを準備しているとモモトセがアースィムに話しかけていた。
「アースィム君はいつからツヅリと知り合いなんですか?」
「12歳。小6の12月くらいですかね」
「その頃から可愛かったですか?」
「別に…」
モモトセが作り笑顔をピクピクさせていたが、話を続けることにしたみたいだった。
「アースィム君かっこいいからモテたんと違います?」
「それを貴方に言われたくないですね」
やはりアースィムはツンケンしている。割と誰に対してもこんな感じだが、モモトセに対しては特に冷たかった。
「ツヅリはモテてましたか?」
「………そうですね。思いを寄せてる人はそれなりにいたんではないですか」
アースィムはこれまで真っ直ぐモモトセを見つめて返事をしていたが、さっきの質問で視線を横にずらしていた。
「ツヅリってかわいいですよね。優しいし、笑顔も可愛い。抱きしめると柔らかいし、甘えると応えてくれて満たされる。それに…」
急に恥ずかしくなり私は急いでケーキを2人の前に出した。顔が真っ赤になっていたかもしれない。するとアースィムから強く視線を感じた。射抜くような瞳で思わず冷え上がった。
「ツヅリ、照れてる姿もかわいい」
モモトセはアースィムが不機嫌なのを構わず私の手を握ってきた。そして指先にそっとキスを落とした。
「今日もたくさんキスしてもええかな?」
モモトセがそう言うとアースィムはバンッと机を叩いた。
「イチャつくなら人がいないとこでしてくれませんか」
「あれ、ごめんなさい。これは日常のスキンシップであって、恋人としての触れ合いはまた夜にやるんでさすがにお客さんの前ではしませんよ」
モモトセは完全にアースィムを煽っていた。恋愛事が苦手なアースィムは不愉快であろう。いつもならここで帰ってしまうが、何故か今日はそこに止まっていた。
「モモトセさんはツヅリの右足みたことあるんですか?」
「ありますよ。アースィム君が噛んだ忌々しい跡がありますね。俺が毎日その噛み跡にクリームを塗ってケアしてますよ?」
アースィムはモモトセを睨んだと思ったら私の手を掴み空いた手でシフォンケーキを口いっぱいに放り込んだと思ったら外に連れ出された。
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