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 翌日、モモトセがきっと帰ってくるであろう日。和食が好きなモモトセのために味噌汁から茄子の煮浸し、だし巻き卵等時間の許す限りたくさん料理した。
 できればお昼頃に帰ってくるのを期待して、居住区の入り口の方へ用もないのに行ってみたりしたが、モモトセは帰って来なかった。置き手紙に用件だけ書いて、諦めて午後のアルバイトへ向かった。





「今日の約束どこにしよっか」

 アースィムは今遅めの昼休みとのことで少しこちらに顔を出してくれた。子どもたちはもう勉強を終えていたので部屋の掃除をしていたところだった。

「いつものところは?久しぶりにお好み焼き食べたい」

「げー、また?そこ好きだね。僕はちょっと遠出してイタリアンが食べたいんだ」

「うーん」

 別にイタリアンでもいいのだが、遠出というのが困る。アースィムには悪いけどモモトセがまだ帰ってきてないので気になって仕方がない。

「じゃあ最近できた定食屋は?あそこオシャレだし」

 私は近場のところで1番お祝い向きなところを提案してみた。するとアースィムは満足したのか行くと言ってくれた。私は掃除をしたら退勤だが、アースィムは定時まで仕事なのでその間施設の子たちと遊んで待つ事にした。




「「かんぱーい!」」

 2人で乾杯をしてお酒を飲む。アースィムとお酒を飲むのは初めてだった。

「ツヅリはもしかしてこのまま施設に就職したりする?」

 アースィムはビールを一口飲んでからはずっと食事に手をつけていた。私も同じように料理を食べているとそのように質問された。

「それも考えたんだけど、1回やりたいことを目指してみてもいいかなと思って、とりあえず大学に行くよ」

「もしかして、考古学者になるつもり?」

「出来れば」

 アースィムはそれを聞いてウゲーッという顔をしていた。なんでだ。

「今でさえロストテクノロジーの話になると止まらないのにさらに止まらなくするつもりなの?じゃあ僕の前では2度とその話するのやめてよね」

「えーそんなぁ聞いてくれる人なんて、そんなにいないのに…」

 もーこれは拗ねてやると思いジョッキに入ったビールをグイッと飲み干すとアースィムはこちらをみていた。

「僕は一緒に働きたかったな…1番の友達はツヅリだから」

「嬉しい!私もそうできれば良かったけど、一度夢みてもいいかなと思ったんだ。人生一度きりだしね」

 次のお酒を店員さんに頼んで話を続けた。

「目指してみるだけだから叶うかはわからないよ」

「とりあえずは応援するよ。がんばれ」

 それからお酒の席も盛り上がり私は結構な量を飲んでいた。モモトセに会えない寂しさもあるのかもしれない。

「ツヅリ、大丈夫?」

「ん~ぼちぼち…」

 体調が悪いわけではないがふわふわして気持ちがいい。眠たい気持ちもあるが少し気持ちが高揚していた。

「ツヅリは、お見合いどうなの?」

 またアースィムから同じ質問をされた。この質問をよくされる。きっと慣れない他人との生活を心配してくれているのだろう。

「うん。上手くいってると思う。けど…」

「けど?相手との距離感が難しい?」

「私はあまりにも恋愛をサボり過ぎちゃってた。どうしたら程よい距離感かわかんない」

「うーん。それは割と上手な方だと思うけど。むしろ向こうがグイグイ来すぎな気がするなぁ」

 アースィムは優しいので否定をしなかった。アースィムは言おうか言わまいか迷っていると意を決して口にした。

「あのさ、モモトセってやつ。あいつは女慣れしてなさそうじゃん?だから1回他に目を向けてっていってみたらどう?それでもツヅリがいいって言うならお見合い続けてもいいんじゃない?」

「なるほど。その手があったか」

 回らない思考でそのように言われるとそうかと思ってしまったが、心に小さな棘が刺さっていた。

「それにまだ未成年だからツヅリの方からは手を出しにくいでしょ?例えば結婚が決まってるならまだしも、今はまだ試験段階だしさ。お付き合いってもっと楽しいことあるじゃん。デートしたりさ、お互いのこと話したり。そういうことしてみてもいいんじゃない?」

 まさにその通りである!ぐうの音もでない。しかし誰にもモモトセとの事をうまくいってるかいってないかぐらいで触ったりキスしたりの話なんて一切していなかった。しかも外で恋人のようなイチャつきなど先日の公園の時くらいで、ほぼアースィムと一緒にいる時と同じような距離感だった。特にアースィムはそういう話を嫌うからだ。…なぜ知っているのだろうか。
 
 疑問が生まれたのでここで聞いてしまおうかと思ったが、私の頭が警鐘を鳴らしていた。アースィムは時々辻褄の合わない言動をする時があった。ぼんやりとした頭が冴え渡ってきた頃、店から知らない男性とモモトセが入ってきた。


「モモトセ!おかえり!」

 嬉しくなって全身で手を振りモモトセの方へ駆け寄った。すると、肩まで伸びていた髪が短く切られていた。

「ただいま、ツヅリ。ごめんな長いこと留守にしてもうて」

 正直心配したが、一緒に居たのはアテニャンさんだから悪いようにはされてないと思っていた。

「ううん、いいよ。髪切ったんだ…。似合いそうだね」

 顔が相変わらずサングラスとマスクで隠れて見えなかったが、きっと短髪も似合うだろう。久しぶりのモモトセに見惚れていると隣の中学生くらいの男の子が話しかけてきた。

「はじめまして。オレはコスモ・U・ヴェリタス。ここに引っ越してきました。訳あってモモトセとは知り合いです。よろしく」

 爽やかな笑顔で挨拶してくれた。モモトセが気持ち悪そうなオーラを放っていたが、知らないふりをしておいた。私も同じように挨拶して席に2人を連れて行こうとした。しかしお酒のせいか足元がふらついていた。

「ツヅリ、もしかしてお酒飲んだん?」

 後ろからモモトセがそっと支えてくれた。久しぶりに触れた手が嬉しくて離れ難い気持ちもあったが、それより恥ずかしさが勝って飛び退いてしまった。

「……触られちゃった」

 その様子を見ていたアースィムは呆れ笑いをして2人を席に案内した。
 それから4人になったが食事を楽しみ、そこそこいい時間になったので解散となった。




 帰り際にモモトセとアースィムが険悪なムードで話していたがぼんやりして聞き取れなかった。いや、あえて聞こえないふりをした。
 近くにいたコスモくんは「友達ねぇ…。応援なんて本当にしているのか」と呟いていた。






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