13 / 44
拾弍
しおりを挟む恋を自覚したその瞬間元マネージャーとアンリ先輩が訪ねてきた。
2人きりでいたい気持ちが強かったが、内心ホッとしている自分も居た。
このままだとツヅリを傷つけかねないと思ったから。
アンリ先輩はアイドル時代のメンバーの中で1番良くしてくれた先輩だった。あの頃からモデルの仕事が活発でファッションに興味があったようだ。
あの頃から好きな人がいるとよく聞かされていた。俺より2つ上なのでもうすぐ引退でありそれを機に付き合うのだと言っていた。
あの頃からなんとなく自分にとっての特別な人っていいものなのだと思ってはいた。
寝室の件は相談の結果3人で雑魚寝する事になった。俺が真ん中かと思いきや、アンリ先輩が真ん中で寝る事になった。ツヅリは男が横に2人もいるというのに何とも思っていないのか、危機感がなさそうだった。
午前中に食事を3人で取りそれからは各々が活動して、午後はツヅリが出かけるのでその間にアンリ先輩にツヅリとのことを聞かれては適当に誤魔化していた。
3日目の朝を迎えるとツヅリが、足りない気持ちになっていた。ここのところ会話がない。2人で過ごしたいと思いながら料理中の姿を後ろから眺めていた。
ツヅリが料理している姿を見るのが好きだ。調理の音も好きだ。
そうしているとアンリ先輩が「あらあら♡」と近づいてきた。
「モモちゃん、あなたもしかして」
「?」
「…ううん、何でもないわ。今日の朝食は何かしら」
ツヅリはアンリ先輩の体型維持のためのメニューで料理を作っていたため毎回2人で相談しながら調理をしていた。
その間は少し面白くない気分だった。
今日の午後もみんながいつも通りに過ごしていたが、アンリ先輩は夕方に会議があるとのことでトレーニングルームで仕事をしていた。俺は手持ち無沙汰だったのでツヅリを迎えにいく事にした。
確かこのあたりの部屋だったはず。外から声をかけた方が真っ先にツヅリに会えるので裏道を抜けて施設の勉強を見ている部屋まできた。
するとあの“アースィム“とかいうツヅリと仲がいい男とツヅリが話していた。
窓が空いていたので少しだけ会話が聞こえると、男の方がツヅリに撫でてとお願いしていた。
その時目の前が真っ赤になって感情のままツヅリを連れ出していた。
久しぶりに近くにいれて嬉しい、何で他の男と仲良くしているんだとこの2つの感情が入り混じり何とも言えなかった。
俺には触ってくれへんのに。
俺はただツヅリと一緒に居たかっただけやのに。どうしてこんな醜い感情に支配されないといけないのか。
あの男は、絶対にツヅリに気がある。取られたくない。渡したくない。そういう気持ちで支配された。その気持ちのまま人に見えにくいように木の影の方へ連れてきた。
「あんな、俺ツヅリともう少し仲良くなりたいねん」
マスク越しにキスをした。マスクをしていることを忘れていたが、ちょうど良かったかもしれない。これで嫌がっても直接ではない。
驚いた。ツヅリの目がトロンとして俺だけを見つめていた。まるで好きだと物語っていて、勘違いしそうになる程だった。堪らなくなり直に触れたくなった。
「直接してもえぇ…?」
「……して、ほしっ……ん」
もうダメやった。待てなかった。本当は優しく触れるだけにしようと思っていたが、一度触れると火がついたように“もっと“と何度も唇を啄んだ。
俺だけのものにしたい
そういう気持ちが支配してしまい、ツヅリが欲しくて欲しくて仕方なくなった。
「なぁ、舌もいれてみてもいい?」
ツヅリも入れて欲しいのか唇が開き始めたその時にアンリ先輩が間に入ってきた。
アンリ先輩は正論を並べていたが、聞こうと思わなかった。だってそれに従って何になるというのだ。俺はツヅリを愛したい。それだけやのに。
本当の幸せのためなら俺も自立してツヅリを支えれるようにならなあかんことはわかってる。けど、俺は何も出来へん。何も持ってへん。なら俺自身を差し出すしかない。
そういう気持ちでいたら、俺はSPに連れられ居住区の裏側の入り口まで連れてこられた。
「離せっ」
俺はジタバタと抵抗したが2人に抱えられていると動くのは難しかった。
しゃーないけど、ここは正当防衛ということで許してくれ。そう思い、SPの腹部を殴り、蹴りを入れ2人から逃れた。
3日でこれなのだ。これ以上離れるとしんでしまう。身が引きちぎれそうだった。俺はツヅリの側に居たい。
元来た道に戻ろうとしたら次はもっと多くのSPに囲まれていた。
「そこまでよ、モモちゃん。観念なさい」
流石に10人はこの本調子じゃない身体で戦うのは無理だと諦めて降参したが、眠り薬を嗅がされてそのまま連れていかれてしまった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる