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しおりを挟む「おおお…!」
実に興奮していた。モモトセがキラキラの衣装を着て歌って踊っている過去の映像を見せてもらっていた。同級生がよく話題にしていたが、話についていけなくて、意地になって見てなかったことを後悔している。
「でもなんか意外かも…。モモトセは王道アイドルって感じなのにクールでミステリアスな感じなんだ。ふむ、モモトセは顔が綺麗系だからこれはこれでありなのでは…?歌声もセクシーな感じなんだ…地声と違うような…」
私がライブの映像を見ながらブツブツ言っているとモモトセはなんとも複雑な様子だった。
「なにか思うことある?」
「人気出るのすごいわかる!ってなった。けどモモトセのいいとこを見せれてないのが悔しいなぁってとこかな!でも芸能のこと疎すぎてちょっと的外れなこといってるかも、ごめん」
何時間でも見てられると思ったが口にすると気持ち悪がられそうで言い止まった。モモトセは褒めてもまったく嬉しそうではなかった。
「あんな、これ内緒にして欲しいねんけど、俺何もしてないねん」
「何もしてない?」
一体どういうことなのだろうか。見せてもらっていたライブ映像を一時停止してモモトセの話に耳を傾けることにした。
「俺が歌ってるわけでも踊ってるわけでもないねん…。歌は別の人が当ててるし、ダンスも遠隔で動きをリンクされて動かされててん…だから俺って何もすごくないねん。本当の意味でアイドルってしてなかったんよ」
モモトセは弱々しく笑って話を続けた。
「やから、そんな褒められるもんでもない。ずっとお人形やってん。幻滅した?」
私の気持ちを伺うように尋ねてきた。が、しかしそれがどうしたというのだ。
「幻滅も何もアイドルは仕事。ましてやモモトセはまだ14歳だった。大人の言うことに従うのは当然で、Momoとして舞台に立ってたのはすごいよ」
「……ファンには本当の自分じゃない姿ばかり見せてきて、罪悪感しかなかった」
「そんなの、キャラクターのブランディングで本当の自分を見せれない人もいるよ。とても真面目で誠実なんだね。モモトセは」
涙で溢れそうになった目に手を伸ばし、涙を掬い上げながら話を続けた。
「モモトセがどれだけ頑張ってきたのかはわからないけど、わかる範囲で言えばそのスタイルの良さの維持は相当努力してたんだなって思うし、真面目な性格はこの1ヶ月でよくわかったよ」
一時停止したライブ映像がちょうどモモトセの笑顔だった。それをモモトセに見せた。
「ほら、私モモトセの笑顔が大好き。こうやって笑ってるのを見るとすごく嬉しくなるし魅力的だなって思う。ファンのみんなはこの笑顔で元気もらってたと思うよ。今のモモトセが好きだけど、それはアイドルのモモトセが積み上げてきたものもあるんじゃないかな」
モモトセに強く抱きしめられた。ありがとうとずっと言ってた。私はよく頑張ったんだねと抱きしめ返して背中を撫でた。
「モモトセがモモトセでいてくれて良かった」
モモトセはうっとりした熱を帯びた目を私に向けてきて視線が唇に移動した。そのまま顔が近づいてきた時ーーー。
「モモトセさん、定期診察の日で……。お邪魔でしたか」
ガチャと扉が空いた音がするとミラーさんが入ってきた。モモトセはミラーさんがきたことを気にせず、咄嗟に距離を取った私の体を引き寄せて続きをしようとしたが、恥ずかしさのあまり無理矢理引き剥がしてしまった。
「あの、定期診察というのは?」
「あぁ、モモトセさんはアイドル現役時代無理矢理体を動かしてたせいで神経が動かしにくい時があるのです。1ヶ月前まで入院もしてましたし、一応体調を見にきました」
「てか、勝手に入ってきて不法侵入やん。1回捕まったらええねん」
文句を言うモモトセを無視して小さい持ち運び用PCを出してモモトセに問診していた。触診、採血などもし今のところは異常がないことがわかると次は1枚紙を渡していた。
「げっ…こんなん聞いてへんねんけど!!」
「貴方やツヅリ様から近況報告は受けていたので学力がどの程度成長したのか確認させていただきますよ。さぁ時間がないので今から1時間でといてください」
ミラーさんは有無を言わさずテストを開始させていた。モモトセは「何でや~!!理不尽や!!」と叫びつつも真面目にテストを受けていた。
「では、ツヅリ様。少し私とお茶をしましょう」
モモトセはショックそうな顔をしてこちらを見ていたが渋々テストに向き合うことを決めたみたいだった。ミラーさんは一体何者なんだ…。
1階に降りてコーヒーとクッキーを準備してダイニングテーブルに座った。ミラーさんはありがとうございますとお礼を言うと話を切り出してきた。
「モモトセさんとは順調そうですね」
「はい、お陰様です。モモトセさんはとても優しくて親しくしてくれて毎日が楽しいです」
「そうですか、それは何よりです。先程の様子を見るにキスはまだですか?」
「えっ…あっとその…」
「お風呂も一緒に入ってると聞いたのでかなり親密になっているのかと、失礼しました」
あまりの恥ずかしさに赤面した。モモトセはミラーさんにどこまで話しているんだろうか。
「少し戸惑っているようでしたが、何か不満がありますか?」
「不満?……特にはないですけど、私は異性の触れ合いに慣れていないので驚いただけですかね…」
でも、モモトセとならーーーと思うこともある。ただ一緒にいるだけで楽しいのでそれで満足していたが、結婚を考えたお見合いなのだ。お互いが結婚してもいいと思えたら出来るのだ…。
「まだ1ヶ月ですしね、もう少しお互いを知る時間が必要でしょう。ツヅリ様が嫌だと思ったら絶対嫌と言ってくださいね。そして、それでもダメな時は必ずコレを押してください」
子どもが持つような防犯ブザーを渡された。これを押すと近くに居るSPが飛んでくるらしい。
「ツヅリ様が望んでいるのであれば結ばれることは幸せですが、モモトセさんだけの気持ちでそうなるのは良くないので、必ずご自身を大切にしてくださいね。モモトセさんにも言い聞かせていますが、再度言っておきます」
「はい、ありがとうございます。嬉しいです。心配してくださってありがとうございます」
でも私はきっとモモトセに求められると拒むことはできないだろう。だって出会った時からモモトセに惹かれている。もっと欲しいと言う気持ちはないが与えられるもの全てが嬉しいのだ。しかしそれら家族に抱く愛しいとなにが違うのかよくわからなかった。
「モモトセさんからよく胸が痛いとの報告を受けてたので、急いで病院へと思ったのですが、よくよく話を聞くとそうじゃなさそうでした」
ミラーさんはコーヒーを一口飲むと話を続けた。
「モモトセさんはツヅリ様のことを異性として意識はしているようです。しかし、それはどこまでわかっているのかわかりません。まだ親愛と恋が混じっているような印象を受けていました。ですが、さっき貴方に迫っているのを見て、もしかしてと思いました」
クッキーをひとかじりし、コーヒーをまた一口飲んだ。
「なので、この防犯ブザーを渡しました。私はもしかするとモモトセさんは小学生男子のようにスカート捲り、着替えののぞき、下着泥棒などするのではないかと懸念してます」
「え、そんなそんな、モモトセさんは紳士な方ですよ」
「いえ!性に目覚めていないはずのモモトセさんは今目覚めているように思います。なので、女性の貴方が傷つかないようにしておかなければいけません」
ミラーさんは残っているコーヒーを全て飲み干し、真剣な目を向けてきた。
「お見合いをしているのに身を守れと矛盾していることを言っているのは重々承知してます。しかしツヅリ様は押しに弱いとお聞きしました。モモトセさんは本能的にそれを知っています。なので、誰かが止めないといけません」
ミラーさんはゴソゴソとカバンの中を、探り始めると1枚の紙を私に見せてきた。その紙には3人の男性の顔が写っていた。
「私は仕事があるのでここに常駐出来ないので代わりのものを置いていこうかと思ってます。ここに載っている1番左の方です。この方はモモトセさんのアイドルグループのメンバーの1人で今はデザイナーをやっています。この方は男性ですが同性のパートナーがいる方です」
紙に載ってる写真を見るとブロンズ長髪碧眼でとても美しい人だった。
「彼はアンリ・アテニャンです。どちらかというと女性の味方ですが割と公平な方なので信頼していいです。実はもうすぐここにくる予定なのですが…」
そういう話をしていると玄関からチャイムが聞こえた。
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