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しおりを挟む1つマイナスの意味で異性と接触があったのを思い出した。
アースィムとは12歳の時から何かと縁があり友人でいるが16歳のときエミリーが結婚した時に恋愛の話について2人で話しているときに大喧嘩をした。私が教室で日直の仕事をしているのを待ってくれている時だった。
会話の内容をはっきりとは覚えていないが、確か「私にもお見合い相手はいるのかな」とか「誰かの特別になってみたいな」とか「子どもは2人欲しいなぁ」とか言っているとアースィムは青ざめた顔になっていた。
「大丈夫?」
「いやだいやだいやだ」
「ムリだ」
と、この2言を何度も何度も繰り返して頭を抱えていた。触られるのを嫌がっているのを知ってはいたが思わずアースィムの肩を掴んで声をかけた。
「どうしてそういうことを言うの?もしかして恋愛の話苦手だった?ごめんなさい」
アースィムは転校してきた時かなり暗くて友達を作らなかった。水泳の授業の時も男子から「お前女子かよ~」とからかわれていて悔しそうにしていた。
風の噂で聞いたのがアースィムは男性器がないとのこと。それに関しては半信半疑であったが、性的なことを異常に嫌がっていたのでもしかすると…と思うこともあった。そんなアースィムに無神経にこの話題を振ってしまったのだ。
アースィムは肩を置いた私の手を取りそのまま教室の床に押し倒した。
「痛い、アースィムなに?」
アースィムは光のない目で私の目を見ていたかと思うと視線をゆっくりと下にずらしていった。そしてアースィムの手で制服のスカートをたくし上げられ右の脚をぐっと上に開いた。
「え、ちょっとやめて!」
あまりにも唐突で止めてと抵抗するが力で勝てず、両手で脚を抑えられて顔は太もものあたりにきていた。手で叩いたり引っ張っても全く動じず、脚を動かしてみようにも無理だった。次の瞬間右の太ももに激しい痛みを感じた。アースィムは私の太ももを思いっきり噛んでいた。肌に鈍い痛みがジリジリとしていると思うと噛みちぎるのではないかと言うくらい思いっきり力を入れられた。
「痛い痛い…っあ。やだやだアースィムやめて…」
思わず涙が出そうになったがグッと堪えた。とりあえず噛むのをやめてもらわないとと思って体を捩るが痛みと混乱で思うようには動かせなかった。抵抗すればするほど噛む力は強くなるばかりだった。
そのあと満足したのか噛み跡をペロペロとなめて嬉しそうにしていた。わたしはこのままアースィムのいいようにされてしまうのではと一瞬諦めたその時私の右手を取り彼の股間部分を触らせた。
「……ッ」
「そう、ないんだよ、ツヅリ。ここ、切られちゃったんだ。だから怖がらないで、僕はツヅリをどうこうできない。安心して」
そう言って笑ったアースィムは仮面の笑顔をつけておりただただ怖かった。その笑顔は強がりで本当は悲しんでいるのだ。これは傷つけられた証なのだと思わず泣いて、アースィムを抱きしめていた。
「ごめん、ごめんね…ごめん。何もできなくないよ。こうして仲良くしてくれて嬉しい。噛んだことちょっと怒ってるけど、何か理由があったのなら目を瞑る」
的外れなことを言っていたと思うが混乱した頭で声をかけるにはこれが精一杯だった。だって彼は誰かに意図的に傷つけられた。そして彼の未来の1つを奪ったのだ。それがただただ許せなかった。
それに彼の痛みを想像で慰めるのもなんだか違う気がした。
アースィムはここで静かに泣いていた。
「前の学校にいたとき、女の先生にイタズラされてたんだ」
少し落ち着いた頃合いにアースィムは過去にあった事を話し始めた。
「僕だけ手伝いに呼んだり、先生の体を無理にくっつけてきたり、僕の体を触る手がいやらしく這い回ってて怖かった」
アースィムは自分の肩を抱き締めるように掴み震えながら話を続けた。
「そういうのが数ヶ月続いて、ついに事が起きたんだ。もう小学校卒業もすぐそこになった時あまり人の来ない職員用の更衣室に呼ばれたんだ。そしたらズボンをズラされて僕の、僕のを……」
「アースィム!嫌なら言わなくていい。大丈夫、軽蔑なんてしてない。私はずっとアースィムと…」
無理して話しているのではないかと思いアースィムの話を遮ろうとするとアースィムは最後まで聞いて欲しいと私に強く訴えてきた。
「そこをその女の先生と付き合ってた男の先生に見られたんだ。僕はその時助かったと思ったけど違った。怒っていたんだ。男の先生は刃物を準備していてそのまま…」
思わず目を瞑ってしまった。そこに起こっていることではないのに、話を聞くだけでも恐ろしい出来事だ。このことがあってこのあたりに引っ越してきたらしい。
「だから女の人も男の人も怖くて…何より恋に狂った人間が何をするのかわからないのが怖くて、ツヅリもそうなるのかもしれないと思うと気が動転してしまったんだ。本当にごめん…」
「……ううん、いいよ。話してくれてありがとう」
その日はそう言い合って別れた。
翌日脚を見るとすごい色をしていた。みんなに内緒で病院へ行くと簡単に処置され、抗生剤を処方された。大方綺麗になるそうだが、少し跡が残るとのことだった。
アースィムはあの後2週間登校してこなかった。アースィムの家に何度か行ったが誰もいなくて留守なようだった。誰かにこのことを相談したかったがエミリーは新婚さんだし、施設長先生に言うと大ごとになりそうで誰にも相談できなかった。モヤモヤしたまま過ごしていると、夜にアースィムと見知らぬ男性が一緒に施設まできた。
「アースィム!良かった、会いたかった」
久しぶりのアースィムを見ると虚ろな目をしてそこに立っていた。私が声をかけると眼を見開きこちらに手を伸ばしてきたが隣にいた男性がそれを止めた。
「お嬢ちゃん、この前の足のこと大丈夫やった?」
アースィムの知り合いや親戚にこのような話し方の人はいたのだろうかと少し違和感を覚えた。そして足の怪我のこともなぜ知っているのだろうと怖くなり思わず一歩引き下がった。
「そう警戒せんとって、わしはアースィム君の親に頼まれてこうしてきたんや。アースィム君にはちゃーんとお仕置きしておいたからな、安心してお友達続けたってな?」
アースィムは私の名前をぶつぶつ言いながら捕まえられた手を離そうとしていた。しかし、その男性はアースィムの耳元でなにかを囁くとピタッと動きを止めて「言う通りにするから約束は必ず守ってよ」とアースィムはその男性に言うと、男性は掴んでいた手を離した。
男性の手から逃れたアースィムは私のところへ来て話し始めた。
「ツヅリ、改めてごめんなさい。もしかして跡は残ってる?」
「跡は残ってるけど、大丈夫だよ。傷の1つや2つどうってことないよ」
「いや、女の子なのに本当にごめん…。なんなら美容整形とか行きたいならお金出すし、協力するから、また友達に戻ってくれる?」
とても申し訳なさそうに頭を垂れた。わたしはアースィムが見えるようにしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。不用意に触るのは避けた方がいいと判断した。
「そんな!前で仲直りしてると思ってた。これからは嫌なこととかしんどいことあったら教えてね」
「必ず伝える。ツヅリも何でも相談してね。困ってたら必ず助ける」
そうしてアースィムとは友達として戻ったが以前のような近い距離感に戻ることは無くなった。
この時のアースィムが“また友達に戻る”と言う言葉が少し引っかかったが、知らないふりをすることにした。
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