わたしの竜胆

こと葉揺

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蛇足

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「おい」

 血塗れで床にへたり込んでいる女に声をかけた。

「なぜ、どうして…どうして…」

 先程、竜胆凪…いや颯の想い人であり俺の婚約者の高橋菫を刺した女が状況を飲み込めていなかった。

「俺はさ、脅すだけでいいって言ったよな?なんで刺し殺したんだ」

「こ、こわい……凪さん、凪さん……」

 もうこいつはダメだな。そう諦めていたら後ろからゆらりと叔母さんが来た。


「あら創士さん。………あら」

 叔母さんは血塗れで死んでいる2人を見ても特に動揺していなかった。

「凪さんのスペアまで居なくなっちゃった。仕方ないわねぇ…。そうしたら竜胆のお家は貴方が継がないといけないわね。創士さん」

「俺だって、凪に双子の弟がいるって知ってたら凪がいなくなったら継いでやるなんて言わなかった。凪の弟に譲ってたよ」

 そもそも子供を認知しない方がおかしい。宗教の教祖の適当なありがたい言葉を鵜呑みにしてまでするようなことではない。

「ふぅん。わたくしはどちらでもいいわ。竜胆の家のことなんて知ったこっちゃないし」

「あの付き人は叔母さんのだろ。余計なことしやがって、俺の菫が死んだ」


「クスクス…その割には怒っているように見えませんけど」

 ガンッと近くにあった椅子を蹴った。怒っているが何でもないふりをしていただけだ。



✴︎✴︎✴︎


 菫のことは小さい時からずっと好きだった。会えるのは親含めて遊ぶ時だけだった。
 最初から最後まで菫は俺に全く興味がなかった。その証拠に竜胆颯と接触しているのに俺との関係性を聞いてこなかったからだ。俺も竜胆なのに。

 小学生の時。最初は菫のことが嫌いだった。何をしても菫には勝てなかった。それを自慢してくれれば嫌なやつと文句も言えたのにそれさえさせてくれなかった。

 一緒に遊んでても俺の方にはあまりこなかった。と、いうか妹の方が俺にべったりだった。菫は自分の兄と過ごすか、居なければ1人で過ごしていた。

 こっちを見て欲しくて俺はこんなに凄いんだと色々なことを自慢した。カッコいい男になればちょっとは見てくれるだろうと。菫はいつもの無表情で「すごいね」というだけだった。それが無性に腹正しくて「そこがムカつく」とか思っていることを全てぶちまけた。

 その時の菫は「教えてくれてありがとう。だから私には友だちがいなかったんだね」と笑顔になった。

 言ってることは結構ヤバかったが、その笑顔が好きだと思った。


 親に菫と菫の妹とどっちと結婚したいかと聞かれて菫と即答した。
 またあの笑顔を俺に向けてほしいと思っていた。

 菫は中高一貫の女子校に進学した。俺が菫の親に猛烈に勧めた甲斐があった。
 他の男に取られたくなかった。
 高等部に上がる前に入寮が決まった。菫には盗聴器入りのぬいぐるみを渡した。盗撮機能もつけておいたがカメラをつけるのは気が引けたので機会があればカメラも起動してみよう。
 何かあればすぐ助けられるようにしておかないと。

 菫の生活音は思った通りにシンプルだった。あれから友人は出来たようだが放課後や休日に遊ぶような親しい人は居なかった。
 必ず同じ時間に帰宅し、同じ時間にご飯を取り、同じ時間に風呂に入り、同じ時間に就寝していた。


 久しぶりに菫の家族と食事の日だった。中学の時は俺の部活が忙しくてあまり会えていなかった。今日は楽しみだ。
 綺麗に着飾った菫を見て嬉しかった。とても美しい女性になっていた。

 ホテルに凪が入ってきた。凪は菫たちと同じ学校だ。……なんか、今日の凪は雰囲気が違うなと違和感だけ覚えていた。

 その後ある時初めて菫の部屋に他人が侵入してきた。
 竜胆さんと菫は呼ぶ。凪か。あいつはいつもいつも会う度に好きだの結婚してだのうるさかった。従兄弟だし、俺には婚約者がいると断っていた。しかしこの間から凪に会っても無視されていた。まるで別人のようだ。



 凪は菫に手を出していた。喘ぎ声やベットが軋む音、パチュパチュと身体が繋がる音が聴こえて凪を殺したい気持ちにで溢れかえっていたのと同時にあんなに綺麗な菫を踏み荒らされている背徳感が凄かった。でも映像を見る勇気はなかった。
 菫は凪のことを“はやて“と呼んでいた。しかも男だと思わせるようなことも言っていた。凪じゃない竜胆は俺くらいだが…調べてみよう。


 颯は戸籍登録のされていない凪の双子の弟だった。アイツが菫を抱いたのか。なんでなんでなんでなんで

「俺だって……」

 菫に己の欲を放ちたかった。



 それからはほぼ毎日と言っていいほど菫は颯に抱かれていた。もう2回目からはカメラをオンにして彼らの性行為を見ていた。
 あの乱れた赤い表情に、開きっぱなしの口。ゆれる乳房。ゆるやかな身体のライン。全てが官能的で普段の菫からはとても想像できないほど淫靡だった。

 颯も口では意地悪を言っていたが目が菫を好きだと言っていた。あの言動を受けても好かれているとは思っていないのが菫らしい。
 それもそうだ。脅されてしている行為だし、例え想いが通じ合っても上手くはいかないのだ。このままいけば颯に縛られ、必ず俺と結婚せざるを得なくなる。
 菫を好きに扱う颯を殺したくて仕方なかったが、殺すのは後だ。確実に菫を手に入れなければ……。

 俺もこの本性をバレるわけにはいかない。“いい人“で居なければ、菫には釣り合わない。

 だけど、どうしたってあんなに濃厚な性行為を見せられると焦る気持ちが増えてきた。どうにかして別れさせるか、二股にされても菫だけでも手に入れなければ…。

 その気持ちだけで彼らが仲睦まじくしている写真を叔母さんや宗教団体の教祖の娘で彼らの学校のマリア様に密告した。
 そこでの話は菫に全てのことを曝け出し、今の関係を終わらせて颯はマリア様は颯を。俺は菫を手に入れるという約束だった。

 2人きりで会った時、紳士的に振る舞い安心させてから手に入れると考えていたのに「創士君と結婚はしたいと思っている」と笑顔で言われて思わずすぐ手に入れたくなった。本当の気持ちじゃないくせに。目的のために言ってるくせにと、悔しい気持ちになった。

 文化祭も2人でまわって楽しかった。もっとこんなことをすれば良かった。颯に見惚れている菫が可愛かった。でも俺にはその顔を見せてくれない。こっちに意識を向けて欲しくて手を握ると動揺していた。
 菫は女になってしまっていた。だから、俺の手を握った気持ちを完全に理解していただろう。







 だが、どこで何がどう狂ったのかマリア様は菫を殺した。そして、颯もそれを、追っていった。

 あまりにも悔しかった。あの2人が想いあっていなければここまで思わなかったかもしれない。

 菫と颯は恋愛の醜いところや嫌なところを知らずに好きという綺麗な気持ちだけで相手を思える時に死んだのだ。それも2人同時に。
 これ以上美しい恋は無いだろう。それほど、この恋は芸術作品のように美しいと感じた。
 


 でも綺麗なものほどぐちゃぐちゃにしたくなるんだ。
 目の前の愛しい人を壊した女に殺意を向けた。



 
✴︎✴︎✴︎





「菫、今日も可愛いな」

 朝起きると“菫“にキスをした。固くて陶器のようだ。
 “菫“はもう大人になるのにいつまで経っても大きなぬいぐるみを抱っこして離さなかった。

 俺と結ばれてもう10年経った。10年前のあの時、菫の好きな人と先輩が無理心中しているとこを見ておかしくなってしまった。
 あれから“菫“は動かないし話さない。何度抱いても無反応。どうしてだろう。
 でも元々菫は表情が乏しかった。自然体でいてくれているのだろう。
 あんなに避妊せずに性行為をしているのに子どもが全く出来なかった。
 仕方ない。跡継ぎが必要だ。それは菫の妹と作ることにしよう。
 俺は幸せ者だ。最後に“菫“を手に入れたのだから。


 今日は久しぶりに高橋家の人と食事の日だ。表向きの結婚相手は菫の妹だ。
 今日も“竜胆創士“として相応しく生きていく。













 
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