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囚われた心
しおりを挟む竜胆さんのお母さんに会った日、いつも以上に甘えてきていた。食堂では一応怪しまれないように別々に食事を取るのだが、それも付いてきてべったりくっついていた。
お風呂は部屋についており、一緒に入りたがったが断った。しかし、子どものようにドアの前に座り込んで待っていた。
これはまた抱かれると思ったがそうはされなかった。ずっとキスばかりしてきて体をピッタリとくっつけてきてばかりだった。
「……今日はしないの?」
キスばかりされると嬉しくて、快楽を覚えた体がキスと連動して繋がりたいと思うようになっていた。
「したいの?」
覗き込むように私の目を捕らえてきた。その目がいつものように欲に塗れていなかった。
「……キスたくさんされたから、するのかなと」
「すみれがしたいならする…。けど、今日はなんだがこうしてるだけでドキドキして満たされる」
そういうと颯に目に熱が宿った。
「なんか胸がぎゅって痛くて苦しかったから体を繋げると少し収まってた。でも……今日は…こうしてるだけで気持ちいい」
今までしてきたことを考えると今日の颯はものすごく純粋な心で私に接してくれていた。そうしてくれると私も満たされた。
きっとお母さんのことで何かあるのだろう。颯を助ける事ができると嬉しかった。役に立てた気がして。人に親切にしなさいという矜持を持っていたから得た優越感では無かった。颯だから、特にそう感じていたのだ。だからこうして私の中に記憶として刻まれているのだ。
…やっぱり、好き。
自覚してしまった。どんなに酷いことをされても、好意の無いセックスも好きだから許せたのだ。
想いを伝えてしまいたい。でも私たちの関係はきっと続かない。どうしたって颯の呪縛を解くのは難しい。
それに今、颯に想いを伝えると私はきっと繋がりたいと思ってしまう。今日は穏やかに過ごして欲しい。
甘える彼を抱きしめて一緒に眠ったのだ。
✴︎✴︎✴︎
もうすぐ文化祭だ。女子校だからかわからないが外部からの入場者は事前に配られたチケットを持っている人のみだった。
いつもは家族と、創士君の家族のみに渡していた。今年もそうなるだろう。
高校生になったので歌唱発表だけでなく、模擬店や劇なども出来るようになる。運動会とは違って割と派手な催しだった。
出し物は喫茶店2クラス、劇2クラスなど数があらかじめ決まっていて、文化祭実行委員がクラス長と会議して決めていた。
うちのクラスはお化け屋敷に当たった。人を脅かすのは少し気がひけるが、ワクワクした気持ちもあった。
放課後は文化祭の準備に勤しんだ。園芸部でも押し花の栞を販売するとのことでクラスの手伝いと半々で活動していた。
最近は学生生活そっちのけのことが起こりすぎて忘れていた。やはり何かをやり遂げるのは楽しい。
「楽しそうだね」
クラスのお化け屋敷の小道具作製の時に出たゴミを焼き場に持ってきていたら声をかけられた。
「はや…竜胆さん、ご機嫌よう。竜胆さんのクラスは何を?」
誰が聞いているかわからないので他人のフリをすることにした。
「僕のクラスはマリア様たちと劇をする事になったよ。ロミオとジュリエット」
D組は特進クラスで人数が少ないため1年から3年まで合同で出し物をしているそうだ。
「わぁ、素敵ですね」
「僕はてっきりロミオ役かと思いきや、ジュリエットにされてしまった」
確かに意外だった。颯の人気は異性を思わせるようなところだったので、てっきり王子様役をやるのだと思い込んでいた。
「でもきっと似合いますよ。時間作って見に行きますね」
「うん…」
最近は颯と穏やかな空気で過ごせるようになった。それがとても嬉しかった。
後ろから強い視線を感じて振り向いたが、誰もいなかった。
✴︎✴︎✴︎
今日は外出届を出して颯と買い物に来ていた。颯は成長して今持っている服だとキツくなってきたようだ。事情を知っている私と服を買いに行く事でバレるリスクを回避するという事らしい。
私も新しい服が欲しかったのでちょうどよかった。欲しいと思っても出不精のためなかなか買いに行けてなかったので嬉しい申し出だった。
「おまたせ、行こうか」
私服でも女性として振る舞っているようだ。ワンピースがとても似合っていた。この姿もとても好きだけど、いつか男性として外に出れたら…なんて夢も見てしまった。
颯はてっきり高いブランドのお店に入るのかと思いきや、カジュアルな洋服屋へ足を運んでいた。
「高いとこだと姉さんの顔見知りばかりだからね…。僕のことは知らないだろうし、フィッティングしてると驚いちゃうよね」
竜胆さんはとてもセンスが良く自分に似合う服を素早く選んでいた。
髪を自分で切った後も行きつけの美容室へ向かって綺麗に整えていた。割とオシャレは好きなのかもしれない。
「菫はどこ見る?」
「ここでいつも買い物してるからちょっと見てくる」
隣の店舗がちょうど好きな服屋だったので足を踏み入れた。すると手を優しく握られた。
「僕も一緒に」
ここは男女の服を売っているので颯の男の服を着ているところを見てみたい…という願望もあった。
「あれ?菫だ」
「創士君」
部活帰りなのか制服を着ていた。周りに部活仲間もいた。
「あれもしかしてこの子?婚約者」
周りの視線は全て颯に向かっていた。やはり目を惹くのはそっちなのだろう。
「違います」
颯はよそ行きの笑顔で対応していた。こうして同年代の男の子と並ぶと颯はやはり綺麗系だった。
「まぁまぁ、その綺麗な人の隣の子が俺の」
「俺のって婚約者様~惚気んのやめろ」
颯の眉が僅かにピクリとした気がしたが、気づかないふりをした。創士君が絡むとすぐ怒っていた。
「でもどっちも綺麗で可愛いね。茶色い子は創士のなら、その黒い子はフリー?」
創士くんの友人たちが颯に群がっていた。それを創士君がやんわりと遮った。
「ダメだ。この人こそ手出しちゃダメな人。ほら退散するぞ。ごめんな菫、また埋め合わせする」
空気が凍てついていた。恐る恐る颯を見ると不機嫌そうだった。
「菫は創士君のだったんだ」
「ち、違うっ」
「違わないよ。だって“婚約者“なんだよ」
颯の目が怒りに染められていた。楽しい買い物だったのに…。でも…でも私はっ
「婚約者も親が決めたことだし、私が好きなのは、はやt……」
「えっ…」
危うく告白しかけた。いや、もうこれは言ったも同然だった。顔が赤くなりその場を駆け出した。
疲れて我に返った。メインストリートから少し離れてしまい人通りも少なかった。
戻らなければと思いながらも戸惑いが強くパニックになっていた。
もうどうしたって逃げ場はない。どうやって誤魔化そう。いや、いっそ言ってしまおうか。
「すみれ」
颯が追いついた。息が切れていたので相当走ったのだろう。ヒールのある靴を履いているのに速いと感心してしまった。
「すみれ、さっきのは…痛っ」
やはりヒールのある靴だと足を痛めてしまったようだ。思わず駆け寄ると抱きしめられた。
「さっき、何言いかけたの?」
耳元で優しく囁かれた。これまでで1番優しい声だった。
「…言えない」
「ねぇ教えて?知りたい、お願い」
そう囁かれた後、耳をチロリと舐められた。体がゾクゾクし、白状してしまいそうになった。
「じゃあじっくり時間をかけて聞く事にしようかな…」
そう言われて手を引かれた。もう私の心は完全に囚われていた。
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