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2人の秘密
しおりを挟む「あっ、もぅ…やめ、て」
一度抱かれたあの時からずっと抱かれていた。もうすぐ日が昇りそうだ。
心はやめてと叫んでいるのに体はもっと欲しいとねだっていた。
心と体がチグハグで壊れてしまいそうだった。
「すみれっ…はぁっ……」
もう何時間経ったのだろう。彼は衰えずずっと私と繋がったままだった。
友人までとはいかないが私は竜胆さんに好意を抱いていた。この気持ちは何なのだろうか。
間違ったことをしているのはわかっているのだけれど、どうしてもその悲しそうな顔を向けられると受け入れてしまう。縋り付くような動きをどうしても拒めない。
「すみれ、すみれっ…っ……」
うわ言のように私の名前を繰り返し呼んだ。
最初は彼自身を中に打ち付けられて激しく揺さぶられていたが、今はもう入り口のあたりを優しく出たり入ったりを繰り返していた。
それが焦ったくてもどかしくて奥まで欲しいとそのことばかり考えている。
「ねぇ、どうしてほしい…?」
耳元でそう囁かれた。まるで私がして欲しいことをわかっているみたいだ。
「……いじ…わっ…る…あっ」
少しグイッと奥に進められたがすぐに戻っていった。欲しい、ほしい…。
子宮のあたりを指で優しく押されてゾクゾクした。
「お願いっ…んっ…ここに…」
「ここに?なに?」
「いれてっ…」
「もう入ってるよ?」
入り口のあたりを彼の自身の先のところでぐいぐい押されるとそれだけで何回か絶頂を迎えていた。
でももっと奥まで来て欲しい…。
きっと私から彼をもっと欲しがるところを見たいのだろう。ならば
「ふふっ腰をそんなに下ろしてきて…っ、自分で入れてきてっ…そんなに奥に欲しかったの?」
「うんっ…んやっ」
「呼んで?颯って…っはぁ…そしたらもっと気持ちいいことしてあげるっ…」
彼のモノが体の奥に届いて気持ち良すぎて頭が真っ白になっていた。
まだ中だけではイケないと前の小さな膨らみも同時に触られてそれだけですぐに彼のモノを締め付けて離したくないと言っているようだった。
「はやて、はやてっ…」
「かわいい……もっと呼んで?」
「は…やて….…あっ、もう…」
「っ…僕も、イク……」
✴︎✴︎✴︎
あれからお風呂に入り身なりを整えた。今日は幸いにも土曜日で授業もなかったので話をすることにした。
「これ、朝食。2人分持ってきたよ」
私の体を労ってくれて、歩く時も支えてくれたり色々してくれた。…さっきまではすごいイジワルだったのに…。
食事をしながら颯さんは話し始めた。
「僕…正確には“凪“が菫のお兄さんと婚約することになった」
「えっ…」
兄は今年3回生で就職も決まっていなかったはずだ。将来は有望かもしれないが、まだ早い気がした。
「早いって?菫だっているじゃない。婚約者」
「それは…そうだけど」
それとはまた重みが違う気がした。私たちのは親同士の口約束で軽いものだ。しかし、兄と竜胆さんのはきっと正式なものだろう。
「でも、凪さんが亡くなったのなら…」
この話題を口にして後悔した。家族が亡くなっているのだ。軽率に口にしてはいけなかった。
「いいよ、大丈夫。分かってたことなんだ。…姉さんは癌だった。見つかったのも遅くて、若いから進行も早いし、他のところに転移もしてた。遅かれ早かれこうなる予定だったんだ」
「そっか…。辛かった…ね。でも凪さんとして生きていく必要はないんじゃ…」
「いや、それは無理だ。僕はここに存在しないことになっているんだ。戸籍がない」
「えっ…」
「母親の実家が大きな私営の病院をしていて、出産時に偽装したんだ」
「何でその必要が…」
「…母はよくわからない宗教にのめり込んでいて、そこの教祖様から双子が男女なら女だけ大切にして男は殺せと言われたらしい」
「そんな…」
そんな事で自分が腹を痛めて産んだ子どもを認知しないなんて事あるのだろうか。その考えが恐ろしかった。
「流石に見かねた母の父…お爺さんが生かしておいてくれた。でも狂った母は僕が見えなくなった」
「……」
「それからは僕は離れに住まわされ戸籍がないから学校にもいけず、お手伝いさんに育てられる日々だった。赤ちゃんの時から隔離されていたからそれが普通だと思っていた。入れ替わりで違うお手伝いさんが来るくらいで特に何も変化はなかった」
颯さんは震える手を握りしめて話を続けていた。
「そんな時に姉さんが僕の存在に気づいてたまに遊ぶようになった。大きくなるにつれて見た目がそっくりだから入れ替わりっこして遊ぶようになった。それからたまにそうしていたんだ」
気付くと私は颯さんの震える手に自分の手を重ねていた。颯さんは優しく微笑んだ。
「そうしていまの女子学校に入学したんだ。あそこは父の方のお爺さんの経営している学校だから融通がきいたんだ。1人部屋にして僕と姉さんがずっと住んでいた。だから、金曜日だけ変わってもらって通学してた」
その金曜日によく会っていたのか。彼がどこで私を知ったのかはよくわからないけど会いにきてくれていたんだ。
「でも中学2年の時に姉さんに癌が見つかった。それから母はまた狂ってしまってまたのめり込むようになった。そして……」
颯さんは俯いてしまった。ここから先はとても話せる内容じゃないのだろう。
「話が逸れたね。ちょっと事情があってどうしても僕は凪として生きていかなければならない。でもね、菫のお兄さんと婚約になって良かったと思ってるんだ」
「どうして?」
「だってすみれとかぞくになれるから」
「…っ」
初めてそんな満面の笑みを見た。心臓がバクバクいってうるさかった。
「それにね、すみれとの子どもを作れば血縁関係はあるってことだよね?何も問題はないよね?竜胆の家と高橋の家の血が入った子どもができればいいってことだから」
…バクバクいっていたのは恐怖からだったのかもしれない。常識では考えられないことをまるでいいことのように言っている。颯さんは美しく恐ろしかった。
「お兄さんも好きな相手とこっそり付き合ってもらってていいし、菫も婚約者?と結婚したらいいよ。でもセックスは僕とだけ。子どもも僕とだけ」
重ねていた手を取られてキスをされた。
「意味、わかるよね?」
「…わからない」
指に痛みを感じた。噛まれた。
「いたいっ、やめて」
「どうして?僕は菫だけが欲しい。他は何もいらない。僕のものになって」
「……それは、」
私が返事を言い淀んでいるとスマホの画面を見せられた。そこには父の会社の役員の名前が書かれていた。
「この人、僕の親戚なんだ。菫のお父さんの会社はうちの系列グループだからどうとでもできるよ?」
まさか、脅しているのだろうか。スマホの画面で違うホームページも開かれた。そこは母の勤めている料理教室だった。
「ここの社長も知ってるよ?」
颯さんはニコニコした顔を崩さなかった。私が青白くなっているのを楽しそうにしていた。
それから兄の大学関係のこと、妹との交友関係のこと、全て把握されて今の所から引きづり落とすことが容易にできるようにされていた。
「そこまでして、私と寝たいの?」
「もちろん。でも心外だなぁ、体だけが目的みたいに言われて。そんなに自分の体に自信があるんだ」
耳元で「すみれの方が夢中になってた癖に」といじわるを言ってきた。
「優しい君は断れないよね?それに僕だってこんなに辛いんだ。菫に癒してもらわないと。…ずーっとずっと欲しかった」
「もう、逃げられないよ」
その言葉に絶望したと同時に甘い痛みが胸にじわりと滲んだ。
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