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北海道ワインのキールで、サヨナラ、オリンピック
しおりを挟む「お嬢さんたち、何、飲んでるの」
「今日は、キール。これ飲みやすいのよね」
「あ、知ってる。白ワインにカシスリキュールだっけ。甘いけどさっぱりしてて
いいよね。暑さも一段落だし、ワインカクテルもいいな。じーさん、僕も」
「あいよ。肴もワイン蒸しだ。ホイルに舞茸、シメジ、エノキ、シイタケに刻んだベーコン散らしてワインを振って、フライパンで焼く。後でちょいと味ぽんとオリーブオイル混ぜたヤツで味を足した」
「うん、キノコが揃い踏みすると秋っぽいよね。年中食べれるんだけど。あぁ、キールもいいなぁ。お酒っていうより飲み物として美味しい。ワインは?」
「ワインは詳しくなると大変だからね。沼にはまりたくないから、こだわらない。こいつは北海道にいる友人から買ってる小樽ワイン。辛口ってことになってる」
「すっきりしてて美味しい、いいワインだと思うな」
「まぁ、不味いものは出さんよ」
「そうか。甲州はよく聞くけど、北海道のワインもこんなに美味しいのか。頑張ってほしいな、北海道。国産の食を支えてくれてるとこだからね」
「あぁ、そうよね。水産物も野菜も酪農もだもんねぇ」
「でも、何か、今度のオリンピック、招致を見送るみたいな話も聞いたけど」
「あぁ、次回以降にとか…、まだはっきりはしてないけど、東京オリンピックの汚職がらみが尾を引いてるだろうし、難しいんだろうね。じーさんはどう思う? 招致賛成?反対?」
「ま、俺は招致を中止した方がいいと思ってるよ。それに正直、今、電通を本当に外すなり、制約をかけたままで、オリンピックを招致から開催まで漕ぎつけるのは無理じゃないかな。力的には、商社が総研使って、外資のイベント会社と組めば出来るかもだけど、ちょっと間に合うか微妙だし、やる会社だってオリンピック単体の為にそんな無理するメリットは少ないだろうし」
「うわ、そんなに面倒なの、オリンピックって」
「そりゃ、地域開発もからむし、政治、建築、メディアとスポンサー、スポーツ団体にアート関係、全部に利害調整が絡むんだから、『イベント運営ノウハウ』なんてもんじゃ到底できゃしない。しかもいわゆる一般の盛り上がりも不可欠で、反対派とも揉めすぎないように対処しなきゃ」
「電通がそれをやってたんだ」
「1964年の東京五輪と1970年の大阪万博の頃から、それが出来る体制を育てて、またその時の人脈やら関係を活かして、国際イベントや地方の大型イベントを受注するスキームまで作ってきたから、対応もできるし、商売にもなるんだよ」
「じゃ、もう日本ではオリンピックは無理?」
「いや、まぁ電通の作ったスキームは、どういう形でか復活してくるだろうし、そうでなきゃ、必要とあらば、別の会社が政治絡みで支援を受けて引き継ぐだろう。ただ、オリンピックの招致が、本当に日本に必要かどうか」
「それですよね。札幌も地域振興に役立つから招致したいわけでしょう」
「そこだな。一時的に一部の人には、経済効果はあるだろう。だけど開催には自治体の費用負担も大きいし、インフラ整備も本来の地域に必要なレベルじゃなくて、オリンピックが開催可能なレベルに合わせることになる。昔はそれで良いと思ってた。オリンピックで集中的に投資して、インフラも整備する。するとオリンピック後にそこまで地域開発が進み、作った施設に合わせてスポーツやイベントも継続的に活性化して、市場が育つ。その図式が成立しないことは、長野五輪が証明した。いや、純粋にマーケティングすれば、そんなことは見えてる筈なんだ。今、万博や五輪を起爆剤にした地域開発や継続的な市場創造は期待できない。国内需要をあてにしたスポーツ市場やリゾート市場も、投資に見合う規模の成果は上げられない。一方で、日本の情報発信力は、魅力的なコンテンツと受け皿になるリゾート施設があれば、オリンピックのようなイベントが無くても、海外からの需要を集められる」
「断言しますね」
「土建屋さん関係は嫌がるだろうけどね。目先の大型受注先は常に欲しいから」
「でも、スポーツにとっては? そもそもオリンピックはスポーツの為のものでしょ」
「もちろん、自国開催は移動、環境、応援において有利だから、競技者と競技団体にはメリットがあるよ。それからスポンサードも国の予算もつきやすい。ただ、それは一過性のものだからね。有利な条件はその時の出場者にしかメリットは無いし、スポンサーも予算もオリンピックが終われば無くなっていく。選手の育成は、自国開催のオリンピックに照準を当てなくちゃならなくて、長期的な展望は無視される。アスリートは本来、4年に1度のオリンピックを重視しすぎちゃいけないと思う。選手のピークに対して不公平だからね。そして、国と自治体の予算を傾けて、アスリートの支援を行う意義は?」
「えっ? だって国の代表だし、メダルだって支援しないと取れないし…」
「例えば、水泳の男子100m自由形の選手が金メダルを取ったとする。でも彼は国の何を代表してるの? 男子100m自由形の選手を代表してるだけで、女性で特にアスリートでもない君の何を代表してる?」
「それは、やっぱり同じ日本人として」
「同じ日本人だからって言って、水泳以外の、性格も他の才能も強い選手になった経緯も知らない人が日本人の代表になるの? ならないよ、少なくとも俺は、その人を日本人の代表だなんて認めない。日本人の100m自由形の代表以上でも以下でもない。そして彼が金メダルを取ったからって、俺にも、国にも、何の利益もない。だったら彼が金メダルを取れるようになるために、国が支援する意味は?」
「そう言っちゃうと、身も蓋も無いっていうか、自然に応援してしまうもんじゃないんですか」
「うん。応援なら俺もするし、見ていて日本の選手が勝てば嬉しい。一方で、選手が『国を背負って、日の丸を背負って』なんて言う度に、預けてないから勝手に背負わずに、自分と応援してくれてる人の為だけに頑張れ、って思うけどね。そしてメダルはその人のもので、国のものじゃないと思う」
「まぁ。確かにオリンピックの憲章でもオリンピックは国同士のメダル争いじゃない、国別の獲得数で比べるべきではないって言われてるみたいですけど」
「有名無実化してるのが現状だけどね。そしてそこから出てくる国がオリンピックで勝つために金を出す理由は、国威発揚」
「あぁ、じーさんの嫌いそうな言葉だ」
「嫌いなだけじゃない、今、日本が、スポーツの成績で国威発揚を図ることに意味がない。スポーツの成績と経済には結びつきも大きいけど、日本のレベルで経済をスポーツの成績で語ってもしようがない。スポーツの得意な人が多いからと言って、軍が強いとか、健康な人が多いとかのイメージにも繋がらない。もっと貧しかった国から、メダルを取れるような選手が出てくるなら、最貧を脱出してスポーツにお金を出せる国にまでなったんだなとアピールできるだろうけど、日本はそうじゃない。そしたら、単に『たくさん取ったどぉ』って言って内輪で満足したいだけで、誰にも有効な発揚じゃない」
「あ、でももう一つ、スポーツ振興って理由も」
「そう。一番真っ当な理由はそれ。オリンピックで日本の選手が勝つと、盛り上がる。スポーツをやってみようかなって人も増える。それが国民の健康増進につながる」
「良かった。ようやく理由が認められて」
「ただね、スポーツ振興のための投資として、メダルを取れるオリンピック選手を育てるのは、投資効率として正しいのかな。スポーツ施設やトレーニング施設も一流のアスリートにしか使えないようなものが多い。健康福祉のためのスポーツ振興とアスリートの育成は全く別物だからね。はっきり言ってアスリートの生活は不健康な場合すらあるでしょ。けがや故障も多いし」
「そりゃ、アスリートは仕事だし…」
「オリンピックで盛り上がっても、気楽に始められるスポーツ環境や誰でも試合に参加したり講習を受けられるソフトが無いと、スポーツ振興には結びつかないよね。そっちに使う予算を考えると、アスリート育成予算の多寡はともかく、オリンピック招致開催より先に予算措置すべきものはあると思うけどね」
「ですかね」
「地域振興にもスポーツ振興にも国威発揚にさえ投資効率が悪い上に、作った施設が赤字発生装置になる可能性のあるオリンピック招致、賛成できる理由はないなぁ」
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