五八三七G3の酒の肴

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カツオのキムチ和え

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「じーさん、焼酎、ロックで。芋がいいな」
「おし、赤兎馬だな」
「すごい名前だね。何だっけ…」
「三国志でとにかく強かった呂布の馬だな。名馬の代名詞だ。ほい、ロック」
「うん、好い香りだ。こういうの飲むと、チューハイは勿体ない飲み方だよな」
「気に入った銘柄なら、ロックやストレートを楽しむのもいいけど、チューハイはチューハイの旨さがあるからな。邪道だとか酒本来のなんてことは、評論家にお任せして、気分に合わせて好きなように飲むのが勝ちだと思うけどね」
「確かに」
「つまみは、割と今日の飲み方に合うぞ。カツオのキムチ和えだ」
「へぇ、あ、確かに。この味わい濃くて辛いのが、焼酎のロックに凄く合うよ」
「カツオの刺身をごま油と酢と醤油の漬け汁にちょっと10分ほど漬けて、あとはキムチと和える。カイワレで見た目をちょっと爽やかにして、白ごまを振る。まぁ、キムチ使うのは、何でも合いすぎて反則なんだけどね」
「うん、じーさんの言う通り、邪道だろうが反則だろうが、美味けりゃ一番に一票」
「だな」
「美味いものファースト!」
「あ、その言い方は嫌いなんで、やめてくれるかな」
「あ、都民ファーストが嫌いだから?」
「いや、まぁ、政党としての都民ファーストは好きも嫌いも、詳しくないんだけどね、主張や政策は。ただ、都民ファーストって呼びかけも、大元のアメリカン・ファーストも、気分が悪いんだ。とにかく、おまえらのことを一番に考えてやるからって言われて、だったらあんたに任すわって、そういう関係性が嫌いだね」
「えぇっ、でも選挙ってそういうもんじゃないの」
「少なくとも、俺は俺のことを考えてくれって気持ちで投票したことはないからね。おまえさんは、どうだい。自分に得になりそうかどうかで、いつも投票してるかい?」
「そういうわけじゃ、ないな。でも、さ。アメリカの政治家がアメリカの国民のことを一番に考える、東京都の政治家が東京都民のことを一番に考えるってのは、ある種当たり前のことじゃないのかな」
「当たり前のことだね。一番かどうかはともかく、国民の為、都民の為になるように政治をするのは。その当たり前のことをわざわざ言うことで、直接、国民の為とは感じ取りにくいこと、都民の為とは感じにくいことを、意識させる。その代わりに、直接、自分たちの為と感じ取りやすいことを提示して見せる。社会が、世界が、環境がって綺麗ごとじゃなく、おまえたちが欲しいものを、俺は優先してやるぞって呼びかけだ。そこに飛びつくのは、あまりにも浅ましくないか?」
「うーん、でも、苦しんでる人にとっては、自分たちのことを一番に考えてくれって言うのが切実なんだろうし」
「苦しんでる人を助けるのは、政治の大事な使命だね。自分たちの窮状を政治家に訴えるのは正当な権利だと思う。でも、その一つ一つに向き合ってベストな解決策を探す代わりに、そうだ、お前たちを優先してやることが、俺の政治だ、と宣う。そして、その尻馬に乗って、そうだ、そうだ、綺麗ごとより俺たちをカマえ、って言う声を集めて勢いづく。後は、補助金なんかをバラ撒いて、綺麗ごとっぽいことに片端から毒づいて、ね。大向こうはそれでいったん留飲を下げるんだろうけど、後は解決も何もなく荒れるのが目に見えてる」
「余裕が無くなってるのかなぁ、綺麗ごとを守ろうってだけの」
「でもね、綺麗ごとって本当は、そんなレッテルで一括りにできるもんじゃないし、一つ一つ、大事だから、無視できないから、こっちの欲望の邪魔になる時も、“綺麗”って枠で保留しとくことでしか、対抗できないようなものばかりだよ。もちろん水清きに魚住まずってこともあるけど」
「分かってはいるけど、そういうのを守ろうとする自分が嘘くさいっていうか、自分に正直じゃないっていうか、そんなイメージもあるかなぁ。」
「自分に正直って、自分の欲望に正直ってことじゃないと思うんだよね。公正でありたいも、公平でありたいも、他人のことを思いやりたいってのも、自分の欲求を満たしたいってのと同列に自分だし、それがあるから、人間は社会を構成できて、生き延びられる。種の保存と生存本能にもちゃんと合致した気持ちなのに、わざわざ自分の欲だけを“本当の自分の気持ち”だと思い込まされる必要はないんじゃないかな」
「思い込まされるって」
「うん、結局、何々ファーストって奴は、そう思い込ませるやり口なんだよね。素直になれよ、自分の為の政治をして欲しいんだろって。そうやってエゴを肯定してやることで、熱烈な支持を集めるんだ。そこに嵌った人には、迂遠な理屈は全部、綺麗ごとの虚偽に聞こえるようになる。生理的に楽な方に流れてるから、戻りにくい」
「素直になれよ、か。嫌な引っ掛けかもしれないね。ありのままの自分を肯定してもらえそうで」
「世間体や風評に惑わされずに自分を貫くって意味のありのままならいいけどね、よりよい自分であるための努力を放棄した停滞を、ありのままと自称して受け入れろって言われても困るよね。そいつは、ありのままじゃない、ワガママだよ」
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