膵癌闘病短歌集 「サブスクを止める」

二十二、～4/22

　今章の一首目、歌でも何でもない、気付きも哲学もない、独創性の欠片もなく、身も蓋も無い、ただ漏れ出たような言葉。ある意味、これほど正直な言葉が短歌の語数で出てきたことに感心して、一首の歌として扱うことにした。
　膵癌宣告以来、自分のアイデンティティの中に、「自分は癌患者である」という歪な自己規定がのさばっていることに気づいた。自分は癌である。これは客観的事実で、これに目を背けることは、できないし、無意味だ。が、「自分は癌患者である」ということを、自分の中心に据える必要はない。癌と何とか対峙してきた期間を超え、しばしの間、癌と共に生きる時間を覚悟した以上、そこまで癌に主導権を握られるわけにはいかない。
　これを自覚することで、歌も、変わってくると思う。良し悪しは別に。変わることは記録として意味があることで、歓迎すべきだろう。
　フランクフルタークランツは、結婚式の引き出物に選んだ品で、以来、結婚記念日に毎年食べる。今年も二日遅れながら食べることができた。（糖尿病はどうした？）
　根津神社に参り、ツツジ祭りを楽しむ。深大寺に参り、蕎麦を頂き、植物公園を巡る。ささやかに、前向きに人生を楽しんでいる。人の役に立つことも、二三、考え始めた。Life goes on と言おう。

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　今日明日と　覚悟を決めた　はずなのに
　延びるとなれば　命は惜しい

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　一つ、二つ、　旅の予定を　入れてみる
　手探りで歩む　新たな晩年　

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　重ねたい
　フランクフルタークランツの　
　飾らぬ甘さ　
　二人の歳月

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　朱に深紅、蘇芳、紅藤、唐紅
　あらゆる赤で　染む桔梗園

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　色、容、花の向きさえ　揃えずに
　咲くツツジらが　描く一枚絵

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　新緑の　息吹きを　手繰り寄せるよう
　露台で　せいろ蕎麦を楽しむ