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百姓の心づもり

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 古い城下町の再建は諸国の職人によって急速にすすめられた。新しい城は少し場所を変えた山の中腹に建つようで、すでに人足にんそくたちが砂を運んでいる。自ら攻めた経験から防塁を強固にする必要を痛感したので、防衛のために深い堀と石垣も必要とされた。

 数日後…、

 「…気も重い」

 藤右衛門は採掘された巨石を前に憂鬱な面持ちだ。

 職人たちは石垣を丈夫な造りにすると言い、その労役に各村の百姓が集められたのである。

 人足代は僅かな米であった。三城の治世では毎年のように無益で労役を強制させられていたので、いまさら不満を言う者もない。

 藤右衛門も石垣を運ぶ人足となって、その間に穣吉は女衆に預けてある。

 「こう続けて重い石を運ぶと肩が壊れそうだ」

 石の重みに耐えながら三助に話しかけた。

 「ああ…、次に降ろす時に場所を変わろうか?」

 細い丸太を格子に組んで、四人で石を乗せて運んでいる。三助も同じ組の仲間だったが、他は隣村からの者である。

 「無駄口叩くなよ!」

 その一人が叫んだ。

 「何だよ、短気だな」

 三助が言った。

 「気張ってないと力が抜ける。その分こちらが重くなる」

 他の者からも少し険悪な雰囲気が伝わってくる。

 合戦の影響は各地にあるようで、目に見えて神経が尖っている。これ以上は刺激しない方が身のためだろう。三助も感じ取ったようだ。

 その後、二人は無言で石を運び続けた。

 日が高く昇った頃に築城場所で職人も含めて、雑穀を混ぜた握り飯の配給がされた。混ぜ物があっても、普段は滅多に食えない米が食えただけで、三城家が倒れたのを感謝したが、自分が面倒を見ている穣吉の一族なので複雑である。

 「うまい!うまいな」

 しかし、喜んでほおばる三助を見ると悪いと思えない。

 「そうだな…」

 その時、「お前たちは浅はかだな」不意に話しかけられた。声のする方向に振り返ると、隣村の百姓である仙助せんすけがいる。

 「なんだよ」

 藤右衛門は不愛想に言った。

 この仙助とは、何度か祭りで会ったことがある。

 「これは城下の倉にあった米だぞ。三城から巡って佐野に辿り着いたとて、すべて俺たちが納めた米じゃないか?」

 「それはそうだが…」

 「ありがたがるなど愚かしいと思わないか?これは我々の顔色を窺って、自分たちに人心を向けさせる道具にすぎん。そこらにいる侍たちは、わしらの表情で反抗的か どうかを見極めているに違いないぞ」

 仙助の言葉を聞くと、確かにその様な気もしてきた。

 「しかし、しょうがないだろ…」

 あきらめの混じった声色で三助が言うと、辺りを見回して侍がいないのを確認し「…声を出すなよ、実は一揆を起そうとしていたのだ」と、言ったのだ。

 「何だって!」

 三助は驚きを隠せない。

 その口をふさぎながら藤右衛門は冷静に聞き返した。

 「それは真か?」

 「ああ、だが仲間は集まらなかったが…」

 三助は驚きの表情を引っ込めて「…その程度か」と、なんとも分かりやすく拍子抜けした。

 「起こせたなら一族郎党を斬り伏せていたさ」

 「ほう…」

 三助が冷やかすように相槌を打つと、小声で言い争いになった。

 「おまえら場所をわきまえろ」

 気持ちは分かるが、これ以上このような話をして誰かに聞かれでもしたら、こちらが打ち首だと藤右衛門が諭すと、もはや会話は別の話題に変わってしまったのである。
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