上 下
1 / 21

プロローグ 戦国乱世と小さき領地

しおりを挟む
 きっかけは稲作の不良であったのかもしれないし、あるいは天下人てんかびとというものには一族郎党で乾坤一擲けんこんいってきの勝負を挑む価値でもあるのかもしれない。どちらにせよ、互いへの不信感は絶頂に達して、現下において大名同士の争いの絶えない乱世となったのである。

 しかし、そのような時代にあっても、天下を欲する武将からは見向きもされない小さな山間の領地はあった。

 周囲を小高い山々に囲まれているので、山岳から伝って下りる冷気で稲は痛みやすく、夏場には水害も多いので、けっして稲作に向いていると言えない土地である。そこに暮らす民は総勢で六千ほどで、それを支配する侍は足軽を含めても二千もいなかった。

 この領地を代々と治めるのは元を辿れば農民ではあるが、後に国人こくじん勢力と主従関係を結んで身を興した、地侍の一族である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮世絵の女

オガワ ミツル
歴史・時代
江戸時代の男と、生々しい女達の生き様を書いた、衝撃的な浮世絵の物語です。 この絵は著者が描いたものです。

惣兵衛と化け妖怪の道中記

葦池昂暁
歴史・時代
 若い商人の惣兵衛はかつての奉公人から文を受け取って、一旗上げるために江戸へ向かうことを決断する。しかし、東海道を一人で旅する彼に予期せぬ怪異が襲って、稀にも見ない奇想天外な体験をするのであった。

忍者同心 服部文蔵

大澤伝兵衛
歴史・時代
 八代将軍徳川吉宗の時代、服部文蔵という武士がいた。  服部という名ではあるが有名な服部半蔵の血筋とは一切関係が無く、本人も忍者ではない。だが、とある事件での活躍で有名になり、江戸中から忍者と話題になり、評判を聞きつけた町奉行から同心として採用される事になる。  忍者同心の誕生である。  だが、忍者ではない文蔵が忍者と呼ばれる事を、伊賀、甲賀忍者の末裔たちが面白く思わず、事あるごとに文蔵に喧嘩を仕掛けて来る事に。  それに、江戸を騒がす数々の事件が起き、どうやら文蔵の過去と関りが……

忍びゆくっ!

那月
歴史・時代
時は戦国の世。 あぁ… どうして、生まれてくる時を、場所を選べないんだろう 病弱な彼は、考えていた。考えることが、仕事だった 忍の、それも一族の当主の家系に生まれたのに頭脳しか使えない ただ考えていることしかできない、彼の小さな世界 世界は本当はとても広い それに、彼は気づかされる 病弱を理由に目の前にある自分の世界しか見えていなかった 考えること以外にも、自分は色々できるのだと、気づく 恨みを持つ一族の襲撃。双子の弟の反逆。同盟を結ぶ一族との協力 井の中の蛙 大海を――知った 戦国の世に生きる双子の忍の物語。迫り来るその時までに、彼は使命を果たせるのか…? 因果の双子

下級武士の名の残し方 ~江戸時代の自分史 大友興廃記物語~

黒井丸
歴史・時代
~本作は『大友興廃記』という実在の軍記をもとに、書かれた内容をパズルのように史実に組みこんで作者の一生を創作した時代小説です~  武士の親族として伊勢 津藩に仕える杉谷宗重は武士の至上目的である『家名を残す』ために悩んでいた。  大名と違い、身分の不安定な下級武士ではいつ家が消えてもおかしくない。  そのため『平家物語』などの軍記を書く事で家の由緒を残そうとするがうまくいかない。  方と呼ばれる王道を書けば民衆は喜ぶが、虚飾で得た名声は却って名を汚す事になるだろう。  しかし、正しい事を書いても見向きもされない。  そこで、彼の旧主で豊後佐伯の領主だった佐伯權之助は一計を思いつく。

密会の森で

鶏林書笈
歴史・時代
王妃に従って木槿国に来た女官・朴尚宮。最愛の妻を亡くして寂しい日々を送る王弟・岐城君。 偶然の出会いから互いに惹かれあっていきます。

御懐妊

戸沢一平
歴史・時代
 戦国時代の末期、出羽の国における白鳥氏と最上氏によるこの地方の覇権をめぐる物語である。  白鳥十郎長久は、最上義光の娘布姫を正室に迎えており最上氏とは表面上は良好な関係であったが、最上氏に先んじて出羽国の領主となるべく虎視淡々と準備を進めていた。そして、天下の情勢は織田信長に勢いがあると見るや、名馬白雲雀を献上して、信長に出羽国領主と認めてもらおうとする。  信長からは更に鷹を献上するよう要望されたことから、出羽一の鷹と評判の逸物を手に入れようとするが持ち主は白鳥氏に恨みを持つ者だった。鷹は譲れないという。  そんな中、布姫が懐妊する。めでたい事ではあるが、生まれてくる子は最上義光の孫でもあり、白鳥にとっては相応の対応が必要となった。

東海敝国仙肉説伝―とうかいへいこくせんじくせつでん―

かさ よいち
歴史・時代
17世紀後半の東アジア、清国へ使節として赴いていたとある小国の若き士族・朝明(チョウメイ)と己煥(ジーファン)は、帰りの船のなかで怪しげな肉の切り身をみつけた。 その肉の異様な気配に圧され、ふたりはつい口に含んでしまい…… 帰国後、日常の些細な違和感から、彼らは己の身体の変化に気付く――― ただの一士族の子息でしなかった彼らが、国の繁栄と滅亡に巻き込まれながら、仙肉の謎を探す三百余年の物語。 気が向いたときに更新。

処理中です...