上 下
12 / 20
こんにちは知らない世界

6. 悩みとリアルな夢

しおりを挟む
「チカさん、これ食べておくれ」

「チカさん。今日は、これを持ってきたのどうかしら?」

「「「チカさん・・・」」」

子供達が訪問した日から、毎日のように村人が訪れ教会は以前にも増して賑やかだ。



「・・・あ、ありがとうございます。」

プロフィティア様ではない事を何度か伝えて、やっと名前で読んでくれるようになったと思えば、今度は理由をつけて千佳の元を訪れる。
初めのうちは丁寧に対応していた千佳も、度重なる村人の訪問に疲れ切っていた。



「大丈夫?」

日が傾き、最後の村人が帰った所で教会を閉めると、ヘイデンが心配そうに声をかけた。


「なんとか・・・」

そう言って頼りなく笑う千佳は、ヘイデンと共に教会隣にある彼の自宅へ向かう。
建物が痛んでしまい教会には住めないからと、修復を決めた時に建てたヘイデンの自宅は、あまり大きくは無いが寝室、客間が2つ、宝飾を作る際に使う工房、リビングダイニングがある。

彼の商売は意外にも儲かっているのか、貴族相手の商売をしているからなのか、室内に置かれている物はどれも質の良いものばかりだ。


「晩御飯作るから。休んでて。」

自宅へ戻り、テーブルに突っ伏した千佳を見たヘイデンは、そっとブランケットか肩にかけ夕食の準備に入る。野菜を切り始めた彼はリズミカルな音を、キッチンに響かせている。


「ヘイデンさん。」

「なぁに?」

“このオカン感は、何度見ても新鮮だわ・・・”
彼の背中を見つめていた千佳はふとそんな事を思う。
包丁を持って振り返る彼から漂うオカン感を感じながら、ふと頭の片隅にあった事を伝えた。


「皆さん。
 ちょっと、過剰すぎませんか?」

「・・・そうねぇ。」

珍しい髪色だから人が集まるのかもしれないと思っていた千佳だったが、村人の対応はまるで千佳自身がプロフィティア様であるかのように接している気がしてならなかった。


「私は、予言とかできないですし。」

「うん。」

「ただの人間ですっ。」

「そうね。」

「ヘイデンさんも、私がプロフィティア様だって思うんですか?」

唯一、普通に接してくれているヘイデンは、教会を直そうとしているくらいプロフィティア様に思い入れがあるのに、何とも思わないのだろうか。
そんな考えが頭をよぎっていた。


「チカちゃんを助けた時、そうかもしれない。
 って思ったわ。」

「・・・!」

「でも、貴方と一緒に過ごしていて、ごく普通の女の子って感じしかしないし、そんな風には思わないわ」
 
「・・・ありがとうございます。」

ヘイデンの言葉に安心したのか、千佳ヘラッと笑い彼を見る。


「この村、出た方がいいんじゃないかと思ったのですが、ヘイデンさんにそう言って貰えると、嬉しいです。」

「・・・今、なんて言った?」

千佳の何気ない一言に、ヘイデンは低くなった声で聞き返す。
何処か怖さを感じる様な彼の雰囲気に千佳は驚きながら、思っていた事を伝える。


「えと、村を出ようかと・・・」

「村、出るの?」

「えっと。いずれは・・・」

「・・・そうよね。ずっと、居る訳じゃないもんね。」

「?」

いつもとは違う真剣な顔をするヘイデンを不思議に思いながら、千佳は「夕食の準備手伝います」と言いながらキッチンに立ち2人で夕食の準備を進めた。



・・・・・



「今日は満月かー。」

どこか気まずい空気の中夕食を済ませた千佳は、先に湯をもらい借りている部屋に籠り窓の外を眺めていた。


“信仰熱心だけど、悪い人たちではないんだよね・・・”

ここ数日続く村人達の訪問を思い返しながら、明日の事を考えると少し憂鬱になった千佳はランタンの灯りを消し布団に入りる。

「明日は、今日よりも平穏な日でありますよーにっ」

そう呟いて、ギュッと目を閉じ眠りについた。





  “・・・?
   あれ、足が冷たい。”


その晩、千佳は不思議な夢を見ていた。


  「何で、こんな所にいるんだろ」

  綺麗な水が穏やかに流れる川に
  千佳は立ち尽くし
  辺りを見回している

  遠くには、
  村人だろうか洗濯をする人や
  子供達が遊んでいる姿があった

  「楽しそうだなー。
   それにしても、すっごく綺麗な川。
   魚が泳いでるのがはっきり分かる」

  手で水をすくっていると、
  ポツポツと雨が降り始めた

  気づけば
  周りにいた人はいなくなり
  千佳1人だけになっている


  「・・・雨?」

  ザァァァァ・・・・

  そう呟いたとたん
  空は色濃い雲で覆われ、
  雨は激しさを増し
  豪雨に変わっていく


  「・・・なに、これっ」

  バシャ バシャッ

  慌てて岸に避難しようと歩くも
  水位はどんどん増し
  思うように進む事ができない


  「どうしようっ・・・誰かっ!!」

  雨は更に強くなり
  視界も助ける声もかき消していく
  ふと上流から
  何かが迫る様な音が響いてきた

  ゴォォォッッ

  「・・・っ!」

  音の方へ顔を向けると
  流木や岩が濁流となり
  壁の様に迫っている

  “・・・助からない”

  バシャンッッッ
 
  「・・・だれ・・・かっ」
 
  水中に引きづり込まれた千佳は
  息をしようと必死にもがく
 
  「だす、けっ・・・」

  息苦しさと全身に何かが当たる衝撃と
  強い痛みを感じながら、
  千佳は意識を失っていた





「・・・・・っ、かはっ、はぁっ、はぁっ」

明け方、ベッドの上で呼吸を忘れていたかの様に、大きく息を吸い込んだ千佳は息を求め、ただ、ただ、呼吸を繰り返していた。


「よかった。生きてる・・・」

夢だとわかっていたのに、感じた痛みや苦しさ濁流に飲まれる恐怖に体は震えていた。千佳は、自分の体を抱きしめ丸くなりながら、震えがおさまるのを待った。


「何だったんだろう・・・」

“今度は、水の中に移動とか絶対嫌なんだけど・・・”
夢からこの世界に来た事を思い出した千佳は、首を横に振り願う様にそう思っていた。呼吸と気持ちが落ち着くまで横になっていると、ふと夜が明けていることに気づく。


「まだ、明け方だとは思うけど・・・起きよ」

再び目を閉じても寝れそうにないと感じた千佳は、着替えを済ませ顔を洗いに部屋を後にした。


「あら、今日は早いのね。」

「あ、おはようございます。」

顔を洗いに洗面台へ行くと、朝のトレーニングを終えたばかりなのか、髪を洗ったのかヘイデンが髪をガシガシ拭いている。
顔を洗おうとした千佳の顔を見た彼は、彼女の異変に気づいたのか心配そうな表情を浮かべていた。


「ちょっと、顔色悪いけど大丈夫?」

「・・・変な夢見ちゃって。」

そう言って顔を洗い始める千佳にヘイデンは「お茶淹れるから、リビングにきてね」とだけ言い残し洗面台を後にする。


「はい。
 私おすすめ、気分が落ち着く薬草茶」

「ありがとうございます」

ソファに腰掛けた千佳は、お茶を受け取りカップを両手で包み込む様に持つ。
ヘイデンが入れてくれた薬草茶は、優しい花の香りが広がり香りを嗅いでいるだけでも心が落ち着きそうなお茶だった。


「・・・甘酸っぱいですね」

「でしょー。この薬草、少し甘酸っぱいのよ」

初めて飲むお茶に驚きを感じながら、千佳は少しずつお茶を飲み進める。
そんな姿を見つめるヘイデンは優しい眼差しを向けていた。


「少しは落ち着いたかしら?」

「はい。ありがとうございます。」

千佳が、カップをテーブルに置くと心配そうな表情をしながらヘイデンが尋ねた。


「言いたくなかったら、言わなくてもいいけど、どんな夢を見たの?」

「それが・・・」

千佳が夢の内容を話すと、相槌を打ちながら来ていたヘイデンは少し考え込み、千佳にこう伝えた。


「朝食前に、少し散歩しない?」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...