上 下
10 / 24
少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

異常

しおりを挟む
「入るぞ」

 ヒロは、その無愛想な声に聞き覚えがあった。ガルドだ。

 ガルドは、彼やミアの返事を聞くことなく、ドアを開け中に入ってきた。

「嬢ちゃん、ヒロと話があるから2人きりにしてくれないか?あと、ママ達大変そうだったぞ」

 ガルドの言葉にミアが窓の外を見ると既に暗くなっていた。恐らく、英雄の食卓が最も繁盛する時間帯だ。

「ああ!!すみません、行ってきます!!」

 ミアは、慌てて立ち上がると外へ出て行った。

 嵐が過ぎ去った後のような何とも言えない沈黙が場を支配した。ガルドは、その沈黙を破るように話し始めた。

「しかし、驚いた。嬢ちゃんがデメア様の眷属だったとはね」

 美の双子神の内の1柱、癒しと美の女神デメア。もう1柱の美の神、力と美の女神パウランと共に【魅舞】カンパニーを所有している。

 デメアの眷属の大半は、治癒を施す加護を所持している。そして、その効果は、絶大だ。

 それが【魅舞】カンパニーが最強の一角に数えられる所以の1つだ。

 ヒロは、ガルドの言葉にピンときた。

「まさか、この怪我……」

「応急処置は、うちのルーシーってやつだが、治療したのは、嬢ちゃんだ。感謝しとけよ」

「……」

 ガルドは、微笑から真剣な面持ちに切り替えた。今からが本題だと言わんばかりに。

「お前が遭遇したワータイガー以外の個体を見てないか?」

 ヒロは、いまいちピンとこなかった。だから、何も言わず、首を横に振った。

「てことはあいつで間違いないな。だが、どうやって……」

 ガルドは、大きくため息を吐くと、頭をガシガシと乱暴に掻いた。

「あの、どういうことですか?」

「まあ、お前も関係者か……」

 ガルドは、そう前置きし、口を開いた。

「最近、エリア10以上のモンスターがそれ以下の区画に出現している。何かから逃げるように……な」

「まさか、あのワータイガー?」

「違う。最後まで聞け」

 ガルドは、ヒロの言葉を有無を言わさず切り捨てた。

「あいつも逃げ出したモンスターだ。ただ、俺達が追いかけていた時は、だった」

 確かに通常個体のモンスターが長い時間をかけボス級に成長するという事例は、稀にだが存在する。しかし——、

「そんな早く成長しますか?」

 ガルド達が追いかけていたということは、彼がワータイガーと遭遇したのは、ヒロと遭遇した同日。もしくは、多くとも2日前だ。

「だから、困ってんだよ……。そういや、お前加護が発動したんだな」

 ガルドは、思い出したかのようにヒロに言った。

 ——あの力のことか?

「いえ、まだしてないと思います」

 ヒロの言葉にガルドは目を見開いた。余程驚いたらしい。

「いやいや、あのレベルのワータイガーが俺の『龍の吐息ブレス』一撃で倒せるわけないだろ。お前が瀕死までダメージを与えたんだろ?」

「え?」

「え?」

 ヒロは、その場が凍りついたのを感じた。そんな中、またコンコンとドアがノックされた。

「おい、ガルド入っていいか?ミアに様子を見て来て欲しいと言われてな」

「あ、ああ」

 ガルドがそう返事を返すと入ってきたのは、金髪の女性。よく見るとエルフだった。装備品から見て魔法使いだろう。

も元気そうだな」

 女性は、ヒロの様子を確認し、そう言った。 

「え?原石?」

「Cランクパーティに匹敵するモンスターを1人で瀕死まで追い込んだGランク。正に、ダイヤの原石だろう」

「瀕死?!」

 ヒロは、驚きの余り叫んだ。

「さっきも言っただろ?……ルーシー、こいつ加護を発動した訳じゃないって言ってんだ」

「はあ?!」

 ルーシーと呼ばれた女性は、素っ頓狂な声をだした。そして、コホンと咳払いをした。

「じゃあ、どうやってあそこまで……」

 ルーシーが当たり前な疑問を口にすると、ヒロは、苦笑を浮かべ、

「その、目を潰したのと、背中を1回殴っただけで……はは」

と、ありのまま事実を告げた。ガルドとルーシーは、冗談はよせと冷たい視線を向けた。しかし、これが事実なのだ。

「いや、本当です」

 ヒロは、彼らの視線から言いたいことを察し、念を押した。ガルドは、彼の態度から本当らしいと理解し、大きくため息を吐いた。

 彼は、ヒロへ向け腕を突き出し、人差し指と中指を立てた。

「可能性としては2つだ。ダメージが本当に奇跡的に核に直接伝わったか、何らかの原因で加護が一瞬発動したか」

「私は、後者を押す」

 ヒロは、ガルドが立てた2つの仮説の内、ルーシーと同様に後者だと予想している。

「そうなれば、お前の右腕の説明もつく」

 ヒロは、ガルドの言葉に疑問を持った。

 確かに、彼の右腕は、ワータイガーの攻撃で深い傷を負っていた。しかし、それだけなのだ。

 加護とは、何も関係ないはずだ。

 彼は、そう思い、右腕へと視線を送り、息を呑んだ。右腕が固定具や包帯で一回りほど大きくなっていたのだ。他の箇所は、包帯を巻いているだけだ。

「ズタボロだったよ。赤黒く変色するくらいな。多分だが、骨は粉々、筋肉はぐちゃぐちゃになってたんだろ」

「ああ、見ていたこっちが痛くなるほどだった」

 ガルドがそう言い、ルーシーも彼に同意した。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...