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第六章 亀と兎

巡回いたします。

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 戦いと報復を終え、現在我はロックガーデン国にいた。
 別に保護した者達をマヤト樹海に預けてから大黒林に帰ってもよかったのだが、そうはいかなくなった。
 全て片づいたことを滞在しているプルパ達に報せてあげようとロックガーデン国に訪問したのだが合流してすぐにプルパから国王が直接感謝を伝えたいとの旨を伝えられた。
 国王直々にということに眷属らの方は当然の行動だと主張してきたので仕方なく応対してあげることにしたのだ。

「ーー…この度は、国の危機を救って下さり誠に感謝致します。」

 謁見の間ではなく応接室で深々と頭を下げて感謝を伝える尖った耳の王と垂れ耳の王妃にテーブルを挟んで長椅子に腕を組んで腰掛ける我は返す。

「感謝は受け取っておこう。だが勘違いするでない。我は目的の為に邪魔なものを排除したに過ぎない。そこを重々理解しておけ。」

 今の発言は決して我がロックガーデン国を助けたわけではなくあくまでも〔大地の守り人〕による援助であることを印象付ける意味でだ。
 少し圧を入れて言ってあげると王妃の方が頭を下げたまま微かに震えているのが伺えた。
 まあ二万強の兵力を壊滅させた相手からの指摘とあっては恐怖を感じないわけがない。

「はい。私達も次の為にしっかり防備を固めようと思います。」
「その心配は無用です。既に敵国は滅びました。」

 顔をあげた国王の言葉に我の隣にいたエルフェンがすぐに返した。
 あっさり言われた大事に王妃はばっと顔を上げ国王と一緒に唖然とした顔になる。
 少しして滅びましたとは?と国王が聞き返してきたのでエルフェンから簡潔に話してあげれば王妃は口に手を添えて怯えた眼差しを一度こちらに向けてきた。
 三国が大魔将軍によって一月も経たず滅びましたとあっては当然の反応だろう。しかも半世紀という時間がより規模の大きさを感じたのかもしれないし、あるいは次は自分達ではという気持ちが頭をよぎったのか。
 なので少し話題を変えることにする。

「国王よ、唐突で悪いがこの国で獣人族の難民を受け入れる余裕はあるか?」

 三国から救出してあげたヒトはざっと二百人。内獣人族は百人弱ほどいる。
 さすがに手を出すなとラオブ達に命令させているとはいえマヤト樹海に全て置いていくわけにはいかないだろうからこの際ロックガーデンで受け入れられるか聞いてみることにした。
 問いかけに国王は百人規模くらいならばと答えてくれた。
 少し悩んでからの答えにしては良い返事を貰えたのでマヤト樹海に帰ってから希望者を聞いてみるとしよう。その時にはエルフェンやプルパらが協力してくれれば円滑に事が進むはずだ。

「よし、ではこれから点在する人間族の街と村も滅ぼす。貴様らはその間に戦後処理をしっかり完了させておけ。」

 席を立ち最後に悪役として国王を指差しして命令すれば返事を待たずに部屋を後にした。
 せっかくなので廊下を歩いていけば後ろからエルフェンが追いかけて声を掛ける。

「この世の中で厳しいことを言ってくれるものだな大魔将軍。」
「そうでなければこの国はまた狙われることになる。頼ってばかりではなく、自分達で乗りきれる努力を持ってもらわねばならないのはわかっているだろう?」

 我がそう言うとエルフェンも確かにと賛同してくれる。
 今回ロックガーデン国は本当に幸運であったと言える。
 我が最初の目標であるオサカから西の大陸を掌握するという過程で戦争に参加しただけに過ぎないからだ。
 これが目標から外れていたら今頃ロックガーデン国は人間族に蹂躙されていたことだろう。
 だから自分の国はしっかり自分で守れるように強者として念を押してあげたのだ。
 それに気づけるかは国王と王妃の能力次第だが。

「それで、いつから始めるつもりだ?まさか明日からなんてのは無しだぞ?」
「いや、徹底的に叩いて人間族を追い出してやりたいからこの際我も兵を得ることにする。」

 我が徴兵を口に出せばエルフェンはラオブ達のことかと聞いてきた残念ながら違う。
 否定すれば何処からと考える彼女についてくるか?と尋ねれば二つ返事で了承してくれた。
 そのまま城を出てからまず眷属達に連絡する。現在エイムとゾドラはマヤト樹海で待機させており、ミケラはロックガーデン国を見て回っている…はずだ。

『次の攻撃目標を決めたのマスター?』
『悪いがまだだエイム。これからを取り戻す為にツルガミざんに向かう。』

 第八十四の眷属オガコ。
 オーガ族にして希少上位と呼ばれる〈オーガクイーン〉である彼女は身体能力だけでなく統率力も合わせ持った存在だ。
 故に強者こそ全てという意志が高いオーガ族の上に立って魔界を暴れ回っていた。

(…と、言うのが魔界世間でのオガコの話ではあった。)

 しかしその実態は魔界で初めて出会った時、我は久しぶりの衝撃を受けたものだ。
 当時まだオーガレディだった彼女が我のところに赴いたのだがさながら暴走族みたいな登場をしてきた。
 その頃まだ将軍という肩書きはなく黒の騎士団長と呼ばれていた我にオガコは一騎討ちを申し入れてきた。
 我は構わないと受け入れたのだがオガコが誰もいないところまで移動した後だった。
 いきなり彼女が我の前で降伏の土下座をしてきたのだ。
 さすがに突然過ぎて我は素で驚いてしまったのだがオガコからの呟きや言い訳によって我はさらに驚く事実を知った。
 なんと彼女は転生者我と同じだったのだ。
 しかも文学系の女子高生で日本生まれだということも理解すれば我はこんな偶然がしかも魔界で起きようとはと心底驚いた。
 そして事実を知ったからこそオガコを討ち取らず眷属にしてお世話してあげようと決めた。
 オガコを宥めてから我自身のことを話してあげると共通する話題もあって彼女は喜びもう上に立ち続けるのが嫌々だったのもあったのか八十四番目の眷属になることも素直に受け入れてくれた。
 という経緯があり、オガコは身体能力と転生前の頭脳で力押ししか出来なかったオーガ系統を戦略の中で操れる存在オーガクイーンに進化して我の元で活躍してくれていた。
 そんなオガコが半世紀経った今、ここロックガーデン国から西へ行った先にあるツルガミざんで封印の状態異常で生存している。
 封印とは高位の聖職者、または真逆と言える呪術師が使えるスキルによって活動を制限される又は停止する状態である。
 一説では強力な封印となれば相手の時間すら止めてしまうほどだとか。
 まあさすがにそれレベルとなれば人手とレアアイテム等を駆使しなくてはならないはずだ。

『オガコも生存していたのであればオーガ族の戦力を得られますね。』
『うん、オガコって見た目の割には話しやすくてボク好きだったから生きてくれてて嬉しいよ!』

 眷属らからも喜びの声を聞きながら我はミケラを呼んだ。
 元気良い返事が聞こえてから五分もしない内に屋根伝いにやってきたミケラ。彼女の両脇には食べ物が抱えられていた。

「ミケラよ。その食糧はなんだ?」
「はい大魔将軍様。なんか道行く獣人族から何故かいろいろ貰ってしまいました。」

 ミケラが言うには以前港町ミネトンで我が指示したみたいに街を観察していたところ猫系統の獣人族から崇められる形で食べ物を恵んでもらったとのこと。
 ムーンライダーって獣人族の間ではどんな目で見られるだろうかという小さな疑問から軽く提案して行かせたのだが実に面白い結果になったものだ。
 これがゾドラだったらミケラ以上に崇められるのだろうか?
 ま、その検証は今は置いといて、我からミケラの先輩を救出しにいく事を話して同行を命令すればミケラはまた元気に返事してくれた。

「よし、ではツルガミ山に行く…前に少し寄り道するぞ。」
「寄り道?何処にだ?」

 聞いてきたエルフェンに我は二ヶ所伝える。
 一つ目は得た食糧を届ける為に大黒林へ。
 二つ目は近況を直接話してやろうとトワダ森林へだ。

「トワダ森林にもか!?わ、わかった。同行しよう。」

 転移先を伝えた時に何故かエルフェンが動揺するところを見た。
 エルフの里に行くことに対してというよりトワダ森林へ行くということに対してだと我には見えたがその時は気にしなかった。
 ミケラの方は故郷に一旦帰れることに喜んでくれたのでとりあえず彼女が抱えている食糧は倉庫に入れてもらってからエルフェンとミケラを近くへ集めさせ大黒林に向かって【次元転移ジャンプ】した。
 数秒間の暗転から目の前に見えたのはうっそうとした木々とその間から見えるあの温室であった。
 見覚えがある光景と見慣れない建物にエルフェンは困惑し温室を指差して尋ねてきたので解説する。

「まさか、大黒林でそんな開拓をしていたとはさすがと言うべきか。」
「ふふん、我はやるからにはちゃんと支援する。さ、パーサーらに挨拶といこう。」

 そう言って我が木の間から姿を見せれば出くわした者達から呼び声が上がる。
 ついでにエルフの方では我の隣にいるかの英雄に驚きつつ礼節を示してきた。
 少しして報せを聞いてやってきたパーサーも我々を確認すると片膝を着いて挨拶してくれた。

「長らく留守にしていた間、よく防衛してくれていた。感謝するぞ。」
「もったいなきお言葉です。いっそうの働きを期待してもらえるよう精進して参ります。」

 多少固い返事をしたパーサーは身体ごとエルフェンに向けると会釈してみせた。
 てっきり憎き勇者の仲間として捉えているかと思っていたので我も内心予想外と感じた。

「止してくれパーサー。私は頭を下げてもらえるヒトじゃない。」

 それはエルフェンも同じだったらしく首を振って返す。

「いいえ、私はあなたが大魔将軍様と共に戦う道を選んでくれたことに感謝します。どうか、この世界を昔みたいな世の中に戻して下さいませ。」

 それでもパーサーから応援の言葉までもらったエルフェンは承知したとだけ返した。
 話が済んだところで我は今日までの報酬という形で倉庫から大量の食糧をパーサー達の前に出してみせる。
 受け取ったパーサー達は感謝してから食糧を運んで行く。
 ミケラにもその手伝いを指示してからパーサーに大黒林の近況を尋ねてみた。

「はい、住居は一つ増えて倉庫も造りました。船の方も後は帆を着ければ完成します。」
「そうか、報告ご苦労。我はケット・シーのところに向かう。」

 最後にそう告げてパーサーと別れれば久しぶりのケット・シー達の住み処に移動した。
 こちらを見るなりクー・シー達とも一緒に出迎えてくれたことにちゃんとただいまを伝えて倉庫から魚等のお土産をプレゼントしてあげた。

「そうそう、彼女を癒してやってくれ。戦いで疲れているのでな。」

 そしてこの際にと我はエルフェンを指してケット・シーに頼んでみた。
 我の指示なのかエルフを見慣れたのかは定かではないが元気良く返事をしてケット・シー達はエルフェンのところに集まり出す。

「ちょちょちょっと…!」

 周りを囲まれて動揺するエルフェンを無視してケット・シー達は彼女を胴上げするように持てばえっさほいっさと住み処の一室に連行していった。
 これから至福の時間が待っているだろうエルフェンを見送ってから我も住み処に入る。
 向かったのはアンジュのいる監禁部屋。きっと今日もケット・シーとクー・シー達に囲まれていることだろう。

「入るぞ。」

 一応一言告げてから扉を開けると先にあった光景に我は正直和んだ。
 多分そういう時間なのだろうか床に寝そべるケット・シーとクー・シー達に囲まれてアンジュもすやすやと眠っていた。
 しかし我が一歩部屋に入ると両種族の耳が動き出して何匹かが顔を上げてこちらを見てきた。

「大魔将軍様みゃ~!」
「大魔将軍様がお越しになられましたワン!」

 掛け声が部屋に響くとその場にいた二種族はワイワイと我の元に集まってきた。
 アンジュの身体の上にいた者達も動いたので彼女もゆっくり起き上がって我を見る。

「…ふわっ!?大魔将軍!いつの間に!?」

 少し寝ぼけた顔を晒してから一気に目覚めたアンジュはこちらを睨みつけてきたがミニスカメイド服では全く怖くない。

「大分この生活も慣れてきたようだなアンジュよ。」
「うるさい!何をしにきた!私を処分しにきたのか!」

 言われたことを認めたくないアンジュは話題を変えようと声を荒げる。そこまで言うならばと我はアンジュに告げてみた。

「いいや、君に昇進のチャンスを与えにきた。」
「しょ、昇進!?」
「そうだ。囚人からここの従業員に君を格上げさせてやる。外へは出れないが、居住区内を移動することを許可するしこの部屋は今日から君の部屋だ。欲しい家具があるなら言え。」

 今日までミケラがいなくても暴れたり逃亡を企てようとせずにケット・シーとクー・シーのお世話をやっていたアンジュへの感謝の意味を込めての昇進であった。
 いきなりの昇進話を聞いてアンジュは面食らった顔になる。まさか我からそんな話を持ち込まれたら当然の反応だろう。

「ふざけるな!散々ヒトを働かせておきながら何が昇進だ!どこまで人間をコケにすれば気が済むんだ!」
「ふざけてなどいない。よく考えてみろ。居住区内なら自由にしていいと言っているのだぞ?」

 興奮する相手を落ち着かせるように言い聞かせてあげればアンジュは少しして冷静になってからハッと気づいた表情をしてみせた。
 居住区内を自由にしていいならば自分の力で抜け出せるチャンスを得られることにも繋がる。そうすればハコダンテ国まで逃げてから自分自身で軍や冒険者ギルドに敵の情報を報せればいい。
 と考えれば悪くない話ではないか!…なんて深読みしてくれるとありがたいが。

「はぁ…ふぅ…わ、わかった。今は従う。だが覚えておけ大魔将軍!必ず聖女様がお前を討ち取ってみせるからな!」
「ふん、老婆になった聖女に我を倒せる力が残っていればだがな。」

 とりあえず昇進を受け入れてくれたので倉庫から木のボードと紙とペンを出す。

「ではこの契約書に名前と出身と年齢をお書き下さい。」
「はい!?」

 出されたものと我の言葉にアンジュはまた驚く。
 昇進したのだからちゃんと我の下で働く人間族という意味で契約を結ばなくてはいけない。
 まあ我は悪魔族ではないがアンジュにとっては今目の前にあるのは悪魔の契約書と言えるかもしれないが。
 目の前に出された契約書にアンジュは迷いを見せてからもペンを取って空欄に言われた通り記入してくれた。

「宜しい。では後で服を用意させておくので希望はあるか?」
「く、この服じゃなければ構わない。ただ動きやすい服にはしてくれ。」

 アンジュの回答に承知したと伝え契約書は倉庫に入れてから部屋を出て扉を閉めた。
 そこから左斜め向かいの部屋でエルフェンは今頃癒されているだろうから我は住み処を出て海側へと足を進めた。
 森を出たあたりで空に浮くと海に向かってエメソンを呼ぶ。魔力を乗せた呼び掛けによって少しすると大きな水柱を上げてエメソンが姿を見せた。

「待たせたなエメソン。元気にしてたか?」

 接近して緑色に光る頭を優しく撫でてあげながら声を掛ければエメソンは愛らしい声を上げてくれる。
 少々長めに海の留守させてしまったのでエルフェンがちゃんと癒されるまでの間に我はエメソンと海中散歩をすることにした。





「ーー…では巫女様。私は一度失礼します。」
「はい、お昼の後にまた会いましょう。」

 千里の巫女リヴユールに挨拶してからレキュラは自宅への帰路を歩く。
 先の一件以来あの大魔将軍から連絡は全くきてはいないがリヴユールを通して精霊から話は聞いていた。
 西にある商業の街を占拠したとか、人間族どころか誰も寄りつかなくなった孤島を支配下に加えたとか普通なら噂ぐらいに思える話も大魔将軍ならば本当の話なのだと思えた。
 思えたからこそレキュラの心の隅にとある思いが芽生えていた。
 もしかしたら本当に大魔将軍は勇者を倒してみせるのではないかと。
 魔族に希望を抱くなどあってはいけないことなのだがどうしてもその考えを拭い去ることがレキュラには出来ずため息をつく。
 正にその直後だった。懐から音が鳴り出し足を止めたレキュラは大魔将軍から渡された通信機を取り出す。今までレキュラからも連絡しようとはしなかったので彼女は真剣な眼差しで通信機を見る。

(確か、この丸に触れれば……。)

 大魔将軍に言われた通りに黒い板の表面に浮かぶ独特な魔方陣を人差し指で押した。
 するとピンッという音がしてから大魔将軍の声が聞こえてきた。

『もしもし、こちら大魔将軍です。レキュラ本人でしょうか?』

 通信機越しに何故か敬語で言ってきた大魔将軍にレキュラは驚かされながらも一度大きく咳き込んでから平静を装って返事する。

「はい、お久しぶりです大魔将軍。噂は届いておりますよ。」
『ふふ、そうか。ならば手短に言おう。明日そちらに向かうと千里の巫女に報せておけ。あのやんちゃな青年にもな。』

 やんちゃ青年というのがグランディスのことだろうと察しながらレキュラは承知いたしましたと返す。
 連絡が終わると一方的に切られてしまったレキュラは通信機を眺めてからまたため息をつけば踵を返してリヴユールの元に戻ることにした。





 大黒林の者達をしっかり労ってから次の日の昼前に我々はトワダ森林に移動した。
 【次元転移ジャンプ】した先でレキュラが出迎えてくれたので出迎えご苦労と挨拶してあげた。

「まさかエルフェン様もご一緒とは思いませんでした。ご無事で何よりです。」
「ええ、レキュラさんも元気そうで何よりです。リヴ…千里の巫女様もご健勝ですか?」

 少しぎこちない様子でいるエルフェンが尋ねるとご自分の目で確かめて下さいとレキュラに返されてしまう。
 行くと言った時の反応といいエルフェンとトワダ森林には何か因縁でもあるのだろうか?

「さ、巫女様がお待ちしておりますので参りましょう。」

 前と変わらず淡々と案内しようとしてくれるレキュラに返事して後をついていった。
 さすがに今回は中に入って階段を上がりリヴユールと面会する。
 この前の一件のせいかリヴユールの隣には既に弓を片手に持つグランディスがいた。

「お久しぶりでございます大魔将軍様。本日はどのようなご用件で参ったのでしょうか?」
「うむ、耳に入っているかもしれないが今から話すことをまず聞いてもらいたい。」

 そう告げてから我は三国をロックガーデン国での戦争を語る。
 語りを終えてから本題としてカテジナについて知っている限りの情報を求めた。

「カテジナ様ですか。私が最後に会ったのは四十と6年ほど前になります。」

 リヴユールが言うにはこの世界を平和にしてからある日ふらっと先代の千里の巫女へ挨拶に来たらしい。
 その場にはレキュラもいたので彼女が用件を尋ねればカテジナは言ったそうだ。

「確か、千里の巫女というのは属性の変動も感じることが出来るのか?出来るならばはどんな感じなのかという探究の質問でした。」
「ふ、相変わらずな奴め。それでどう答えた?」
「はい、先代の巫女は確かに属性を視ることは出来ますが聖属性は希少なので言葉で表現するのは難しいと答えました。」

 先代の返答を聞いてカテジナは不満げな顔をしてから少し考えるとお礼を言ってすぐに去ってしまったとのこと。
 それから今日までにヒアリンらフェアリー族の話からカテジナが聖教皇国の大司教になってしまったことを知ったのだとか。
 リヴユールもレキュラも獣人族の彼女がどうしてそこまで堕ちてしまったのか未だに信じられないことも話してくれた。
 貴重な情報を得られたことにまあまあ満足して感謝を伝えようと思ったのだがグランディス君が余計な一言を漏らす。

「…ふん、そこの奴と同じで人間に魂を売った裏切り者なだけだろ。」

 その呟きの直後にグランディスの横を一発の弾丸が通る。
 全く見えなかったことに口を開けたままグランディスはリボルバーを向けている我を見てきた。

「小僧の貴様にわかりやすく伝えてやる。今後我の友人に対する悪口は一切口に出すな。次は確実に当てるぞ?」

 全く若いからって思ったことを口に出すのは良くない。エルフェンはもう我の仲間であり心強い友人なのだから。
 忠告してリボルバーを盾に戻せば背を向けエルフェンに行くぞと伝える。
 しかしエルフェンは我を呼んでリヴユールと話がしたいと意見してきた。
 積もる話でもあるのだろうかなと思えば了承しレキュラの家で待つことを伝え我は先にバルコニーから出ていった。





 バルコニーから降りて去る大魔将軍を見送ってから私は一度深呼吸し振り返る。
 緊張した面持ちのグランディスとリヴユールに視線を配ってから私は言う。

「確かにヒトによっては私は勇者の一味で裏切り者かもしれない。何も変えられないまま数十年も経ってしまった…。」
「エルフェン様。私はそのように思ったことは一度もありません。」

 否定の言葉をくれるリヴユールに首を左右に振りながらありがとうと苦笑い気味に返す。
 どれだけ言葉を繕おうとしても大衆の前ではかき消される。グランディスから漏れた言葉もそう言ったものだと解釈して生きてきた。
 聖女が見つかればカテジナやテルナトと共に勇者を正せるかもしれないと思って孤独に戦ってきた。

「だが、私は大魔将軍に気づかされたのだ。一人では万の敵には勝てない。一人では時に十のヒトすら救えない。」

 その都度私は自分の無力さに苦悩した。
 英雄と呼ばれ、救世主と称えられ、エルフ族の戦士の鑑と羨望された自分が今は後ろ指を指され陰口を耳に年月を過ごすことになったのに板挟みされ孤独をより深めていた。
 そんな時に私は再び大魔将軍と対峙した。
 何度も殴った私に大魔将軍は共に勇者と戦おうと手を伸ばしてきたのだ。

「だから私はもう英雄ではない。今は大魔将軍の仲間のエルフェンとして私は勇者を討ち取るつもりだ。その目的の為ならば万が一でもカテジナすらこの手で射る。」

 カテジナのことは大黒林で聞かされた。
 ヒトを超越して大司教になっているなんて絶対にあり得ない、間違いだと私はすぐに否定した。
 大魔将軍も同意見で聖教皇国を次の攻略目標にしたことを言われて私は迷わず参戦を決意した。

「グランディス。君が私をどれだけ軽蔑しても構わないが、どうか聖女やテルナトまで同じ眼差しを向けることはしないでくれ。」

 最後にそう告げて私は深く頭を下げる。床に目を向ける私に向こうがどんな反応をしていたかはわからないが想いがしっかり伝わったことを願おう。

「では失礼する。彼をあまり待たせると後が怖いかもしれないからな。」

 頭を上げ一言告げれば私は一人でその場を去ろうとした。
 しかしリヴユールが呼び止める。彼女は二人っきりで話がしたいと左右の二人にお願いし人払いをした。
 その時に横切るグランディスから謝罪の言葉をもらう。自分の呟きがいかに小心者であったことを深く反省していた様子に私は軽く頷くだけで済ませた。
 さて、出来ればあのまま去りたかったところだが致し方ない。
 これから待つを無事に乗り越えて大魔将軍の元に戻るとしよう。
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