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第四章 予想外の使者。
醜悪の権化。
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(ーー…影よ影よ。探しておくれ。)
空が明るきゃ影は生まれる。
日が傾きゃ影は伸びる。
ヒトが動きゃ影も動く。
獣が走りゃ影も走る。
鳥が飛びや影も飛ぶ。
(影よ影よ。探しておくれ。影が報せた彼を探しておくれ。)
そして見つけたら呼んでおくれ。
妾が待っていたと伝えておくれ。
五十年待ち焦がれていたと聞かせておくれ。
(影よ影よ。見つけて送れ。そして再び楽しみましょう。)
五十年ぶりの闘争を……
***
「それで、シコクはまだ健在しているのか?」
「少なくとも私が去る三十年前までは存在していました。」
ゾドラを蘇生した我はすぐに大黒林に戻った。ちなみにエイムに負けたセルシウスはシレトコ島の守護者的な存在なので生かしてあげることにしたが、エイムに対してライバル心が芽生えてしまったようで再戦を臨むようなことを言っていた。
大黒林に戻ってから改めてゾドラに尋ねれば詳細を話してくれた。
影の都シコクとはこの星の南西部に位置し今いる北の大陸より一回り小さい海に囲まれた場所だが寒さとは無縁の一年中温暖な気候の島にある国である。
何故そこが影の都と呼ばれているのは君臨する魔族の存在が大きい。
「よもや魔王様が倒された後でもシャッテンは生きておったのか。」
「はい、ただの軍隊では都に近づくことすら出来ずに壊滅させられますので。」
影女将シャッテン。
シャドウ族と呼ばれる種族のトップであり影魔法と呼ばれるスキルを使ってシコクを侵攻し占拠してみせた功績からシコクに対する全権を承った強者である。
ちなみにゾドラは我が勇者に倒されてから約十年間はシコクにいたらしい。
「噂等で聞いたことはありましたがやはりお強いのですか?」
話し合いの場に参加していたパーサーの問いかけにエイムが語る。
魔界時代に我とシャッテンは敵同士で出会い戦った。
我は魔王の軍門に下らせる為に交渉役として向かったのだがシャッテンは戦いを望んだ。
「でもそこでね、マスターは一対一を提案したんだ。」
どちらか勝てば相手の軍に下るという条件の元始まった戦いは三日三晩続いた。
離れて見ていた双方の軍勢もこの戦いは記録に残るであろうと……
「待て待てエイム。お前それは誇張し過ぎだぞ。それに正確には我とシャッテンは戦っていない。」
「と、言いますと?」
ここからは我から話してあげた。
シャッテンが戦いを望んできたので我は確かに一対一の勝負を申し込んだ。
だがさらに我はもう一つ勝敗条件も用意したのだ。
シャッテンの攻めを我が全て防ぎきれたら勝ち負けとすることと。
「だから公言通りに我はシャッテンの攻撃を全て回避と防御だけで済ませたのだ。」
しかしシャッテンから今度は攻守交代だと言ってきて結果三日三晩戦うことになったのである。そのせいで前世の琵琶湖くらいの面積を更地にしてしまったと思っているのは我だけであろう。
「それで勝敗は?」
「残念だが、そこへ魔王様が現れて疲れたシャッテンを捕まえ連れていってしまってな。一応引き分けという形になっている。」
その後シャッテンは軍門に下りシコク侵略の任務を見事やり遂げてみせ支配者として君臨したのである。
その間に我が何をしていたかというのは今は省略させていただく。
ともかく今はこの世界の国々の情報を細かく知るにはシャッテンから聞くのが一番早いということならシコクに向かいたいところだが……
「だがあいつが嫌がって【次元転移】の魔方陣はシコクにない。飛んでいくしかないな。エイムよ、ミケラとパーサー達と共にここを頼む。今回は我とゾドラで向かうとしよう。」
我が指示したことにエイムはまた留守番かぁと呟き、ゾドラはすぐに表情をパアッと明るくさせる。半世紀ぶりだからゾドラに同行させてやろうという配慮であったがこうも顔に出されるとこちらも嬉しく思う。
どうせなので留守番するエイムには別の任務を与えてやろう。
「エイム、お前には訓練教官になってもらう。パーサー達防衛班の強化を目的にだ。」
「へぇ、面白そうだね。いいよマスター、シャッテンによろしくね。」
やる気を見せたエイムに返事してから話が決まったので早速シコクへと向かうことにした。
「では旦那様、どうぞ。」
さも当然とばかりにゾドラが片膝を着いて背負う態勢を取ってきた。
いやいやゾドラよ、確かにかつてお前の背中に仁王立ちして大空を飛んだことは幾度もあった。
しかし、今のお前は女性としては高身長だがヒト型なのだ。
況してや二メートルを超える鎧男の我がドレス型の甲冑を身につけた女性を尻に敷いて飛ぶ姿なんて見せたくない。
「ん?……あっ!失礼しました旦那様!私もう大きくないんでした。」
少ししてゾドラも気づいて謝罪してくれたので笑いながら気にするなと返す。
「それにゾドラよ。ここから空を飛ぶわけではない。一度シコクに近い場所に【次元転移】してから向かうのだ。」
その場所はシコクと海を隔てた場所にある太陽の街オサカ。ここはかつて勇者一行とガレオが初めて遭遇する街でもあった。
半世紀前なら他種族が入り交じる商売の街であったが今どうなっているかは行って直接確かめるとしよう。
転移の為にゾドラに近くに来るよう言うと何故か胸を押しつけるほど密着してきたので視線を向ければ幸せな笑みを向けてきた。
正直美人な彼女にこうされるのは男冥利に尽きるのだろうが我はミケラと同じアイテムを着けさせ角と鱗を隠してあげてからオサカの近くに用意した魔方陣へと【次元転移】した。
二秒くらいの暗転からすぐに見えてきたのは岩の壁であった。
ここは海岸にある洞窟なのでさっさと出て街を見に行こうとした時、下からひっ!と女の子っぽい声が聞こえてきた。
「旦那様、どうやら私達囲まれておりますわ。ヒト族の子ども達に。」
ゾドラに言われて我も周囲を確認すれば蝋燭のみの灯りがある中で小学生くらいの子どもが全員こちらを見ていた。
もしかしてと外に続く方に視線を向ければ案の定格子が存在していた。
どうやら半世紀経ってこの洞窟は牢屋になっていたようだ。
そしてここにいる子ども達は全員獣の耳と尻尾を生やしているところから見て獣人族であろう。
モフモフを生やした子ども達に囲まれた鎧男と黒龍人、というのが今の状況だ。
「いかがしますか旦那様?子どもとはいえ獣人族。命令すれば排除いたしますが?」
鋭い爪を見せて子ども達を見下ろすゾドラの言葉に我は呼び掛けて振り向いた彼女の額を人差し指で弾く。
「ゾドラよ。我が昔言っていた方針は?」
「えっと、強者は弱者を支える存在ですか?」
「そうだ。今の世で人間以外は保護する対象としてこれから行動するように。」
我の指示にゾドラが了承したのを確認してから改めて子ども達を見る。どうやらエルフやドワーフと違い鉄の輪と鎖を使った簡素な枷で拘束しているようだ。
ここで子ども達を助けてやってもいい。だがこんなところにいるということは遠くから連れ拐われた可能性が高い。今解放したところで帰り道がわからないならまた捕まってしまうだろう。
なので一旦子ども達は保留してまずはオサカの街に行くことにしよう。その前準備として我は確認した子ども達の中で一番成長していそうな青年に近寄る。
薄暗い中でも綺麗な空色の髪に狐っぽい尻尾と耳を生やした彼を見下ろしながら言った。
「……名は?」
「え…?」
「お前の名前はと聞いている。」
「ア、アズベルド……」
鎧の大男に見下ろされて警戒しているアズベルドに片膝を着いて彼の手枷の鎖を掴み続ける。
「問おうアズベルド。お前は自由を求めるか?服従を望むか?」
我の問いかけに青年アズベルドは目を見開いてから軽く下を向いて黙る。恐らく自分の立場とこちらの問いかけの解釈で悩んでいるのだろう。
我を奴隷を買いにきた者だと判断したかもしれないがアズベルドの返事を静かに待つ。
「…俺は、俺達は……自由を求める!人間族には!決して屈しない!」
顔を上げて睨み付けるようにしながら答えたアズベルドにそれでよし!と返して鎖を引き千切ってあげた。
驚くアズベルドをよそに足枷の鎖も破壊してやれば格子の方に向かい左手を当てればぐいっと左に動かした。
それだけで格子はまるでカーテンのようにいとも簡単に変形して我が通れるくらいになったことにアズベルドを含めた子ども達は唖然とする。
「まだここから出るなよ?少ししたら戻ってくるから。それまではお前が子ども達を護れ。」
アズベルドに向けて言えば通り抜けてからゾドラを連れて外に出ようと進む。そこへ出口の方から数人の男達の話し声と足音が近づいてくるのを感じた。
どうせ録な連中ではないだろうと思っていれば同じく思っただろうゾドラが歩きながら呟くように唱えれば彼女の口から赤黒い炎が漏れ出すのが見えた。
次の瞬間、前に跳んでから軽く身体を反らしてすぐに前のめりになると同時に口を開きドラゴン族の定番と言えるブレスを使ってみせる。
放たれたブレスから感じたのは火属性と闇属性だったことに邪炎のブレスだと理解した。
洞窟内を明るくさせながら前へといくブレスは短い悲鳴を聞かせてから数秒で消える。
「失礼しました旦那様。お目にかける必要がないと判断いたしました。」
「構わぬ。どうせこれから見に行くのだからな。」
こんなところをくる輩など末端の者ぐらいだろうから百聞は一見に如かずの情報しか持ってないだろうし、こちらの意図を察して行動してくれたゾドラに感謝したい。
「あわわわわ…!」
なんて思ってたらまた無意識に手が動いてゾドラの頭を撫でてしまっていたようで彼女が硬直していた。
「む、すまんすまん。こうしてお前を撫でられる日がこようとはな。」
「い、いえ!旦那様にこうしてもらえるならばさらに精進いたします!そしていずれは夜伽にもなりましょう!」
…こいつ今最後にすごいこと言わなかったか?
ていうかだから夜の相手とか出来ないってエイムと一緒に言ったはずだよな。
そりゃあこんな美人を抱けるなら最高だと思う。だが改めて言おう、もう我に剣はないのである。
「あ~ゾドラよ。夜伽など考えるでない。我はダークアーマー族なのだから。」
「そんなことありませんわ旦那様!可能性はゼロにはならないと昔仰ったではありませんか!進化した私ならば孕む可能性もゼロではないということでしょう?」
何故鼻息を鳴らしてまで言い切ってくるのかわからないがとりあえずこの話は中断するとしよう。我は咳払いしてから止めていた足を動かし外に出れば美しい海辺が見えた。
オサカはこの海辺が観光地となっているのだがヒト族どころか人間もいないことに疑問を感じた。
しかし街の方を見て少し驚かされた。
半世紀経ったオサカの街は尖らせた丸太の壁から石造りの壁へと姿を変えていた。
随分と見違えたなと思いながら門のある方に視線を向ければ荷馬車が列を成していた。
そこはやはり商売の街であったかと思ってからこのまま少し目立つのでまたガレオの姿に変わってから見つけた門兵らしい人間に歩み寄ってみた。
「ん?うわっ!?なんだあんた達は!?」
「すまないが、ここはオサカの街だろうか?」
「あ、ああそうだ。てことはあんた買い手の方か?なら悪いがこっちは違うぜ。ぐるっと回って買い手側の門から入ってくれ。」
ふむ、面白い言葉が出てきたな……
半世紀前なら四方の門から簡単な検問を受ければ自由に出入り出来たはずなのだが話によると今は二つしか門がなく荷馬車が入っていく門は納品専用になるわけだ。
教えてくれたことに感謝しながら我々は回り道用に出来た街道を歩いて半周する形で買い手用の門に向かった。
こちらは先ほどの荷馬車だけではなくちゃんとした馬車や馬に乗った人や行商が出入りしているのが見えたので人混みに混ざって複数ある受付まで進むことにした。
「ようこそ騎士様、入門証はお持ちで?」
「入門証?」
どうやら半世紀の間にセキュリティも確立されたようで聞き返すと受付の少し化粧が濃いめの女性が説明してくれた。
このオサカに初めて入る時に入関税と一緒に入門証を発行するのだがランクが存在するという。一般が銅製、次が銀製、最高が金の三つがあり我が何故ランクが存在するのか尋ねれば街の内部と関係していた。
この街は支配者がいる城を頂点にピラミッド式で区分されており、入門証のランクによって入れる区画を制限しているのだとか。
「説明は以上です。どの入門証になさいますか?」
受付待ちをしている人のことを考えて手短に説明してくれた受付は三つの入門証を見せて尋ねてくる。ここは今のオサカの街について把握したいので一番上の入門証にしておこう。
金の入門証を選ぶと金貨一枚を要求されたのでゾドラの分も合わせて支払い名前を問われたので伝える。どうやら入門証に名前を刻み込む仕組みらしく女性は自分の斜め後ろにある魔道具らしき機械に金の入門証を置くと操作して作り上げ渡してきた。
「改めまして、ようこそオサカへ。ぜひ良いお買い物をしてお帰り下さいませ。」
受付に笑顔で見送られつつ我々はいよいよ半世紀後のオサカに入った。
最初の視界に入ったのは商店街のみたいにお店が並ぶ大通りであり人間や小さい馬車が行き来していた。お店に関しては食品や雑貨など一般的なもので半世紀前を思い出させる活気があった。
ただ今の目的はシコクの情報を得ることなので買い物はまた今度にしよう。
「旦那様、どこで情報を集めます?」
「任せておけ、こういう時は飲食店に寄れば小さくともあるものだ。」
まあこれは前世の知識と勇者一行との冒険で得た経験を元にだが我々は酒場に向かった。
幸い一目でわかる看板が存在してくれたおかげですぐに一軒見つけて中に入りシコクの情報を得ようとした。
「シコクだって?」
「ああ、ここから海を隔てた西の島国だ。」
「島国…ああ黒影島のことか。あそこはもう人間の行く場所じゃねぇよ。」
食堂を経営する男性から早速情報を得られたが名前が変わっていた。
さらに別の老舗っぽい酒場で聞けばシコク改め黒影島はもう四十年近くどの国々も手を出しておらず詳しく知る者はもう少ないだろうとのことだった。
この話だけで少し疑問に思ったことが二つある。
一つは何故魔王が倒されてからもシャッテンは黒影島から出なかったのか。
もう一つは何故勇者一行はシャッテンを倒しに行かなかったのかである。
特に勇者は王様になったのだから軍も率いて遠征も行えたはずだ。
まだ魔族が占拠していることよりも他種族を奴隷にすることの方が勇者にとって大事だったというのであれば呆れてしまいたくなる。
(ん?街の中に関所か?)
情報を得ながら大通りを真っ直ぐ進んで行くと視線の先に大人二人分の壁と関所らしきものが見えた。
なるほど、ここで入門証の出番というわけだな。
そう思って歩みを止めずに進んで行けば予想通り関所の近くにいた兵士が近寄ってきた。
「失礼ですがここからは銀以上の入門証の方のみとなっております。お見せいただけるでしょうか?」
兵士の言葉に頷いてから金の入門証を見せれてやればどうぞお通り下さいと一礼して返してから閉じていた両開きの鉄製の格子門が開かれ我々が通り過ぎるとすぐに閉められた。
ちゃんとしたセキュリティに感心したのも束の間で、前を見れば先ほどとは光景が一変していた。
ここも大通りなのだろうが自分から見て右手が高級そうな服飾店、左手が檻の中に人間や魔獣が入っていることから奴隷商なのだろう店が並んでいた。
まるで光と影のようにして続く店の数々を眺めながら進んでいくと左右から声を掛けられる。と言っても服飾側はゾドラに、奴隷商側は我にという感じであった。
「全くヒト族はどうしてあんな目立つものを身につけたがるのでしょうね。理解し難いです。」
「ふふ、そう言っている割には我の与えた装備を気にする様子はないようだが?」
一応ゾドラに与えた防具には装飾が入っているので我が言ってやるとゾドラはすぐに旦那様のは別格ですからいいのですと返された。
改めて奴隷商の方を見ると檻にいるヒト族は人間ばかりで子どもや目付きの悪そうな者など老若男女であった。
てっきり今の世ならば他種族の奴隷商をやっていると思っていたので少し拍子抜けした気分になった。
だが次の区画、つまり金の入門証で入れる門を通るとその考えが早かったことを思い知った。
そこは歓楽街という名の監獄であった。
風俗店の前には肥えた豚と下卑た笑みのある男が並び、飲食店にも酔っぱらいが首輪を付けられたエルフに抱きついたというのに周りは笑うばかり。
さらに裏路地にはスキルを使ってなかったらわからないくらいあんなに痩せたところは見たことがないと思ってしまうほどのドワーフがうつ伏せで動かなくなっていた。
そのドワーフはすぐに伸びてきた手に足を掴まれ引き摺られて消えてしまう。
当然奴隷商もあるが商品は全て人間を除いた種族ばかりで子どもと女性しかいなかった。
終いには最奥の会場ではオークションが開かれており薄着のエルフや獣人などの女の子が現れては歓声と貨幣が飛び交っているのも見えた。
結論からして、銅の区画は本当に一般向け、銀の区画はそこそこの財力を持つ地方領主とか商人向け、そして金の区画は爵位の高い者達の遊び場という仕組みに今のオサカの街は変わっていた。
「醜悪、とはこのことを言うのですね旦那様。今すぐ街を焼き払ってやりたいです。」
大きくため息をついて言うゾドラの横で見てきた我の中に黒い炎が灯されていた。
それはもはや活気と笑顔の溢れたものから欲望にまみれたものへと成り下がってしまったオサカに対してもあるがこれまで見て聞いたこの世界にもであった。
先のパーサー達の扱いから始まり勇者の人間至上主義。さらには同族が同族を売ろうとする卑しさと聖女が行方不明だと言うのに半世紀も何もしない国々に対して煙を上げていただろうこの怒りの炎はオークションで涙を必死に堪える少年少女達を見て油が注がれていた。
これが勇者が救ってみせた世界なのか。
これが勇者の唱えた主義の結果なのか。
これが勇者のせいで作られた世界なのか。
これが、これが!これが!?コレが!!
(こんなのが!聖女が悲しむであろうこの光景が!あいつの望んだ世界なのかぁ!!)
静かに、それでも大火の如く燃え上がる怒りの余波はゾドラへと伝わり冷や汗を噴き出させる結果となるのを知らずに我は心に決めた。
もう誰の命令も聞く必要のない今ならば……。
間違った道を進んでしまった世界ならば……。
黒とわかっていても救いを求める者がいるのならば……。
いいだろう、今回は存分にやってやろう。
魔族としての美徳?気品ある振る舞い?なるべく目立たない行動?
そんなの今は大海に投げ捨てたいほどどうでもいい!
この間違った世界に歯向かう叛逆者の仕業としてここは大いにやってやろう!
「…ゾドラよ。シコクに行くのは少し延期とする。」
「は、はい。では何を?」
我から受けた気迫に恐る恐る聞いてきたゾドラへと我は視界の先にある城に向けて言った。
「このオサカの街を、我が色に塗り潰してやる…!」
空が明るきゃ影は生まれる。
日が傾きゃ影は伸びる。
ヒトが動きゃ影も動く。
獣が走りゃ影も走る。
鳥が飛びや影も飛ぶ。
(影よ影よ。探しておくれ。影が報せた彼を探しておくれ。)
そして見つけたら呼んでおくれ。
妾が待っていたと伝えておくれ。
五十年待ち焦がれていたと聞かせておくれ。
(影よ影よ。見つけて送れ。そして再び楽しみましょう。)
五十年ぶりの闘争を……
***
「それで、シコクはまだ健在しているのか?」
「少なくとも私が去る三十年前までは存在していました。」
ゾドラを蘇生した我はすぐに大黒林に戻った。ちなみにエイムに負けたセルシウスはシレトコ島の守護者的な存在なので生かしてあげることにしたが、エイムに対してライバル心が芽生えてしまったようで再戦を臨むようなことを言っていた。
大黒林に戻ってから改めてゾドラに尋ねれば詳細を話してくれた。
影の都シコクとはこの星の南西部に位置し今いる北の大陸より一回り小さい海に囲まれた場所だが寒さとは無縁の一年中温暖な気候の島にある国である。
何故そこが影の都と呼ばれているのは君臨する魔族の存在が大きい。
「よもや魔王様が倒された後でもシャッテンは生きておったのか。」
「はい、ただの軍隊では都に近づくことすら出来ずに壊滅させられますので。」
影女将シャッテン。
シャドウ族と呼ばれる種族のトップであり影魔法と呼ばれるスキルを使ってシコクを侵攻し占拠してみせた功績からシコクに対する全権を承った強者である。
ちなみにゾドラは我が勇者に倒されてから約十年間はシコクにいたらしい。
「噂等で聞いたことはありましたがやはりお強いのですか?」
話し合いの場に参加していたパーサーの問いかけにエイムが語る。
魔界時代に我とシャッテンは敵同士で出会い戦った。
我は魔王の軍門に下らせる為に交渉役として向かったのだがシャッテンは戦いを望んだ。
「でもそこでね、マスターは一対一を提案したんだ。」
どちらか勝てば相手の軍に下るという条件の元始まった戦いは三日三晩続いた。
離れて見ていた双方の軍勢もこの戦いは記録に残るであろうと……
「待て待てエイム。お前それは誇張し過ぎだぞ。それに正確には我とシャッテンは戦っていない。」
「と、言いますと?」
ここからは我から話してあげた。
シャッテンが戦いを望んできたので我は確かに一対一の勝負を申し込んだ。
だがさらに我はもう一つ勝敗条件も用意したのだ。
シャッテンの攻めを我が全て防ぎきれたら勝ち負けとすることと。
「だから公言通りに我はシャッテンの攻撃を全て回避と防御だけで済ませたのだ。」
しかしシャッテンから今度は攻守交代だと言ってきて結果三日三晩戦うことになったのである。そのせいで前世の琵琶湖くらいの面積を更地にしてしまったと思っているのは我だけであろう。
「それで勝敗は?」
「残念だが、そこへ魔王様が現れて疲れたシャッテンを捕まえ連れていってしまってな。一応引き分けという形になっている。」
その後シャッテンは軍門に下りシコク侵略の任務を見事やり遂げてみせ支配者として君臨したのである。
その間に我が何をしていたかというのは今は省略させていただく。
ともかく今はこの世界の国々の情報を細かく知るにはシャッテンから聞くのが一番早いということならシコクに向かいたいところだが……
「だがあいつが嫌がって【次元転移】の魔方陣はシコクにない。飛んでいくしかないな。エイムよ、ミケラとパーサー達と共にここを頼む。今回は我とゾドラで向かうとしよう。」
我が指示したことにエイムはまた留守番かぁと呟き、ゾドラはすぐに表情をパアッと明るくさせる。半世紀ぶりだからゾドラに同行させてやろうという配慮であったがこうも顔に出されるとこちらも嬉しく思う。
どうせなので留守番するエイムには別の任務を与えてやろう。
「エイム、お前には訓練教官になってもらう。パーサー達防衛班の強化を目的にだ。」
「へぇ、面白そうだね。いいよマスター、シャッテンによろしくね。」
やる気を見せたエイムに返事してから話が決まったので早速シコクへと向かうことにした。
「では旦那様、どうぞ。」
さも当然とばかりにゾドラが片膝を着いて背負う態勢を取ってきた。
いやいやゾドラよ、確かにかつてお前の背中に仁王立ちして大空を飛んだことは幾度もあった。
しかし、今のお前は女性としては高身長だがヒト型なのだ。
況してや二メートルを超える鎧男の我がドレス型の甲冑を身につけた女性を尻に敷いて飛ぶ姿なんて見せたくない。
「ん?……あっ!失礼しました旦那様!私もう大きくないんでした。」
少ししてゾドラも気づいて謝罪してくれたので笑いながら気にするなと返す。
「それにゾドラよ。ここから空を飛ぶわけではない。一度シコクに近い場所に【次元転移】してから向かうのだ。」
その場所はシコクと海を隔てた場所にある太陽の街オサカ。ここはかつて勇者一行とガレオが初めて遭遇する街でもあった。
半世紀前なら他種族が入り交じる商売の街であったが今どうなっているかは行って直接確かめるとしよう。
転移の為にゾドラに近くに来るよう言うと何故か胸を押しつけるほど密着してきたので視線を向ければ幸せな笑みを向けてきた。
正直美人な彼女にこうされるのは男冥利に尽きるのだろうが我はミケラと同じアイテムを着けさせ角と鱗を隠してあげてからオサカの近くに用意した魔方陣へと【次元転移】した。
二秒くらいの暗転からすぐに見えてきたのは岩の壁であった。
ここは海岸にある洞窟なのでさっさと出て街を見に行こうとした時、下からひっ!と女の子っぽい声が聞こえてきた。
「旦那様、どうやら私達囲まれておりますわ。ヒト族の子ども達に。」
ゾドラに言われて我も周囲を確認すれば蝋燭のみの灯りがある中で小学生くらいの子どもが全員こちらを見ていた。
もしかしてと外に続く方に視線を向ければ案の定格子が存在していた。
どうやら半世紀経ってこの洞窟は牢屋になっていたようだ。
そしてここにいる子ども達は全員獣の耳と尻尾を生やしているところから見て獣人族であろう。
モフモフを生やした子ども達に囲まれた鎧男と黒龍人、というのが今の状況だ。
「いかがしますか旦那様?子どもとはいえ獣人族。命令すれば排除いたしますが?」
鋭い爪を見せて子ども達を見下ろすゾドラの言葉に我は呼び掛けて振り向いた彼女の額を人差し指で弾く。
「ゾドラよ。我が昔言っていた方針は?」
「えっと、強者は弱者を支える存在ですか?」
「そうだ。今の世で人間以外は保護する対象としてこれから行動するように。」
我の指示にゾドラが了承したのを確認してから改めて子ども達を見る。どうやらエルフやドワーフと違い鉄の輪と鎖を使った簡素な枷で拘束しているようだ。
ここで子ども達を助けてやってもいい。だがこんなところにいるということは遠くから連れ拐われた可能性が高い。今解放したところで帰り道がわからないならまた捕まってしまうだろう。
なので一旦子ども達は保留してまずはオサカの街に行くことにしよう。その前準備として我は確認した子ども達の中で一番成長していそうな青年に近寄る。
薄暗い中でも綺麗な空色の髪に狐っぽい尻尾と耳を生やした彼を見下ろしながら言った。
「……名は?」
「え…?」
「お前の名前はと聞いている。」
「ア、アズベルド……」
鎧の大男に見下ろされて警戒しているアズベルドに片膝を着いて彼の手枷の鎖を掴み続ける。
「問おうアズベルド。お前は自由を求めるか?服従を望むか?」
我の問いかけに青年アズベルドは目を見開いてから軽く下を向いて黙る。恐らく自分の立場とこちらの問いかけの解釈で悩んでいるのだろう。
我を奴隷を買いにきた者だと判断したかもしれないがアズベルドの返事を静かに待つ。
「…俺は、俺達は……自由を求める!人間族には!決して屈しない!」
顔を上げて睨み付けるようにしながら答えたアズベルドにそれでよし!と返して鎖を引き千切ってあげた。
驚くアズベルドをよそに足枷の鎖も破壊してやれば格子の方に向かい左手を当てればぐいっと左に動かした。
それだけで格子はまるでカーテンのようにいとも簡単に変形して我が通れるくらいになったことにアズベルドを含めた子ども達は唖然とする。
「まだここから出るなよ?少ししたら戻ってくるから。それまではお前が子ども達を護れ。」
アズベルドに向けて言えば通り抜けてからゾドラを連れて外に出ようと進む。そこへ出口の方から数人の男達の話し声と足音が近づいてくるのを感じた。
どうせ録な連中ではないだろうと思っていれば同じく思っただろうゾドラが歩きながら呟くように唱えれば彼女の口から赤黒い炎が漏れ出すのが見えた。
次の瞬間、前に跳んでから軽く身体を反らしてすぐに前のめりになると同時に口を開きドラゴン族の定番と言えるブレスを使ってみせる。
放たれたブレスから感じたのは火属性と闇属性だったことに邪炎のブレスだと理解した。
洞窟内を明るくさせながら前へといくブレスは短い悲鳴を聞かせてから数秒で消える。
「失礼しました旦那様。お目にかける必要がないと判断いたしました。」
「構わぬ。どうせこれから見に行くのだからな。」
こんなところをくる輩など末端の者ぐらいだろうから百聞は一見に如かずの情報しか持ってないだろうし、こちらの意図を察して行動してくれたゾドラに感謝したい。
「あわわわわ…!」
なんて思ってたらまた無意識に手が動いてゾドラの頭を撫でてしまっていたようで彼女が硬直していた。
「む、すまんすまん。こうしてお前を撫でられる日がこようとはな。」
「い、いえ!旦那様にこうしてもらえるならばさらに精進いたします!そしていずれは夜伽にもなりましょう!」
…こいつ今最後にすごいこと言わなかったか?
ていうかだから夜の相手とか出来ないってエイムと一緒に言ったはずだよな。
そりゃあこんな美人を抱けるなら最高だと思う。だが改めて言おう、もう我に剣はないのである。
「あ~ゾドラよ。夜伽など考えるでない。我はダークアーマー族なのだから。」
「そんなことありませんわ旦那様!可能性はゼロにはならないと昔仰ったではありませんか!進化した私ならば孕む可能性もゼロではないということでしょう?」
何故鼻息を鳴らしてまで言い切ってくるのかわからないがとりあえずこの話は中断するとしよう。我は咳払いしてから止めていた足を動かし外に出れば美しい海辺が見えた。
オサカはこの海辺が観光地となっているのだがヒト族どころか人間もいないことに疑問を感じた。
しかし街の方を見て少し驚かされた。
半世紀経ったオサカの街は尖らせた丸太の壁から石造りの壁へと姿を変えていた。
随分と見違えたなと思いながら門のある方に視線を向ければ荷馬車が列を成していた。
そこはやはり商売の街であったかと思ってからこのまま少し目立つのでまたガレオの姿に変わってから見つけた門兵らしい人間に歩み寄ってみた。
「ん?うわっ!?なんだあんた達は!?」
「すまないが、ここはオサカの街だろうか?」
「あ、ああそうだ。てことはあんた買い手の方か?なら悪いがこっちは違うぜ。ぐるっと回って買い手側の門から入ってくれ。」
ふむ、面白い言葉が出てきたな……
半世紀前なら四方の門から簡単な検問を受ければ自由に出入り出来たはずなのだが話によると今は二つしか門がなく荷馬車が入っていく門は納品専用になるわけだ。
教えてくれたことに感謝しながら我々は回り道用に出来た街道を歩いて半周する形で買い手用の門に向かった。
こちらは先ほどの荷馬車だけではなくちゃんとした馬車や馬に乗った人や行商が出入りしているのが見えたので人混みに混ざって複数ある受付まで進むことにした。
「ようこそ騎士様、入門証はお持ちで?」
「入門証?」
どうやら半世紀の間にセキュリティも確立されたようで聞き返すと受付の少し化粧が濃いめの女性が説明してくれた。
このオサカに初めて入る時に入関税と一緒に入門証を発行するのだがランクが存在するという。一般が銅製、次が銀製、最高が金の三つがあり我が何故ランクが存在するのか尋ねれば街の内部と関係していた。
この街は支配者がいる城を頂点にピラミッド式で区分されており、入門証のランクによって入れる区画を制限しているのだとか。
「説明は以上です。どの入門証になさいますか?」
受付待ちをしている人のことを考えて手短に説明してくれた受付は三つの入門証を見せて尋ねてくる。ここは今のオサカの街について把握したいので一番上の入門証にしておこう。
金の入門証を選ぶと金貨一枚を要求されたのでゾドラの分も合わせて支払い名前を問われたので伝える。どうやら入門証に名前を刻み込む仕組みらしく女性は自分の斜め後ろにある魔道具らしき機械に金の入門証を置くと操作して作り上げ渡してきた。
「改めまして、ようこそオサカへ。ぜひ良いお買い物をしてお帰り下さいませ。」
受付に笑顔で見送られつつ我々はいよいよ半世紀後のオサカに入った。
最初の視界に入ったのは商店街のみたいにお店が並ぶ大通りであり人間や小さい馬車が行き来していた。お店に関しては食品や雑貨など一般的なもので半世紀前を思い出させる活気があった。
ただ今の目的はシコクの情報を得ることなので買い物はまた今度にしよう。
「旦那様、どこで情報を集めます?」
「任せておけ、こういう時は飲食店に寄れば小さくともあるものだ。」
まあこれは前世の知識と勇者一行との冒険で得た経験を元にだが我々は酒場に向かった。
幸い一目でわかる看板が存在してくれたおかげですぐに一軒見つけて中に入りシコクの情報を得ようとした。
「シコクだって?」
「ああ、ここから海を隔てた西の島国だ。」
「島国…ああ黒影島のことか。あそこはもう人間の行く場所じゃねぇよ。」
食堂を経営する男性から早速情報を得られたが名前が変わっていた。
さらに別の老舗っぽい酒場で聞けばシコク改め黒影島はもう四十年近くどの国々も手を出しておらず詳しく知る者はもう少ないだろうとのことだった。
この話だけで少し疑問に思ったことが二つある。
一つは何故魔王が倒されてからもシャッテンは黒影島から出なかったのか。
もう一つは何故勇者一行はシャッテンを倒しに行かなかったのかである。
特に勇者は王様になったのだから軍も率いて遠征も行えたはずだ。
まだ魔族が占拠していることよりも他種族を奴隷にすることの方が勇者にとって大事だったというのであれば呆れてしまいたくなる。
(ん?街の中に関所か?)
情報を得ながら大通りを真っ直ぐ進んで行くと視線の先に大人二人分の壁と関所らしきものが見えた。
なるほど、ここで入門証の出番というわけだな。
そう思って歩みを止めずに進んで行けば予想通り関所の近くにいた兵士が近寄ってきた。
「失礼ですがここからは銀以上の入門証の方のみとなっております。お見せいただけるでしょうか?」
兵士の言葉に頷いてから金の入門証を見せれてやればどうぞお通り下さいと一礼して返してから閉じていた両開きの鉄製の格子門が開かれ我々が通り過ぎるとすぐに閉められた。
ちゃんとしたセキュリティに感心したのも束の間で、前を見れば先ほどとは光景が一変していた。
ここも大通りなのだろうが自分から見て右手が高級そうな服飾店、左手が檻の中に人間や魔獣が入っていることから奴隷商なのだろう店が並んでいた。
まるで光と影のようにして続く店の数々を眺めながら進んでいくと左右から声を掛けられる。と言っても服飾側はゾドラに、奴隷商側は我にという感じであった。
「全くヒト族はどうしてあんな目立つものを身につけたがるのでしょうね。理解し難いです。」
「ふふ、そう言っている割には我の与えた装備を気にする様子はないようだが?」
一応ゾドラに与えた防具には装飾が入っているので我が言ってやるとゾドラはすぐに旦那様のは別格ですからいいのですと返された。
改めて奴隷商の方を見ると檻にいるヒト族は人間ばかりで子どもや目付きの悪そうな者など老若男女であった。
てっきり今の世ならば他種族の奴隷商をやっていると思っていたので少し拍子抜けした気分になった。
だが次の区画、つまり金の入門証で入れる門を通るとその考えが早かったことを思い知った。
そこは歓楽街という名の監獄であった。
風俗店の前には肥えた豚と下卑た笑みのある男が並び、飲食店にも酔っぱらいが首輪を付けられたエルフに抱きついたというのに周りは笑うばかり。
さらに裏路地にはスキルを使ってなかったらわからないくらいあんなに痩せたところは見たことがないと思ってしまうほどのドワーフがうつ伏せで動かなくなっていた。
そのドワーフはすぐに伸びてきた手に足を掴まれ引き摺られて消えてしまう。
当然奴隷商もあるが商品は全て人間を除いた種族ばかりで子どもと女性しかいなかった。
終いには最奥の会場ではオークションが開かれており薄着のエルフや獣人などの女の子が現れては歓声と貨幣が飛び交っているのも見えた。
結論からして、銅の区画は本当に一般向け、銀の区画はそこそこの財力を持つ地方領主とか商人向け、そして金の区画は爵位の高い者達の遊び場という仕組みに今のオサカの街は変わっていた。
「醜悪、とはこのことを言うのですね旦那様。今すぐ街を焼き払ってやりたいです。」
大きくため息をついて言うゾドラの横で見てきた我の中に黒い炎が灯されていた。
それはもはや活気と笑顔の溢れたものから欲望にまみれたものへと成り下がってしまったオサカに対してもあるがこれまで見て聞いたこの世界にもであった。
先のパーサー達の扱いから始まり勇者の人間至上主義。さらには同族が同族を売ろうとする卑しさと聖女が行方不明だと言うのに半世紀も何もしない国々に対して煙を上げていただろうこの怒りの炎はオークションで涙を必死に堪える少年少女達を見て油が注がれていた。
これが勇者が救ってみせた世界なのか。
これが勇者の唱えた主義の結果なのか。
これが勇者のせいで作られた世界なのか。
これが、これが!これが!?コレが!!
(こんなのが!聖女が悲しむであろうこの光景が!あいつの望んだ世界なのかぁ!!)
静かに、それでも大火の如く燃え上がる怒りの余波はゾドラへと伝わり冷や汗を噴き出させる結果となるのを知らずに我は心に決めた。
もう誰の命令も聞く必要のない今ならば……。
間違った道を進んでしまった世界ならば……。
黒とわかっていても救いを求める者がいるのならば……。
いいだろう、今回は存分にやってやろう。
魔族としての美徳?気品ある振る舞い?なるべく目立たない行動?
そんなの今は大海に投げ捨てたいほどどうでもいい!
この間違った世界に歯向かう叛逆者の仕業としてここは大いにやってやろう!
「…ゾドラよ。シコクに行くのは少し延期とする。」
「は、はい。では何を?」
我から受けた気迫に恐る恐る聞いてきたゾドラへと我は視界の先にある城に向けて言った。
「このオサカの街を、我が色に塗り潰してやる…!」
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