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第三章 半世紀後の世界。
久しぶりに観光と参ろう。
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「ーー…準備はいいかミケラよ?」
「はい大魔将軍様!いつでも人間と戦えますよ!」
鉢金や肩当て等の防具が外され袴着姿のみでやる気を見せるミケラに我は違うと言って優しくチョップした。
頭に受けたチョップにミケラは猫っぽい声を出して後ずさり両手で叩かれたところを押さえる。
「我々の目的は人間の街に潜入して鉄を確保することにある。よって今回は隠密任務であり、一切の戦闘を禁ずる。」
我がそう言った理由は建設にある。
船と家の建設をより良質なものにする為にとドワーフから釘などに必要な金属を求められた。
確かに船や家をより良くすれば寒波に強くなれるし安全に海路も進めることになるので我はならば人間の街から購入してこようと決めた。
しかし半世紀前ならば彼らに品定めしてもらいながら買い物することも出来ただろうが今は無理なので大黒林の守りをエイムに任せて我とミケラが素材である鉄を購入することにしたのだ。
エイムは自分が行った方が安全だと思うなんて主張してきたが森の守護神として一番信頼に置ける者に任せたいと言って納得させた。
まあ我も久しぶりに海の都ミネトンに観光しに行きたいからという理由が入っているのは個人の秘密である。
「ついでにこれも被っておけミケラよ。」
そう言って我は倉庫から紫色のヘアバンドを出してミケラに着けさせてから呪文を唱える。
するとケット・シーの名残りである猫耳と尻尾が薄くなってから完全に消えてしまったことに周りが驚く。
しかしミケラの耳と尻尾が本当に消えたわけではなく現に本人には自分の尻尾が見えているのだ。
これも魔法のアイテムで幻影魔法が付与されており装着した者の容姿を周りの視線には違うように変えることが出来る。
これで街に入っても珍しい服装の女性程度の印象にしかならないはずだ。
「でも大丈夫ですか大魔将軍様?大魔将軍様はとっても大きくて目立ってしまうと思うのですが?」
ミケラの言う通り二メートルを優に越える体格に全身漆黒の大鎧は人間の街に入ったら間違いなく目立つであろう。
しかしそんなこと百も承知であり、我が考えていなかったとでも思ったか?
「問題ない。何故なら、【鎧変形・軽装】!」
我が久しぶりに唱えると鎧が縮むように動き身長は百八十メートルくらいに甲冑は貴族の屋敷に飾られてそうな形へとなった。
さらには盾も変形させ丸いバックラー型にすれば人間の街に入っても問題ない向こうで言うところの冒険者っぽい姿になったはずだ。
(あとは、資金と入れ物だな。)
そう思って倉庫からクリーム色の袋と狐色の小袋を取り出し小袋は腰のベルトにくくりつけ、袋はミケラに持たせる。
時間はもう朝を過ぎた頃なので街の門も開いているだろう。
門から離れた雑木林の中に【次元転移】の魔方陣がセットしてあるのでまずはそこに飛ぶことにした。
「では行ってくる。帰ってくるまで頼んだぞ皆。」
「うん!任せてマスター!」
我は一言かけてからミケラを呼び寄せると【次元転移】を発動させた。
数秒間の暗転の後に視界に広がったのは半世紀前とあまり変わらない光景であったことに我は内心ほっとした。
雑木林を二人で抜けると海の都ミネトンの出入り口である門があり入関の為に少し列が出来ていた。
「ミケラ、我が出した街に入って出るまでの間の禁則事項を述べよ。」
「はい!こちらからは手を出さない。興味があっても離れない。美味しいものに釣られない。びっくりしても大きな声を出さないです。」
ミケラの返事に大きく頷いてからいよいよ門に足を進める。受付の兵士から街に入る為の入関税を求められたので小袋の口を開いて指を入れ銀色の表面に円が刻まれた程度の簡素な硬貨を渡す。
「んん?あんた田舎上がりか遺跡にでも行った帰りかい?久しぶりに懐かしい銀貨を見たぜ。」
受け取った中年の兵士がそう言ってきた。
この世界の貨幣は半世紀前ならこの形で素材と大きさに差があり、上から大金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉛貨に分かれていた。
相手の返事を聞いて我が話を合わせながら今は違うのか尋ねるとどうやら全ての貨幣にあの聖剣を模した模様が両面に彫られているのだとか。
こういうことは先にパーサー達に聞いておけばよかったなと我は反省した。
「欲しいんだったら奥の建物にある両替所で交換してきな。でないとこのままじゃあ偽金扱いされるかもしれないからよ。」
「忠告感謝する。早速向かわせてもらうとしよう。」
会話を済ませると我はミケラを後ろに早速指示された両替所に向かった。
半世紀前よりも通りの人の量は増しており活気があって平和になったが故の影響だと思えた。
海の上に立つ建物は貿易センターも兼ねているようで所々に商人や物が存在しておりその中を黒い甲冑の男と見慣れない服装の女性が歩いて通るのはいささか注目を集める結果になったが気にせず両替所の看板が吊り下がっている受付の一つに向かった。
「いらっしゃいませ冒険者様。ここは硬貨の両替を行っております。どれを両替いたしますか?」
見た目でこちらを冒険者だと決めつけた女性の受付が業務挨拶をしてから尋ねてきたので貨幣の交換を依頼した。
受けた彼女は小銭が乗せられる程度の長方形の木の平皿を出してきた。
多分冒険者だから少ない額の両替だろうと思われているようなので悪役として少し意地悪したい気持ちに駆られた。
「…これに乗せてよいのか?」
「ええ、すぐに査定して両替いたしますので。」
営業スマイルで気持ちのこもってない返事をしてきた相手に我はそうかとだけ呟けば小袋を片手に持って口を開けると下に向ける。
少ししてチャリンチャリンと音を鳴らしながら半世紀前の銀貨と金貨が受け皿に落ちていき始めたかと思いきや土嚢から砂を出すように大きな金属音を立てて次々と硬貨が出てきた。
実はこの小袋は魔法のアイテムであり名を〔強欲の財布〕と呼ぶ。
簡単に言うなら中は【異空間倉庫】の縮小版みたいになっており袋の口から入れられる物質ならばなんでも入るが我は半世紀前の侵略の時、戦利品として得た硬貨をこの袋に入れてきたのでいつしかそう呼ぶようになった。
とりあえず受け皿の容量を越え一山ほどの銀貨と金貨を出してみせた。
「すぐに査定してくれるのだろう?よろしく頼む。」
口の紐を結んで閉じると腕を組んで我は受付の女性を見下ろしながら言う。兜で見えない顔から言葉と共に視線と圧力を受けた彼女は大慌てでお待ち下さいと言ってから裏に走り去ってしまった。
木の板で隔てられた左右の同僚も何があったのかと覗いては驚いてみせたことに我は内心喜んだ。
少ししてからいかにも上役っぽい服装と眼鏡の男性が現れると硬貨の山に驚いてから事情を尋ねてきた。
「これは古い遺跡にあったの見つけたのだ。きっと誰かの隠し財産だったのだろう。全て古い物だからしかと査定して換金してもらいたい。」
適当に我が言うと上役の男性は了承と共に時間が欲しいと申してきた。
まあこれだけの量を出されたら偽金かどうかも含めてじっくり査定する必要があるだろうから我が日数を尋ねれば向こうは早くて一日は欲しいと言ってきた。
そこで今出した硬貨の内、金貨と銀貨を三枚ずつだけでも換金してもらえるよう申請する。
これは査定が終わるまでの間の宿代と買い物の資金の予算としてという名目を立てる為だ。
我の出した申請にそれくらいならすぐにでもと男性はこちらに一礼してから他の人も呼んで作業に当たらせる為に出された硬貨を二人がかりで集めると再び裏へと去っていった。
待つこと約十分弱で最初に受付してくれた女性が額に汗を滲ませながら戻ってくると申請した通り金貨と銀貨が三枚ずつ乗った受け皿をこちらへと出してきた。
ついでに多分上役から言われたのだろうお薦めの宿の名前と道まで本人のサインが入ったメモと一緒に教えてもらった。
宿には後で伺うとして我とミケラは一旦貿易センターから出ることにした。
「時間がかかるなら仕方ない。ミケラよ、ここからはお前の社会勉強としよう。」
「社会、勉強…?」
「うむ、お前は初めて人間の街にきた。ならばここで人間がどのような生活を送っているのか我の隣でよく観察してみせよ。」
我の指示にミケラは瞳を輝かせて大きく返事をしてみせたので二人で街を歩き回ることにした。
半世紀ぶりにくるミネトンの街並みを眺めながら船着き場まで歩く。その間ミケラはキョロキョロと左右を見ながら言われた通り人間の生活を観察していた。
通りで会話する者、店先で談笑する者、追いかけっこする子どもや街の中心にある噴水広場のベンチに腰掛けて休んでいる老人をミケラは見てきっと似たことを思っていることだろう。
だから船着き場まで来た時に我は尋ねた。
「さてミケラ。ここまででお前はどう思った?」
「ふえ?どう思った?」
「人間の街と人々を見てお前は何を感じたか率直に申してみよ。」
ただ見聞きさせて帰らせるだけでなくこちらから尋ねて考えを聞く。
これもまた眷属もとい店員の成長に繋がることだと我は思っているので昔から続けてきたやり方だ。
問いかけにミケラは腕を組み身体を少し傾けて考えてから答えた。
「んゆ~…ヒト族も私達とあんまり変わらないと思います。子どももいて、老人もいて、助け合って生きているように見えました。ただ固そうなおうちばかりで寝心地が悪そうです。爪磨ぎには苦労しないと思いますが。」
素直な考えを口に出してくれたミケラに我は頷く。今はまだそれくらいでも全ての人間が悪い者ばかりではないという考えを心の片隅にでも持ってくれたのならばよい学習となったはずだ。
小さな社会勉強を済ませた我は紹介してもらった宿に移動した。
見た目からして二階建ての屋敷のような形であり中に入ると受付の女性がこちらに気づいて少し驚いてみせたがすぐに平静を装って挨拶してきた。
貿易センターの者から紹介されたことを伝えメモも見せればサインを見て確かにと頷いてみせ一人一泊銀貨二枚と掲示された。
こちらは銀貨三枚しか持ってないが確か金貨一枚が銀貨十枚の価値なのでここは金貨を渡してお釣りをもらうことにした。
二階に上がり部屋に案内されるとやはり値段にあったベッドが二つある広い室内だった。
ミケラは初めて見るベッドに興味津々だったので飛び込んでみろと言えば猫らしく前のめりに乗る。
「ふわあ…すごく柔らかいですぅ。それに暖かくて心地よいですぅ……」
そのままゴロゴロと左右に転がってからミケラはベッドのあまりの心地よさに雑魚寝を始めてしまった。
まあ街中を進む間ミケラはずっと気を張っていたようなので精神的な疲労があったのだろう。
休眠状態以外で睡眠を必要としない我はミケラが眠っている間に一つ調査しておこうと一階に降り受付に尋ねた。
「すまないが、冒険者ギルドはこの街にあるか?」
「はい、ここを出て左に突き当たりまで進んでから右に曲がって行くと青い屋根の建物が冒険者ギルドです。」
わかりやすく教えてくれた受付に感謝と連れが部屋で眠っているから起こさないよう伝えてから宿を出ると冒険者ギルドに向かった。
言われた通り進むと街の角に当たるところに半世紀前にはなかった木造で青い屋根の建物を見つけそこへ冒険者っぽい格好の男女が出入りしているのでここだと判断して中に入る。
中には食堂もあり見慣れない出で立ちの我にそこで席に着いている冒険者達から視線を浴びる中、ギルドの受付に向かった。
「こんにちは冒険者様。初めて見る顔、ですね?登録でしたらここではなく右端の方で行っております。」
見た目二十代くらいの女性がそう言ってきたので我が違うと返せば首を傾げてでは依頼を?と尋ねてきたから我は言ってやった。
「我は流浪の旅人だが、ここのギルドマスターが知り合いかもしれない。名前を教えてくれないか?」
「ギルドマスターのお名前ですか?失礼ですがあなたのお名前をお聞かせください。」
…なるほど、見た目から名前ぐらい簡単に言ってくれるかと思ったが慎重に返されたところを見るに規則と教育はされているようだ。
しかしここで堂々と大魔将軍と名乗って混乱を生むわけにはいかないのでここは適当に名乗るとしよう。
「……ガレオだ。知り合いならこの名前でピンとくるはずだ。」
「ガレオ様ですね。少々お待ち下さい。」
ガレオ、この名は勇者達にとっては裏切り者として覚えられている。
というのも二度目の聖女拉致の際に我が灰のガレオという偽りの姿で勇者達に同行していたからだ。
とある大国が聖女の持つ聖属性の力を兵器として利用するが為に起こした暴挙を止める為に勇者達が救出に向かう折りにいろいろと手助けしてやり無事にやり遂げ油断したところで我が正体を明かして見事聖女をかっさらってみせたのだ。
だからガレオという名前は勇者達や彼らと関係の深い者ならば忘れ難いはずだ。
少しすると女性が戻ってきて報告してくれた。
どうやらギルドマスターは大型の魔獣を討伐する為に冒険者を連れて朝方に出掛けてしまったらしい。
詳しい行き先を尋ねてみたが機密情報らしく彼女の立場だと教えてもらえないそうだ。
だが謝罪としてギルドマスターの名前は教えてもらった。
(よもやあの戦士ヴァンクがここのギルドマスターとは、なんとも縁があるなあいつとは……)
だが先のハコダンテ国王のように半世紀も経っているから彼もいい歳になってしまったことだろう。
となれば先ほど聞いた大型魔獣討伐の話は自分達のことを指している可能性が出てきた。
昔の彼は野生の勘というもので幾度も勇者のピンチを救ってみせたのを我は知っている。
それが働いて大黒林に向かった可能性が浮上した以上、長居は出来なくなった。
(仕方ない。明日にはさっさと買い物を済ませて【次元転移】するとしよう。)
せっかくの観光が思わぬ形で終わらせねばならないことに我はため息を着いてから受付の女性にお礼を言うとその場を後にしようとした。
「…お待ちくださいガレオ様。」
すると、横から別のきちっととしたレディーススーツの似合う女性に声をかけられた。
おそらく受付嬢達の上に立つ人物かと思い我は足を止め振り返って尋ねた。
「何か用かなお嬢さん?」
「お嬢っ!?んん゛っ!……あなた、何者ですか?」
唐突な質問に意図が読めずとりあえず先ほどと同じく旅人だと返せば女性は着けていた眼鏡の位置を直してから言った。
「隠しているようですがあなたから闇属性の気を感じます。今一度聞きます。あなたは何者ですか?」
彼女の発言に聞いていた周りの冒険者達がざわめき出す。それもそのはず、この世界で闇属性は人間に悪影響を与える属性であり、それらを宿した装備は呪われているとして危険視されているからだ。
どういうスキルか魔法の道具を使ったかはわからないがこの女性は探知機のような能力で我が抑え込んで隠していた闇属性を感知してみせたようだ。
「…聞いてどうする?まさか引っ捕らえるなんて言わないだろうな?」
「否定しないということは、呪われた道具を持っているということですね?悪いことは言いません。心まで闇に呑まれる前に外してギルドにお預け下さい。責任を持って浄化しますので。」
女性の答えに我は内心少し驚かされる。半世紀の間にどうやら闇属性を宿した装備を浄化する方法が出来ていたことにだ。
半世紀前だと浄化が出来るのは聖女のみだったはずなのでどういう仕組みか気になるところだがこれ以上余計な詮索も時間も取らされたくない。
「悪いが断る。それに明日にはこの街を出ていくので大事な装備を失って旅をしたくはないのだ。」
お断りの言葉を述べてから我は再びギルドから出ようとした。
しかし背後で女性が何かを唱え始めれば光属性の証である白き魔方陣が彼女の前に展開され中心から同じ輝きの鎖が三本飛び出し我の左腕に盾ごと絡まって捕まえてきたではないか。
「【光鉄鎖】です!逃がしはしません!」
女性がそう言って引っ張る動作をすれば鎖も動き我の左腕が挙がる。
この女性、見た目とは裏腹に光属性の初級魔法を使えるとはどうやら教会の関係者か元神官のようだ。
しかしここまでしてでもこちらから闇属性を外そうとしてくるとは余程闇属性がお嫌いらしい。
「ふう…これ以上は正当防衛という形を取らせてもらう。怪我をしたくなくばこれを外せ。」
「外しません!闇の武具は呪われし物!一つ残らず浄化するのが聖女様の願いなのです!」
忠告したが聞かない彼女にやむを得ないかと残念に思えば我は言ってやった。
「ならば、味わって反省しろ…!」
我は盾へと魔力を注ぎ力を少し解放すれば絡まっていた鎖の色が白から黒へと変わり女性の方へと進んでいけば黒い雷光が魔方陣を破壊してみせた。
魔方陣を破壊された反動で彼女は吹き飛び床を転がると仰向けに動かなくなった。
始終を見ていた職員から副長!と声が上がり数人が女性の元に集まる。
「気絶しているだけだ。では失礼する。それとも、まだやるか?」
去る前に席から立っている冒険者へと視線を送れば向こうは完全に臆してその場から動けずにいたので我はそのまま去ることにした。
ただ名前を聞くだけのつもりが少々大事にしてしまったことは反省しなくてはならないな。
もう少し観光したかったが事情が事情なので明日は朝早くに換金と買い物を済ませることにしよう。
朝一で貿易センターに向かった我とミケラは早速両替所に向かった。
ちなみにミケラは我が戻ってからもベッドの上で眠っていたのでデコピンで起こしてから事情を話し理解させるとせめてものお土産として買ってきたフィッシュ&チップスを与えた。
初めて見て食べるフィッシュ&チップスはミケラにとって衝撃的な味だったようだ。
時間が経って熱くはなかったとはいえものすごい勢いで食べていき十分もしない内に完食してみせた。
ただあまりにも食べ方に問題があったので今後また人間の街に入る時の為にもパーサー達あたりから基本的な食事マナーをミケラに学ばせてあげようと思った。
食事を終えたミケラに我がさっさと行くぞと伝えれば彼女はすぐに返事をし乱れた服装を正したところで宿を出た。
両替所の受付に行くと同じ女性がおりこちらに気づくとすぐに裏へと去っていった。
少しして二つの袋を抱えながら女性が戻ってきたので彼女のいる受付に立った。
「お待ちしておりました冒険者様。こちらが換金した銀貨と金貨になります。銀貨は五十枚、金貨は二十枚、大金貨が十枚となります。」
渡された小袋の口を開ければ銀貨と金貨がぎっしりと詰められていた。
中身を見て確かにと返せばそれを全て強欲の財布に流し込む。空になった二つの袋を返せば別れの挨拶をして我らはその場を後にした。
貿易センターには商店街のように店も構えており船で輸入された品が即日販売されることもある。今回は釘又はその材料となる鉄が欲しいので金属販売の店に向かった。
初老の店主にまずは釘があるか尋ねれば一箱銅貨五枚でと言われた。
家や船を造るからには釘は余るほどあってもよいだろうと店に置いていた十五箱全てと鉄のインゴットを十枚購入した。
「ミケラ、その袋の口を開けよ。」
我がミケラに言って持たせていた袋の口を大きく開かせると購入したものを無造作に投げ入れる。店主がそんなに入れたら袋が破れると言ってきても全て入れてみせると袋の口を締めミケラに担がせた。
「うにゃあ?全然重くないです。これなら走ってもいけそうです。」
持ち上げた時の感覚をミケラが言うと本当に貿易センターの出入口まで走ってみせ店主を驚かせた。
ミケラの持つ袋も強欲の財布と仕組みは同じでこちらは〔盗賊王の袋〕と我は名付けている。こうして今の時代の貨幣も鉄も獲得したので我は街を出ようとミネトンの門に向かった。
「ーー…いいですか!彼は危険人物です!決して油断せずに捕縛が無理なら気絶させるつもりで戦いなさい!」
ところが門が見えてくるとレディーススーツ姿から一変して神官っぽい装備をした昨日の女性が冒険者を集めて見張っているではないか。
昨日のことで危険だと判断して諦めてくれるかと思いきやまさか逆に燃え上がりこのような行動に出ようとはあの女性はもしかするとギルドでもそこそこ上の立場なのかもしれない。
というかそこまでして闇属性の武具が許せないのかとも思ってしまう。
我は物陰から様子を伺いつつそう思って素直に門を通れそうにないなと判断した。
まあスキルを使えば今見える冒険者連中を無力化させることは容易だがこれ以上は冒険者だけでなく街の人にも印象を残してしまい兼ねないのでそれは避けなければならない。
「どうしますか大魔将軍様?強行突破しますか?」
「いやミケラよ。我々は密かに行動しなくてはならない。よってここは別のところからこの街を出よう。」
自分でそう言っておいてなんだが、大事にしてしまった己に叱ってやりたいところだ。
とりあえずその場から街の角にあたるところへと移動した。
人目がほとんどない裏道的な場所に入り込むと我はミケラを傍に呼んでから【次元転移】で大黒林へと帰還した。
「はい大魔将軍様!いつでも人間と戦えますよ!」
鉢金や肩当て等の防具が外され袴着姿のみでやる気を見せるミケラに我は違うと言って優しくチョップした。
頭に受けたチョップにミケラは猫っぽい声を出して後ずさり両手で叩かれたところを押さえる。
「我々の目的は人間の街に潜入して鉄を確保することにある。よって今回は隠密任務であり、一切の戦闘を禁ずる。」
我がそう言った理由は建設にある。
船と家の建設をより良質なものにする為にとドワーフから釘などに必要な金属を求められた。
確かに船や家をより良くすれば寒波に強くなれるし安全に海路も進めることになるので我はならば人間の街から購入してこようと決めた。
しかし半世紀前ならば彼らに品定めしてもらいながら買い物することも出来ただろうが今は無理なので大黒林の守りをエイムに任せて我とミケラが素材である鉄を購入することにしたのだ。
エイムは自分が行った方が安全だと思うなんて主張してきたが森の守護神として一番信頼に置ける者に任せたいと言って納得させた。
まあ我も久しぶりに海の都ミネトンに観光しに行きたいからという理由が入っているのは個人の秘密である。
「ついでにこれも被っておけミケラよ。」
そう言って我は倉庫から紫色のヘアバンドを出してミケラに着けさせてから呪文を唱える。
するとケット・シーの名残りである猫耳と尻尾が薄くなってから完全に消えてしまったことに周りが驚く。
しかしミケラの耳と尻尾が本当に消えたわけではなく現に本人には自分の尻尾が見えているのだ。
これも魔法のアイテムで幻影魔法が付与されており装着した者の容姿を周りの視線には違うように変えることが出来る。
これで街に入っても珍しい服装の女性程度の印象にしかならないはずだ。
「でも大丈夫ですか大魔将軍様?大魔将軍様はとっても大きくて目立ってしまうと思うのですが?」
ミケラの言う通り二メートルを優に越える体格に全身漆黒の大鎧は人間の街に入ったら間違いなく目立つであろう。
しかしそんなこと百も承知であり、我が考えていなかったとでも思ったか?
「問題ない。何故なら、【鎧変形・軽装】!」
我が久しぶりに唱えると鎧が縮むように動き身長は百八十メートルくらいに甲冑は貴族の屋敷に飾られてそうな形へとなった。
さらには盾も変形させ丸いバックラー型にすれば人間の街に入っても問題ない向こうで言うところの冒険者っぽい姿になったはずだ。
(あとは、資金と入れ物だな。)
そう思って倉庫からクリーム色の袋と狐色の小袋を取り出し小袋は腰のベルトにくくりつけ、袋はミケラに持たせる。
時間はもう朝を過ぎた頃なので街の門も開いているだろう。
門から離れた雑木林の中に【次元転移】の魔方陣がセットしてあるのでまずはそこに飛ぶことにした。
「では行ってくる。帰ってくるまで頼んだぞ皆。」
「うん!任せてマスター!」
我は一言かけてからミケラを呼び寄せると【次元転移】を発動させた。
数秒間の暗転の後に視界に広がったのは半世紀前とあまり変わらない光景であったことに我は内心ほっとした。
雑木林を二人で抜けると海の都ミネトンの出入り口である門があり入関の為に少し列が出来ていた。
「ミケラ、我が出した街に入って出るまでの間の禁則事項を述べよ。」
「はい!こちらからは手を出さない。興味があっても離れない。美味しいものに釣られない。びっくりしても大きな声を出さないです。」
ミケラの返事に大きく頷いてからいよいよ門に足を進める。受付の兵士から街に入る為の入関税を求められたので小袋の口を開いて指を入れ銀色の表面に円が刻まれた程度の簡素な硬貨を渡す。
「んん?あんた田舎上がりか遺跡にでも行った帰りかい?久しぶりに懐かしい銀貨を見たぜ。」
受け取った中年の兵士がそう言ってきた。
この世界の貨幣は半世紀前ならこの形で素材と大きさに差があり、上から大金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉛貨に分かれていた。
相手の返事を聞いて我が話を合わせながら今は違うのか尋ねるとどうやら全ての貨幣にあの聖剣を模した模様が両面に彫られているのだとか。
こういうことは先にパーサー達に聞いておけばよかったなと我は反省した。
「欲しいんだったら奥の建物にある両替所で交換してきな。でないとこのままじゃあ偽金扱いされるかもしれないからよ。」
「忠告感謝する。早速向かわせてもらうとしよう。」
会話を済ませると我はミケラを後ろに早速指示された両替所に向かった。
半世紀前よりも通りの人の量は増しており活気があって平和になったが故の影響だと思えた。
海の上に立つ建物は貿易センターも兼ねているようで所々に商人や物が存在しておりその中を黒い甲冑の男と見慣れない服装の女性が歩いて通るのはいささか注目を集める結果になったが気にせず両替所の看板が吊り下がっている受付の一つに向かった。
「いらっしゃいませ冒険者様。ここは硬貨の両替を行っております。どれを両替いたしますか?」
見た目でこちらを冒険者だと決めつけた女性の受付が業務挨拶をしてから尋ねてきたので貨幣の交換を依頼した。
受けた彼女は小銭が乗せられる程度の長方形の木の平皿を出してきた。
多分冒険者だから少ない額の両替だろうと思われているようなので悪役として少し意地悪したい気持ちに駆られた。
「…これに乗せてよいのか?」
「ええ、すぐに査定して両替いたしますので。」
営業スマイルで気持ちのこもってない返事をしてきた相手に我はそうかとだけ呟けば小袋を片手に持って口を開けると下に向ける。
少ししてチャリンチャリンと音を鳴らしながら半世紀前の銀貨と金貨が受け皿に落ちていき始めたかと思いきや土嚢から砂を出すように大きな金属音を立てて次々と硬貨が出てきた。
実はこの小袋は魔法のアイテムであり名を〔強欲の財布〕と呼ぶ。
簡単に言うなら中は【異空間倉庫】の縮小版みたいになっており袋の口から入れられる物質ならばなんでも入るが我は半世紀前の侵略の時、戦利品として得た硬貨をこの袋に入れてきたのでいつしかそう呼ぶようになった。
とりあえず受け皿の容量を越え一山ほどの銀貨と金貨を出してみせた。
「すぐに査定してくれるのだろう?よろしく頼む。」
口の紐を結んで閉じると腕を組んで我は受付の女性を見下ろしながら言う。兜で見えない顔から言葉と共に視線と圧力を受けた彼女は大慌てでお待ち下さいと言ってから裏に走り去ってしまった。
木の板で隔てられた左右の同僚も何があったのかと覗いては驚いてみせたことに我は内心喜んだ。
少ししてからいかにも上役っぽい服装と眼鏡の男性が現れると硬貨の山に驚いてから事情を尋ねてきた。
「これは古い遺跡にあったの見つけたのだ。きっと誰かの隠し財産だったのだろう。全て古い物だからしかと査定して換金してもらいたい。」
適当に我が言うと上役の男性は了承と共に時間が欲しいと申してきた。
まあこれだけの量を出されたら偽金かどうかも含めてじっくり査定する必要があるだろうから我が日数を尋ねれば向こうは早くて一日は欲しいと言ってきた。
そこで今出した硬貨の内、金貨と銀貨を三枚ずつだけでも換金してもらえるよう申請する。
これは査定が終わるまでの間の宿代と買い物の資金の予算としてという名目を立てる為だ。
我の出した申請にそれくらいならすぐにでもと男性はこちらに一礼してから他の人も呼んで作業に当たらせる為に出された硬貨を二人がかりで集めると再び裏へと去っていった。
待つこと約十分弱で最初に受付してくれた女性が額に汗を滲ませながら戻ってくると申請した通り金貨と銀貨が三枚ずつ乗った受け皿をこちらへと出してきた。
ついでに多分上役から言われたのだろうお薦めの宿の名前と道まで本人のサインが入ったメモと一緒に教えてもらった。
宿には後で伺うとして我とミケラは一旦貿易センターから出ることにした。
「時間がかかるなら仕方ない。ミケラよ、ここからはお前の社会勉強としよう。」
「社会、勉強…?」
「うむ、お前は初めて人間の街にきた。ならばここで人間がどのような生活を送っているのか我の隣でよく観察してみせよ。」
我の指示にミケラは瞳を輝かせて大きく返事をしてみせたので二人で街を歩き回ることにした。
半世紀ぶりにくるミネトンの街並みを眺めながら船着き場まで歩く。その間ミケラはキョロキョロと左右を見ながら言われた通り人間の生活を観察していた。
通りで会話する者、店先で談笑する者、追いかけっこする子どもや街の中心にある噴水広場のベンチに腰掛けて休んでいる老人をミケラは見てきっと似たことを思っていることだろう。
だから船着き場まで来た時に我は尋ねた。
「さてミケラ。ここまででお前はどう思った?」
「ふえ?どう思った?」
「人間の街と人々を見てお前は何を感じたか率直に申してみよ。」
ただ見聞きさせて帰らせるだけでなくこちらから尋ねて考えを聞く。
これもまた眷属もとい店員の成長に繋がることだと我は思っているので昔から続けてきたやり方だ。
問いかけにミケラは腕を組み身体を少し傾けて考えてから答えた。
「んゆ~…ヒト族も私達とあんまり変わらないと思います。子どももいて、老人もいて、助け合って生きているように見えました。ただ固そうなおうちばかりで寝心地が悪そうです。爪磨ぎには苦労しないと思いますが。」
素直な考えを口に出してくれたミケラに我は頷く。今はまだそれくらいでも全ての人間が悪い者ばかりではないという考えを心の片隅にでも持ってくれたのならばよい学習となったはずだ。
小さな社会勉強を済ませた我は紹介してもらった宿に移動した。
見た目からして二階建ての屋敷のような形であり中に入ると受付の女性がこちらに気づいて少し驚いてみせたがすぐに平静を装って挨拶してきた。
貿易センターの者から紹介されたことを伝えメモも見せればサインを見て確かにと頷いてみせ一人一泊銀貨二枚と掲示された。
こちらは銀貨三枚しか持ってないが確か金貨一枚が銀貨十枚の価値なのでここは金貨を渡してお釣りをもらうことにした。
二階に上がり部屋に案内されるとやはり値段にあったベッドが二つある広い室内だった。
ミケラは初めて見るベッドに興味津々だったので飛び込んでみろと言えば猫らしく前のめりに乗る。
「ふわあ…すごく柔らかいですぅ。それに暖かくて心地よいですぅ……」
そのままゴロゴロと左右に転がってからミケラはベッドのあまりの心地よさに雑魚寝を始めてしまった。
まあ街中を進む間ミケラはずっと気を張っていたようなので精神的な疲労があったのだろう。
休眠状態以外で睡眠を必要としない我はミケラが眠っている間に一つ調査しておこうと一階に降り受付に尋ねた。
「すまないが、冒険者ギルドはこの街にあるか?」
「はい、ここを出て左に突き当たりまで進んでから右に曲がって行くと青い屋根の建物が冒険者ギルドです。」
わかりやすく教えてくれた受付に感謝と連れが部屋で眠っているから起こさないよう伝えてから宿を出ると冒険者ギルドに向かった。
言われた通り進むと街の角に当たるところに半世紀前にはなかった木造で青い屋根の建物を見つけそこへ冒険者っぽい格好の男女が出入りしているのでここだと判断して中に入る。
中には食堂もあり見慣れない出で立ちの我にそこで席に着いている冒険者達から視線を浴びる中、ギルドの受付に向かった。
「こんにちは冒険者様。初めて見る顔、ですね?登録でしたらここではなく右端の方で行っております。」
見た目二十代くらいの女性がそう言ってきたので我が違うと返せば首を傾げてでは依頼を?と尋ねてきたから我は言ってやった。
「我は流浪の旅人だが、ここのギルドマスターが知り合いかもしれない。名前を教えてくれないか?」
「ギルドマスターのお名前ですか?失礼ですがあなたのお名前をお聞かせください。」
…なるほど、見た目から名前ぐらい簡単に言ってくれるかと思ったが慎重に返されたところを見るに規則と教育はされているようだ。
しかしここで堂々と大魔将軍と名乗って混乱を生むわけにはいかないのでここは適当に名乗るとしよう。
「……ガレオだ。知り合いならこの名前でピンとくるはずだ。」
「ガレオ様ですね。少々お待ち下さい。」
ガレオ、この名は勇者達にとっては裏切り者として覚えられている。
というのも二度目の聖女拉致の際に我が灰のガレオという偽りの姿で勇者達に同行していたからだ。
とある大国が聖女の持つ聖属性の力を兵器として利用するが為に起こした暴挙を止める為に勇者達が救出に向かう折りにいろいろと手助けしてやり無事にやり遂げ油断したところで我が正体を明かして見事聖女をかっさらってみせたのだ。
だからガレオという名前は勇者達や彼らと関係の深い者ならば忘れ難いはずだ。
少しすると女性が戻ってきて報告してくれた。
どうやらギルドマスターは大型の魔獣を討伐する為に冒険者を連れて朝方に出掛けてしまったらしい。
詳しい行き先を尋ねてみたが機密情報らしく彼女の立場だと教えてもらえないそうだ。
だが謝罪としてギルドマスターの名前は教えてもらった。
(よもやあの戦士ヴァンクがここのギルドマスターとは、なんとも縁があるなあいつとは……)
だが先のハコダンテ国王のように半世紀も経っているから彼もいい歳になってしまったことだろう。
となれば先ほど聞いた大型魔獣討伐の話は自分達のことを指している可能性が出てきた。
昔の彼は野生の勘というもので幾度も勇者のピンチを救ってみせたのを我は知っている。
それが働いて大黒林に向かった可能性が浮上した以上、長居は出来なくなった。
(仕方ない。明日にはさっさと買い物を済ませて【次元転移】するとしよう。)
せっかくの観光が思わぬ形で終わらせねばならないことに我はため息を着いてから受付の女性にお礼を言うとその場を後にしようとした。
「…お待ちくださいガレオ様。」
すると、横から別のきちっととしたレディーススーツの似合う女性に声をかけられた。
おそらく受付嬢達の上に立つ人物かと思い我は足を止め振り返って尋ねた。
「何か用かなお嬢さん?」
「お嬢っ!?んん゛っ!……あなた、何者ですか?」
唐突な質問に意図が読めずとりあえず先ほどと同じく旅人だと返せば女性は着けていた眼鏡の位置を直してから言った。
「隠しているようですがあなたから闇属性の気を感じます。今一度聞きます。あなたは何者ですか?」
彼女の発言に聞いていた周りの冒険者達がざわめき出す。それもそのはず、この世界で闇属性は人間に悪影響を与える属性であり、それらを宿した装備は呪われているとして危険視されているからだ。
どういうスキルか魔法の道具を使ったかはわからないがこの女性は探知機のような能力で我が抑え込んで隠していた闇属性を感知してみせたようだ。
「…聞いてどうする?まさか引っ捕らえるなんて言わないだろうな?」
「否定しないということは、呪われた道具を持っているということですね?悪いことは言いません。心まで闇に呑まれる前に外してギルドにお預け下さい。責任を持って浄化しますので。」
女性の答えに我は内心少し驚かされる。半世紀の間にどうやら闇属性を宿した装備を浄化する方法が出来ていたことにだ。
半世紀前だと浄化が出来るのは聖女のみだったはずなのでどういう仕組みか気になるところだがこれ以上余計な詮索も時間も取らされたくない。
「悪いが断る。それに明日にはこの街を出ていくので大事な装備を失って旅をしたくはないのだ。」
お断りの言葉を述べてから我は再びギルドから出ようとした。
しかし背後で女性が何かを唱え始めれば光属性の証である白き魔方陣が彼女の前に展開され中心から同じ輝きの鎖が三本飛び出し我の左腕に盾ごと絡まって捕まえてきたではないか。
「【光鉄鎖】です!逃がしはしません!」
女性がそう言って引っ張る動作をすれば鎖も動き我の左腕が挙がる。
この女性、見た目とは裏腹に光属性の初級魔法を使えるとはどうやら教会の関係者か元神官のようだ。
しかしここまでしてでもこちらから闇属性を外そうとしてくるとは余程闇属性がお嫌いらしい。
「ふう…これ以上は正当防衛という形を取らせてもらう。怪我をしたくなくばこれを外せ。」
「外しません!闇の武具は呪われし物!一つ残らず浄化するのが聖女様の願いなのです!」
忠告したが聞かない彼女にやむを得ないかと残念に思えば我は言ってやった。
「ならば、味わって反省しろ…!」
我は盾へと魔力を注ぎ力を少し解放すれば絡まっていた鎖の色が白から黒へと変わり女性の方へと進んでいけば黒い雷光が魔方陣を破壊してみせた。
魔方陣を破壊された反動で彼女は吹き飛び床を転がると仰向けに動かなくなった。
始終を見ていた職員から副長!と声が上がり数人が女性の元に集まる。
「気絶しているだけだ。では失礼する。それとも、まだやるか?」
去る前に席から立っている冒険者へと視線を送れば向こうは完全に臆してその場から動けずにいたので我はそのまま去ることにした。
ただ名前を聞くだけのつもりが少々大事にしてしまったことは反省しなくてはならないな。
もう少し観光したかったが事情が事情なので明日は朝早くに換金と買い物を済ませることにしよう。
朝一で貿易センターに向かった我とミケラは早速両替所に向かった。
ちなみにミケラは我が戻ってからもベッドの上で眠っていたのでデコピンで起こしてから事情を話し理解させるとせめてものお土産として買ってきたフィッシュ&チップスを与えた。
初めて見て食べるフィッシュ&チップスはミケラにとって衝撃的な味だったようだ。
時間が経って熱くはなかったとはいえものすごい勢いで食べていき十分もしない内に完食してみせた。
ただあまりにも食べ方に問題があったので今後また人間の街に入る時の為にもパーサー達あたりから基本的な食事マナーをミケラに学ばせてあげようと思った。
食事を終えたミケラに我がさっさと行くぞと伝えれば彼女はすぐに返事をし乱れた服装を正したところで宿を出た。
両替所の受付に行くと同じ女性がおりこちらに気づくとすぐに裏へと去っていった。
少しして二つの袋を抱えながら女性が戻ってきたので彼女のいる受付に立った。
「お待ちしておりました冒険者様。こちらが換金した銀貨と金貨になります。銀貨は五十枚、金貨は二十枚、大金貨が十枚となります。」
渡された小袋の口を開ければ銀貨と金貨がぎっしりと詰められていた。
中身を見て確かにと返せばそれを全て強欲の財布に流し込む。空になった二つの袋を返せば別れの挨拶をして我らはその場を後にした。
貿易センターには商店街のように店も構えており船で輸入された品が即日販売されることもある。今回は釘又はその材料となる鉄が欲しいので金属販売の店に向かった。
初老の店主にまずは釘があるか尋ねれば一箱銅貨五枚でと言われた。
家や船を造るからには釘は余るほどあってもよいだろうと店に置いていた十五箱全てと鉄のインゴットを十枚購入した。
「ミケラ、その袋の口を開けよ。」
我がミケラに言って持たせていた袋の口を大きく開かせると購入したものを無造作に投げ入れる。店主がそんなに入れたら袋が破れると言ってきても全て入れてみせると袋の口を締めミケラに担がせた。
「うにゃあ?全然重くないです。これなら走ってもいけそうです。」
持ち上げた時の感覚をミケラが言うと本当に貿易センターの出入口まで走ってみせ店主を驚かせた。
ミケラの持つ袋も強欲の財布と仕組みは同じでこちらは〔盗賊王の袋〕と我は名付けている。こうして今の時代の貨幣も鉄も獲得したので我は街を出ようとミネトンの門に向かった。
「ーー…いいですか!彼は危険人物です!決して油断せずに捕縛が無理なら気絶させるつもりで戦いなさい!」
ところが門が見えてくるとレディーススーツ姿から一変して神官っぽい装備をした昨日の女性が冒険者を集めて見張っているではないか。
昨日のことで危険だと判断して諦めてくれるかと思いきやまさか逆に燃え上がりこのような行動に出ようとはあの女性はもしかするとギルドでもそこそこ上の立場なのかもしれない。
というかそこまでして闇属性の武具が許せないのかとも思ってしまう。
我は物陰から様子を伺いつつそう思って素直に門を通れそうにないなと判断した。
まあスキルを使えば今見える冒険者連中を無力化させることは容易だがこれ以上は冒険者だけでなく街の人にも印象を残してしまい兼ねないのでそれは避けなければならない。
「どうしますか大魔将軍様?強行突破しますか?」
「いやミケラよ。我々は密かに行動しなくてはならない。よってここは別のところからこの街を出よう。」
自分でそう言っておいてなんだが、大事にしてしまった己に叱ってやりたいところだ。
とりあえずその場から街の角にあたるところへと移動した。
人目がほとんどない裏道的な場所に入り込むと我はミケラを傍に呼んでから【次元転移】で大黒林へと帰還した。
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