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第八章 大戦。

軍議を開きます。

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 ーー…伝えなければ!
 街道を走る馬にもたれ掛かるような形で乗りながらカイはそう思った。
 鎧に付与されていた物理攻撃を一定値遮断する魔法のおかげで致命傷には至らなかった。
 それでも肋骨の何本かが折れており打たれた肩に絶えず鈍痛が響く。

(本当に、ゲール隊長を信じてよかった…。)

 防衛の為に遠征へ出る前にカイはゲールに呼ばれた。
 その時に稀少アイテムである[光の逃石]を渡して言ってくれた。
 もしも大魔将軍に出くわしたら勝利も名誉も、味方のことも考えず生き延びて見たこと聞いたことを伝える為に帰ってこいと。
 工場の外に馬を待機させそこへ転移するように記憶しておくようにと。
 普段なら味方想いの人であるゲールの言葉を信じたからこそ建物に突っ込んだ後、意識が少し飛んでいたが周りが静かになったところでカイは[光の逃石]を使って工場から離れた馬を待機させていた場所へと転移することに成功し脱出したのだ。

(すまない皆!すまないヌンメルさん!でも、必ず!必ず敵は取ってみせる!)

 自責の念を抱え心中で謝罪しながらカイはそれでも決意を胸に皇都を目指してひたすら馬を走らせた。
 自分が得た情報をゲールや騎士団の皆に伝える為に…。
 カイの決意と覚悟が天に通じたのか彼はまだ大魔将軍の手が届いていない町へとたどり着く。
 そこで手当てを受けながらカイはゲールに宛てた手紙を書いて送り出した。
 早馬でシェガヒメ本国へと届けられた手紙を受け取ったゲールはラディソンの部隊が全滅したこととカイが無事であること、そしてヌンメルのことも知って悔しい思いを抱きながら廊下を歩く。
 向かう先は円卓のある大会議室。
 今回は勝手な訪問ではなく大司祭より召集を受けたからだ。

「ゲール・フステージ、参りました。」
「よく来てくれたゲール隊長。」

 楕円形の円卓にズラリと並ぶ各部隊長達の中心に位置するところにいたかの英雄カテジナが返事してくれたのでゲールは胸に手を当てて敬礼してみせる。
 カテジナが席に着くようゲールに指示して空いた席に座ってもらうと彼が最後だったのでいよいよ第七ゴーレム工場を戦場とした作戦会議を始めることにした。

「諸君、まずは私の召集を受けてくれたことに感謝する。聞いていない者が含まれるので先に話すと私は大魔将軍と対話した。」

 開始すぐに言ったカテジナの報告にゲールを含む聞いていなかった側は驚く。

「大魔将軍の目的は半世紀前と変わらない。この世界の支配である。だから私はこれ以上犠牲を生まない為に戦いの場を決めてやった。」
「それが第七ゴーレム工場ということですか?」

 円卓に座する一人が言うとカテジナは大きく頷いてみせる。
 第七ゴーレム工場はシェガヒメから南に位置する岩山を背にした砂漠地帯に建設された工場で幾度も改良と増設が行われたことで要塞化された。

「ここならば道具も兵力も多方面から集められるし設置も出来る。迎え撃つには十分適した場所だろう。」
「では我々ロサリオ騎士団全軍もここに集めるのですか?」

 ゲールの質問に当然とカテジナは返してから席を立つと三角錐形の小型の魔導倶を円卓に置きボタンを押すと離れる。
 すると起動した魔導倶はレンズのあるところから光を出すと壁に地図を投射してみせた。
 地図は第七ゴーレム工場の全体図でありそれと伸縮する指揮棒を使ってカテジナは配置を説明する。
 まず外壁上部には中、近距離用の連射型魔兵器を前面に、外側すぐのところには遠距離用の魔砲兵師団を配置する。
 これでまずは敵侵攻の出鼻を挫く。
 ある程度減らせたらそこからはロサリオ騎士団の出番だ。

「いいかい?中型と大型には必ず四人以上で挑むこと。足りなくなったら他のチームと合流して一体ずつ確実に倒すんだよ。」

 そうやって確実に数を減らしていけば見かねて必ず大魔将軍が前に出てくるとカテジナは言う。
 何故言い切れるのかと周りの何人かは思うも年配者側は納得していた。
 大魔将軍は自分の配下の者がやられると前に出てきて一気に決着を着ける傾向がある。
 だからこそ、それがカテジナ達にとって最大のチャンスなのだ。

「ここ!この何もないような地点まで大魔将軍を誘導させてから対超大型捕縛兵器〔天のくさび〕を使う!」

 指揮棒で工場からそこそこ離れた地点を示しながらカテジナの口から出た兵器に周りは驚く。
 〔天の楔〕は元々ドラゴン系を討伐する為に開発された光属性の中級拘束魔法を発動させる魔血結晶を使用する大型魔導倶だ。
 それを二メートルを越えたぐらいの魔族に使うなんて普通ではあり得ない話だが、聞いていたゲールはそれぐらい当然必要だと考える。
 相手は年月をかけずに国とゴーレム工場のほとんどを滅ぼした化け物なのだから。
 さらにカテジナは〔天の楔〕を三つ使用することも提案する。
 これは万が一がない為と確実に大魔将軍の動きを封じる為だとカテジナは説明する。

「この三点に〔天の楔〕を砂の中に埋め、大魔将軍が射程圏に入ったところで一斉に使用する。例え結界を使って防いでこようとも結界ごと拘束すればいい。成功したら結界部隊の出番だ。」

 大魔将軍の拘束に成功した後、シェガヒメ国が誇る部隊の一つである結界部隊を向かわせ大魔将軍の周辺に結界を張りさらに外側をゴーレムが囲むことで外部からの横槍を防ぐ。
 そして最後にロサリオ騎士団の各副団長クラス以上で徹底的に攻撃して大魔将軍を討伐する。

「大魔将軍さえ討ち取れば後は所詮烏合の衆。私達人間族の敵ではない。ただし覚悟して欲しい。私達はこの戦いに絶対勝たなくてはいけないということを…!」

 ぐぐっと指揮棒を握り締めて俯いたカテジナが言えば聞いていた者達は気づかされる。
 この戦いでどれだけの犠牲や被害が出ようとも、隣で仲間が倒れようとも、ただ大魔将軍を討伐するという目標の為に決して後ろを振り向いてはいけないのだと。
 もしも万が一でも負ければシェガヒメ国の滅亡に大きく近づくことになるのだと。
 その辛さを半世紀前にも経験したことがあるだろう英雄の葛藤に気づいた者達は席を立って意気込みを見せる。

「勝ちしょう大司教様!」
「そうです!我々人間族の平和と安寧の為に!」

 一つの意気込みは波紋となって広がり他の者達もそうしてみせる。
 皆の意気込みを聞いてカテジナは俯いて見えなくした口角を少しだけ上げるとすぐに戻してから顔を正面に向ける。

「皆の覚悟に感謝する!ではすぐに行動してくれ!敵よりも速く第七ゴーレム工場に戦力を集結させるのだ!神と聖女のご加護があらんことを!」

 左手を前に出してカテジナが最後に言えば円卓に者達は返事をしてから部屋を出ていった。
 しかし最後まで席を立たずに残っていた者がいた。

「ん?どうしましたかゲール隊長?」
「…大司教様、いくつかお聞きしたいことがあります。」

 英雄と二人っきりになった状況でゲールは相手を見ながら尋ねた。

「大司教様は今の大魔将軍と対話したと聞いております。」
「そうだよ。モニター越しにだけどね。」
「では対話してどう感じましたか?」

 ゲールのその質問にカテジナはすぐ返さず黙る。
 長い沈黙が流れる中、ゲールは英雄を見据えながらじっと返事を待った。

「…そうだね、言葉にするなら恐怖さ。あとなんで今更出てくるんだよっていう怒りだね。」

 ようやく出たカテジナの返事。
 ゲールはそれを聞いて同感だと思った。
 祖父が命を賭けて退き、勇者達が討伐したはずだった存在に今度は自分の同僚や若い部下がやられ命と尊厳性を奪われたことに対してだ。

「ゲール隊長。」
「はい。」
「これは君にとって運命かもしれない。祖父の成した名誉の為にも、必ず大魔将軍を討伐しましょう。私も大司教としてではなく魔法科学者カテジナとして挑みます。」

 面と向かってゲールに言ってみせるカテジナ。
 ヘルメットで隠された顔から表情は読めないがゲールは口調から真剣に言ってきてるのだと察して敬礼する。

「微力となろうとも全力を尽くします。神と聖女のご加護を。」
「神と聖女のご加護を。」

 互いにそう言ってからゲールは一礼すると大会議室を去っていった。
 皆が去って大会議室に一人となったカテジナは少し待ってからふんと鼻を鳴らす。

「何が神と聖女だよ。そいつらのミスで今とんでもないのと相手にしなくちゃならないんだから。」

 カテジナは呟くと指を鳴らす。
 すると大会議室の円卓に置いていた映写機が勝手に動いて壁に赤黒い斑点が付いた白衣を着た胸まである茶髪の細身な男性を映してみせる。

「手筈は整っているね第七ゴーレム工場長ウラバン。」
「ヒョヒョッ。もちろんでございますカテジナ様。強化ゴーレムも含め私達の二十年の傑作であるも整備完了しております。」
「数は?」
「現在七百体集結しており、今後も増加します。」
「よろしい。部品が足りないなら収容者を使え。いいか?余裕を持たせようと考えんじゃないよ。大魔将軍には工場にある兵器を全てぶつけるつもりで準備しな!」

 最後の方を強めに言ってみせるカテジナにウラバンはまたヒョヒョッと笑ってから深く一礼して通信を切った。
 通信を終えカテジナは映写機を右手に持つと想いを巡らせる。
 勇者の作った常識に便乗してここまであらゆる力を得てきた。
 全ては魔科学による魔科学の為の世界にしてみせるという夢に向かって。
 その最中に現れた脅威である大魔将軍の復活。

(私は越えてみせる。この壁を私の魔科学で打ち破り、魔科学こそ現代で最強であると証明してやる!)

 いつの間にか震えていた左手を金属音を立てて強く握りしめればカテジナは大会議室を後にした。


***


 ーー…一方、場所を変えてマヤト樹海にある【大地の守り人】本部でも軍議を行っていた。

「…以上が本作戦における君達の役目である。」

 壁に貼り付けた第七ゴーレム工場の全体図を背に我は言ってみせる。
 残念ながらカイの逃走を許してしまったことに酷く落ち込んで謝罪するカマエとムラクモを優しく宥めてあげてから現場の後始末と監督を任せた我は通信機等で連絡し【大地の守り人】本部に主要人物を集めて後日軍議を開いたのである。
 作戦を聞かされたプルパら【大地の守り人】側は率直に本当にそれでいいのかという唖然の表情になっていた。

「そ、それだけか?もっと他にやることがあると思うが?」

 その代表として参加していたエルフェンが手を挙げて意見してくる。
 心配はありがたいがこちらはカテジナと決闘しに行くのだ。
 周りに気を配って戦うつもりはない。
 いや、違うな。
 周りを巻き込んでもしまっても気にせず戦いたいと言うのが本音だ。

「しっかり援護してくれと頼んでいるではないか?それに終わった後処理のことも君達に一任した。」
「ですが、向こうは最高級の防衛を用意することでしょう。」
「わかっている。だからこそ貴様らには後ろにいてほしい。何故なら、我は今高揚している。」

 フッと部屋の空気が変わったのをエルフェンやプルパは感じたかもしれない。
 腕を組み軽く上を向いた我は少しだけ魔力の揺らぎを出してみせる。
 わかる者ならばそれが圧力となって伝わることだろう。

「復活してから今日までうちのシャッテンを除いてつまらない戦いばかりだったが、次の戦いは大いに身体を動かせそうなのだ。」

 そう言ってシャッテンの方に顔を向ける。
 彼女は影で作った姿を隠すようにし形成した卵形の中で目だけ出しているので視線をこちらに向けてくる。

「故にこの作戦は君達を巻き込まない為の安全策としても受け入れてもらいたい。」

 ここまで言ってあげるとプルパとエルフェンは納得してくれて他の者達を説き伏せる。
 と言っても半分は我の攻撃の巻き添えになりたくはないからという恐れから納得してくれたようだ。

「いいか、勝負は長引かせない。我々は工場から出てくる敵を全て殲滅させる。破壊と暴力に関してはこちらの得意分野だからな。援護は任せたぞ。」
「わかりました。もはや私達に反対の意見はありません。」
「私もだ。ド派手にやるつもりならちゃんと見届けさせてもらう。それでいつ頃向かうつもりだ?」

 最後に作戦の決行日をエルフェンが聞いてきたので我ははっきり言ってやった。

「向こうの準備がだ。それを全て潰してこそ、向こうの心をへし折れるというもの。そして我々が思う存分力を振るえるというもの!諸君らもそれまでしかと準備しておけ!」

 ぐぐぐっと右手で拳を作って返してからその場にいる者達全員に宣言した。
 エルフェンとプルパから先に返事してみせ他の者も頷いてみせたので軍議を終え解散することとなった。

「もう顔くらい出したらどうだシャッテン?」
「嫌じゃ。お前さんがどうしてもと言ってきたから我慢してきたんどす。その長耳女を残して全員いなくなるまでは出ないでありんす。」

 目線をキョロキョロと動かしながら指摘に返してみせるシャッテン。
 だいたいその卵形の君を我は抱えて会議室に入ったのだけど?

「次の戦いでは六割くらい実力を出すくらいの気持ちでいろ。でないと負けるかもしれないぞ?」
「むっ!たかが人間族と玩具の集まりに負けるもんですか!」

 少し煽ってあげると顔を出して返してみせるシャッテンが卵から孵ったばかりの雛鳥みたいでちょっと可愛いと思ってしまった。
 かくいう我も実力の出し惜しみはしないつもりだ。
 簡単に言うならこっちは旧時代で向こうは新時代の戦いをすることになるのだから。

(…問題は向こうの結界魔法だな。)

 兵も装備も集めてみせるのだから当然先の戦で経験した結界装置も用意されることだろう。
 さすがに重ね掛けされればこちらの攻撃がなかなか通らないほどの堅固な結界になる。
 それを突き崩すにはプルパのような結界魔法に詳しい存在が近くで分析して解明してもらった方が手っ取り早いのだが、今回の作戦ではそうはいかない。
 近くに我がいても自分で障壁を作って尚且つ素早く動いて結界魔法を打ち破れる存在。
 そしてカテジナが準備している間に何かできることはないかという自分への問いかけに対する答えが合わさって見つけた。

「…よし、敵が準備している間に我はメディアを復活させに向かう。」

 第五百五十五番目の眷属メディア。
 種族は人蛇ナーガ系メデューサ族の蛇にも変えられる紫色の髪が似合う女性魔族だ。
 彼女は幼い頃に我が預り魔法職として育て上げ眷属にした時にメデューサ族の上位であるプリンセスメデューサへと進化した。
 特に魔法に対する分析力は高く成長し種族的にも阻害系統の魔法の扱いはプロ級である。
 それでもって我の教えた家庭的な作業も全て覚えて応用してみせる器用さもあり頼りにしていた。

「確か生き残っている最後の眷属だったな?今何処に?」
「うむ、メディアは現在カガミ山にいる。何故か石化の状態異常でだ。」

 発言にエルフェンが居場所を聞いてきたので我は答えてあげる。
 カガミ山とは今いるマヤト樹海から西へ真っ直ぐ行き現在建設中の国境を越えたもっと先にある山だ。
 そこは魔法攻撃を反射させる特殊な鉱石が採れる鉱山の一つでもあり昔はドワーフ族が所有していた。
 今はどうなっているかまだわからないが表示した平面地図によるとメディアはカガミ山のほぼ中心に存在している。

「カガミ山、だと…?」

 すると話を聞いていたエルフェンが意味深に聞き返してきた。

「どうしたエルフェン?カガミ山に何か問題が起きているのか?」
「…大魔将軍、そのメディアという者の顔はわかるのか?」

 唐突にきたエルフェンの質問に我は返事してからメディアのステータスを表示させ腹部から上の正面の顔を彼女に見せてあげる。
 メディアの顔を見たエルフェンはすぐにハッとした表情になってからやはりと呟く。

「そうか、だからあんな言葉を言ってきたのか。」
「どういうことだエルフェン?貴様はあの戦いの後でメディアと会ったことがあるのか?」

 意外なところから出たメディアとの接点に我が尋ねるとエルフェンは頷いてから申し訳ない表情になって言ってきた。

「大魔将軍。怒っても構わないがそのメディアという者が石化したのは、私のせいだ。」
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