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第七章 信仰か魔導具か。
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この世界の北西側にあるイシアカ山脈を背に建てられたダナサ要塞。
元はドワーフ族の要塞であったが半世紀前の戦争で我が拠点とする為にゾドラの腐敗と疫病の力を使い無血開城みたいな感じで勝ち取った。
その後ゾドラに任せていたのだが彼女が去ってしまったことでゴースト族が住み着いてしまったようだ。
おかげで立派だった要塞はもはや廃墟同然に廃れた外観になっていた。
「ーー…ということですから破壊しましょう旦那様。」
「いやちょっと待て。」
地面に立って見上げる中で早々言い出したゾドラに我は待ったをかける。
こちらは向こうから招待を受けてやってきたのであり、魔界時代にあった敵拠点は即攻撃なんてことはしない。
「そそそそうですよぉ!私達ゴースト族は大魔将軍様と戦う意思はありませんからぁ!」
隣で浮遊する嘆きの女霊もそう言ってゾドラを宥めようとしてくれた。
いいゴーストだ。希望するなら眷属にしてやってもいいかもしれない。
「ところで聞き忘れていたがお前達を率いる者は誰だ。」
「はいぃ、私達の主は幽世の貴婦人ですぅ。」
なるほど幽世の貴婦人か。
レディレイスが二段階進化した先にある派生の一つで念力を使うゴースト族の上位。
見た目もスレンダーなものから裕福なものまでありそれによって長生きして実力をつけてきたかを判断できる。
でもまあ、万が一手を出してきてもこの兄妹の相手にはちょうどよいだろう。
「…あ、あの大魔将軍様。僕達がついてきてよかったのでしょうか?」
「お仕事のお邪魔にならないでしょうか?」
ゾドラの隣に立つイレブンとトゥエルビが心配そうに聞いてくる。
二人の装備は初めて出会った時のとは全く違い黒を基調とした軽装鎧になっている。武器の種類と形は同じにしているが材質は上質の物に互換させている。
「心配するな二人とも。これはゴースト族に対する君達の実戦研修も兼ねている。」
「私と旦那様がサポートしますのであなた達には傷一つ付けさせません。」
そう、せっかくなので光属性を扱える兄妹にゴースト族の戦闘を経験させようと思ったのだ。
と言ってもそれはあくまで向こうが喧嘩を売ってきたらの場合だ。
何も手を出してこないならば二人にとってはただの社会見学という形で済む。
「おい、我々が来たことを知らせてこい。門の前で待っている。」
レディレイスに告げて行かせれば皆で一緒に徒歩で要塞の門まで移動する。
するとゴースト族の下級である浮幽霊達の声が囁きとなって聞こえてくる。
時間を敢えて夜に調整してやってきたのだから聞こえてくるのは当然だが姿が見えないのはまだ要塞から出て来ていないからだろう。
こうしているとまるでお化け屋敷に孫を連れてきた気分に駆られる。
送り出してから少しして伝えてきましたぁとレディレイスが戻ってくると要塞の門が重い音を立てて開き出す。
さてさて、どんなお出迎えをしてくるのやら。
完全に門が開くのを待ってあげれば奥の暗闇からガシャガシャという音が連なって聞こえてくる。
そこでトゥエルビに光属性魔法の【灯光】を使わせて前方を照らした。
照らして見えてきたのは武装したスケルトンの団体。多分要塞に放置していたドワーフ族の遺体だろう。
「…旦那様がわざわざ来てあげたというのにひどい歓迎ですね。」
「ふ、だがこれで実戦研修が出来る。」
相手を見て冷静に言うゾドラ。彼女にとってあの程度の団体は龍魔法の一つか二つで簡単に片付けられるが、我の言い分を守ってのことだろう。
レディレイスに声を掛けようとしたがいつの間にか姿を眩ましていたのであの女霊は知らなかったことで叱られる前に逃げたと見た。
「我はイレブンに、ゾドラはトゥエルビに付け。奮闘を期待する。」
「わ、わかりました!」
「絶対応えてみせます!」
兄妹の意気込みを聞いてから我々はスケルトンの団体と戦闘を開始した。
兄妹が光属性魔法を駆使しながらスケルトンを倒していくのを見ながらこちらは足止めや転倒といった敵の行動を阻害する程度に抑える。
開始から測っていた時間的に二十分前後で団体は片付いた。
「うむ、双方見事な戦いぶりであった。」
「ありがとうございます!」
「ドキドキしましたけど期待に応えられたなら嬉しいです!」
ちゃんと横並びになって立つ二人に称賛の言葉をかけてあげると笑顔で返してくれた。
ステータス強化薬によって能力が底上げされたからか、余裕の雰囲気が伺える。
それにしてもすっかり光属性魔法を上手く扱えるようになったものだ。
トゥエルビは障壁だけでなく光属性の中範囲魔法を放つところを見たし、イレブンは武器のナックルに光属性を付与させるから鉤爪へと形成させて戦っていた。
こうなると講師をメビからプルパに変えたら更に上を目指せるのではと考えてしまう。
「旦那様、旦那様。」
くいくいっとマントを軽く引かれる感覚と声に後ろを振り返るとゾドラが期待の眼差しを向けて見上げていた。
いやいや、ヒト族の子どもがいる前でいいのかゾドラよ…。
「あー、ゾドラも援護の役目ご苦労である。」
「この程度どうってことありません旦那様♪」
褒め言葉に軽く胸を張って返してみせるゾドラ。でも尻尾の方は左右にゆらゆら揺らして喜びを表していたので冷静さを装うのは失敗していると思う。
さて、小手調べが済んだだろうから呼び出してやろう。
「とっとと出てこい!さもなくば無理矢理にでも探し出すぞ!」
魔力を放出させ空中に五つの雷属性魔方陣を展開させながら宣告してみせる。
宣告から少しして短い悲鳴が遠くからすると相手が姿を見せた。
帽子と共に着飾ったスレンダーな貴婦人ながら全体は青白の半透明なゴースト族がレディレイスを複数連れて現れるとすぐに頭を下げて挨拶してきた。
「オホホ失礼しました大魔将軍様。やはり真実かどうか確かめたくなりまして。いや本当に、本当に優秀な眷属を連れておりまして羨ましい限りですので攻撃は本当にやめていただけるとはい……」
ペコペコと謝罪してみせるマダムレイス。
実力がそこそこしかないくせに無理して試すようなことするなよ…。
ゾドラなんか我が攻撃を止めてなければすぐにでも攻撃していたことだろう。
「茶番に付き合ってやったのだ。我が言いたいことはわかるな?」
「ひっ!?もももちろんでございます大魔将軍様!私達は大魔将軍様の配下になります!」
ちょっと威圧的に言ってやるとマダムレイスはすぐに軍門に降ることを了承してくれた。
これでゴースト族という手駒を手に入れたし、イレブン君とトゥエルビちゃんの実戦研修も出来たから内心はとても満足している。
それじゃあ、ゴーレム工場破壊作戦に向けて前進していくとしよう。
***
聖教皇国に点在するゴーレム工場。
その一つであるそこそこ中規模な工場の門前は鋼鉄の扉があり、左右には石造りの高台があり双方に三人の兵士が交代で見張っていた。
「…なあ知ってるか?」
「なんだ?」
今日の夜勤担当の一人が高台の窓から見える景色に目を向けながら話す。
「ここの工場には〈製造特区〉という名称があるらしいぞ?」
「なんだそれ?工場の全体図にそんな名前の場所は無いぞ?」
「ああ、どうやら工場長と一部の上役しか知らない場所らしくてな。俺達のような下の者には教えないんだとさ。俺も部屋から聞こえてきた話を小耳にしただけで本当かどうかはわからないがな。」
と嘘か真かの話で盛り上がっていた時だった。
火の面倒を見ていた者が顔を上げると何か言ったかと他の二人に尋ねる。問われた二人は振り返って言ってないと返してから少しすると今度はその二人の耳へと声が聞こえてきた。
「そ、空耳だよな?」
「きっと、風の音さ…。」
互いに顔を合わせた二人は苦笑いで言った時に一人があることに気づく。
反対側にあるもう一つの高台から灯りが消えていたのだ。
上司の指示で夜は決して灯りを絶やしてはならないと厳しく言われているのでどうしたのだろうと二人は火の番をよそに注視する。
すると窓から黒い何かが出てきた途端に落下した。ドチャッ…という音が地面の方で聞こえてから門の内側に立っていた兵士から悲鳴が上がったので二人は軽く身を乗り出して覗き込む。
地面には一人の兵士がうつ伏せで血溜まりの中にいるのが見えた。
つまりあの兵士は高台から落ちて死んでしまったということだ。
「おいどういうことだ!?こんな時に事故かよ!」
「ともかく隣に向かうぞ!」
非常事態に二人が向こうの高台を見に行こうと動こうとした。
まさに次の瞬間、二人の背後が一気に明るくなる。
「ぐああああああ!?熱いぃっ!?」
火の番をしていた者がいつの間にか全身を炎に包まれていたことに二人は驚く。燃えている男はその場で回ったり壁に当たり、最後は窓から飛び出し先に落ちた者と同じ末路を辿った。
男が暴れたことで高台内の灯りが弱くなる中、残された二人は延焼を危惧して消火活動をする。
それによって完全に暗くなるが下に続く階段の方は灯りがあるので二人は難なく下っていこうとした。
階段を下って半分を過ぎた頃だった。急に前から脚を止めるほどの風が吹いてきたのだ。
強風のせいで照らしていた灯りが全て消え階段が真っ暗になる。先ほどから続く不気味な現象に二人の顔から血の気が引くと足早に階段を下る。
「一体どうなってんだよ!?立て続けに高台から人が降ってくるなんて何があった!?」
「わからない!すぐに上へ報せよう!もしかしたら敵襲かもしれない!」
ここまで怪奇現象が起きるなんておかしいと思った一人が上司に報告することを決めて走り出した途端、彼は姿を消した。
何処からか飛んできて木箱ごと男は近くの建物へと突っ込んでしまったのだ。
目撃した者達が息を飲む中、彼らははっきりと耳にする。風の音とは違う女性の囁くような声を。
「ひ、ひいっ!?ゆ、幽霊だ!きっとここで死んで捨てられた奴らが化けて出てきたんだ!」
「そんなわけあるか!幽霊なんて架空のもんだろ!」
「でも!昔呼んだ本にはレイスっていう魔物が存在するって!」
「レイスは知ってる!でも奴らは廃墟にしか現れない!ここは現役で動いている工場だぞ!」
怪奇現象からその場の兵士達が言い争っていると、今度は少し離れたところで爆発が起きる。方向からして工場に使う燃料が置いてある倉庫のあるところだ。
爆発があったところから少し離れたところにある管理塔から見ていた工場長は唖然としていた。
「工場長!」
「警備主任!一体何が起きた!?蛮族の敵襲か!」
「わかりません!今現場に警備員を向かわせています!」
爆発した場所が資材庫なだけに敵襲を想定して工場長は警備主任と今後を話し合う。
そこへ現場から戻ってきた警備員が勢いよく扉を開けて現れる。
警備主任が状況を尋ねれば信じ難い報告が返ってきた。
「ゴースト族です!今この工場はゴースト族の襲撃を受けています!」
報告に工場長と警備主任は驚く。まさか廃墟等の人気の無い場所にしか現れないとされるゴースト族が四六時中稼働している工場を襲撃するなんて彼らにとっては前代未聞の事態だ。
警備主任はすぐに魔法使いを集めて対応に当たるよう指示する。しかし別の警備員が現れると更なる事態を聞かされる。
なんと工場の労働者が収監されている施設から次々と脱走者が武装した姿で出てきて戦闘が始まったというのだ。
脱走者には隷属の魔道具が装着されていたはずなのに何故か外れていたらしくしかも労働で疲弊し続けているはずが脱走者は全員活力に満ちていて戦局が劣勢なことも伝えられた。
ゴースト族の襲撃に合わせたかのようにして起きた脱走者の反乱に工場長と警備主任はもしかしてとあることを思い出す。
それは点在する全てのゴーレム工場の責任者に届けられた聖教皇国からの通達。
半世紀前に世界中を大混乱に陥れた魔族の一体であるかの大魔将軍が畏れ多くも聖教皇国に宣戦布告をした為にゴーレム工場の警備を強化せよという内容だった。
だから夜間の見張りの人数も増やしてはいた。
増やしてはいたが、まさかゴースト族を使って襲撃するなんて工場長の頭には考えすら浮かんでなかった。
「ええい!こうなれば警備ゴーレムも動かせ!多少労働者を減らしても構わないから鎮圧せよ!」
工場長が指示し二人の警備員を向かわせると警備主任を見て言う。
「万が一の為にも〈製造特区〉に運搬ゴーレムを回せ。アレだけはここが失くなろうと本国に持ち帰るぞ。」
「わかりました。すぐに向かわせます。」
短くやり取りを済ませ警備主任を見送ると工場長は机の中にあった大量の書類と自分用の資産を大きな革製の鞄に詰め込んでから急いで部屋を後にした。
元はドワーフ族の要塞であったが半世紀前の戦争で我が拠点とする為にゾドラの腐敗と疫病の力を使い無血開城みたいな感じで勝ち取った。
その後ゾドラに任せていたのだが彼女が去ってしまったことでゴースト族が住み着いてしまったようだ。
おかげで立派だった要塞はもはや廃墟同然に廃れた外観になっていた。
「ーー…ということですから破壊しましょう旦那様。」
「いやちょっと待て。」
地面に立って見上げる中で早々言い出したゾドラに我は待ったをかける。
こちらは向こうから招待を受けてやってきたのであり、魔界時代にあった敵拠点は即攻撃なんてことはしない。
「そそそそうですよぉ!私達ゴースト族は大魔将軍様と戦う意思はありませんからぁ!」
隣で浮遊する嘆きの女霊もそう言ってゾドラを宥めようとしてくれた。
いいゴーストだ。希望するなら眷属にしてやってもいいかもしれない。
「ところで聞き忘れていたがお前達を率いる者は誰だ。」
「はいぃ、私達の主は幽世の貴婦人ですぅ。」
なるほど幽世の貴婦人か。
レディレイスが二段階進化した先にある派生の一つで念力を使うゴースト族の上位。
見た目もスレンダーなものから裕福なものまでありそれによって長生きして実力をつけてきたかを判断できる。
でもまあ、万が一手を出してきてもこの兄妹の相手にはちょうどよいだろう。
「…あ、あの大魔将軍様。僕達がついてきてよかったのでしょうか?」
「お仕事のお邪魔にならないでしょうか?」
ゾドラの隣に立つイレブンとトゥエルビが心配そうに聞いてくる。
二人の装備は初めて出会った時のとは全く違い黒を基調とした軽装鎧になっている。武器の種類と形は同じにしているが材質は上質の物に互換させている。
「心配するな二人とも。これはゴースト族に対する君達の実戦研修も兼ねている。」
「私と旦那様がサポートしますのであなた達には傷一つ付けさせません。」
そう、せっかくなので光属性を扱える兄妹にゴースト族の戦闘を経験させようと思ったのだ。
と言ってもそれはあくまで向こうが喧嘩を売ってきたらの場合だ。
何も手を出してこないならば二人にとってはただの社会見学という形で済む。
「おい、我々が来たことを知らせてこい。門の前で待っている。」
レディレイスに告げて行かせれば皆で一緒に徒歩で要塞の門まで移動する。
するとゴースト族の下級である浮幽霊達の声が囁きとなって聞こえてくる。
時間を敢えて夜に調整してやってきたのだから聞こえてくるのは当然だが姿が見えないのはまだ要塞から出て来ていないからだろう。
こうしているとまるでお化け屋敷に孫を連れてきた気分に駆られる。
送り出してから少しして伝えてきましたぁとレディレイスが戻ってくると要塞の門が重い音を立てて開き出す。
さてさて、どんなお出迎えをしてくるのやら。
完全に門が開くのを待ってあげれば奥の暗闇からガシャガシャという音が連なって聞こえてくる。
そこでトゥエルビに光属性魔法の【灯光】を使わせて前方を照らした。
照らして見えてきたのは武装したスケルトンの団体。多分要塞に放置していたドワーフ族の遺体だろう。
「…旦那様がわざわざ来てあげたというのにひどい歓迎ですね。」
「ふ、だがこれで実戦研修が出来る。」
相手を見て冷静に言うゾドラ。彼女にとってあの程度の団体は龍魔法の一つか二つで簡単に片付けられるが、我の言い分を守ってのことだろう。
レディレイスに声を掛けようとしたがいつの間にか姿を眩ましていたのであの女霊は知らなかったことで叱られる前に逃げたと見た。
「我はイレブンに、ゾドラはトゥエルビに付け。奮闘を期待する。」
「わ、わかりました!」
「絶対応えてみせます!」
兄妹の意気込みを聞いてから我々はスケルトンの団体と戦闘を開始した。
兄妹が光属性魔法を駆使しながらスケルトンを倒していくのを見ながらこちらは足止めや転倒といった敵の行動を阻害する程度に抑える。
開始から測っていた時間的に二十分前後で団体は片付いた。
「うむ、双方見事な戦いぶりであった。」
「ありがとうございます!」
「ドキドキしましたけど期待に応えられたなら嬉しいです!」
ちゃんと横並びになって立つ二人に称賛の言葉をかけてあげると笑顔で返してくれた。
ステータス強化薬によって能力が底上げされたからか、余裕の雰囲気が伺える。
それにしてもすっかり光属性魔法を上手く扱えるようになったものだ。
トゥエルビは障壁だけでなく光属性の中範囲魔法を放つところを見たし、イレブンは武器のナックルに光属性を付与させるから鉤爪へと形成させて戦っていた。
こうなると講師をメビからプルパに変えたら更に上を目指せるのではと考えてしまう。
「旦那様、旦那様。」
くいくいっとマントを軽く引かれる感覚と声に後ろを振り返るとゾドラが期待の眼差しを向けて見上げていた。
いやいや、ヒト族の子どもがいる前でいいのかゾドラよ…。
「あー、ゾドラも援護の役目ご苦労である。」
「この程度どうってことありません旦那様♪」
褒め言葉に軽く胸を張って返してみせるゾドラ。でも尻尾の方は左右にゆらゆら揺らして喜びを表していたので冷静さを装うのは失敗していると思う。
さて、小手調べが済んだだろうから呼び出してやろう。
「とっとと出てこい!さもなくば無理矢理にでも探し出すぞ!」
魔力を放出させ空中に五つの雷属性魔方陣を展開させながら宣告してみせる。
宣告から少しして短い悲鳴が遠くからすると相手が姿を見せた。
帽子と共に着飾ったスレンダーな貴婦人ながら全体は青白の半透明なゴースト族がレディレイスを複数連れて現れるとすぐに頭を下げて挨拶してきた。
「オホホ失礼しました大魔将軍様。やはり真実かどうか確かめたくなりまして。いや本当に、本当に優秀な眷属を連れておりまして羨ましい限りですので攻撃は本当にやめていただけるとはい……」
ペコペコと謝罪してみせるマダムレイス。
実力がそこそこしかないくせに無理して試すようなことするなよ…。
ゾドラなんか我が攻撃を止めてなければすぐにでも攻撃していたことだろう。
「茶番に付き合ってやったのだ。我が言いたいことはわかるな?」
「ひっ!?もももちろんでございます大魔将軍様!私達は大魔将軍様の配下になります!」
ちょっと威圧的に言ってやるとマダムレイスはすぐに軍門に降ることを了承してくれた。
これでゴースト族という手駒を手に入れたし、イレブン君とトゥエルビちゃんの実戦研修も出来たから内心はとても満足している。
それじゃあ、ゴーレム工場破壊作戦に向けて前進していくとしよう。
***
聖教皇国に点在するゴーレム工場。
その一つであるそこそこ中規模な工場の門前は鋼鉄の扉があり、左右には石造りの高台があり双方に三人の兵士が交代で見張っていた。
「…なあ知ってるか?」
「なんだ?」
今日の夜勤担当の一人が高台の窓から見える景色に目を向けながら話す。
「ここの工場には〈製造特区〉という名称があるらしいぞ?」
「なんだそれ?工場の全体図にそんな名前の場所は無いぞ?」
「ああ、どうやら工場長と一部の上役しか知らない場所らしくてな。俺達のような下の者には教えないんだとさ。俺も部屋から聞こえてきた話を小耳にしただけで本当かどうかはわからないがな。」
と嘘か真かの話で盛り上がっていた時だった。
火の面倒を見ていた者が顔を上げると何か言ったかと他の二人に尋ねる。問われた二人は振り返って言ってないと返してから少しすると今度はその二人の耳へと声が聞こえてきた。
「そ、空耳だよな?」
「きっと、風の音さ…。」
互いに顔を合わせた二人は苦笑いで言った時に一人があることに気づく。
反対側にあるもう一つの高台から灯りが消えていたのだ。
上司の指示で夜は決して灯りを絶やしてはならないと厳しく言われているのでどうしたのだろうと二人は火の番をよそに注視する。
すると窓から黒い何かが出てきた途端に落下した。ドチャッ…という音が地面の方で聞こえてから門の内側に立っていた兵士から悲鳴が上がったので二人は軽く身を乗り出して覗き込む。
地面には一人の兵士がうつ伏せで血溜まりの中にいるのが見えた。
つまりあの兵士は高台から落ちて死んでしまったということだ。
「おいどういうことだ!?こんな時に事故かよ!」
「ともかく隣に向かうぞ!」
非常事態に二人が向こうの高台を見に行こうと動こうとした。
まさに次の瞬間、二人の背後が一気に明るくなる。
「ぐああああああ!?熱いぃっ!?」
火の番をしていた者がいつの間にか全身を炎に包まれていたことに二人は驚く。燃えている男はその場で回ったり壁に当たり、最後は窓から飛び出し先に落ちた者と同じ末路を辿った。
男が暴れたことで高台内の灯りが弱くなる中、残された二人は延焼を危惧して消火活動をする。
それによって完全に暗くなるが下に続く階段の方は灯りがあるので二人は難なく下っていこうとした。
階段を下って半分を過ぎた頃だった。急に前から脚を止めるほどの風が吹いてきたのだ。
強風のせいで照らしていた灯りが全て消え階段が真っ暗になる。先ほどから続く不気味な現象に二人の顔から血の気が引くと足早に階段を下る。
「一体どうなってんだよ!?立て続けに高台から人が降ってくるなんて何があった!?」
「わからない!すぐに上へ報せよう!もしかしたら敵襲かもしれない!」
ここまで怪奇現象が起きるなんておかしいと思った一人が上司に報告することを決めて走り出した途端、彼は姿を消した。
何処からか飛んできて木箱ごと男は近くの建物へと突っ込んでしまったのだ。
目撃した者達が息を飲む中、彼らははっきりと耳にする。風の音とは違う女性の囁くような声を。
「ひ、ひいっ!?ゆ、幽霊だ!きっとここで死んで捨てられた奴らが化けて出てきたんだ!」
「そんなわけあるか!幽霊なんて架空のもんだろ!」
「でも!昔呼んだ本にはレイスっていう魔物が存在するって!」
「レイスは知ってる!でも奴らは廃墟にしか現れない!ここは現役で動いている工場だぞ!」
怪奇現象からその場の兵士達が言い争っていると、今度は少し離れたところで爆発が起きる。方向からして工場に使う燃料が置いてある倉庫のあるところだ。
爆発があったところから少し離れたところにある管理塔から見ていた工場長は唖然としていた。
「工場長!」
「警備主任!一体何が起きた!?蛮族の敵襲か!」
「わかりません!今現場に警備員を向かわせています!」
爆発した場所が資材庫なだけに敵襲を想定して工場長は警備主任と今後を話し合う。
そこへ現場から戻ってきた警備員が勢いよく扉を開けて現れる。
警備主任が状況を尋ねれば信じ難い報告が返ってきた。
「ゴースト族です!今この工場はゴースト族の襲撃を受けています!」
報告に工場長と警備主任は驚く。まさか廃墟等の人気の無い場所にしか現れないとされるゴースト族が四六時中稼働している工場を襲撃するなんて彼らにとっては前代未聞の事態だ。
警備主任はすぐに魔法使いを集めて対応に当たるよう指示する。しかし別の警備員が現れると更なる事態を聞かされる。
なんと工場の労働者が収監されている施設から次々と脱走者が武装した姿で出てきて戦闘が始まったというのだ。
脱走者には隷属の魔道具が装着されていたはずなのに何故か外れていたらしくしかも労働で疲弊し続けているはずが脱走者は全員活力に満ちていて戦局が劣勢なことも伝えられた。
ゴースト族の襲撃に合わせたかのようにして起きた脱走者の反乱に工場長と警備主任はもしかしてとあることを思い出す。
それは点在する全てのゴーレム工場の責任者に届けられた聖教皇国からの通達。
半世紀前に世界中を大混乱に陥れた魔族の一体であるかの大魔将軍が畏れ多くも聖教皇国に宣戦布告をした為にゴーレム工場の警備を強化せよという内容だった。
だから夜間の見張りの人数も増やしてはいた。
増やしてはいたが、まさかゴースト族を使って襲撃するなんて工場長の頭には考えすら浮かんでなかった。
「ええい!こうなれば警備ゴーレムも動かせ!多少労働者を減らしても構わないから鎮圧せよ!」
工場長が指示し二人の警備員を向かわせると警備主任を見て言う。
「万が一の為にも〈製造特区〉に運搬ゴーレムを回せ。アレだけはここが失くなろうと本国に持ち帰るぞ。」
「わかりました。すぐに向かわせます。」
短くやり取りを済ませ警備主任を見送ると工場長は机の中にあった大量の書類と自分用の資産を大きな革製の鞄に詰め込んでから急いで部屋を後にした。
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