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第七章 信仰か魔導具か。
守る小さな背中を護る大きな背中。
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ーー…まずは見て率直に思ったことを言おう。
いつからゴーレムはサーカスまがいな装飾をするようになったのだろうかと。
だが見た目に反して木々を薙ぎ倒すパワーとスピードは半世紀前を彷彿させる性能だ。
「許しません…己の都合で、利用するつもりもなく、木々達を…!」
そのせいでラオブが静かにでも大きく怒りの炎を燃やしてしまっている。
さらに高性能ゴーレムが使ってきたあのビーム攻撃。
あれは見た目は同じだが明らかに五つの属性が付与されていた。
つまり色ごとに決まった属性を使えるということだろうか?
だとしたらあの赤いのは相性からラオブと接触させない方がいいだろう。逆に青色と黄色は任せてもよさそうだ。
あと注意すべきは白いのだ。他と比べて威力が弱かったが感じからして白は光属性で間違いない。
だが、所詮はゴーレムだ。
中にいる運転手が高い魔力の持ち主であろうとも人間族であることは変わらない。況してや十メートル近い巨体を動かしてみせようとも繊細な動きは出来ないだろう。
「ラオブ、オガコ。我の攻撃を合図に動け。」
眷属らに指示してから我は闇属性の魔方陣を真上に複数展開させる。
それを見てオガコは[鬼の半月]を肩に乗せスタートダッシュの態勢に入り、ラオブは地面に胸のあたりまで潜り込む。
「まずはご挨拶といこう。【ダークアロー】!」
右手を縦に振って魔法を発動させれば魔方陣から黒い全体の矢が大量に射ち出される。
ゴーレムに対して矢の威力は弱いが一本一本に阻害の効果が付与されている。
避けようとしても巨体では無理だし、防御すれば阻害の効果が全身に起きて停止に追い込まれる。
さてこれを見て敵はどう動くだろうか。
迫る黒い矢に敵の中で最初に動いたのは白いゴーレム。先頭に立つと片手を前に出してみせる。
すると大型の光属性の魔方陣を展開させ【光障壁】を発動して防いでみせたではないか。
どうやら白いゴーレムは防御魔法も使えるようなので要注意だ。
だが逆にそこが狙い目の一つとも言える。
昔から、というか魔界時代からある我の戦略の一つ。
優秀な回復役は率先して行動不能にすれば敵は自ずと瓦解する。
どんなに優秀なチームもそれをサポートする存在を失うと徐々に追い込まれやられてしまうのを我は幾度も見てきた。
だからここは我が白ゴーレムを相手するとしよう。あとなるべく短期決戦に持っていけば一帯の土地が荒れるのを減らせるだろうから手合わせする時間も減らそう。
「魔法は防げるようだが…!」
ボンッと地面を蹴って低空飛行すれば右拳を振りかざした態勢で白ゴーレムへと突撃する。
そのまま盾を前に出しロケットのように飛んでいったのだが、させん!という声が聞こえてから別の何かに衝突する。
ずらして見ると視界一杯が青色だったので青ゴーレムが防いできたのだと理解した。
「この堅固な守りを通せると思うな!」
搭乗者がそう言って青ゴーレムを操作し防いでいない手で殴ろうとしてきた。
だから殴られる前にこちらから弾き飛ばしてやった。離れて気づいたが防いできた青ゴーレムの腕が横に拡がってシールドに変形していたし感触からして物理の防御魔法も使っていたっぽい。
ゴーレムより小さな存在に弾き飛ばされたことに敵は少し動揺を見せている間に距離を取ってから右手を前に出し宣告する。
「愚かな人間族どもよ。警告を無視してこの地に踏み入れたことは万死に値する。骨一つ残らぬと覚悟せよ!」
闇属性の波長も出し堂々と威圧してみせると敵方の下っぱは萎縮するも五色ゴーレムの方は臆せず一斉にかかれ!という号令で挑んできた。
だがそこは眷属達の出番だ。大声と共に跳躍したオガコは緑ゴーレムの足を蹴飛ばして転倒させ、ラオブは魔法で地面を柔らかくさせてゴーレム達の動きを抑えようとしてくれた。
両者のサポートを見てから我は再び白ゴーレムを攻撃しにかかろうとした。
すると突然白ゴーレムが見えにくくなる。
何故なら突然視界に霧が入ってきたからだ。明らかに魔法なのだと理解してゴーレム達に視線を送れば先ほど我の攻撃を防いでみせた青ゴーレムが盾から噴き出す形で発動させていた。
霧を使って姿を隠そうとするなんて浅知恵だ。そういうのは対象が小さい存在であってゴーレムに使うものではないしこの程度の小細工では我は相手を見失わない。
探知系のスキルを使ってすぐ白ゴーレムを見つければ盾を柄の長いロングメイスという打撃武器に変形させて飛び、先ほど光線を撃ってみせた砲を持つ腕を思いっきり殴ってやった。
女性の悲鳴と共に白ゴーレムは殴られた腕に亀裂を生んで横倒しになる。
ゴーレムを相手にするなら剣擊ではなく打撃が有効である。魔法もありなのだが、ゴーレムを作成する時に使う素材によって軽減される場合もあるので殴った方が早い。
それでも一割で殴ったのにヒビ程度とは、使った素材も高品質なものということか。とりあえず倒れたからにはこのままたたみかけるとしよう。
「そうはさせない!」
横から声がした直後に【漆黒の障壁】が発動し鉄砲水を受けた。
エメソンほどではないが強い水圧に押されて強制的に距離を離すと水圧が消えた。
視線を向けると先ほどの青ゴーレムの胸が開いて水を滴らせた大砲が顔を出していた。
「うわっ!危ねぇ!」
オガコの声に下を見れば地面から鋭く蜂起した岩を【足場】で回避している。
あれはきっと黄色ゴーレムが土属性魔法を使ってきたのだろう。逃げるオガコに黄色ゴーレムは空いてる手をなんとドリルに可変させて攻撃しているのが霧の中からも確認した。
さらには霧を吹き飛ばす暴風が起きる。風を感じた方を見れば緑の肩が開いており中にあるファンが高速回転していた。
全く個別に面白い機能がついているとは絶対にカテジナの遊び心が混じっているなあれ。
「おいグリーン!せっかくの目眩ましを吹き飛ばすな!」
「悪い悪い。早く起き上がって戦うにはこれが一番だからさ!」
「口喧嘩はそこまでだ皆!変形だ!」
『了解!』
赤ゴーレムに乗っていたリーダーがそう言うと他の四色は息を合わせて返事する。
ていうか変形するのゴーレムが?
なんて思っていれば本当に素早く変形してみせた。
白ゴーレムはきれいな球体へ。
青ゴーレムは見た目まんま戦車へ。
黄色ゴーレムはキャタピラ付きドリルへ。
緑ゴーレムはなんとこの世界にはなかったはずのヘリ型へ。
そして赤ゴーレムは…何故か獅子型へと変形してみせた。
白と赤はなんで統一しなかったのだろうかと疑問に思ってしまうが変形によってどう変わるのか期待してしまう。
だって勝利したらこれらが全部頂けるのだから子ども心が疼いてしまいそうだ。
「よしオガコ!ここは対抗して【巨体】の出番だ!」
「いや親分。進化して失ったの忘れないでくれ。」
悪役の立場でついウキウキ気分で言ったらすぐにオガコに返されてしまった……申し訳ない。
とりあえず変形したことでどんな攻撃をしてくるか少し出方を待ってみよう。
短い沈黙の後で先に動いたのは赤ゴーレムと緑ゴーレム。
緑ゴーレムは形通りにプロペラを回転させ浮上させ、赤ゴーレムはオガコに向かって跳躍し鋭い爪を持った前足を振ってみせる。
空中に飛んだ緑ゴーレムは下部にある二門の機関砲らしきところから風属性の弾丸を我に連射してきた。
ただ精度が悪いからこれくらいの弾なら速く動くくらいで回避できる。
オガコの方は自身の得物で猫パンチを弾いてみせれば赤ゴーレムは口を開いて炎を吐いてみせたりと攻防を繰り返しているから心配いらないので他のゴーレムに目を配る。
ラオブは戦車型の青ゴーレムから放水を受けている。見た目は物凄い水圧のようだがラオブは涼しげな顔をして左手で受け止めている。
当たり前だ。植物に水を注ぐように、ラオブはただ受け止めいるのではなく左手の平から吸収しているのだから。
そして吸収した水を右手から高圧噴射させて青ゴーレムに返してやった。
しかし転がってやってきた白ゴーレムが防御魔法を使って守ってみせる。
ふむ、機体性能頼りではなくちゃんと訓練された連携だ。
(…ん?黄色ゴーレムは何処だ?)
回避しながら各ゴーレムを観察しようとしていたらドリル戦車の黄色ゴーレムの姿が見えない。形状から地面に目を向けると大きな穴が空いていた。
次の瞬間、ラオブの足元が爆発したように大きな土煙が上がった。
「くっ…!」
「ラオブ…!」
ボフンッと土煙から出てきたラオブの右腕が上腕から無くなっていた。
その後で黄色ゴーレムがドリルを回転させながら姿をみせる。
これにはしてやられた。
まさか意識を散らせている間に奇襲攻撃を仕掛けてこようとは。
「そこだ!高圧縮放水をくらえ!」
空中に浮いたラオブへと青ゴーレムが大砲から超高圧の水を放つ。一直線に飛んでくる水がラオブに迫ったので咄嗟に間へ入って盾で防いだ。
「大事ないかラオブ?」
「申し訳ありません主君。ですが腕くらい問題ありません。」
問いかけにラオブは謝罪してから失った右腕を生やしてみせる。
そこはさすが樹木系モンスターと言うべきだなと思いつつゴーレム達を見る。
ここまででもこのゴーレム達は素晴らしい性能だ。
変形して尚も白ゴーレムを除いてしっかり形に合った動きをしてみせる。
でもこれ程の大きな動きや攻撃をしたら熟練の魔法使いだろうとも人間族ではもう魔力がギリギリになってもおかしくないはずだ。
なのにまだまだ余裕がありそうな動きをしてみせる。もしかしてあのゴーレムには魔力を増幅させる機能が付いているのだろうか?
それともああ見えて一人乗りではなく複数乗っているのだろうか?
…まあいい、短い時間だったがもう終わらせよう。
『オガコ、手合わせしてどうだった?』
『ああ親分。パワーはあるが、もう十分って感じかな。』
『そうか。ラオブは?』
『はい、初見で油断しましたが初めての手合わせというのは楽しめました。』
『ならよし。双方解放して戦え。オガコは赤と緑を。ラオブは青を。我は黄色と白を討つ。ただ破壊ではなく行動不能に抑えよ。』
短く命令し二体から返事を聞けば我はすぐに動く。
「契約スキル発動!【眷属供給】!」
右手を挙げてスキルを口に出せば手から黒い線が二本伸びてオガコとラオブに繋がる。
繋がった二体は身体に刺青のような黒い模様が浮かび上がった。
「うひょう~!久しぶりに熱くなってきたぜぇ!」
「素晴らしい!これが主君の魔力…!」
同時にオガコとラオブの魔力が格段に上昇する。
契約スキル【眷属供給】は我の魔力を選択した眷属に分け与えることで一時的にステータスを上昇させる補助スキルだ。
その分我の魔力は消費するが今回は二体なので小幅程度だ。
よく戦隊もの番組で怪人が悪の親玉に巨大化させられる強化とかを前世で知っているのでこのスキルが使えるようになった時の最初はそうならないか不安になったのは昔の話だ。
二体を強化してから最初に狙ったのは白ゴーレム。真っ直ぐ飛んで向かうと白ゴーレムは黄色ゴーレムの隣に転がってから光属性の障壁を展開させる。
でも我は躊躇なく盾を前に出して突撃する。衝突する前に闇属性を放出してやれば激しい相属性反応が起きる。
しかしエルフェンの時とは違ったことが起きる。
相属性反応は短く終わり闇属性が競り勝てば白ゴーレムが出した障壁はヒビ割れて砕け散る。
エルフェンとは拮抗していたが白ゴーレムの光属性では我と大差があったからだ。
そのまま白ゴーレムに衝突すれば一部を砕いて森までぶっ飛ばしてやった。
まさか白ゴーレムの障壁が破られることを想像すらしてなかった黄色ゴーレムはドリルを回転させるのが遅れる。
その間に我は黄色ゴーレムの背後に回ると両手を食い込ませてから思いっきり後ろに反れると
「将ォォォ軍っ!!ドロォォォップ!!」
黄色ゴーレムを地面から離して豪快にバックドロップをかまし逆さまにしてやった。
天地がひっくり返った運転席ではきっと頭をぶつけていることだろう。
これでゴーレム二体は処理したので眷属らに目を向ける。
強化されたオガコは赤ゴーレムの右パンチを左足で蹴る。それだけパンチした右手は大きく弾かれ赤ゴーレムは横転しかけなんとか踏み留まる。
その間にオガコは【足場】で階段を空中に作って駆け上がり、最上段で跳躍すると得物を二段階目に変形させて振りかざす。狙うはオガコに弾を連射する緑ゴーレム。
「おんどりゃああっ!!」
豪快に戦斧[鬼の半月]を振って緑ゴーレムのプロペラ部に唐竹割りを食らわせたオガコ。食い込んだ戦斧によってプロペラは完全に停止して緑ゴーレムは墜落した。
ラオブに目を向けると青ゴーレムの前で大きくなっていた。
いや正確には地面が盛り上がってラオブの形に成っていた。
おそらく自身に土を纏わせるようにしてラオブは土人形と化して左手で拳を作ると後ろに引いてから一気に前へ出した。
自分の乗っている機体に匹敵する拳が迫っていることに青ゴーレムは急いで後退しようとしたが、それは衝突を僅かに緩和させる程度に過ぎずラオブの土パンチは見事に捉えてぶっ飛ばす。
空中で軽く二回転してから地面に落ち一度跳ねてから横転した形で止まった。
【眷属供給】を使ってから短い間で一気に赤ゴーレム以外を行動不能にしてみせたことはさすが我が眷属と言えよう。
…なんてつい眷属らを称賛していたのがいけなかったのかもしれない。
(む?ドリルが、いない?)
赤ゴーレムへ視線を向ける途中で逆さまにしてやった黄色ゴーレムの姿が消えていることに気づく。
よく見れば新しい穴が出来ているのでいつの間にか地面を潜っていたようだ。
眷属に注意を伝えてからさっさと赤ゴーレムを潰してやろうと見据えたまさに直後だった。
ドンッ!と背後の遠くから音が聞こえて振り返る。
オサカの町の内側で煙が上がっていた。
「しまった!?ここは任せた!」
「あ!親分!」
オガコの呼び掛けを無視して我は町に向かって飛んだ。
くそ、正義の味方のつもりなら目の前の敵にだけ集中してくれよ……
***
ーー…突然の爆発に何が起きたかわからなかった。
町が攻撃された時の為に大魔将軍様は混雑を想定して避難所をお城と教会に二つに分けており私は兄とメビさんと一緒に戦えない人々を誘導する仕事をしていた。
お城の方はセプトさんやイランダさん達がいるから私達は孤児の子達を教会の奥に移動させ万が一の為に入り口前で見張る為に立っていた。
メビさんからは中にいてもいいと言われたけれども大魔将軍様に応えたいから私の我が儘でここにいる。
外壁の向こうでは戦いの音が時折聞こえてくるけど、大魔将軍様と眷属様が戦っているからきっと大丈夫。
私達は与えてもらった仕事に集中しよう。
そう思っていた矢先、最初に感じたのは揺れだった。
でも大魔将軍様達が戦っているのだから揺れくらいあって当然だと思ってしまった。
「メビさん、なんだか強くなってませんか?」
しかし兄の言葉で私もメビさんも気づかされる。揺れが少しずつ強くなってきて遂には踏ん張ってないといけないくらいになった直後だった。
私達の少し前あたりの地面にヒビが生まれた途端に爆発が起きた。
「あうっ!?」
左にいたメビさんの声を聞きながら衝撃に私は尻餅を着く。
私は立ち上がると土煙の中で兄とメビさんを呼ぶ。兄はすぐに返事して姿をみせたがメビさんから返事がなかった。
だから立ち上がって兄と一緒に呼び掛けながらメビさんのいる方に向かってみれば私は手を口に当てる。
地面に頭から血を流して横たわっているメビさんを見つけてしまったからだ。
多分さっきの爆発で飛んできた石か何かがメビさんに直撃してしまったのだろう。
私達はすぐに駆け寄りメビさんの身体を揺らしながら呼び掛け続けた。
するとメビさんからうめき声が聞こえたので私は教わった回復魔法を使って治療した。
傷が癒え血が止まった矢先だった。とてもうるさい音がしてから土煙を破って見たことがないものが現れた。
多分少し前に教えてもらった魔導具なのかもしれないがとても大きい。
「やったぞ!あの魔族を出し抜いてやった!」
魔導具からヒトの男勝りな女性の声が聞こえてきた。何処から声が出たのかはわからないが直感でわかった。
これはとても危ないものだと。敵がやってきたと。
「トゥエルビ!メビさんを教会に運ぼう!」
兄の言葉で我に帰ると私は二人でメビさんを運ぼうと試みる。
でも声を出したことで私達の存在が敵に気づかれてしまった。
「そこにいたか異端者め!引き裂いてやる!」
また声が聞こえてくると大きなトゲが回転しながら突っ込んできた。
このままでは皆が巻き込まれると思った私は咄嗟に【光壁陣】を出した。
大魔将軍様が褒めてくださったこの魔法で兄とメビさんを守る。その気持ちで回転するトゲを防いでみようとした。
トゲが【光壁陣】に当たると一気に身体が重く感じる。メビさんからそれが敵の攻撃を防いだ時の感覚だと訓練で教わっていたけれども、こんなにつらいものだと思わなかった。
「トゥエルビ!」
苦しそうな私に兄は手を伸ばして背中に当てる。触れたところから兄の魔力が注がれる感覚を得れば【光壁陣】は強固になる。
これはプルパおじいさんに教えてもらった方法。血の繋がった兄妹は魔力も似るので注ぐ時に合わせやすいからと優しく教えてくれた。
それでも回転するトゲを受け止める負担が軽くなった程度でしかなかったけれども時間稼ぎにはなると信じた。
こうして耐えていればきっと可愛いエイムさんやちょっと怖いシャッテンさんが、大魔将軍様が助けにくると……
「くっ!その程度でこのゴーレムを止められるものか!出力最大!」
また声がした直後、急激に負担が強くなって私と兄は顔を歪める。結界ごと自分達が押されるのに脚へ力を入れて踏ん張る。
額どころか背中にも汗が吹き出てくるのがわかる。それでも頑張ろうとした時、結界から音が聞こえた。
結界の上部分に亀裂が生まれて限界が迫っていることを伝えていた。
(うぅ…も、もう、ダメ…!)
目を瞑って必死で耐えようとしたのも束の間だった。
結界が割れ私達へと回転するトゲが迫る。その瞬間がとってもゆっくりに感じられた。
死の瞬間、というものなのだろうか……
(…ごめんなさい。すみません大魔将軍様……)
心の中で私は一番に大魔将軍に謝った。
せっかく兄と一緒に命を救ってもらって、生きる道を作ってもらったのに。
まだまだ役立てていないのに。
こんなところで死んでしまうことを、私は謝るしか出来なかった。
「っ…ごめんなさい大魔将軍様ぁ!」
恐怖と罪悪感に涙を滲ませながら私は力いっぱい謝った。
次の瞬間、大きな音がして私の視界は黒一色になる。回転するトゲに巻き込まれて死んでしまったのかと思った。
「…何故謝る?その小さな身で守ってみせたことを誇れ。」
でも、違った。
上から聞こえてきた声に私も兄も泣き顔を向けた。
間に割って入るようにして回転するトゲを真っ黒の盾で防ごうとするのではなく弾いてみせながら立つ大魔将軍様を。
「な、なんだと!?もう来たというのか!おのれ魔族め!この世の異端者を!害虫を手に入れていい気になるな!」
盾越しに聞こえてきた言葉の後、空気が変わった。
近くにいた私達が感じたのは冷気。いや、まるで身体の芯まで冷えそうな寒気に私は兄に抱き寄せられた。
「…害虫?ならばお前達人間族はこの世界の病原菌だ。数が多く、増えやすいだけのくせに、道具を使ってまで弱者に暴力を振るうお前達なんぞ滅菌してくれる。」
大魔将軍様は怒っていた。それも私達が初めて見るくらいすごくすごく怒っていたのが肌に伝わるほどだった。
すると上からエイムさんの声がした。
背中に翼を生やした天使みたいなエイムさんが大魔将軍様の隣に着地する。
「マスターが先に来るなんて。遅れてごめんね。」
「構わん。後ろの皆を頼んだぞエイム。」
短いやり取りをした時にエイムさんが大魔将軍様を何故か二度見してから返事して私達のところに来てくれた。
「大丈夫?大ケガしてない?」
「私とイレブン兄さんは大丈夫です。メビさんが頭を怪我しましたけれども治療しました。」
「そっか、じゃあ教会に入ろっか。ここだと君達マスターの気に充てられて倒れるかもしれないし。」
エイムさんの言葉に私はわからずどういうことですかと聞けばエイムさんは小さな身体に似合わずメビさんを背負ってから返す。
「マスターがやる気になったの。だから久しぶりに見れるかもしれない。マスターの〈剣〉をね。」
その言葉の意味を私達は教会の入り口前で知ることになる。
大魔将軍様の〈剣〉を…。
いつからゴーレムはサーカスまがいな装飾をするようになったのだろうかと。
だが見た目に反して木々を薙ぎ倒すパワーとスピードは半世紀前を彷彿させる性能だ。
「許しません…己の都合で、利用するつもりもなく、木々達を…!」
そのせいでラオブが静かにでも大きく怒りの炎を燃やしてしまっている。
さらに高性能ゴーレムが使ってきたあのビーム攻撃。
あれは見た目は同じだが明らかに五つの属性が付与されていた。
つまり色ごとに決まった属性を使えるということだろうか?
だとしたらあの赤いのは相性からラオブと接触させない方がいいだろう。逆に青色と黄色は任せてもよさそうだ。
あと注意すべきは白いのだ。他と比べて威力が弱かったが感じからして白は光属性で間違いない。
だが、所詮はゴーレムだ。
中にいる運転手が高い魔力の持ち主であろうとも人間族であることは変わらない。況してや十メートル近い巨体を動かしてみせようとも繊細な動きは出来ないだろう。
「ラオブ、オガコ。我の攻撃を合図に動け。」
眷属らに指示してから我は闇属性の魔方陣を真上に複数展開させる。
それを見てオガコは[鬼の半月]を肩に乗せスタートダッシュの態勢に入り、ラオブは地面に胸のあたりまで潜り込む。
「まずはご挨拶といこう。【ダークアロー】!」
右手を縦に振って魔法を発動させれば魔方陣から黒い全体の矢が大量に射ち出される。
ゴーレムに対して矢の威力は弱いが一本一本に阻害の効果が付与されている。
避けようとしても巨体では無理だし、防御すれば阻害の効果が全身に起きて停止に追い込まれる。
さてこれを見て敵はどう動くだろうか。
迫る黒い矢に敵の中で最初に動いたのは白いゴーレム。先頭に立つと片手を前に出してみせる。
すると大型の光属性の魔方陣を展開させ【光障壁】を発動して防いでみせたではないか。
どうやら白いゴーレムは防御魔法も使えるようなので要注意だ。
だが逆にそこが狙い目の一つとも言える。
昔から、というか魔界時代からある我の戦略の一つ。
優秀な回復役は率先して行動不能にすれば敵は自ずと瓦解する。
どんなに優秀なチームもそれをサポートする存在を失うと徐々に追い込まれやられてしまうのを我は幾度も見てきた。
だからここは我が白ゴーレムを相手するとしよう。あとなるべく短期決戦に持っていけば一帯の土地が荒れるのを減らせるだろうから手合わせする時間も減らそう。
「魔法は防げるようだが…!」
ボンッと地面を蹴って低空飛行すれば右拳を振りかざした態勢で白ゴーレムへと突撃する。
そのまま盾を前に出しロケットのように飛んでいったのだが、させん!という声が聞こえてから別の何かに衝突する。
ずらして見ると視界一杯が青色だったので青ゴーレムが防いできたのだと理解した。
「この堅固な守りを通せると思うな!」
搭乗者がそう言って青ゴーレムを操作し防いでいない手で殴ろうとしてきた。
だから殴られる前にこちらから弾き飛ばしてやった。離れて気づいたが防いできた青ゴーレムの腕が横に拡がってシールドに変形していたし感触からして物理の防御魔法も使っていたっぽい。
ゴーレムより小さな存在に弾き飛ばされたことに敵は少し動揺を見せている間に距離を取ってから右手を前に出し宣告する。
「愚かな人間族どもよ。警告を無視してこの地に踏み入れたことは万死に値する。骨一つ残らぬと覚悟せよ!」
闇属性の波長も出し堂々と威圧してみせると敵方の下っぱは萎縮するも五色ゴーレムの方は臆せず一斉にかかれ!という号令で挑んできた。
だがそこは眷属達の出番だ。大声と共に跳躍したオガコは緑ゴーレムの足を蹴飛ばして転倒させ、ラオブは魔法で地面を柔らかくさせてゴーレム達の動きを抑えようとしてくれた。
両者のサポートを見てから我は再び白ゴーレムを攻撃しにかかろうとした。
すると突然白ゴーレムが見えにくくなる。
何故なら突然視界に霧が入ってきたからだ。明らかに魔法なのだと理解してゴーレム達に視線を送れば先ほど我の攻撃を防いでみせた青ゴーレムが盾から噴き出す形で発動させていた。
霧を使って姿を隠そうとするなんて浅知恵だ。そういうのは対象が小さい存在であってゴーレムに使うものではないしこの程度の小細工では我は相手を見失わない。
探知系のスキルを使ってすぐ白ゴーレムを見つければ盾を柄の長いロングメイスという打撃武器に変形させて飛び、先ほど光線を撃ってみせた砲を持つ腕を思いっきり殴ってやった。
女性の悲鳴と共に白ゴーレムは殴られた腕に亀裂を生んで横倒しになる。
ゴーレムを相手にするなら剣擊ではなく打撃が有効である。魔法もありなのだが、ゴーレムを作成する時に使う素材によって軽減される場合もあるので殴った方が早い。
それでも一割で殴ったのにヒビ程度とは、使った素材も高品質なものということか。とりあえず倒れたからにはこのままたたみかけるとしよう。
「そうはさせない!」
横から声がした直後に【漆黒の障壁】が発動し鉄砲水を受けた。
エメソンほどではないが強い水圧に押されて強制的に距離を離すと水圧が消えた。
視線を向けると先ほどの青ゴーレムの胸が開いて水を滴らせた大砲が顔を出していた。
「うわっ!危ねぇ!」
オガコの声に下を見れば地面から鋭く蜂起した岩を【足場】で回避している。
あれはきっと黄色ゴーレムが土属性魔法を使ってきたのだろう。逃げるオガコに黄色ゴーレムは空いてる手をなんとドリルに可変させて攻撃しているのが霧の中からも確認した。
さらには霧を吹き飛ばす暴風が起きる。風を感じた方を見れば緑の肩が開いており中にあるファンが高速回転していた。
全く個別に面白い機能がついているとは絶対にカテジナの遊び心が混じっているなあれ。
「おいグリーン!せっかくの目眩ましを吹き飛ばすな!」
「悪い悪い。早く起き上がって戦うにはこれが一番だからさ!」
「口喧嘩はそこまでだ皆!変形だ!」
『了解!』
赤ゴーレムに乗っていたリーダーがそう言うと他の四色は息を合わせて返事する。
ていうか変形するのゴーレムが?
なんて思っていれば本当に素早く変形してみせた。
白ゴーレムはきれいな球体へ。
青ゴーレムは見た目まんま戦車へ。
黄色ゴーレムはキャタピラ付きドリルへ。
緑ゴーレムはなんとこの世界にはなかったはずのヘリ型へ。
そして赤ゴーレムは…何故か獅子型へと変形してみせた。
白と赤はなんで統一しなかったのだろうかと疑問に思ってしまうが変形によってどう変わるのか期待してしまう。
だって勝利したらこれらが全部頂けるのだから子ども心が疼いてしまいそうだ。
「よしオガコ!ここは対抗して【巨体】の出番だ!」
「いや親分。進化して失ったの忘れないでくれ。」
悪役の立場でついウキウキ気分で言ったらすぐにオガコに返されてしまった……申し訳ない。
とりあえず変形したことでどんな攻撃をしてくるか少し出方を待ってみよう。
短い沈黙の後で先に動いたのは赤ゴーレムと緑ゴーレム。
緑ゴーレムは形通りにプロペラを回転させ浮上させ、赤ゴーレムはオガコに向かって跳躍し鋭い爪を持った前足を振ってみせる。
空中に飛んだ緑ゴーレムは下部にある二門の機関砲らしきところから風属性の弾丸を我に連射してきた。
ただ精度が悪いからこれくらいの弾なら速く動くくらいで回避できる。
オガコの方は自身の得物で猫パンチを弾いてみせれば赤ゴーレムは口を開いて炎を吐いてみせたりと攻防を繰り返しているから心配いらないので他のゴーレムに目を配る。
ラオブは戦車型の青ゴーレムから放水を受けている。見た目は物凄い水圧のようだがラオブは涼しげな顔をして左手で受け止めている。
当たり前だ。植物に水を注ぐように、ラオブはただ受け止めいるのではなく左手の平から吸収しているのだから。
そして吸収した水を右手から高圧噴射させて青ゴーレムに返してやった。
しかし転がってやってきた白ゴーレムが防御魔法を使って守ってみせる。
ふむ、機体性能頼りではなくちゃんと訓練された連携だ。
(…ん?黄色ゴーレムは何処だ?)
回避しながら各ゴーレムを観察しようとしていたらドリル戦車の黄色ゴーレムの姿が見えない。形状から地面に目を向けると大きな穴が空いていた。
次の瞬間、ラオブの足元が爆発したように大きな土煙が上がった。
「くっ…!」
「ラオブ…!」
ボフンッと土煙から出てきたラオブの右腕が上腕から無くなっていた。
その後で黄色ゴーレムがドリルを回転させながら姿をみせる。
これにはしてやられた。
まさか意識を散らせている間に奇襲攻撃を仕掛けてこようとは。
「そこだ!高圧縮放水をくらえ!」
空中に浮いたラオブへと青ゴーレムが大砲から超高圧の水を放つ。一直線に飛んでくる水がラオブに迫ったので咄嗟に間へ入って盾で防いだ。
「大事ないかラオブ?」
「申し訳ありません主君。ですが腕くらい問題ありません。」
問いかけにラオブは謝罪してから失った右腕を生やしてみせる。
そこはさすが樹木系モンスターと言うべきだなと思いつつゴーレム達を見る。
ここまででもこのゴーレム達は素晴らしい性能だ。
変形して尚も白ゴーレムを除いてしっかり形に合った動きをしてみせる。
でもこれ程の大きな動きや攻撃をしたら熟練の魔法使いだろうとも人間族ではもう魔力がギリギリになってもおかしくないはずだ。
なのにまだまだ余裕がありそうな動きをしてみせる。もしかしてあのゴーレムには魔力を増幅させる機能が付いているのだろうか?
それともああ見えて一人乗りではなく複数乗っているのだろうか?
…まあいい、短い時間だったがもう終わらせよう。
『オガコ、手合わせしてどうだった?』
『ああ親分。パワーはあるが、もう十分って感じかな。』
『そうか。ラオブは?』
『はい、初見で油断しましたが初めての手合わせというのは楽しめました。』
『ならよし。双方解放して戦え。オガコは赤と緑を。ラオブは青を。我は黄色と白を討つ。ただ破壊ではなく行動不能に抑えよ。』
短く命令し二体から返事を聞けば我はすぐに動く。
「契約スキル発動!【眷属供給】!」
右手を挙げてスキルを口に出せば手から黒い線が二本伸びてオガコとラオブに繋がる。
繋がった二体は身体に刺青のような黒い模様が浮かび上がった。
「うひょう~!久しぶりに熱くなってきたぜぇ!」
「素晴らしい!これが主君の魔力…!」
同時にオガコとラオブの魔力が格段に上昇する。
契約スキル【眷属供給】は我の魔力を選択した眷属に分け与えることで一時的にステータスを上昇させる補助スキルだ。
その分我の魔力は消費するが今回は二体なので小幅程度だ。
よく戦隊もの番組で怪人が悪の親玉に巨大化させられる強化とかを前世で知っているのでこのスキルが使えるようになった時の最初はそうならないか不安になったのは昔の話だ。
二体を強化してから最初に狙ったのは白ゴーレム。真っ直ぐ飛んで向かうと白ゴーレムは黄色ゴーレムの隣に転がってから光属性の障壁を展開させる。
でも我は躊躇なく盾を前に出して突撃する。衝突する前に闇属性を放出してやれば激しい相属性反応が起きる。
しかしエルフェンの時とは違ったことが起きる。
相属性反応は短く終わり闇属性が競り勝てば白ゴーレムが出した障壁はヒビ割れて砕け散る。
エルフェンとは拮抗していたが白ゴーレムの光属性では我と大差があったからだ。
そのまま白ゴーレムに衝突すれば一部を砕いて森までぶっ飛ばしてやった。
まさか白ゴーレムの障壁が破られることを想像すらしてなかった黄色ゴーレムはドリルを回転させるのが遅れる。
その間に我は黄色ゴーレムの背後に回ると両手を食い込ませてから思いっきり後ろに反れると
「将ォォォ軍っ!!ドロォォォップ!!」
黄色ゴーレムを地面から離して豪快にバックドロップをかまし逆さまにしてやった。
天地がひっくり返った運転席ではきっと頭をぶつけていることだろう。
これでゴーレム二体は処理したので眷属らに目を向ける。
強化されたオガコは赤ゴーレムの右パンチを左足で蹴る。それだけパンチした右手は大きく弾かれ赤ゴーレムは横転しかけなんとか踏み留まる。
その間にオガコは【足場】で階段を空中に作って駆け上がり、最上段で跳躍すると得物を二段階目に変形させて振りかざす。狙うはオガコに弾を連射する緑ゴーレム。
「おんどりゃああっ!!」
豪快に戦斧[鬼の半月]を振って緑ゴーレムのプロペラ部に唐竹割りを食らわせたオガコ。食い込んだ戦斧によってプロペラは完全に停止して緑ゴーレムは墜落した。
ラオブに目を向けると青ゴーレムの前で大きくなっていた。
いや正確には地面が盛り上がってラオブの形に成っていた。
おそらく自身に土を纏わせるようにしてラオブは土人形と化して左手で拳を作ると後ろに引いてから一気に前へ出した。
自分の乗っている機体に匹敵する拳が迫っていることに青ゴーレムは急いで後退しようとしたが、それは衝突を僅かに緩和させる程度に過ぎずラオブの土パンチは見事に捉えてぶっ飛ばす。
空中で軽く二回転してから地面に落ち一度跳ねてから横転した形で止まった。
【眷属供給】を使ってから短い間で一気に赤ゴーレム以外を行動不能にしてみせたことはさすが我が眷属と言えよう。
…なんてつい眷属らを称賛していたのがいけなかったのかもしれない。
(む?ドリルが、いない?)
赤ゴーレムへ視線を向ける途中で逆さまにしてやった黄色ゴーレムの姿が消えていることに気づく。
よく見れば新しい穴が出来ているのでいつの間にか地面を潜っていたようだ。
眷属に注意を伝えてからさっさと赤ゴーレムを潰してやろうと見据えたまさに直後だった。
ドンッ!と背後の遠くから音が聞こえて振り返る。
オサカの町の内側で煙が上がっていた。
「しまった!?ここは任せた!」
「あ!親分!」
オガコの呼び掛けを無視して我は町に向かって飛んだ。
くそ、正義の味方のつもりなら目の前の敵にだけ集中してくれよ……
***
ーー…突然の爆発に何が起きたかわからなかった。
町が攻撃された時の為に大魔将軍様は混雑を想定して避難所をお城と教会に二つに分けており私は兄とメビさんと一緒に戦えない人々を誘導する仕事をしていた。
お城の方はセプトさんやイランダさん達がいるから私達は孤児の子達を教会の奥に移動させ万が一の為に入り口前で見張る為に立っていた。
メビさんからは中にいてもいいと言われたけれども大魔将軍様に応えたいから私の我が儘でここにいる。
外壁の向こうでは戦いの音が時折聞こえてくるけど、大魔将軍様と眷属様が戦っているからきっと大丈夫。
私達は与えてもらった仕事に集中しよう。
そう思っていた矢先、最初に感じたのは揺れだった。
でも大魔将軍様達が戦っているのだから揺れくらいあって当然だと思ってしまった。
「メビさん、なんだか強くなってませんか?」
しかし兄の言葉で私もメビさんも気づかされる。揺れが少しずつ強くなってきて遂には踏ん張ってないといけないくらいになった直後だった。
私達の少し前あたりの地面にヒビが生まれた途端に爆発が起きた。
「あうっ!?」
左にいたメビさんの声を聞きながら衝撃に私は尻餅を着く。
私は立ち上がると土煙の中で兄とメビさんを呼ぶ。兄はすぐに返事して姿をみせたがメビさんから返事がなかった。
だから立ち上がって兄と一緒に呼び掛けながらメビさんのいる方に向かってみれば私は手を口に当てる。
地面に頭から血を流して横たわっているメビさんを見つけてしまったからだ。
多分さっきの爆発で飛んできた石か何かがメビさんに直撃してしまったのだろう。
私達はすぐに駆け寄りメビさんの身体を揺らしながら呼び掛け続けた。
するとメビさんからうめき声が聞こえたので私は教わった回復魔法を使って治療した。
傷が癒え血が止まった矢先だった。とてもうるさい音がしてから土煙を破って見たことがないものが現れた。
多分少し前に教えてもらった魔導具なのかもしれないがとても大きい。
「やったぞ!あの魔族を出し抜いてやった!」
魔導具からヒトの男勝りな女性の声が聞こえてきた。何処から声が出たのかはわからないが直感でわかった。
これはとても危ないものだと。敵がやってきたと。
「トゥエルビ!メビさんを教会に運ぼう!」
兄の言葉で我に帰ると私は二人でメビさんを運ぼうと試みる。
でも声を出したことで私達の存在が敵に気づかれてしまった。
「そこにいたか異端者め!引き裂いてやる!」
また声が聞こえてくると大きなトゲが回転しながら突っ込んできた。
このままでは皆が巻き込まれると思った私は咄嗟に【光壁陣】を出した。
大魔将軍様が褒めてくださったこの魔法で兄とメビさんを守る。その気持ちで回転するトゲを防いでみようとした。
トゲが【光壁陣】に当たると一気に身体が重く感じる。メビさんからそれが敵の攻撃を防いだ時の感覚だと訓練で教わっていたけれども、こんなにつらいものだと思わなかった。
「トゥエルビ!」
苦しそうな私に兄は手を伸ばして背中に当てる。触れたところから兄の魔力が注がれる感覚を得れば【光壁陣】は強固になる。
これはプルパおじいさんに教えてもらった方法。血の繋がった兄妹は魔力も似るので注ぐ時に合わせやすいからと優しく教えてくれた。
それでも回転するトゲを受け止める負担が軽くなった程度でしかなかったけれども時間稼ぎにはなると信じた。
こうして耐えていればきっと可愛いエイムさんやちょっと怖いシャッテンさんが、大魔将軍様が助けにくると……
「くっ!その程度でこのゴーレムを止められるものか!出力最大!」
また声がした直後、急激に負担が強くなって私と兄は顔を歪める。結界ごと自分達が押されるのに脚へ力を入れて踏ん張る。
額どころか背中にも汗が吹き出てくるのがわかる。それでも頑張ろうとした時、結界から音が聞こえた。
結界の上部分に亀裂が生まれて限界が迫っていることを伝えていた。
(うぅ…も、もう、ダメ…!)
目を瞑って必死で耐えようとしたのも束の間だった。
結界が割れ私達へと回転するトゲが迫る。その瞬間がとってもゆっくりに感じられた。
死の瞬間、というものなのだろうか……
(…ごめんなさい。すみません大魔将軍様……)
心の中で私は一番に大魔将軍に謝った。
せっかく兄と一緒に命を救ってもらって、生きる道を作ってもらったのに。
まだまだ役立てていないのに。
こんなところで死んでしまうことを、私は謝るしか出来なかった。
「っ…ごめんなさい大魔将軍様ぁ!」
恐怖と罪悪感に涙を滲ませながら私は力いっぱい謝った。
次の瞬間、大きな音がして私の視界は黒一色になる。回転するトゲに巻き込まれて死んでしまったのかと思った。
「…何故謝る?その小さな身で守ってみせたことを誇れ。」
でも、違った。
上から聞こえてきた声に私も兄も泣き顔を向けた。
間に割って入るようにして回転するトゲを真っ黒の盾で防ごうとするのではなく弾いてみせながら立つ大魔将軍様を。
「な、なんだと!?もう来たというのか!おのれ魔族め!この世の異端者を!害虫を手に入れていい気になるな!」
盾越しに聞こえてきた言葉の後、空気が変わった。
近くにいた私達が感じたのは冷気。いや、まるで身体の芯まで冷えそうな寒気に私は兄に抱き寄せられた。
「…害虫?ならばお前達人間族はこの世界の病原菌だ。数が多く、増えやすいだけのくせに、道具を使ってまで弱者に暴力を振るうお前達なんぞ滅菌してくれる。」
大魔将軍様は怒っていた。それも私達が初めて見るくらいすごくすごく怒っていたのが肌に伝わるほどだった。
すると上からエイムさんの声がした。
背中に翼を生やした天使みたいなエイムさんが大魔将軍様の隣に着地する。
「マスターが先に来るなんて。遅れてごめんね。」
「構わん。後ろの皆を頼んだぞエイム。」
短いやり取りをした時にエイムさんが大魔将軍様を何故か二度見してから返事して私達のところに来てくれた。
「大丈夫?大ケガしてない?」
「私とイレブン兄さんは大丈夫です。メビさんが頭を怪我しましたけれども治療しました。」
「そっか、じゃあ教会に入ろっか。ここだと君達マスターの気に充てられて倒れるかもしれないし。」
エイムさんの言葉に私はわからずどういうことですかと聞けばエイムさんは小さな身体に似合わずメビさんを背負ってから返す。
「マスターがやる気になったの。だから久しぶりに見れるかもしれない。マスターの〈剣〉をね。」
その言葉の意味を私達は教会の入り口前で知ることになる。
大魔将軍様の〈剣〉を…。
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