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序章。

ラインを作りましょう。

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 オガコ復活から三日後。
 我々は大門の外側にいた。
 光封印の土台から解かれ全開した大門の向こうで特大剣[モモタロウ]を手に持つオガコと何故かカンフーパンツとシューズにタンクトップというどこかで見たことあるような格闘家姿のエイムが我を間に向き合っていた。

「五十年でどれだけ鈍ったか見てあげるよオガコ!」
「へっ!進化したアタシの力にビビらせてやるぜチビエイム!」

 両者の意気込みを聞いてから我が右手を挙げて始め!と振り下ろすのを合図に二体はまず前に出て拳を合わせた。
 そう、これは進化したオガコのステータスを確認する為の訓練である。
 よってエイムには魔法無しの格闘縛りで戦うように命令している。
 エイムが連打で攻めるのに対してオガコは一撃必殺の強打で特大剣を振るって戦う。
 正直言うとエイムの格闘スキルだけではオガコに勝てるかは微妙である。
 しかしこの訓練で大事なのは身体能力だけではない。

「いくぜぇ!第二形態!」

 オガコがそう言って[モモタロウ]に魔力を注ぐ仕草をする。
 すると鉈のような形状だった[モモタロウ]が変形してギザギザの鋸へと変わる。
 可変式の[モモタロウ]は三段階式で一段階が鉈に、二段階が鋸に、最後の三段階は身の丈三メートルの鬼金棒になる仕組みだ。

「おりゃああっと…!」

 片手で特大鋸を横薙ぎな振るってみせたオガコ。
 進化前ならそこから背面まできたところで腕力に物言わせて半月斬りに振り下ろすところだった。
 …のだが、特大鋸の切っ先が地面に当たって弾かれオガコは振り下ろすのに間が出来てしまい後ろに跳んだエイムに避けられてしまう。
 ズゴンッ!と地面を砕いてからオガコは両手で引き抜くように持ち上げていれば前に出たエイムの伸びるスライムパンチを受けてしまい地面を滑る。

「へっへーん♪やっぱり鈍ったんじゃない?」
「んだとこらぁ!本気でやってやらぁ!」

 そんな攻防の後にきたエイムの挑発にオガコは怒ってから一気に三段階目の鬼金棒に変形させる。

「こぉのおぉぉぉ!っととと…!」

 ところが鬼金棒を左右に振ろうとしたオガコは遠心力に堪えきれずくるくると回ってしまうではないか。
 これには離れて見ていたエイムもどうしたの?と上体ごと左に傾けて不思議そうに見てしまう。

「…双方、そこまでだ。」

 なので我は右手を前に出して強制的に試合を止めた。
 この試合だけで充分わかったことと修正させることが判明したからだ。
 中止してから自分のところに呼び寄せた二体を見て我は尋ねる。

「どうだったオガコよ?今のお前で[モモタロウ]は扱えそうか?」
「ぅっ…正直言うと二段階目の時点でアタシが振り回されてる気がしてたよ。」

 問いかけに項垂れながらオガコは素直に答える。
 特大剣[モモタロウ]は前のオガコの体格と彼女の意見を反映させて作ったものだから進化して一回り縮んだ姿では体幹等の問題が出るのではと我は考えていた。
 結果は先ほどの通り的中していた。
 進化前ならスキル【巨体マッスル】で補正も可能だったろうがそのスキルは進化と共に消えてしまったのでここは[モモタロウ]を改良するか倉庫にある武器から選んで渡すかをオガコに尋ねてみる。

「うーん、やっぱり馴染むものじゃないとこの後が面倒になりそうだからなぁ。だから頼むエイム、[モモタロウ]を調整してくれ。」
「うん、いいよ。今のオガコのスキルに合うように改良してあげる。」

 手を合わせてお願いするオガコに笑顔で返したエイムは元の姿になって渡された[モモタロウ]を自分の中に取り込む。
 これからスキル【再構成リユース】が行われ改良が始まるようなので我から提案する。

「ふむ、どうせ改良するならこれも混ぜてくれエイム。」

 そう言って倉庫から我が取り出したのは赤紫色の宝玉。
 これは使用者の魔法能力を高める効果があり進化して回復魔法が使えるようになったオガコの役に立つと思ったからだ。
 さらに体格が縮んだオガコの為に変形先も別のにすることにして三体で話し合う。

「じゃ、じゃあさ。アタシ親分が使ってたみたいなでっかい斧がいい!」
「そうか?ならそれは三段階目にして一段階目を棍棒にしよう。」
「ええ~?もう三段階式やめて二段階式にすれば?棍棒よりハルバードから斧に変形する方がやり易いよ。」

 などと小一時間ほど談義してから後はエイムの【再構成リユース】に任せて次の事案に移行した。
 身体能力と武器の相性の次は進化して新しく会得したスキルだ。

「ということだからエルフェン。我に攻撃して傷つけたまえ。」
「いや逆だろう!鎧を傷つけるよりも生身の方が回復魔法がしやすいし!」

 こちらの命令にすぐエルフェンはツッコミを入れてきた。
 だってただ回復魔法を試すだけなのだから我が怪我して治してもらえば誰も傷つかないと思って言っただけなのだが。
 さらにはオガコから自分のスキルだから自分で試すよと、プルパからはナイフで手の平を切る程度で済ませればよいのではとも言われたので我は渋々了承した。

「じゃあやってみるよ。」

 右手にナイフを持ったオガコが言うと躊躇なく左手の平に振って赤い線を作る。
 そこから我の指示通り魔法の発動を教えてあげればオガコの新たなスキルである闇属性の回復魔法【ダークキュア】がナイフを手離した右手から発動した。
 闇属性の魔方陣からデロリと黒いヘドロみたいな液体が傷ついた左手の平に落ちるとオガコとエルフェンは顔を渋くさせる。
 しかもその後でヂュル…チュヂュゥ…と明らかに気色悪い音が聞こえてくるとオガコとエルフェンの肌が泡立った。
 ここまで見てその場にいた全員が心の中でうわぁ…と気持ちが一つになったのは言うまでもない。
 音を立ててからだいたい十秒経ったか経たないかするとヘドロは霧散して傷跡無い左手の平が見えた。

「ふむ、浅い傷とはいえオーガの肌を素早く治してみせるとは素晴らしい回復魔法だなオガコよ。これならば戦場でも役立つと思うぞ。」
「あ、ああそうだね親分。多分、いや結構便利な回復魔法だよ。うん、きっと……」

 フォローする為に言ってみたのだがやはり想像していたものとはかけ離れた回復方法だったのかオガコはあまり嬉しそうになかったのが伺えた。
 そりゃそうだ。我だって初めて【ダークキュア】を見た時は似た思いを抱いたものだからな。
 さて次のスキルも確かめるとしよう。

「では二人ともじっとしていなさい。」

 試しなので今度はエルフェンとプルパを並ばせてからオガコに合図して魔法を使わせる。

「浮け、【足場スカーラ】。」

 二人に向けて左手をかざしたオガコが唱えれば魔方陣が二人の下に現れて光る。
 そのままオガコがゆっくり左手を上げればまるで見えないエレベーターのように魔方陣が浮いて二人の足を地面から離れてさせてみせた。
 これは見た目通り魔方陣の足場を作り上げる初級補助魔法の一つだが錬度によって耐荷重が増えるし数も形も変えれその用途は幅広い。
 これならば我の手を借りず高い壁も乗り越えて攻め入ることも可能になったわけだ。
 試しにオガコへ複数生成できるか指示すると一気に四つも増やしてみせた。
 なので身軽なエルフェンに一周させるように飛び移ってもらって安定性を確かめたり、老体のプルパが渡れるように間隔無く並ばせてみたりと簡単な手ほどきをオガコにしてあげた。

「よし、後は己で磨けオガコよ。期待しているぞ。」
「ああ!皆と一緒に活躍してみせるぜ!」

 とオガコが意気込みをみせたあたりでエイムに調整が終わった音が鳴る。
 ぽんぽ~ん!とエイムが言って身体から吐き出すように我へと新たな[モモタロウ]を渡す。
 話し合いの結果で決まった一段階目の見た目はハルバード形。そこから魔力を注ぐと変形して刃渡りおよそ二メートルの巨大斧へとなった。
 我が追加させた宝玉はちゃんと斧部分に埋め込まれているのでこれで振り回しながら魔法も使える戦いが出来ることだろう。

「ふむ、これなら[モモタロウ]では合わないな。これからこの武器は[キンタロウ]と名付ける。」

 何せ変形しても斧だからな。キンタロウというのがしっくりくる。
 と思って言ってみたのだがオガコに止められる。

「そのぉ、アタシは[鬼の半月ハーフムーンオーガ]と名付けたいなぁなんて……」

 オガコの名前案に我はハッと気づかされる。
 さすがは元女子高生。斧の形状を半月に想定させオーガが振るうところから出来たそんな横文字の名前なんて我は即座に思いつくことはなかった。

「なるほど、そっちの方が響きがいいな。」

 一緒に聞いていたエルフェンから賛同の声も出たのでここは譲渡して今日からオガコの武器を[鬼の半月ハーフムーンオーガ]と呼ぶことにした。
 武器も決まりスキルの軽い練習も済んだ。
 まあ魔法に関しては今後ゾドラあたりから教えてあげるように手配しておこう。

(さあて、チャンスロスした分はしっかり侵略していくとしようか…!)


***


 国が滅んだ、という情報は普通なら近くの領地へとすぐ伝わるものだ。
 何故なら見た者や生き延びた者がそれを持って助けを求めに向かうからだ。
 しかし諸君。
 都も住人もどうだろう?
 一体誰が大惨事を報せに行けるのだろうか。
 沢山逃げることが出来たならまだしも極小数の人間が周りに報せにいくのにどれくらいかかるだろうか?
 それが町ではなく田舎村まで情報が届くだろうか?
 答えは単純に言うなら至難である。

「ーー…女王様!村が見えました!」
「よっしゃあ!行くぞお前ぇら!奪い尽くせぇ!」

 小高い丘の上にいたアタシの号令で後ろにいた部下達が大きく返事をして一緒に飛び出す。
 進化して身軽になったアタシは馬にも負けない速さで先頭を走りながら中規模の村を目指す。
 するとアタシらに気づいた村の男性が驚いて他の村人に報せようと声を出す動作をしてみせる。

「槍くれ!」
「へい姉御!」

 少し速度を落としてフクチョウと並列すれば彼に言って木と石で出来た槍を一本もらうと再び全速力になってから振りかぶって投げた。
 バリスタに匹敵するほどの勢いで飛んでいった投げ槍は一直線に報せている男性の身体に風穴を空けさらには直線上にあった家を破壊させてみせた。

「ヒューッ!さすが姉御!お見事でさぁ!」
「おらおら進めぇ!大きい男と老人は殺せぇ!女と子どもは糧にしろぉ!」

 そのままアタシらその村を襲撃し略奪した。
 言葉通りに村にいた成人以上の男と老人は殺し、女と子どもは部下達が残った家を使ってあげた。
 夜は壊した家の残骸を焚き火に略奪したもので宴をした。
 宴を楽しむ者と家から聞こえてくるものを見聞きしながらアタシは地図を拡げる。
 上に〔旅のしおり〕とタイトルが付いたその地図には襲う村の場所と道順が書かれていた。
 これは親分が作ってくれたアタシ達の行程であり最終的には親分が滅ぼした三つの国にあった全ての村を襲撃して略奪することになっている。
 得た食糧はその場でいただき糧になる女と子どもはエイムが作った檻が付いた荷馬車二台に入れて運ぶ。

(えーっと、これで五つ目だから次にいくのは……)

 心の中で呟きながらアタシは地図に魔力を注ぐ。
 すると地図全体が淡く光ってから表面に親分の武器でもあるあの漆黒の大盾がデフォルトで現れると軽く回ってから先端を一方向に向ける。
 この地図は魔法が付与されており魔力を注ぐと次に向かう村がある方向を示してくれるのだ。
 方向を確認したアタシは地図を閉まってから今宵の宴を存分に楽しむことにした。
 二日ほど滞在してから地図通りに向かったのはそこそこ大きい村。
 丸太で作った壁と門に見張りの高台が一つあった。
 昔なら門を破壊する正面突破で行っていただろうが今のアタシは違う。

「アタシについてこい!【足場スカーラ】!」

 新しく会得したスキルで門の前に階段上に足場を作ればかけ上がって飛び越え挨拶とばかりに見張りの高台を蹴って破壊してやった。
 その後はアタシが作った足場を使って他の皆も門と壁を壊すことなく村に侵入して略奪した。
 すると思わぬ収穫があった。
 村長の家に押し入った時に向こうは交渉してきた。
 交渉で差し出してきたのは財産とハーフエルフの姉妹。
 姉妹の格好は村人らしい服装ではなくボロボロのワンピースのみで身体に痣もあった。
 自分一人だけ逃がして欲しいと懇願してくる中年の村長にアタシは返事した。

「いいぜ。今すぐ追い出してやるよ…!」

 アタシは村長の胸ぐらを掴み持ち上げると窓目掛けて力いっぱい腕を振って投げ飛ばしてあげた。
 二階の窓から空へと飛んでいった村長はそのまま丸太の壁の遥か向こうへと消えていった。
 確かに、この家から、逃がしてはあげたのでよしとしてアタシは互いに抱き合って震えているハーフエルフの姉妹を見下ろす。

「…腹、減ってねぇか?」
「え……?」

 多分の姉の方が呟いたのでアタシは軽く膝を曲げて目線を合わせながらまた言葉を掛ける。

「まだご飯食べてないんじゃないか?アタシらと一緒に食おうぜ?」

 そう言ってニカッと笑みを浮かべてみせるアタシに姉妹はきょとんとした顔を浮かべるのであった。


***


 侵攻を再開してから早五日。
 チャンスロスを取り戻そうと息巻いて点在する街を攻めたのはいいが……

「やったー!これで十三ヵ所目だねマスター!」

 半壊した街の大通りでピョンピョン跳ねて喜んでみせる半袖短パン姿のエイムが言ってきたのに我は腕を組んだ態勢でそうだなと返す。
 今回はオサカに次ぐ大規模の街だったがまあまあ楽しめた。
 それまでの町に関しては正直言おう。
 あっさり終わってしまってつまらなかったと。
 昔だったら、エルフの防御魔法とか屈強なドワーフと獣人族の連携による抵抗があって中規模の町でも時間をかけられたものだった。
 しかし今はどうだ?
 最初の小さな町なんて侵攻を開始してから抵抗も儘ならない様子で二時間もかからず壊滅させてしまった。
 死体は集めて【死霊術・生贄召還】でアンデッド系モンスターに再利用してから我は自分で決めた順番通りに次の町、また次の町と潰しては歩兵を増やす作業を繰り返したのだが、これがあまりにも早く進んでいった。
 それもこれも向こうの敗因の多くは【簡易魔法装備】であった。
 魔力があれば誰でも魔法が使えるから戦える、なんて聞こえは良いがそれで失ってしまうものがある。
 それはずばり魔法のだ。
 半世紀前の魔法の基本としてあるのがそれに対するイメージだ。
 初級魔法でもイメージが濃いほど威力に差が出るもの。
 しかし今は杖一つとっても魔力を流せば後は魔法が出る仕組みではイメージを練り上げるということに力を注ぐ時間が減っている為に飛んでくる攻撃魔法には威力も速度も射程にも酷いばらつきがあった。
 これでは我の【漆黒の障壁】で防がれるどころか、エイムの【自動詠唱オートマテリアル】に負けるほどだった。
 しかも壊れたらどうやって魔法を出せばいいのかみたいな連中もいてため息が漏れたものだ。
 結果、町を相手にたった四日で二桁も潰して人間族を追い出していた。
 これならばまだ偵察に行かせているゾドラと分担してやればもっと早く終わらせてエイムが準備を済ませている国境作りを始められたかもしれない。
 まあ、とりあえずこの町で行程の半分に差し掛かった。
 この先からはここよりさらに大規模で防備のしっかりした街もある。
 となれば冒険者ギルドも立派だろうから悪役として多少は活躍が増すことだろう。
 なので経過報告を求めるとしようと考えまずはゾドラに【念間話術トランシーバー】を使う。

『ご機嫌よう旦那様。あなたの愛する妾のゾドラです。』

 …何今の挨拶?
 また小説とかから得たセリフを使ってみたのか?
 ともかく挨拶のことはスルーして調査の報告を求める。
 聖教皇国シェガヒメの属国は本国に近い国ほど防備がしっかりしておりさらには工場も点在しているのだとか。
 工場には人間族だけでなく他種族も働いているところが見え強制労働させられているのだと理解した。
 ならば工場に関しては国を潰してからの方がいいかもしれない。
 崩壊の混乱の最中ならば被害を抑えて工場を手に入れられることも可能だろうからな。

「報告ご苦労様。この後は我の元に戻り共に行動せよ。」
『はい旦那様!すぐに戻ります!』

 労いの言葉をかけてから一緒に町を潰す為に指示したらゾドラはとても元気よく返事してくれたので通信を終え次にオガコへ繋げる。
 オガコ率いるオーガ族らはどうやらこれから七つ目の村を襲うらしい。
 さらに成果としてハーフエルフの姉妹にドワーフの職人を獲得したという上々の報告に全て片付いたら盛大に祝おうと言伝てを頼み通信を切る。
 最後に連絡したのはシャッテン。
 ロサリオ騎士団の動きに変化がなかったか確認の連絡をしてみた。
 監視しているロサリオ騎士団の人数は少し増えたが別段変化はないらしいのだが……

『そうじゃそうじゃ聞くのじゃ大魔将軍!最近妾を相手にヒトの子どもらが怯えなくなったのだ!お前さんの言う通りに優しくしてやったら簡単に信奉してくれだぞよ!』

 と個人的な報告をしてきた。
 これはまだオサカの街を出る前に留守番を頼んだシャッテンへ暮らしているヒトに対しての接触方法についてアドバイスした成果と言えよう。
 シャッテンの成長とも言えるその報告に我はそれは良い兆候だと褒めてあげれば彼女は嬉しそうに返して通話を終えた。

「おーい大魔将軍。」

 ちょうどいいタイミングで見回りをかって出たエルフェンとミケラが戻ってきた。
 エルフェンは今回の追い出し作戦に参加し狙撃による援護をしてもらいミケラは彼女の援護に回ってもらっている。

「この町に人間族はもういない。死体を除いてだが。」
「構わない。今は逃げる者は追わないことにしているからな。それで見つけたか?」
「ああ、向こうの建物がそうだ。既に私が説得しておいた。」

 エルフェンが指差した方向には屋根の一部分だけ壊れた建物がある。
 あれはこの町にある奴隷商の建物だ。
 町を壊滅させずに半壊で留めている理由としてあるのがやはり人間族以外のヒトを見つける為である。
 せっかくなのでその者達にも国境作りを手伝ってもらいと考えている。
 やはり大きなことを造り上げるのはたくさんのヒトと一緒にやっていくことで意義のあるものと成すからだと我は思っているしエルフェンのことを思えば助けられるものは助けてやりたい。
 この侵攻をただの破壊だけでなく救いも存在するものに我はしたいのだ。
 当然救出した者達は転移でマヤト樹海に送る予定だ。

「さていくぞお前達。我々の仕事はまだまだ続くのだからな。」
「もちろんだ。とことん人間族を追い出してやろう。」
「おお!エルフェンも悪役が板についてきたね!」

 笑顔のエイムの言葉に茶化すなと反論するエルフェン。
 二人の仲良さげなやり取りに我は微笑しつつ脚を動かすのであった。





 ーー…時は昼、天候は曇りながら最後の町は一際ご立派な防備を用意していた。
 追い出された冒険者達が集結しただけでなく八千に近い兵士も道具も揃えられて待ち構えていた。
 当然だ。この町の向こうには本国の聖教皇国シェガヒメの隣国に繋がる街道があるのだからな。
 言うなればこの町は最終防衛ライン。
 突破されたら国の人間達には恐怖の波が起き様々な混乱が生まれることは必至なのだから防衛にやる気が出て当たり前だ。
 だがこちらも用意は出来ている。
 締めの町だけにド派手にやってやろうと作ったアンデッドは下級から上級まで総勢約五千体。
 さらには我にゾドラ、村の掃討を終えたオガコ率いるオーガ族。

「オーホッホッホ!数だけ揃えただけで妾に勝とうなんて無駄な努力でありんす!」

 あとエイムとミケラに入れ替わってもらってシャッテンを呼び寄せた。
 定期報告でうっかり今回の戦いを話したら癇癪と我が儘を起こしてしまったのでここは我が折れて参戦を許可したのである。
 これだけの面々がずらりと揃うなんて向こうが各々の正体を知ったら腰を抜かす者がどれだけいるだろうかと考えてしまう。
 とはいえ向こうは町の出入口である門を冒険者達が固め、その前に歩兵と騎兵が展開する陣取りをしており骨のある戦が期待できそうだ。

「それでは旦那様。号令をお願い致します。」
「うむ、全軍!前進せよ!目の前の敵を完膚なきまで叩くのだ!」

 右手を出して号令を出しまずは歩兵のアンデッド系モンスターを動かす。
 こちらの歩兵が前進を始めると町側から遠距離攻撃が飛んできた。
 矢に射たれたり、魔法で吹き飛ぶ様を見せる下級モンスターを前に町を観察し指示を出す。
 伊達に将軍を名乗っている身として歩兵の動かし方は心得ている。
 歩くことから走るに速度を上げて歩兵を前進させながらさらに騎兵隊としての骨馬に乗ったブラックスケルトンライダーを動かして突撃させる。
 こちらの騎兵が動けば向こうの騎兵隊も動き出し衝突すれば戦闘が開始された。

「お~懐かしい光景じゃの大魔将軍。五十年前はいろんなところで見れたものだったが。」
「そうだな。さてシャッテン、我が儘を聞いてやったのだから指示通り動いてくれよ?」

 こちらの言葉にもちろんどすと返してくれたシャッテンに耳打ちで指示を伝える。
 指示を聞いたシャッテンは楽しそうに微笑してから影の中に沈んで姿を消す。
 次にエルフェンへ自分達がいる真上に【照明弾フラッシュアロー】を使わせる。
 曇り空でも昼に使ったフラッシュアローは敵にとっては少し眩しい程度の効果しかなかった。
 だが些細な効果も戦場では時に命取りに繋がる。
 現に騎兵同士の戦闘で戦局が動く。
 ただのスケルトンだと侮っていた者から十倍も強くて疲れ知らずなブラックスケルトンライダーに討たれて地面に転がっていきこちらの優勢になったところでさらに指示する。

「出番だオガコよ!前線を切り開け!」
「おっしゃあ!わかったぜ親分!」

 乱戦になっているところへオガコ率いるオーガ族部隊を斬り込みとして出させる。
 アンデッド系を相手にしている最中に屈強なオーガ族が加わったことで敵の騎兵隊は総崩れとなり前線を押し上げていった。

「ん?旦那様。壁の上に見たことない道具が。」

 しかし向こうもやられっぱなしではなかった。
 ゾドラの言葉に町を守る外壁上部を注視すれば思いがけない兵器があった。
 車輪の付いた黒い筒状の鉄棒を複数の三角形の鉄板で固定した形はまさに前世の映画や動画等で見たことがあるガトリング砲そのものだった。
 ガトリング砲は三つあり一基につき魔法使いが二人着いているのが見える。
 そして上官らしき人物の合図と共にガトリング砲へ魔法使い達が操作する仕草をしてすぐに見た通り三門の銃口が回転して無属性の魔法弾が連続で発射された。
 弾速はなかなかのものながら弾が大きいので前線にいたアンデッド系モンスターが次々に討ち取られてしまう。
 これはしてやられたものだ。
 さすがに最終防衛ラインに等しい町なだけに敵も秘密兵器を使ってきたというところか。
 もしかしたらあのガトリング砲はカテジナの発明品かもしれないな。

「な、なんだあれは!?あんな兵器が生み出されていたのか…!」

 ガトリング砲の威力を前にエルフェンが驚いて心配の眼差しをこちらに向けてくるのでここはオガコに少し後退するよう連絡しておく。
 アンデッド系モンスターの替わりはいくらでも作れるが(我は知っているけど)未知の兵器によってオーガ族が大怪我するのはよろしくない。
 幸い見た限りではあのガトリング砲の精度は悪いし発射速度も遅いから気をつければオガコ達なら避けるのに苦労はしないはずだ。
 オガコもそれはわかっているのか素直に従って前線より少し前、ガトリング砲が届かないところで戦う。
 ガトリング砲のせいで前線の動きが鈍くなってしまい向こうの士気が少しずつ上がっていく中で通信機が鳴り出した。

「はいもしもし大魔将軍です。」
『妾どす。言われた通り潜れましたからド派手にやってあげますわよ。』

 連絡してきたシャッテンに我は合図として十数えることを伝えた。
 九、十…今だ!と合図を送った次の瞬間、町の門が爆発した。
 突然のことに門を守る為にいた冒険者チームが振り返ると次に見えたのは自分達の方に倒れようとしてきている大きな扉だった。
 これに冒険者達は慌ててその場から逃げようとバラバラに動き出してしまう。
 押されたりぶつかったりと混乱が起きる中で扉は無慈悲にも倒れて冒険者を吹き飛ばしてみせる。
 複数の冒険者が下敷きになり他も多数の負傷者が出ている中で更なる追い打ちが待っていた。

「オーホッホッホ!この程度のことも対処できないなんて底が知れましてよ!」

 門が倒れたところから姿を見せたシャッテンは冒険者達を見下して言う。
 実はエルフェンが放った【照明弾】はただ目眩ましの為に使ったのではない。
 照らすことで昼の曇り空にを作り出す為である。
 シャッテンは天候に左右されない影を持っているし潜って移動も出来る。
 しかしその真骨頂は影を繋げば繋いだ先へと移動するスピードだ。
 彼女が本気で移動すれば例え十キロメートル先だろうが瞬く間に速く移動する。
 だから【照明弾】で影を作った直後にシャッテンは前方に伸びた影を繋いで移動し最終的に門の影まで進んでみせたのだ。
 移動が完了してから一報を入れるように伝えていたので先ほど通信機で連絡してきたし合図に合わせて門を破壊してもらったのである。
 突然のことに町側は大混乱に陥り冒険者達も対応に右往左往してしまう。
 無論そんな状況をシャッテンが見逃すわけがない。

「ほらほら!妾と楽しく踊ろうぞ!」

 影をあらゆる殺傷武器に変えてシャッテンは冒険者を蹂躙し始める。
 しかもガトリング砲が向けない場所で戦っているのでほぼ一方的になっていく。
 いつの間にか挟撃される形になっていることに兵士側にも動揺が伺えたのでこの隙を狙うことにした。

「エルフェン、あそこに【神矢一貫ゴッテスアロー】を。ゾドラは魔力を供給してやれ。」

 ガトリング砲があるところを指差して二人に指示してから我も盾を狙撃銃に変形させ膝撃ちに構える。
 指示通りエルフェンが【神矢一貫ゴッテスアロー】の態勢に入りゾドラは彼女の後ろに回って肩に手を乗せる。
 エルフェンの発射に合わせている間に我はガトリング砲全てにロックオンして魔力を充填させる。

「ぐっ…!?」

 隣から聞こえてきたエルフェンの呻き声に顔を向ける。
 まるで間欠泉みたいな魔力の放出を見せながら弓矢を持つ腕とこめかみの血管が浮き出ているエルフェンがおり手を当てているゾドラはにやけていた。
 ゾドラめ、自分が活躍したいからって注ぐ魔力の加減を間違えてないか?
 なんて思っていればエルフェンは声を出して【神矢一貫ゴッテスアロー】をもう放ってみせた。
 遅れてはいけないと我はすぐに正面を向いて高速に引き金を引き【漆黒の弾丸・阻害】を撃つ。
 エルフェンの矢よりも速く飛んだ弾丸はガトリング砲に当たり動きを止めさせそこへ【神矢一貫ゴッテスアロー】が全てを巻き込んで外壁を貫いた。
 ゾドラの魔力も合わさったせいか矢は外壁を破壊するどころか粉砕してからさらに先にあった家屋の上部分も壊して消えていった。

「……ぶはっ!?…はあ、はあ……!」
「あらごめんなさい。あなたなら耐えきれるくらいかと思ったけれども心臓が破裂しかけたかしら?」

 矢を放った後で水を被ったかのように汗を噴き出すエルフェンへ首を傾げて尋ねるゾドラには心配している様子はなかった。
 となれば魔力注入の加減をわざと間違えたということか。
 全く、仲良くしろと言っているのに少し離れたくらいで我がエルフェンと一緒に侵略行動していたことに嫉妬心を燃やすでない。

「…ゾドラ。ていっ。」
「あふんっ!?」

 なのでここは注意としてゾドラに強めのチョップというパワハラをやっておく。
 この世界にハラスメント行為を訴えられる法はないがやはりやるとなれば心苦しいものである。

「ゾドラよ。我は仲間として扱えと言っていたはずだ。罰として我二人分の範囲から入るのを三日禁ずる。」
「そ、そんな!?旦那様!それはあんまりです!三日も旦那様に近づけないなんて!」

 大した罰ではないはずなのにゾドラは目を潤ませて懇願してきた。
 いやいや君、偵察に何日も行かせてたんだからこの程度余裕でしょうと言ったのだがゾドラから仕事は仕事です!と返された。

「ふ、二人とも、痴話喧嘩してる場合ではないだろう……」

 呼吸が落ち着いたエルフェンから言われてあっと話を止めれば歩みよって倉庫から出した治療薬を渡して飲ませる。
 エルフェンの言葉でゾドラが何故か照れているけれど罰は棄却されないからな?
 ともかく我からしてあげるのはここまでだ。
 兵より将軍が出過ぎては活躍の場を減らしてしまい兼ねない。
 後は高見の見物気分で歩兵と眷属らに任せるとしよう。

「さあ突き進め!あの町にも我が軍旗を掲げるのだ!」

 こうして半月と少しを予定していた侵略活動はで終わりを迎えることになった。
 最後に占拠した街を境として作ったアンデッド系モンスターを壁にし我々は次の作業の為に動くのであった。
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「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

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フルーツパフェ
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 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
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名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

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