上 下
47 / 223
ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

44.コウモリ日傘

しおりを挟む
「やっぱり、暑い……」

 ゴミ出しをした時より気温が上がっていた。
 大気の含有水分率が妙に高く、呼吸をするだけでスチームを吸い込んだ心地になる。
 まるでミストサウナだ。

 体感的に35度くらいありそうだ。

 この短時間でここまで気温が上がるだろうか。
 それも8月も終わるというこの時期に。

「涼しい家の中にばかり居るからだよ。冷房病、夏バテ、体力低下。日射病や脱水症は気を付けなくちゃいけないけど、危険は身近に潜んでる。日頃の生活習慣がいかに大事か。夜更かしして涼しい所と暑い所を出入りしてたら、自律神経だってブッ壊れちゃうんだから」

「日傘を差してる人に言われても……」

 いつ買ったのだろう。
 紺色でフリルの付いたコウモリ日傘を差している。
 いわゆるロリータデザインに属するのだろうが、落ち着いたシックでオシャレな雰囲気が世俗的な街中でも浮かない。

「何言ってるの。これこそ、その夏場対策じゃない。それにボクは病気になるから日傘をしてるんじゃないの。汗掻いたり肌荒れしたり日焼けするのが嫌だからしてるの」

「なるほど」

 化粧も崩れるしね、という一言をぐっと呑み込む。
 その傘の先端で打突でもされたらたまらない。

「ふふん、羨ましいなら一緒に入っても良いよ、特別に。相合傘」

「……遠慮しておくよ」

 被ってきた野球キャップのズレを指で直す。
 日差しが強いのを承知していたから、僕もまた帽子という手段で日焼け対策を講じていた。

 ……それでも、この暑さでは焼石に水であるが。

「それ小学校の時の? 新しいの買えばいいのに。デザインも子供っぽいし。買ってきてあげようか?」

「気に入ってるんだよ。それだけ。それより、結城も随分と暑そうじゃないか。なんで制服を?」

 自宅のラフな恰好から一転、化粧も含めて全身バッチリ決めている。
 バッチリ過ぎて、気圧されそうなほどに。

 髪は左右で二つ結び。
 靴は硬そうな厚底の、お気に入りの編上げブーツ。

 服は何故か、学校指定の制服を着用していた。
 ティーン向けのストリートファッションのような、ともすれば古風な外国を思わせる少々風変わりな学校制服。
 コウモリ傘と妙に似合っている。
 機能美はほぼ完全に無視していた。

「知らないの? うちの制服着てると、地域の特定のお店で学割きくんだよ。それに可愛いでしょ、このデザイン」

「納得したよ」

 学割は学生証でも効く。
 わざわざ制服を着用する必要などないが、彼が気に入っているというならそれでも良いだろう。

 だが1つだけ解せない。
 彼の制服は冬服である。
 日光を遮る日傘があるのだから、厚手の長袖で肌を守る必要などないのではないか。

 なにより、気温の高さは変わらない。
 幾ら日光対策をしているといっても、彼の肌に汗1つ浮いていないのは……。

 ……いや、そんな些細なことはどうでもいい。
 この暑さの中で余計な思考を巡らすのも疲れる。

「早く行こうか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

6年3組わたしのゆうしゃさま

はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏 夏休みが終わり登校すると クオラスメイトの少女が1人 この世から消えていた ある事故をきっかけに彼女が亡くなる 一年前に時を遡った主人公 なぜ彼女は死んだのか そして彼女を救うことは出来るのか? これは小さな勇者と彼女の物語

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...