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学園での聖女案件②
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陰から見守っていると、色々と気になることが増えてきた。
マリーブランシュ殿下は、生徒会以外でいくつか授業をとられている。卒業資格をお持ちだが、興味深い分野があるとか。
その中の『魔法歴史学Ⅲ』という授業。
マイナーな魔法の歴史をひたすら網羅した、誰得?と疑いたくなる授業だが、受講者は多い。そこには、隣国の侯爵家嫡男のヌーレンシア・ヴィジュンがいるから。
文武両道をそつなく体現した、と言うべきか……普通に賢くて普通に強く、普通に気遣いができるきらっきらしたイケメン男子……。
ーー改めて見ると、胡散臭いなー。
どこのオウジサマだよ。
南の辺境伯領と接する国の出身なだけあり、やや日焼けした肌と固く引き締まった筋肉。ちょっとかすれた色の金髪と、彫りの深い濃いめの顔立ち。
学力的にも武力的にも、上位五位あたりに居て友人も多い。
「おはようございます。王女殿下、お隣をよろしいでしょうか?」
朝からキラキラしく爽やかな、ヌーレンシア様。
「おはようございます、ヴィジュン侯爵子息。空いておりますので、どうぞ」
マリーブランシュ殿下はいつも通り冷静。
熱い視線やうっとりした視線を避けたんだろうヌーレンシア様が嬉しそうに席に着き、前回の授業について軽く話し始めた。
ただ、マリーブランシュ殿下に節度ある対応で友人として接しているはずなのに、時折ーーほんの刹那、肉食獣が獲物に狙いを定めるような眼差しを向けているのが、気になる。
何かを企んでいる?
政略結婚の相手として狙っている?ーーいや、一応アレだけど、殿下には婚約者居るしな。
周りの生徒達は、ヌーレンシア様が聖女ネラに仄かな恋心を抱いていると思っている。
確かに、照れたような微笑みを浮かべ
「美しい聖女様、あなたの愛らしい口に合えば良いのですが」
と、チョコレートや焼き菓子を贈り。
「麗しさを引き立てるお役に立てば」
と、スカーフや装飾品を贈っている。
聖女ネラも、うっとりとした顔で受け取っているが、スタージュン様やフランツ様相手のように抱きついたりしない。
恋する乙女のように恥じらいが見えるし。
あの、わざとらしーい、媚っっこびの言動じゃないし。ベタベタもないし、くねくねもないし。
対応が違いすぎ。
「麗しの聖女様」
今日もヌーレンシア様が聖女ネラに呼びかける。
甘い声なんだけどーー恋人や愛してる婚約者へむけるのとは違って、聖女を見る目に熱意がない。むしろ、マリーブランシュ殿下への刹那的な眼差しの方が、なんらかの欲をはらんでて熱意があるくらいだ。
どうするかなぁ。………時間外で働きたくないんだけどなー。
ヌーレンシア様が聖女にまた贈り物をした日、マリーブランシュ殿下が公務で早退となった。
校門を出たら王家の影が護衛につくため、私はお役御免。
「よし、勤務時間内!とりあえず、聖女かな」
課長に許可を取ってあるので、こっそり聖女ネラに張り付いた。ヌーレンシア様は授業のはず。
私が今回抜擢されたのは、辺境出身で身体的にそれなりに強いことに加え、影に潜んで色々できるから。とは言うものの、能力的には特殊な結界内に入れなかったり、影がないとどうにもならなかったりするけど。
学園で正式な護衛が許されるのは、王太子殿下とその他特別な事由がある場合のみ。
だから、王女殿下に普通の護衛はつけられない。生徒として通う護衛もどきや影もどきもいるけど、生徒としての活動を優先させる必要がある。
『通わないのは自由だが、通うなら勤勉に』が学園の方針だからだ。
私が王女殿下に張り付いていられるのは、学園の結界の隙をつけるから。こればっかりは、属性や適性、運による。
格好つけてるけど、バレたらーーいや、バレなくても不法侵入。
「んふふふふふん~」
堪えきれなかったのか、笑いをこぼしながら貴賓寮の自室に向かう聖女ネラ。
他の子息達からの貢ぎ物はお付きっぽい女生徒に持たせ、ヌーレンシア様からの贈り物を胸に抱きしめにやにやしていた。
「あ、いつものようにしといて」
部屋に入った途端、聖女はお付きに命じた。
控えていた侍女がすっと近づいて、お付きから貢ぎ物を預かる。
貴賓寮だけあって、応接室、自室、寝室、浴室、台所、侍女やお付きの部屋と広い。
「部屋に居るから、夕食になったら呼んで」
自室のテーブルの上に贈り物を置き、制服も着替えずに自分でお茶を淹れ始める。
「今日は、何ををくれたのかしら」
お茶を一口のんで、聖女はもどかしげに包みを破いた。淑女教育はどこ行った?
「やだ、素敵なペン!」
装飾の美しいガラスペンが箱に入っており、聖女は取り出して眺めたあと、カチンと音を立ててテーブルに置いた。
いや、贈り物は丁寧に扱おうよ。
いそいそとペンを固定していた中敷を取り除くと、封筒を取り出す。なるほど、手紙が仕込まれてたのか……。
にまにまと緩んだ笑みで手紙を読んでいた聖女が頷いて「遣りきってみせなくちゃ!目指せ玉の輿!贅沢人生!」とか言い出した。
「そうと決まったら……」
手紙をしまってから部屋を出た聖女は、贈り物を整理して目録を作っていた侍女とお付きに声をかけた。
「手作りお菓子を贈りたいから、準備して」
「かしこまりました。何人分、ご用意いたしましょう?」
「そうね。豪華なのを三人分と……。貢いでくれた男子に簡単なのを返せるくらい」
ーーお返しを手作り……!男子、喜びそう。
「かしこまりました。明日朝までにはご用意しておきます」
「メッセージもつけといてねー」
ーーえっ?自分で作らんの!?
「聖女様、こちらはどうされますか?」
お付きが開封されて並べられた貢ぎ物を示すと、聖女はそれらを眺め、いくつかを選んだ。
「これ、かわいーから取っておいて。あと、こっちとこの香水も。あ、これ似合いそうだからあげる。こっちは、あなたにあげるわ。残りは何時ものようにしといて」
侍女やお付きにも一つずつ渡し、香水やブローチと添えられた手紙を持って部屋に戻った。お付きと侍女は自分達へ与えられたもの以外を箱へ入れていく。
「じゃ、それよろしくー。私、手紙を見たあと、祈りの時間にするから」
聖女が部屋へ戻ると、お付きが貢ぎ物を入れた箱を持った。
「では、私は大司教様へお届けして、そのまま下がります」
「かしこまりました。私は、焼き菓子の手配に参ります。お疲れ様でございました」
聖女が、部屋へ入って手紙を見始めた。貢ぎ物は、大司教へお届け……。報告して、調べて貰うべき?でも、貰ったものをどうこうするのは個人の自由だしな……。
確か、聖女様は元々平民の出身で大司教に見いだされて養女になったんだっけ。
神殿の大司教は、資料によるとこの国では伯爵位を持っていた。神殿自体はどの国にも属さない特別な組織だけど、ある程度の地位にいる者は、各国での爵位を得ることがある。神殿に入るときには、元々の爵位や家を捨てることになるからだ。
ちなみに聖女とは、『神の威を降ろすもの』と言われている。五百年前の光魔法を得た聖女様はともかく、特に魔法が使える必要はない。
その身に神を降ろしたり、神の意思を伝えたり、神の予言を与えられたりする存在だ。
殆どの聖女は予言を与えられる程度だが、まれにすごい方も居たらしい。
今代の聖女は、予言を三度したらしい。
そんなすごい聖女に見えないところが、逆にすごいな。
聖女は大量の手紙をにまにましながらみているので、とりあえずヌーレンシア様の様子を見てみてから、手紙の件を報告かな。
ヌーレンシア様は授業を終え、同じ隣国からの留学生二人とともに寮へ戻って真面目に勉強を始めたので、つまら……二人の留学生に張り付くことにした。
「なあ、聖女へのプレゼント作戦、いつまで遣るんだろ。そろそろ選ぶの苦しくなってきたんだけど」
「さー。でも、結局ヌーレンシア様は聖女とどうなりたいんだろうな。手紙、小遣い稼ぎにはなるのありがたいけど、早くカタつかないかな」
「なんか面倒になってきたしな」
この二人は別にヌーレンシア様やヴィジュン侯爵家に仕えて居るわけではないのか。
「……あの、べったべたのラブレターの代筆だけどさ」
片方がぽつりとこぼした。
ラブレター、代筆?
「あー、なんか甘々の乙女な手紙だっけ?」
え、そんな内容を代筆?そんな恥ずかしいこと、させられてんの?!
「そう、毎回走り書きみたいな指示書貰って、それをベタ甘にしてから、ヌーレンシア様に返すんだけどさ。好きでもない、可愛くもない相手に愛を表現するの、だんだん苦痛になってきたんだよな」
すごいストレスフルな仕事だな。創作力と想像力を駆使しないと無理だろ。
「しかもさ」
少年はぐっと声を潜めた。
「ちょっと前から、聖女へ変な頼み事をし始めてて……」
ほうほう。
「聖女と結ばれるためには、王女が婚約者と結ばないようにして、この国の神殿への影響力をさげたい、とかなんとか」
ーーは?
「なんだそりゃ。聖女と結婚するのに、王女殿下は関係なくないか?」
それな。
聖女は代替わりしないと結婚できないはず。むしろ新たな聖女が現れたら、直ぐに結婚できるだろ。国は関係ないし。神殿は政治に不介入を原則としてるんだから。
「聖女様の魅力で王女と婚約者の関係を壊してほしい、とか。ついでに王女の側近の婚約者との関係も目眩ましとして壊してほしい、とか。」
「えっ?そんなんーー引き受けたのか、聖女」
ええ?あの媚び媚びアタック、ヌーレンシア様の依頼!?
「心苦しいし嫉妬で狂いそうだが、魅力的なあなたが親しくするだけで、関係は直ぐ壊れるから……って書かされた」
いやいやいや、本当に好きなら、そんなこと頼まないだろ、普通……。
「なんか、怖いだろ……うちみたいな地方の子爵家なんて、いつ使い捨てられるかわかんなくて」
「そんなこといったら、うちなんて領地なしの爵位だけの伯爵家だぞ!王領を管理する下っ端文官一族なんだからーー」
「俺たち、使い捨てにされそうな立場だろ?」
あり得そうな予想に、二人ともずーんと落ち込んで暗くなってしまった。
「……でさ、ちょっと怖いけど、なんか悔しくなってさ……」
子爵子息が、ぐっと拳を握った。
「侯爵家からしたら、俺たちなんて取るに足らないかもしれない、けどさ……。使い捨てはむかつくって、思ったら……」
ごくり、と伯爵子息が喉をならした。
頑張っている留学先で人生潰されそうになってるとか、不安どころか恐怖を感じるわ。
「身を守った方が良いかと思って、指示書を焼き捨てる振りしてとってあるんだ」
ナイスだ、少年!
「だ、大丈夫なのか、それ……」
「なんかあって、手紙の筆跡は俺だし。俺のせいにされて切り捨てられるかもしれないから……必死に考えて、別の紙を燃やした」
ごくり。
少年達はお互いを見つめていた。
頑張って生きろよ、少年達。
マリーブランシュ殿下は、生徒会以外でいくつか授業をとられている。卒業資格をお持ちだが、興味深い分野があるとか。
その中の『魔法歴史学Ⅲ』という授業。
マイナーな魔法の歴史をひたすら網羅した、誰得?と疑いたくなる授業だが、受講者は多い。そこには、隣国の侯爵家嫡男のヌーレンシア・ヴィジュンがいるから。
文武両道をそつなく体現した、と言うべきか……普通に賢くて普通に強く、普通に気遣いができるきらっきらしたイケメン男子……。
ーー改めて見ると、胡散臭いなー。
どこのオウジサマだよ。
南の辺境伯領と接する国の出身なだけあり、やや日焼けした肌と固く引き締まった筋肉。ちょっとかすれた色の金髪と、彫りの深い濃いめの顔立ち。
学力的にも武力的にも、上位五位あたりに居て友人も多い。
「おはようございます。王女殿下、お隣をよろしいでしょうか?」
朝からキラキラしく爽やかな、ヌーレンシア様。
「おはようございます、ヴィジュン侯爵子息。空いておりますので、どうぞ」
マリーブランシュ殿下はいつも通り冷静。
熱い視線やうっとりした視線を避けたんだろうヌーレンシア様が嬉しそうに席に着き、前回の授業について軽く話し始めた。
ただ、マリーブランシュ殿下に節度ある対応で友人として接しているはずなのに、時折ーーほんの刹那、肉食獣が獲物に狙いを定めるような眼差しを向けているのが、気になる。
何かを企んでいる?
政略結婚の相手として狙っている?ーーいや、一応アレだけど、殿下には婚約者居るしな。
周りの生徒達は、ヌーレンシア様が聖女ネラに仄かな恋心を抱いていると思っている。
確かに、照れたような微笑みを浮かべ
「美しい聖女様、あなたの愛らしい口に合えば良いのですが」
と、チョコレートや焼き菓子を贈り。
「麗しさを引き立てるお役に立てば」
と、スカーフや装飾品を贈っている。
聖女ネラも、うっとりとした顔で受け取っているが、スタージュン様やフランツ様相手のように抱きついたりしない。
恋する乙女のように恥じらいが見えるし。
あの、わざとらしーい、媚っっこびの言動じゃないし。ベタベタもないし、くねくねもないし。
対応が違いすぎ。
「麗しの聖女様」
今日もヌーレンシア様が聖女ネラに呼びかける。
甘い声なんだけどーー恋人や愛してる婚約者へむけるのとは違って、聖女を見る目に熱意がない。むしろ、マリーブランシュ殿下への刹那的な眼差しの方が、なんらかの欲をはらんでて熱意があるくらいだ。
どうするかなぁ。………時間外で働きたくないんだけどなー。
ヌーレンシア様が聖女にまた贈り物をした日、マリーブランシュ殿下が公務で早退となった。
校門を出たら王家の影が護衛につくため、私はお役御免。
「よし、勤務時間内!とりあえず、聖女かな」
課長に許可を取ってあるので、こっそり聖女ネラに張り付いた。ヌーレンシア様は授業のはず。
私が今回抜擢されたのは、辺境出身で身体的にそれなりに強いことに加え、影に潜んで色々できるから。とは言うものの、能力的には特殊な結界内に入れなかったり、影がないとどうにもならなかったりするけど。
学園で正式な護衛が許されるのは、王太子殿下とその他特別な事由がある場合のみ。
だから、王女殿下に普通の護衛はつけられない。生徒として通う護衛もどきや影もどきもいるけど、生徒としての活動を優先させる必要がある。
『通わないのは自由だが、通うなら勤勉に』が学園の方針だからだ。
私が王女殿下に張り付いていられるのは、学園の結界の隙をつけるから。こればっかりは、属性や適性、運による。
格好つけてるけど、バレたらーーいや、バレなくても不法侵入。
「んふふふふふん~」
堪えきれなかったのか、笑いをこぼしながら貴賓寮の自室に向かう聖女ネラ。
他の子息達からの貢ぎ物はお付きっぽい女生徒に持たせ、ヌーレンシア様からの贈り物を胸に抱きしめにやにやしていた。
「あ、いつものようにしといて」
部屋に入った途端、聖女はお付きに命じた。
控えていた侍女がすっと近づいて、お付きから貢ぎ物を預かる。
貴賓寮だけあって、応接室、自室、寝室、浴室、台所、侍女やお付きの部屋と広い。
「部屋に居るから、夕食になったら呼んで」
自室のテーブルの上に贈り物を置き、制服も着替えずに自分でお茶を淹れ始める。
「今日は、何ををくれたのかしら」
お茶を一口のんで、聖女はもどかしげに包みを破いた。淑女教育はどこ行った?
「やだ、素敵なペン!」
装飾の美しいガラスペンが箱に入っており、聖女は取り出して眺めたあと、カチンと音を立ててテーブルに置いた。
いや、贈り物は丁寧に扱おうよ。
いそいそとペンを固定していた中敷を取り除くと、封筒を取り出す。なるほど、手紙が仕込まれてたのか……。
にまにまと緩んだ笑みで手紙を読んでいた聖女が頷いて「遣りきってみせなくちゃ!目指せ玉の輿!贅沢人生!」とか言い出した。
「そうと決まったら……」
手紙をしまってから部屋を出た聖女は、贈り物を整理して目録を作っていた侍女とお付きに声をかけた。
「手作りお菓子を贈りたいから、準備して」
「かしこまりました。何人分、ご用意いたしましょう?」
「そうね。豪華なのを三人分と……。貢いでくれた男子に簡単なのを返せるくらい」
ーーお返しを手作り……!男子、喜びそう。
「かしこまりました。明日朝までにはご用意しておきます」
「メッセージもつけといてねー」
ーーえっ?自分で作らんの!?
「聖女様、こちらはどうされますか?」
お付きが開封されて並べられた貢ぎ物を示すと、聖女はそれらを眺め、いくつかを選んだ。
「これ、かわいーから取っておいて。あと、こっちとこの香水も。あ、これ似合いそうだからあげる。こっちは、あなたにあげるわ。残りは何時ものようにしといて」
侍女やお付きにも一つずつ渡し、香水やブローチと添えられた手紙を持って部屋に戻った。お付きと侍女は自分達へ与えられたもの以外を箱へ入れていく。
「じゃ、それよろしくー。私、手紙を見たあと、祈りの時間にするから」
聖女が部屋へ戻ると、お付きが貢ぎ物を入れた箱を持った。
「では、私は大司教様へお届けして、そのまま下がります」
「かしこまりました。私は、焼き菓子の手配に参ります。お疲れ様でございました」
聖女が、部屋へ入って手紙を見始めた。貢ぎ物は、大司教へお届け……。報告して、調べて貰うべき?でも、貰ったものをどうこうするのは個人の自由だしな……。
確か、聖女様は元々平民の出身で大司教に見いだされて養女になったんだっけ。
神殿の大司教は、資料によるとこの国では伯爵位を持っていた。神殿自体はどの国にも属さない特別な組織だけど、ある程度の地位にいる者は、各国での爵位を得ることがある。神殿に入るときには、元々の爵位や家を捨てることになるからだ。
ちなみに聖女とは、『神の威を降ろすもの』と言われている。五百年前の光魔法を得た聖女様はともかく、特に魔法が使える必要はない。
その身に神を降ろしたり、神の意思を伝えたり、神の予言を与えられたりする存在だ。
殆どの聖女は予言を与えられる程度だが、まれにすごい方も居たらしい。
今代の聖女は、予言を三度したらしい。
そんなすごい聖女に見えないところが、逆にすごいな。
聖女は大量の手紙をにまにましながらみているので、とりあえずヌーレンシア様の様子を見てみてから、手紙の件を報告かな。
ヌーレンシア様は授業を終え、同じ隣国からの留学生二人とともに寮へ戻って真面目に勉強を始めたので、つまら……二人の留学生に張り付くことにした。
「なあ、聖女へのプレゼント作戦、いつまで遣るんだろ。そろそろ選ぶの苦しくなってきたんだけど」
「さー。でも、結局ヌーレンシア様は聖女とどうなりたいんだろうな。手紙、小遣い稼ぎにはなるのありがたいけど、早くカタつかないかな」
「なんか面倒になってきたしな」
この二人は別にヌーレンシア様やヴィジュン侯爵家に仕えて居るわけではないのか。
「……あの、べったべたのラブレターの代筆だけどさ」
片方がぽつりとこぼした。
ラブレター、代筆?
「あー、なんか甘々の乙女な手紙だっけ?」
え、そんな内容を代筆?そんな恥ずかしいこと、させられてんの?!
「そう、毎回走り書きみたいな指示書貰って、それをベタ甘にしてから、ヌーレンシア様に返すんだけどさ。好きでもない、可愛くもない相手に愛を表現するの、だんだん苦痛になってきたんだよな」
すごいストレスフルな仕事だな。創作力と想像力を駆使しないと無理だろ。
「しかもさ」
少年はぐっと声を潜めた。
「ちょっと前から、聖女へ変な頼み事をし始めてて……」
ほうほう。
「聖女と結ばれるためには、王女が婚約者と結ばないようにして、この国の神殿への影響力をさげたい、とかなんとか」
ーーは?
「なんだそりゃ。聖女と結婚するのに、王女殿下は関係なくないか?」
それな。
聖女は代替わりしないと結婚できないはず。むしろ新たな聖女が現れたら、直ぐに結婚できるだろ。国は関係ないし。神殿は政治に不介入を原則としてるんだから。
「聖女様の魅力で王女と婚約者の関係を壊してほしい、とか。ついでに王女の側近の婚約者との関係も目眩ましとして壊してほしい、とか。」
「えっ?そんなんーー引き受けたのか、聖女」
ええ?あの媚び媚びアタック、ヌーレンシア様の依頼!?
「心苦しいし嫉妬で狂いそうだが、魅力的なあなたが親しくするだけで、関係は直ぐ壊れるから……って書かされた」
いやいやいや、本当に好きなら、そんなこと頼まないだろ、普通……。
「なんか、怖いだろ……うちみたいな地方の子爵家なんて、いつ使い捨てられるかわかんなくて」
「そんなこといったら、うちなんて領地なしの爵位だけの伯爵家だぞ!王領を管理する下っ端文官一族なんだからーー」
「俺たち、使い捨てにされそうな立場だろ?」
あり得そうな予想に、二人ともずーんと落ち込んで暗くなってしまった。
「……でさ、ちょっと怖いけど、なんか悔しくなってさ……」
子爵子息が、ぐっと拳を握った。
「侯爵家からしたら、俺たちなんて取るに足らないかもしれない、けどさ……。使い捨てはむかつくって、思ったら……」
ごくり、と伯爵子息が喉をならした。
頑張っている留学先で人生潰されそうになってるとか、不安どころか恐怖を感じるわ。
「身を守った方が良いかと思って、指示書を焼き捨てる振りしてとってあるんだ」
ナイスだ、少年!
「だ、大丈夫なのか、それ……」
「なんかあって、手紙の筆跡は俺だし。俺のせいにされて切り捨てられるかもしれないから……必死に考えて、別の紙を燃やした」
ごくり。
少年達はお互いを見つめていた。
頑張って生きろよ、少年達。
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