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甘えん坊

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 千紘の腕に抱かれながら、凪は小さくほうっと息をついた。どうやって触れる許可を出そうか散々悩んだが、結局は一枚上手だった千紘のいいように丸め込まれた気がした。

 それでも悪い気は全くしないのだから、何だかんだいいながら絆されてしまっているのだと認めざるを得なかった。

 昔付き合った女性やセラピスト時代の客達に簡単に「好き」だとは言えないが、ほんの少しだけ好意が伝わったらいいなと凪は思った。
 気軽に好きだと言葉にできないのは、以前何の気なしに使用していた「好き」の重みが増してしまったからだ。

 千紘の凪に対する「好き」はとても大きくて重い。それを受け入れる覚悟はできても、それに対等な「好き」を与えるのは容易ではない。
 ちょっと好き、と伝えることが精一杯だった凪も、今後少しずつ言葉にできる日がくるだろうか……とぼんやりと考えてみる。

「今日は付き合った記念日だねー」

 凪の後ろでのんびりとそんな声が聞こえる。以前なら、バカにした態度で否定しただろう。しかし、今回ばかりはキュッと唇を固く結んで羞恥心に耐えた。

 否定したら後が面倒臭いし。自分にそう言い聞かせながら、トクトクと弾む胸の音を隠す。千紘はこの先も凪のモノで、ワガママもおねだりも快く与えてくれるだろう。
 こんなにも可愛気のない自分を全て受け入れてくれることに感謝しながら、凪は「毎年いつだって言わなきゃ忘れるからな」なんて悪態をつく。

 千紘はふふっと笑いを堪えきれずに声を漏らしながら「それなら毎日言おうか?」と凪の髪を撫でた。
 男性相手にこんなにも心穏やかになる日がくるなんて想像もできなかった。去年までの自分だったら、こんな未来は決して望まなかった。

 収まるところに収まった今、精神的な苦痛も鉛のように重たい体も全てなくなった。開放感を十分に感じて凪はこれでよかったのだと頬を緩めた。
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