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諦めること

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 凪は、右手で口元を覆って暫し考えた。千紘のことが好き……はとりあえず置いておいて、女性が無理になったということに関しては納得した気がした。
 今まで可愛いと思っていた客も、メンタルケア要因だった客も、楽な太客も全員触れることすら嫌になった。
 デートだけで満足していた客ですら、外で手を繋いで歩くのが嫌になった。

 女性自体に嫌気がさしているのは間違いなさそうだった。女性とセックスできないからと言って、デートコースの客まで嫌う必要はない。マッサージ時間を多めに取って、性感を少なくすることだって可能だった。
 けれどそれすらも嫌だと感じた。それはもう、この仕事への嫌悪も同然だった。

「女は……暫く触りたくない」

「うん。そんな感じがする」

「触れすぎた……とか」

 凪は必死に女性が嫌いになった理由を考えた。千紘が好きだという理由は認められなかった。
 自分はゲイでもバイでもない。男でもいいと思ったことなど一度もない。男の千紘を好きになるわけがなかった。だけど、なぜこんなにも女性が嫌いになってしまったのかはわからなかった。

「まあ、それもあるかもね。ずっと気を張って突っ走てたら、いつか疲れて休憩したくなる。だから、暫く休みたいって言ったんじゃなかった?」

「ああ、うん……」

「その限界を超えたんじゃないの? まあ、どっちにしろ、体調崩すほど女の子が無理なら明日からでも仕事は休んだ方がいいよ」

 千紘は、肩をすくめて言った。凪は呆然と全裸の千紘を見つめていた。お互い裸でなんの話をしてるんだとふと冷静になったのだ。
 頭に昇った血が一気に引いたら、何となく目眩がした。

 目頭を押さえて、頭を下げる。

「どうした? 体調悪い?」

 千紘が心配そうに凪の顔を下から覗き込み、凪の肩に触れた。その手の温もりに全く嫌悪しないのも、凪には不思議でならない。
 自然と額を千紘の胸に預けた。千紘の匂いと体温が優しくて、何となく安心した。

 明日からでも仕事は休んだ方がいいという言葉も頭の中でリピートされた。その時になって、ようやく休んでいいのか……と許された気になった。

 今までなんのために休みもなくがむしゃらに働いてきたのか、途端に自分がわからなくなった。頑張ってる自覚はなかった。それなりに楽しかったし、金になったから。ただそれだけだ。しかし今は、確実に頑張って仕事をしているように思えた。
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