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気持ちは変わるもの

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 エントランスを出て外の空気を吸う。外への一歩は凪が先に踏んだ。

「ほんとに送ってかなくていいの?」

 千紘が心配そうに尋ねた。夜はかなり更け込んで、辺りも暗い。

「大丈夫だって。女じゃねぇんだから。誰も襲ったりしねぇよ」

 お前の方が女みたいな顔してるくせに。凪は心の中で悪態をつくが口に出すことはなかった。

「心配だよ。凪は可愛いから」

「そう言うの、マジでお前だけだからな」

「凪の魅力に気付くのが女だけでよかった。いや、女の子も許せないけど……」

 わなわなと拳を震わせる千紘を見て、凪はははっと可笑しそうに笑った。

「何言ってんの、お前。ほんとバカだな」

 どんな言葉を浴びせられたって、凪の笑顔を見たら許せてしまい、千紘はそれにつられて笑った。

「凪、おやすみ」

「もう寝ろよ。明日遅刻しても知らねぇぞ。起きられねぇんだから」

「ちゃんと目覚ましセットするって」

「目覚ましで起きねぇじゃん」

 そんなふうに呆れる顔も千紘は好きだった。こんなふうに日常会話をできるまでの仲になった。この時間も、凪自身も全部自分だけのものならいいのにと思わずにはいられなかった。

「凪、キスしたい」

「ダメだ。外は無理」

「じゃあ、ギュッてしていい?」

「ダメ」

 凪が言ってる途中で、千紘は上着の両ポケットに突っ込んだままの腕ごと凪を抱きしめた。

「……んとに、人の話を聞かねぇな」

「うん。凪、好き」

「わかったよ。おやすみ」

 凪は右ポケットから手を出して、わしゃわしゃと千紘の頭を撫でた。そうでもしてやらないと解放されない気がした。
 凪を抱きしめたまま顔を上げた千紘は、しっかりと凪の目を見つめた。

「寂しい」

「はいはい。またな」

 遂には抱きしめていた腕を持って解放されてしまった。しかし、凪の方からまたなと言ってくれたのは初めてのような気がして千紘の胸は高鳴った。

「……連絡するね」

「はいはい」

「ちゃんと返してね」

「わかったわかった」

 言いながら凪は千紘に背を向けた。これで本当に今日は最後か。と千紘は急に寂しくなった。今日の変化を幸せだと感じたのに、どんどん欲が膨らむ。自分でも強欲だと感じるが、凪を目の前にするとどうしても独占欲に支配される。

 千紘は凪の背中が見えなくなるまでじっと見つめ、交差点の角を曲がったのを見届けてからエントランスへと入っていった。
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