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エピローグ
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純白の裾がひらりと舞い、首元のネックレスに光が反射してキラリと輝く。
「もう1枚撮りますよー」
明るい声が聞こえて、亜純は笑顔を向けた。Aラインのウエディングドレスに身を包んだ亜純は隣に並んだ千景の腕に軽く手を添える。
ポージングを指示されて、2人は何枚もの写真を撮った。
初めてのタキシードを着こなす千景が、ウエディングドレスを着るのは2回目となる亜純に「式を挙げるのが気まずければ写真だけでいいんじゃない?」と言ったのは1ヶ月前のこと。
付き合ってちょうど1年が経った頃、千景の方からプロポーズをした。
長い友人関係から恋人になったら、いい所も悪い所も見えてくると思っていたが、千景には亜純のいい所が増えただけで、悪い所など全く見えなかった。
だからこの先ずっと一緒にいるのは亜純でなきゃ嫌だと思ったし、それなら早い方がいいと行動に移したのだ。
亜純は千景からのプロポーズを二つ返事で受け入れた。二度目の結婚には躊躇いもあったが、相手が千景であることと、千景との間に授かる未来の命を容易に想像することができたからだ。
ただ、挙式をするとなると依と亜純の挙式に出席した友人のほとんどが流れてくることになる。それは亜純にとっても千景にとってもあまり嬉しいものではなかった。
そのため、千景の提案通りウエディングフォトを撮っていいにしようということに落ち着いた。
幸せな気持ちに浸る中、千景は一応依にも報告をした。1年間ほとんど連絡を取らずにいた。結婚に対して文句を言うかと思われたが、意外にもあっさりと「ああ、そう」と軽い返しをされただけだった。
聞けば彼女がいるそうで、亜純と付き合ってた時ほどの熱量はないもののそれなりに上手くやっているとのこと。相手に失礼だとは思ったが、千景にとっては好都合だった。
これで亜純も心置きなく自分のことだけに目を向けてくれると思えたから。
「……真白にも報告したかった。本当は」
亜純は未だに送信できなかった1年前に自分が書いたメッセージを見ながら呟いた。
千景は優しい顔で亜純の肩を抱いた。
「俺がさ、絵本描くよ。真白と亜純の絵本。会えなくても真白は俺の絵本を読んでくれる気がする」
「……そうかも。私が千景の絵本の話をすると、真白は大体内容を知っていたから」
「うん。読んだら亜純が真白を許してることも、俺と一緒にいることも伝わるように描くよ」
「それ、絵本にできるの?」
「通らなかったら自己出版でもする」
千景は肩を震わせて笑う。亜純はようやくそれにつられて笑った。
「真白にもいつかきっと届くよね……」
「うん。真白は俺と亜純が一緒にいることを望んでたから。それが俺達にできることじゃないかな」
そんな会話をしながら、2人は真白の幸せを願った。人によって幸せの形は違うけれど、少なくとも亜純と千景はこれからもずっと同じ方向を向いて歩いていけると確信していた。
写真を撮り終わった2人は、着替えのためにカメラの前から移動をする。千景は前を歩く亜純の腕を引いた。
「亜純……」
「ん?」
振り返る亜純は綺麗だった。一瞬目を奪われた千景が、数秒経ってから微笑んだ。
「俺を選んでくれてありがとう。ずっと幸せにする」
誰にも聞こえないようにコソッと呟いた言葉に、亜純は気恥しそうに赤面しながら微笑んだ。
一度は喪失感を抱いた左手の薬指には、新たな感触が宿っている。
亜純はそれを再確認するかのようにギュッと指を閉じると、千景の腕に自分の腕を絡めた。
撮影のために用意された花々が並ぶ狭いスタジオは、2人だけの特別なヴァージンロードのようだった。亜純は祝福されているような幸せを噛み締めながら、真白が出てくる絵本のタイトルくらいは私に選ばせてもらおうとこっそり思うのだった。
【完】
「もう1枚撮りますよー」
明るい声が聞こえて、亜純は笑顔を向けた。Aラインのウエディングドレスに身を包んだ亜純は隣に並んだ千景の腕に軽く手を添える。
ポージングを指示されて、2人は何枚もの写真を撮った。
初めてのタキシードを着こなす千景が、ウエディングドレスを着るのは2回目となる亜純に「式を挙げるのが気まずければ写真だけでいいんじゃない?」と言ったのは1ヶ月前のこと。
付き合ってちょうど1年が経った頃、千景の方からプロポーズをした。
長い友人関係から恋人になったら、いい所も悪い所も見えてくると思っていたが、千景には亜純のいい所が増えただけで、悪い所など全く見えなかった。
だからこの先ずっと一緒にいるのは亜純でなきゃ嫌だと思ったし、それなら早い方がいいと行動に移したのだ。
亜純は千景からのプロポーズを二つ返事で受け入れた。二度目の結婚には躊躇いもあったが、相手が千景であることと、千景との間に授かる未来の命を容易に想像することができたからだ。
ただ、挙式をするとなると依と亜純の挙式に出席した友人のほとんどが流れてくることになる。それは亜純にとっても千景にとってもあまり嬉しいものではなかった。
そのため、千景の提案通りウエディングフォトを撮っていいにしようということに落ち着いた。
幸せな気持ちに浸る中、千景は一応依にも報告をした。1年間ほとんど連絡を取らずにいた。結婚に対して文句を言うかと思われたが、意外にもあっさりと「ああ、そう」と軽い返しをされただけだった。
聞けば彼女がいるそうで、亜純と付き合ってた時ほどの熱量はないもののそれなりに上手くやっているとのこと。相手に失礼だとは思ったが、千景にとっては好都合だった。
これで亜純も心置きなく自分のことだけに目を向けてくれると思えたから。
「……真白にも報告したかった。本当は」
亜純は未だに送信できなかった1年前に自分が書いたメッセージを見ながら呟いた。
千景は優しい顔で亜純の肩を抱いた。
「俺がさ、絵本描くよ。真白と亜純の絵本。会えなくても真白は俺の絵本を読んでくれる気がする」
「……そうかも。私が千景の絵本の話をすると、真白は大体内容を知っていたから」
「うん。読んだら亜純が真白を許してることも、俺と一緒にいることも伝わるように描くよ」
「それ、絵本にできるの?」
「通らなかったら自己出版でもする」
千景は肩を震わせて笑う。亜純はようやくそれにつられて笑った。
「真白にもいつかきっと届くよね……」
「うん。真白は俺と亜純が一緒にいることを望んでたから。それが俺達にできることじゃないかな」
そんな会話をしながら、2人は真白の幸せを願った。人によって幸せの形は違うけれど、少なくとも亜純と千景はこれからもずっと同じ方向を向いて歩いていけると確信していた。
写真を撮り終わった2人は、着替えのためにカメラの前から移動をする。千景は前を歩く亜純の腕を引いた。
「亜純……」
「ん?」
振り返る亜純は綺麗だった。一瞬目を奪われた千景が、数秒経ってから微笑んだ。
「俺を選んでくれてありがとう。ずっと幸せにする」
誰にも聞こえないようにコソッと呟いた言葉に、亜純は気恥しそうに赤面しながら微笑んだ。
一度は喪失感を抱いた左手の薬指には、新たな感触が宿っている。
亜純はそれを再確認するかのようにギュッと指を閉じると、千景の腕に自分の腕を絡めた。
撮影のために用意された花々が並ぶ狭いスタジオは、2人だけの特別なヴァージンロードのようだった。亜純は祝福されているような幸せを噛み締めながら、真白が出てくる絵本のタイトルくらいは私に選ばせてもらおうとこっそり思うのだった。
【完】
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