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新しい風
02
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準備を整えた真白がおろしたてのテスターにリップブラシを当てる。それから丁寧に小さな唇に塗った。
艶のある美しい赤は、真白のイメージ通りだった。
「とっても可愛いですよ」
真白がにっこり笑って言うと彼女は嬉しそうに口角を上げた。しかし、目の前の鏡に写った自分の顔を見てすぐに残念そうに眉を下げた。
「赤ならもっと大人っぽくなるかなって思ったけどそうでもないですね……。元が童顔だから無理なんですかね」
彼女は笑って見せるがどこかぎこちない。真白には彼女の気持ちがよくわかる。軽く微笑むと「赤リップは難しいんですよ。似合う人と似合わない人がハッキリわかってしまうから。こんなに可愛く仕上がるのは白井さんにしかない魅力ですよ」と言った。
「そう……ですか?」
「もちろんです。……私には派手すぎる色だから、羨ましいです」
「わ、私! 戸田さんみたいになりたいんです! どうしたらそんなに綺麗になれますか?」
彼女は瞳を潤ませて真白に訴えかけた。真白も彼女が自分に憧れていることには気付いていた。何も買わない時でもこっそり真白が働いているのを覗き見していることも。
「私は白井さんのお顔、好きですよ。でも、綺麗になりたいって思うのは女性なら当然のことです。私でよければいつでもお手伝いさせて下さいね」
真白は当たり障りのない返しをしたが、彼女はぐっと唇を噛んで目を伏せた。せっかく塗ったリップが歪んだ。
「あの……その……私、戸田さんとお友達になりたいんです」
捻り出すような声だった。一大決心をしたかのように、少し震えていた。真白は少し瞼を下げた。
友達はもうつくるつもりはなかった。この仕事が好きで楽しくて、仕事のためだけに生きるつもりだった。
ひっそりと1人で生きていくつもりだった。けれど相手は顧客だ。せっかく働いて稼いだ金を惜しげもなく真白が勧める毎にコスメに使っていく。
売り上げに貢献してくれている彼女を無下にはできない。
これは仕事だから仕方なく……適当にあしらっておけばいい。真白はそう思いながら、彼女と連絡先の交換をした。
艶のある美しい赤は、真白のイメージ通りだった。
「とっても可愛いですよ」
真白がにっこり笑って言うと彼女は嬉しそうに口角を上げた。しかし、目の前の鏡に写った自分の顔を見てすぐに残念そうに眉を下げた。
「赤ならもっと大人っぽくなるかなって思ったけどそうでもないですね……。元が童顔だから無理なんですかね」
彼女は笑って見せるがどこかぎこちない。真白には彼女の気持ちがよくわかる。軽く微笑むと「赤リップは難しいんですよ。似合う人と似合わない人がハッキリわかってしまうから。こんなに可愛く仕上がるのは白井さんにしかない魅力ですよ」と言った。
「そう……ですか?」
「もちろんです。……私には派手すぎる色だから、羨ましいです」
「わ、私! 戸田さんみたいになりたいんです! どうしたらそんなに綺麗になれますか?」
彼女は瞳を潤ませて真白に訴えかけた。真白も彼女が自分に憧れていることには気付いていた。何も買わない時でもこっそり真白が働いているのを覗き見していることも。
「私は白井さんのお顔、好きですよ。でも、綺麗になりたいって思うのは女性なら当然のことです。私でよければいつでもお手伝いさせて下さいね」
真白は当たり障りのない返しをしたが、彼女はぐっと唇を噛んで目を伏せた。せっかく塗ったリップが歪んだ。
「あの……その……私、戸田さんとお友達になりたいんです」
捻り出すような声だった。一大決心をしたかのように、少し震えていた。真白は少し瞼を下げた。
友達はもうつくるつもりはなかった。この仕事が好きで楽しくて、仕事のためだけに生きるつもりだった。
ひっそりと1人で生きていくつもりだった。けれど相手は顧客だ。せっかく働いて稼いだ金を惜しげもなく真白が勧める毎にコスメに使っていく。
売り上げに貢献してくれている彼女を無下にはできない。
これは仕事だから仕方なく……適当にあしらっておけばいい。真白はそう思いながら、彼女と連絡先の交換をした。
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