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それぞれの生活

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 今まで依は真白や千景の悪口を言うし、真白は依の悪口を言うし、他の友達も大体友達と言いながらどこかで不満を漏らす。
 信頼関係が築けているが故の素直な反応とも言えるが、それでもやはり友人のことは褒めてくれる人の方が客観的に聞いていて気持ちがいいものだ。

 亜純は自然と顔の緊張が解けて、微笑むことができた。
 料理が運ばれてくるといよいよテーブルマナーを試される時だと肩に力が入る。しかし目の前に置かれた箸を見て「ん?」と固まる。

「お箸の方が食べやすいかなと思って用意してもらったんです。ナイフとフォークの方がいいですか?」

 すかさず悠生がそう言って亜純の表情を窺う。そんな気遣いまでされるのは思ってもいなかったため、またもや驚かされた。

「い、いえ! お箸の方が嬉しいです」

「ですよね。俺も料理は好きなんですけどあまり堅苦しいのは得意じゃなくて。マナー気にせずお箸で食べて下さい。周りからも見えませんし」

 言われてみてから周りを見渡せば、ちょうど柱の影になっていて、広々としたフロアからは死角になっていた。
 個室ではないが、高いビルの上だから夜景も綺麗に見えた。恐らくVIP席なのだろう。

 友人だったらこんな配慮もしてもらえるのかと至れり尽くせりの環境に感謝しながら食事を始めた。
 適度にアルコールも入ってほんのり顔が赤くなる。体も熱を帯びて気持ちよく酔ってきた。

 食べ物も美味しいし、白ワインも香りが高くて上品だった。まるで映画の中のワンシーンのようで、自分が主人公になれる日がくるなんて思っていなかったとふっと頬を緩めた。

「なんだか嬉しそうですね」

「今、映画の主人公みたいだなって思ったんです。素敵なお店と美味しい料理とお酒。雰囲気もオシャレで現実じゃないみたい」

「おかしなこといいますね。自分の人生は最初から最後までずっと自分が主人公なのに」

 悠生はそう言って楽しそうに笑った。
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