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想いの矛先

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「うん。俺はあんまり恋愛には向かないみたい。自分のペースがあるし、相手に求められても応えられないことも多い」

「ああ、作品を作る時の話だね。1人で閉じこもって描くって言ってたから」

「うん。何時間集中して描くって決めたらスマホの電源も切っちゃうからね」

「ああ、それは緊急時困るかも」

 亜純はそう言って苦笑する。一緒に住んでいたりして、忘れ物をしたから届けて欲しいだとか、帰りが遅くなるから先にご飯の準備をしておいてほしいだとか、依とはできていたコミュニケーションが取れないなぁと考える。

「多分集中力が他人よりも高いから、話しかけられても気付かないとかもあるしね。中々他人から理解を得るのは難しい」

「確かに千景のことをすっごく好きな子からしたら寂しいかもね。でもこうやって話す時間を作ってくれるし、相談にだって乗ってくれるし恋愛に向いてないなんてことはなさそうだけどね」

「そ? まあ、俺は無理に探そうとは思わないかな。自然に一緒にいるようになるのが1番理想かも」

 千景の言葉に亜純は少し考えた。自然に一緒にいるという関係は、依との関係に近い気がした。気付いたら側にいて、これからもずっと一緒にいることが当たり前だと思っていた。
 もう二度とあんなふうに自然と恋人になることはないのだろうと思う。デート1つ取り付けるのにだってこんなにも緊張するのに、付き合ったり結婚したりなんて一体どうなることやらと先が思いやられる。

「そうだよねー。私にも無理な気がしてきた」

「なんで?」

「デートが決まっただけで結構驚いてる」

「はは。これからもっとそんなことがあるのに?」

「もっとあるの?」

「あるんじゃないの?」

「そうか……あ、着ていく服がない」

 亜純ははっと思いついたように顔を上げた。
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