したい夜はきみとじゃない

夫婦のかたち

10

「……は？」

　千景は言葉を失った。まさか真白からそんなことを聞くなんて思っていなかったのだ。自由に生きているとは感じていたが、子供が嫌いだとも聞いたことがなければ子供が欲しいとも聞いたことがなかった。
　今日の同窓会でも既に何人かは母親になっていて、真白も自然といつかはそうなるものだと思っていた。

「詳しくは言わないけど。まあ、そういうことだから私のことはいいのよ」

「……だから、亜純には余計子供を産んで欲しいってこと？」

「まあね。産める体で子供がほしいって思うなら、産むべきだと思うけど。私は元々いらないからいいけどさ、世の中には産みたくても産めない体の人が存在するわけだから」

「うん……」

「亜純はさ、依が初めての彼氏だったわけじゃない。そのまま10年くらい一緒にいてさ、依しか知らないじゃん」

「そうだね」

「正直、依と別れて次に付き合ったヤツが依以上にろくでもないやつだったら嫌なのよ」

　電話の向こう側で真白の憂鬱そうなため息が聞こえた。本心だろうと思えた。

「依は確かに亜純を傷つけたし、亜純が望む子供も産ませてやらないけど、それ以外は全部亜純ファーストじゃん」

「それは亜純も言ってた。特に不満はないんだって」

「だから、依くらい亜純を大事にしてくれる人じゃないと次の相手にはなってほしくない」

「それこそ亜純次第じゃん。俺たちが勝手に連れてきてくっつけさせるわけにもいかないんだから」

「でも、千景なら亜純も安心だと思う」

　千景はソファーの背もたれに首をあてがい、もげてしまいそうなほど勢いよくガクンと後ろに倒した。

「安心って、単なるルームシェアとは違うんだよ？　真白だけそう思ってても、亜純は俺の事男として見てないんだから」

「……でも私、やっぱりよく知りもしない変な男に亜純を取られるのは嫌なの」

　小さくポツリと言った真白の声は少し震えているようにも感じた。