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友人の恋人

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「俺が面倒だから来たくなかったんだよ」

 依はそう白々しく言った。

「だったら依だけ来なきゃよかったんじゃないの? 亜純が行くかどうかを決めることだし。悲しませるようなことはやめなよ」

「……なんだよそれ。亜純がお前に会えなくて寂しかったとでも言いたいのかよ」

 依は面白くなさそうに奥歯をギリッと噛んだ。その表情だけで、千景は依が亜純と俺を会わせたくなかったのは間違いなさそうだと確信した。

「俺じゃなくて、真白だよ。事故やら入院の手続きが多くて真白から亜純に連絡できなかったことは聞いた。半年会えなくて寂しかったって亜純も言ってたし」

「別にわざわざこんな場所じゃなくても連絡取り合える仲なんだから2人で会えばいいだろ。それより、お前が亜純に会いたかったんじゃないのかよ。だから俺が言わなかったことに怒ってんだろ」

 千景は子供のように口をへの字に曲げて怒る依に大きく溜息をついた。

「会いたかったよ。当然でしょ。懐かしいメンバーなんだから。亜純は依の奥さんだけど、それ以前に俺の友人でもあるんだしさ」

「友人ねぇ」

「……依こそハッキリ言ったら? 俺に警戒して亜純に会わせたくなかったって」

「っ!」

 依は千景の言葉に目をひん剥いて勢いよく顔を寄せた。今にも殴りかかりそうな勢いだった。

「違うの?」

 それでも冷静な千景は顔色1つ変えずにそう尋ねた。依は、昔からこの冷静さが苦手だ。他の人間は依が大きな声を出して威嚇すればすぐにでも謝るのに、千景は違う。自分が正しいと思ったことは決して曲げない。そんなところは亜純と似ていて好きなようで嫌いだ。

 真っ直ぐな目で見つめられると、依は間違いを否定されたようでバツが悪い。拳をぐっと握ると「違う。……外の空気吸ってくる」と言って千景の横を通り過ぎていった。
 こんな時ばかり亜純の方を見向きもしなかった。
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