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将来の夢

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「依なら千景の夢を応援してくれると思うけどな」

 この頃はまだ依と付き合っていたわけではなかったが、たまたま席が隣になって仲良くなったことから依とはよく会話をしていた。赤点を取った依に亜純が勉強を教えてやったこともあった。
 そんなことがきっかけで、亜純も自然と千景と仲良くなったのだ。

「まあ……最終的にはね。でも、絶対に余計な一言があると思うんだ」

「それはあるだろうね」

「ほらね」

「でも、私は応援するよ。私、絶対保育士になるからさ、いつか園児たちに千景の書いた絵本を読んであげたい」

「うわ……壮大な夢を」

 千景はとても嫌そうに顔を歪めた。本来、誰にも言うつもりのなかったことだ。物語だっていくつか考えてみたが、とても人様に見せられるものではないと思った。

「やってみなくちゃわからないじゃない。それに、絵本作家になりたいってことは、千景も子供が好きなんでしょ?」

「まあ、うん。俺、10個離れた姉さんがいてさ。姪っ子が可愛くて。休みの日は俺が絵本読んだりするの」

「そうなんだ! 私も妹と9個離れてるの。おむつは小学生だった私が変えたわ」

 自慢気に言う亜純に、千景はクスクスと笑った。境遇が似た2人は同志のようで、将来の夢について熱く語ったものだ。そんな2人がお互いに夢を叶え、今では千景の作った絵本を亜純が園児たちに読み聞かせている。
 亜純は、千景の声を聞くたびに感慨深いものを感じた。

「懐かしいね。あの時亜純に絵を見られてなかったら、多分絵本作家にはなってなかったかな」

「えー、結局依にバレちゃって皆に応援されてたじゃん」

「思い出したくない……」

 千景は、大声で絵本作家への夢をどうして俺に言わなかったのかと詰め寄る依の顔を思い出して声のトーンを下げた。教室で盛り上がっている亜純と千景をたまたま見つけたクラスメイトが、2人が付き合ってのではないかと噂を立てたことで依の耳に入ったのだ。

「昔からちょっと無神経なところあったからね」

「ね。でもまあ、あの時はもう依が亜純のことを好きだったから勝手に嫉妬して責めてきたんだけどね」

「え⁉ そうだったの⁉」

 イラストのやり取りをしたのは高校2年の夏のこと。そして依が亜純に告白をしたのは3年の冬だ。それも卒業間近になって。だからそんなに前から自分に好意を抱いていたとは思わないし、亜純自身も初耳だった。

 
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